〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜   作:一葉 彩人

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─登場人物─

音居奏叶(おといかなと)
結ヶ丘高等学校に通う高校一年生。
怪物と戦う戦士─"仮面ライダー"になる資格を持っている。怪物に奪われてしまった歌声を取り戻すため、仮面ライダーになることを決意した。

澁谷(しぶや)かのん】
結ヶ丘高等学校に通う高校一年生。
スクールアイドルをやりたいという留学生から熱烈な勧誘を受けたが、人前で歌うことができないからと断る。今はメンバー集めを手伝っている。

嵐千砂都(あらしちさと)
結ヶ丘高等学校に通う高校一年生。
かのんの幼馴染であり、「うぃっす」という独特な挨拶を使う。人当たりがよく、活発な少女。

鼓野志保(つづみのしほ)
人々を護る組織─プロテクション長官補佐。
仮面ライダーになるために必要な強い"音楽の力"を持つ奏叶を探していた。



#4 勇気の青空

 

─入学式の翌日─

 

「あ、奏叶くん!うぃっすー!」

 

結ヶ丘高等学校の校門を潜ったところで、後ろから独特な挨拶とともに声をかけられる。

 

「おはよ、千砂都」

 

「昨日は来てくれてありがとっ!」

 

「美味しかったよ、たこ焼き」

 

昨日千砂都のバイト先で買ったたこ焼きはとても美味しかった。バイト初日とは思えないほどに。そして何より驚いたのは、その形の綺麗さ。あまりにも綺麗な球体で、思わず俺の目もまん丸になってしまった。

 

「それじゃ、またね!」

 

下駄箱で靴を履き替えると、音楽科の千砂都とは教室が違うためここで別れる。笑顔で手を振る千砂都に俺も手を振り返し、自分の教室に向かって足を進める。

 

 

─放課後─

 

昼前に学校が終わった昨日とは違い、今日から通常通りのカリキュラムでの授業が始まった。ある意味、今日が本格的な高校生活の幕開けだ。

 

そんな一日も無事に終わり、俺は生徒用玄関で靴を履き替えていた。

 

「カノンさん!」

 

すると、外から澁谷さんの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。まだ日本語に慣れていないイントネーションから、声を聞いただけでその主が誰なのかわかった。

同じクラスの唐可可(たんくぅくぅ)さんだ。

 

「ヤッパリ、やってミマセンカ?スクールアイドル!」

 

そういえば、澁谷さんはスクールアイドルをやろうと誘われたがそれは断り、代わりにそのメンバー集めを手伝っていると、千砂都から聞いたな。

 

てことは、澁谷さんをスクールアイドルに誘った相手というのが唐さんだったのか。思い返してみれば、唐さんはクラスでの自己紹介の時も、スクールアイドルやりませんか?って言ってたもんな。

 

「迷惑かと思って、言うかドウカ迷ってイタノデスガ…クゥクゥ、どうしても…どうしてもカノンさんと一緒にスクールアイドルがしたい!!」

 

「っ…」

 

唐さんの想いを聞いて、澁谷さんの息を飲む音が聞こえる。

 

「それは…昨日言ったでしょ?私、歌えないから…」

 

歌えない…?

 

「カノンさんは歌が好きデス!歌が好きな人は、心から応援してクレマス!ククはそんな人とスクールアイドルがしたい!!」

 

唐さんは諦めずにそう自身の想いをぶつける。

 

「無理だよ…」

「お願いシマス!」

「無理だって…」

「そんなことアリマセン!」

「あるよ!!」

 

唐さんが懇願し、澁谷さんが断る。しばらくそんなやり取りを繰り返していた二人だったが、澁谷さんの大きな声とともに紙がバサッと落ちる音が聞こえると、二人の問答の声は聞こえなくなった。

 

恐らく澁谷さんが唐さんの手を払い、その拍子に持っていたチラシか何かが落ちたのだろう。

 

「がっかりするんだよ…いざって時に歌えないと、周りのみんなもがっかりさせちゃうし…何より、自分にがっかりする!!」

 

「っ…」

 

澁谷さんも、歌えないのか…?

 

そう考えた時、昨日千砂都が話していた言葉が脳裏を過る。

 

『かのんちゃんも、いろいろ悩んでることがあって…』

 

もしかすると、その悩みというのがさっき澁谷さんが言ったことなのか…

 

俺のように怪物に歌声を奪われたというわけではないと思うが…それでも、本当は歌いたいのに歌えない、そんな悩みを抱えているのは澁谷さんも同じなのかもしれない。

 

俺は二人のことが気になり、生徒用玄関の中からこっそりと外の様子を覗き見る。

 

「そういうの、もう嫌なのっ!!!」

 

拳を握りしめ、一筋の涙を流しながら声を張り上げる澁谷さんの姿が目に映った。

そんな彼女の姿が、どうしても自分と重なって見えた。

 

歌えなくなってから毎日、ずっと悩んでいた。また歌えるようになる方法もわからなくて、悔しくて、辛くて、悩んで、泣いてを繰り返していた。

 

きっとそれは、澁谷さんも同じなんだ。

 

「応援シマス!カノンさんが歌えるようになるまで諦めないって、約束シマス!」

 

それでも、唐さんは諦めずに声をかける。いや、むしろ強く決意したようにも見える。澁谷さんと一緒にスクールアイドルをやりたい、彼女が歌えるようになるまで共に進み続ける、と…それだけ唐さんは澁谷さんに惚れ込み、共にスクールアイドルをやっていきたいと思っているのだろう。

詳しいことは何も知らない俺だけど、不思議とそう感じていた。

 

「だから試してくれませんか?ククと、もう一度だけ、始めてくれませんか?」

 

「……」

 

しかし、澁谷さんは唐さんの言葉に答えることなくこの場から去っていく。残された唐さんは、今にも泣き出しそうな表情で落ちているチラシを拾っていた。俺はそんな彼女の様子を見ているだけなんてできず、少し遠くに飛ばされたチラシを拾い集めた。

 

「唐さん」

 

俺は彼女の名前を呼び、拾い集めたチラシを渡す。

 

「ごめん。覗き見するつもりはなかったんだけど、ふたりの声が聞こえてつい…」

 

「いえ…チラシ、ありがとうございマス」

 

きっと唐さんは、スクールアイドルのことが本当に大好きなんだろう。拾ったチラシの作り込みからも、それがよく伝わった。

 

スクールアイドルが大好きで、澁谷さんと一緒にやりたいと思う唐さんの気持ち。

そして、そんなスクールアイドルが大好きな唐さんに対してだからこそ、もし歌えなかったら、自分のせいで失敗してしまったらと思う澁谷さんの気持ち。

そのどちらも、痛いほどよくわかる。

 

でも、唐さんはあそこまで澁谷さんの歌に惚れ込んで、澁谷さんの歌を必要としていた。そんな想いをぶつけられたら、澁谷さんもきっと悩んでいるんじゃないかな。

 

もしかしたら…

 

俺がそう考えていた時だった。カツカツカツとこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。

 

もしかしたらじゃないな…

やっぱり、彼女は戻ってきた。

 

「カノンさん…」

 

息を切らしながら戻ってきた彼女を見て、唐さんがその名前を呼んだ。

 

そして彼女は、自分の本当の想いを口にする。

 

「やっぱり私…歌が好きだ!!!」

 

俺はまだ、澁谷かのんという人のことを詳しくは知らない。そんな俺がこんなふうに思うのは烏滸がましいと思うのだが、それでも感じてしまったのだ。

きっと彼女は、俺と似ている。

 

歌うということが大好きで、暇さえあれば歌っていたい、いつまでだって歌っていられる、そう思うほどに歌というものに熱中していた。

それなのに、歌えなくなってしまった。

 

それからずっと、その気持ちにどこか蓋をしてしまっていた。できないと心のどこかで諦めて、好きな気持ちに蓋をして、それでも心の奥底でまだ歌っていたいと願い続けて…

そして、そんな大切な気持ちを、新たな場所で出会った人のお陰で再び口にすることができたのだ。

 

まだほとんど知らない澁谷かのんという人物だが、俺は直感的にそうだと感じた。

 

だって、それほどまでに今の彼女は…自分の本当の想いを口にした彼女は、キラキラと輝いていたのだから。

 

「着いて来て!」

 

すると、澁谷さんは走り出した。

突然のことに驚き、一瞬遅れて唐さんも走り出す。そして、俺も気づけば追いかけていた。自分の本当の"大好き"だという想いを口にした今の澁谷さんが何をするのか、気になって仕方がなかったから。

 

しばらく走り続け辿り着いたのは、現代のトレンドの最先端が集まると言っても過言ではない街─原宿の"竹下通り"。

 

「今なら、きっと…」

 

胸に手を当てて、澁谷さんがそっと呟いた。

 

今から何が起こるのかと、唐さんは期待で満ちた視線で澁谷さんを見つめる。俺も、少し離れたところからその様子を見守る。

 

そして澁谷さんは、大きく息を吸い込んだ。

その瞬間、空気が変わる。

 

「大好きって、いま、叫ぼう〜♪」

 

 

 

"未来予報ハレルヤ"

 

 

 

澁谷さんの力強く、希望で満ち溢れた歌声が響き渡る。心地の良い風とともに耳に届く彼女の歌声に、俺は釘付けとなった。

 

とても澄んでいて、けれども力強く、そして…なによりも楽しそうだと感じる歌声。澁谷さんの歌には、誰かに元気を与えられるような、心にかかった雲を晴らして澄み渡らせるような力がある。

今この場にいる誰もが、澁谷かのんの歌声に夢中になっている。

 

すると、俺のポケットの中から突如として謎の光が込み上げてきた。

 

「これは…?」

 

ポケットの中から、その光の正体を取り出した。それは、昨日鼓野さんから預かった半透明なディスク型の物だった。

 

そして、光が止むと半透明だったはずのそのディスクは、澄み渡る青空のように青いディスクに変化していた。

 

ディスクの模様が変化した…いったい、どういうことなんだ…?

 

なんて疑問に思っていた時、少し離れたところから悲鳴が聞こえた。幸い、澁谷さんやその歌声に夢中になっている周りの人たちは気づいていない様子だ。

 

まさか、また怪物…!?

 

そう思った俺は、咄嗟にこの場から走り出した。

 

そして、俺の予想通り、悲鳴が聞こえた場所には昨日千砂都を襲おうとしていたのと同じ怪物─"ニエンテ・ヌッラ"の大群が暴れ、人々は逃げ惑っていた。

 

「あぁ…イライラする…幸せそうな人間を見ると、イライラするなぁ…!!」

 

そんなニエンテ・ヌッラの中に一体だけ、異彩を放つ怪物がいる。

 

「っ…」

 

その姿に、俺は思わず息を飲んでしまう。

 

錆び付いた鉄、凝固した血液、まるでそれらのように、全身が禍々しい赤茶色をしている怪物。

 

重厚さを感じるが、不安定なシルエットをしており、上半身はゴツゴツとしていて下半身は細い。

目や鼻、口といったものはなく、頭部はパラボラアンテナが埋め込まれたかのように窪んでいる。

まるで金属の塊のような腕には鎖が巻き付いてあり、その腕の先には手の形をしたものはなく、何かを吸い込んでしまいそうな窪んで渦を巻いているものが取り付けてあった。

そして、胸の中心には、禍々しいエネルギーを感じるディスクのような物が埋め込まれていた。

 

とても人間とは思えない、かけ離れた存在のように感じてしまうほどの怪物。

しかし、さっき日本語を口にしていたことから、あの中には俺たちと同じ人間がいるのだろう。

 

俺は今から、あんなのと戦うのか…

 

そう怖気付いてしまいそうになった時、俺の脳裏にある瞬間の光景が浮かんだ。

 

『ふふっ』

 

不敵に笑い、俺から大切なものを奪っていった怪物。

 

脳裏に浮かぶその怪物は、銀色の体をしていて目の前にいるあの怪物とは違った印象を受けるが、それでも…あの時の方が何倍も恐ろしかった。

 

俺はいつか、あの怪物に勝たなくちゃならないんだ…

こんなところで、怖気付いていられるか!!

 

覚悟を決めた俺は、威勢よく怪物を止めるべく声をかける。

 

「おいやめろっ!!」

 

「んぁ…?」

 

俺に気づいた怪物は、ゆっくりとこちらを向いた。

それに合わせて、周りにいるニエンテ・ヌッラの動きも止まった。

 

「アンタ、なんでこんなことするんだ?」

 

「楽しそうに、幸せそうに生きてる人を見るとイライラするんだよ…そんな時、この力をもらった。だったらァ、そんな人間どもを恐怖のどん底に落としてやろうと思ったんだよォ!!!」

 

ドスの効いた、泣き喚くような声で怪物は叫んだ。

 

「……アンタがどんな人で、何があってそんな考えに至ったのかは知らない。でも…たとえどれだけ辛いことがあったんだとしても、関係ない他の人の幸せを奪うなんて絶対にダメだ!!」

 

こんなふうに、一方的に無関係の人の幸せを奪うなんて間違っている。

俺に戦う力があるのなら…俺が、怪物になった人たちを止めてやる!!

 

改めて、覚悟は決まった。

 

「すみません!お待たせしました!」

 

すると、ちょうどタイミング良くジュラルミンケースを持った鼓野さんが走ってやって来た。

 

「本当に、よろしいんですか…?」

 

「はい。俺に戦う力があるのなら、ひとりでも多く、大切なものを奪われる人を助けたい…!!」

 

「音居さん…!」

 

「それに、俺だって取り戻したいですから…俺の歌を!」

 

俺の決意を聞いた鼓野さんは、強く頷いてジュラルミンケースを開いて中を見せてきた。

その中に入っていたのは、黒を基調にシルバーのラインが入った直方体の箱のようなもの。

 

「さぁ、どうぞ」

 

鼓野さんに促され、俺はそれを手に取る。

 

「これは…?」

 

「仮面ライダーに変身するためのベルト、"ステレオドライバー"です」

 

ベルト!?ってことは、これを腰に巻くのか…?

 

しかし、どこにも腰に巻きつけるための帯のようなもが見当たらない。いったい、どうやって巻きつけるのだろうか。

 

「早速、ステレオドライバーを腰に当ててみてください」

 

「腰に、当てる…?」

 

よくわからないが、とりあえず言われた通りに腰に当ててみた。

 

「うおっ!?」

 

すると、その両サイドからベルトの帯が出現し、俺の腰に自動的に装着された。

 

《ステレオドライバー》

 

装着した瞬間、まるで起動音かの如くベルトの名前を読み上げる音声が鳴り響いた。

 

俺は、腰に自動装着された"ステレオドライバー"へ視線を落とす。

よく見てみると、その名前の通りまるで"ステレオ機器"のようだ。

中央部分の天面には赤く点滅するボタンがあり、正面部分には透明なカバーパーツが付いている。そのカバーパーツの下部にはヒンジがあり、いかにも展開しそうな見た目だ。その左下にも、何かのボタンがある。

 

「これは"変身ボタン"、こっちが"必殺技ボタン"です。この透明なカバーは、"ディスクトレイ"です」

 

不思議そうにステレオドライバーを見つめる俺に、鼓野さんが説明してくれた。

天面の赤く点滅するボタンが"変身ボタン"、左下のボタンが"必殺技ボタン"、そしてカバーパーツは"ディスクトレイ"という名称らしい。

 

変身ボタン、必殺技ボタン、ディスクトレイは全てベルトの中央ユニットに配置されており、その両サイドにはメタリックフレームに囲まれた円形のスピーカーが埋め込まれたユニットがある。更にその左右のスピーカーユニットの外側、ベルト本体の側面には何かを差し込めるような穴がそれぞれふたつずつ、計4個存在する。

そして、ベルト帯の両サイドにも、何かホルダーのようなものがひとつずつ付いている。

 

「昨日渡したディスクはお持ちですか?」

 

「これですか?なんか色変わっちゃいましたけど…」

 

昨日鼓野さんから預かった半透明なディスクだが、これはさっき澁谷さんの歌を聴いている最中に色が変わってしまった。まるで澄み渡る青空のように、綺麗な天色に変化したディスクを鼓野さんに見せる。

 

「すごい…!覚醒している…!」

 

覚醒…?色が変わったのは、覚醒したってことなのか…?

 

「それは、音楽の力を宿したディスク、"エネルジアディスク"です。それをステレオドライバーに装填することで変身できます」

 

「へんしん…」

 

「はい。今から音居さんは、仮面ライダーに…いえ、音楽の力を宿した戦士、"仮面ライダームジカ"に変身するのです!」

 

音楽の力で戦う戦士、仮面ライダームジカ…

 

「おいコラァ…!いつまでお喋りしてんだァ!?」

 

俺たちの様子を見ていた怪物が、痺れを切らして喚き声をあげる。

 

考えてる時間はない、か…

 

「鼓野さん。俺、やってみます!」

 

俺は一歩前に出て、左手親指でステレオドライバーの変身ボタンを押す。

すると、ベルト中央部の正面に付いているディスクトレイが90度下に倒れ、パカっと展開した。

 

展開したディスクトレイの中心には、何かを嵌め込むことができそうな丸い突起がある。そしてそれは、エネルジアディスクの中心に空いている穴とちょうど同じサイズだ。

 

俺は、右手に持つ"ブルースカイエネルジアディスク"をディスクトレイに嵌め込んだ。

 

そして、俺は右手を高く空に掲げた。

 

どうしてこのような行動を取ったのかは、自分でもわからない。

ただ…歌えなくなった俺だが、今この時だけは、あの頃の俺のようになれた気がしたのだ。歌えていた頃の、俺に…

 

「変身!」

 

掛け声と共にステレオドライバーの変身ボタンを再び押すと、展開していたディスクトレイが自動的に閉じて元の形に戻る。すると、ステレオドライバー正面に、ブルースカイエネルジアディスクがはっきりと見える形になる。

 

その瞬間、ブルースカイエネルジアディスクの情報を読み取ったステレオドライバーのスピーカー部分と、ディスクトレイの両横に縦に5つずつ配置されているレベルインジケーターが青く光り輝く。

 

そして、力強く、それでいて澄んで美しい、希望に満ち溢れた歌声のメロディーが鳴り響く。

 

『翼を広げ歌うんだ

大好きを胸に ほら あの雲の向こうまで

俺だけの"(みち)"を進むのさ

未来はきっとブルースカイ』

 

メロディーとともに、俺の体は雲のような純白の姿に変わり、そんな俺を囲むように五線譜と音符が出現する。

 

そして、胸と両肩、両腕、両の脛には青空のように澄んだ天色のアーマーが装着される。

胸アーマーの中央には丸いコアがあり、そこに仮面ライダームジカのエネルギーが蓄えられている。名付けて"ムジカ・コア"。そんなムジカ・コアを挟むようにして、両隣には雲を模ったような白い装飾が施されている。

両腕と背中からはカモメのような白い羽の装飾が取り付けられ、足もメカニカルな鳥のような足に変化する。

 

頭部も白をベースに、丸い滑らかな卵形に変化する。

天色の複眼を、マイクカバーのようなシルバーの網目上のバイザーが覆う。クラッシャー部分は黄色いカモメの嘴のように尖り、両耳部分を天色のヘッドホンのようなものが覆い、その後ろには羽の装飾が取り付けられる。

 

そして最後に、額には白い雲とト音記号を模った装飾が浮かび上がる。

 

俺は、青空の力を宿した戦士─"仮面ライダームジカ ブルースカイ"に変身した。

 

「さぁ、ライブの開幕だ!」

 

変身した俺は、掛け声とともに走り出した。そんな俺の元に、まずはニエンテ・ヌッラが襲いかかってくる。1体目のニエンテが殴りかかってきたので、避けてその手を掴み投げ飛ばす。そして次のニエンテを蹴り飛ばし、そのままの勢いで飛び、また次のニエンテに回し蹴りを浴びせた。

 

よしっ…意外と戦えてる…!

それにしても、武器とかはないのか…?

 

そんな疑問が過ぎった瞬間、目の前に音符が出現し、それが弾けると剣のようなシルエットが現れる。俺がその持ち手部分を握ると、その剣は実体化する。

 

《エフェクティングソード》

 

実体化したその剣─"エフェクティングソード"は、漆黒の持ち手に銀色に光り輝く刀身を持つ西洋風のロングソード。持ち手部分と刀身を繋ぐ鍔にあたる部分には3つのボタンが付いており、更に持ち手部分にはコードが巻きつけられている。

 

「おっ、剣か…よしっ!」

 

俺は早速エフェクティングソードで、ニエンテを斬り倒していく。

 

そして、3つあるうちの1番左側のボタン、剣のマークが印字されている"斬撃強化ボタン"を1回押した。すると、4ビートの弾むようなメロディーが鳴り響く。

 

「はぁぁっ!」

 

『スラッシュ・フォルテ』

 

剣を振るうと鋭い斬撃が飛んでいき、5体のニエンテを一気に倒すことができた。

 

「まだまだ…!」

 

俺は同じ斬撃強化ボタンを、今度は2回押した。すると今回は8ビートの弾むようなメロディーが鳴り響き、エフェクティングソードには更に強いエネルギーが充填されていく。

 

『スラッシュ・フォルテッシモ』

 

「はっ!やっ!はぁぁっ!!」

 

俺は3方向に斬撃を飛ばし、一気に10体ほどのニエンテを倒した。

 

「これは…」

 

俺は、エフェクティングソードの持ち手に巻き付けられているコードが気になり、持ち手から取り外して伸ばしてみる。すると、ソードから伸びたコードの先には、何か端子のようなものがついている。

 

「このプラグ、ここに差すのか…?」

 

その端子は、ステレオドライバーの両側面にある穴にちょうど嵌まりそうな形状をしているので、試しに右側面の穴に差し込んでみる。

 

『セット・エフェクティングソード』

 

端子を差し込むと、ステレオドライバーとエフェクティングソードが連動したように、音声が鳴り響いた。

 

そして、鍔の右側にある力こぶのマークが付いているボタン、"身体強化ボタン"を押す。すると、連動しているステレオドライバーのスピーカー部分から、変身時に流れた曲のオフボーカルバージョンが流れる。

 

「っ…!凄い、力が湧いてくる!」

 

鳴り響く音楽を受け、俺の体の奥底から物凄い力が湧いてくる。

 

「よしっ、行くぞ!」

 

そして俺は、斬撃強化ボタンを3回押す。すると、16ビートのメロディーが鳴り響き、エフェクティングソードに今までで1番強いエネルギーが充填されていく。

 

『スラッシュ・フォルテフォルティッシモ』

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

俺は一回転しながら剣を振るう。すると、全方向にいるニエンテに斬撃が飛び、全てのニエンテを倒すことができた。

 

「ふぅ…さて、後はお前だ!」

 

俺は親玉のヌッラにそう言った。

 

「ふんっ…それがどうしたァァ!!」

 

叫んだヌッラが腕を掲げると、その腕の先にある丸い窪みの中の渦が蠢く。すると、周りの立て看板やポールなどが宙に浮き、俺の方に飛んでくる。

 

「っ!?ぐっ…」

 

突如四方から飛んできたそれらを避けきれず、俺はダメージを受けてしまう。

 

このヌッラには周りのものを飛ばす能力がある、って感じか…?

 

「だったら…!」

 

俺はエフェクティングソードを構え、集中して周りを見る。

 

「おらァっ!」

 

ヌッラは再び周りの物を浮かせて飛ばしてくる。俺はそれらをエフェクティングソードで受け流しながら、ヌッラに向かって走り出した。

 

「はぁっ!」

 

「っ!?ぐぁぁっ…!」

 

浮遊物を交わしながら辿り着いた俺の斬撃を受け、ヌッラは後方へと吹っ飛んだ。そのまま追撃しようと思った俺だが、このヌッラは元は人間だということを思い出し、踏みとどまる。

 

「鼓野さん、このヌッラを倒すと、中の人はどうなっちゃうんですか!?」

 

「安心してください。ステレオドライバーやエフェクティングソードの力を利用して必殺技を繰り出せば、ヌッラの胸に埋め込まれている"レタルジアディスク"のみを破壊して、人間に戻すことができます」

 

なるほど。だったら、この隙に必殺技で決着をつけるしかないな。

 

俺はステレオドライバーの"必殺技ボタン"を押す。すると、再び変身時に流れた曲のオフボーカルバージョンが流れ始め、周囲の空間に透き通るように美しい青空が澄み渡っていく。

 

「なっ、なんだ!?この、不思議と落ち着くような、感覚は…」

 

青空の空間に誘われ、負の感情に飲み込まれていたヌッラの精神が浄化されていく。

 

その隙に、俺は周囲の空気を圧縮し、右足にエネルギーを溜めていく。

 

「これで決める!」

 

俺は再びステレオドライバーの必殺技ボタンを押した。

 

『ムジカ・ブルースカイ フィーネ』

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

─ムジカ・ブルースカイ フィーネ《青空浄舞(せいてんじょうぶ)》─

 

ムジカを中心として青空が澄み渡る空間を作り出し、負の感情に飲み込まれたヌッラを浄化する。そして、一気に飛び上がり、圧縮させたエネルギーを解き放ちながら右足で強力なキックを放つ技である。

 

「ぐああぁぁぁぁぁっ!!」

 

必殺技を受けたことにより、ヌッラの胸部にあった禍々しい色のディスク─レタルジアディスクが真っ二つに割れて、ヌッラは叫び声を上げながら爆発した。

着地した俺は、その爆発を背にしながら立ち上がった。

 

「このライブに、アンコールはない」

 

戦いを終え、鼓野さんが俺に駆け寄ってくる。

 

「お疲れ様です、音居さん」

 

俺はステレオドライバーの変身ボタンを押し、展開したディスクトレイからブルースカイエネルジアディスクを取り出す。そして、何もディスクが装填されていないトレイを折りたたんで元に戻すと、変身は解除されて音居奏叶の姿に戻った。

 

ヌッラが最後に爆発したところに視線を向けると、そこには草臥れたスーツを着た三十代ぐらいの男性が、意識を失って倒れていた。この人こそが、ヌッラの正体だったようだ。

その男性の横に落ちている半分に割れたレタルジアディスクを、鼓野さんが回収している。

 

「その、レタルジアディスクっていうのは…?」

 

さっきは戦いの最中で聞き流したが、そもそもレタルジアディスクというものが何なのかを聞いていなかった。

 

「レタルジアディスクは、人間の強い負の感情から生まれるディスクです。そしてその負の感情の持ち主とディスクが結びつき、ヌッラが生まれてしまうというわけです」

 

強い負の感情から生まれるディスク…つまり、あのヌッラになっていた男性にも、何かそれだけの辛い出来事があったということなのか。

 

「あとは私が責任を持って連行します」

 

男性の元に移動して、鼓野さんが言った。

連行…ということは、何かしらの処罰は下るのだろう。

 

「それと、今回の戦いで壊れてしまった物や散乱した物の処理も、我々プロテクションがやっておきますのでご安心ください」

 

ヌッラが飛ばしてきた物を弾き返したりして、中には壊れてしまった物もあっただろう。それらをどうすれば良いのかと内心不安だった部分もあったが、どうやらその辺のことも全部やってくれるみたいだ。

 

「改めて諸々の詳しい説明をしたいのですが、それはまた後日に。今は心身ともにお疲れでしょうから、しっかりと体を休めてくださいね」

 

すると、鼓野さんは倒れている男をヒョイと肩に担ぎあげた。

 

「え!?」

 

「では、また」

 

そして、男を担いだまま何事も無いかのように鼓野さんはスタスタと歩いて去っていった。

 

すげぇパワー…

鼓野さん、体力だけじゃなくて力も凄かったのか…

 

「ふぅ…」

 

初めての変身、そしてヌッラとの戦いが無事に終わったことにほっとして、なんだか体の力が一気に抜けた。

 

「あれ、奏叶くん?」

 

今すぐにでもその場に座り込んでしまいたいところを堪えていると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると、そこには澁谷さんと唐さんがいた。

 

「もーっ、ドコに行っていたのデスカ!?せっかくカノンさんが歌えたというのに…」

 

澁谷さんの歌を聴いて興奮した様子の唐さんが、頬を膨らませながらそう詰め寄ってきた。

てか、俺と唐さんがちゃんと喋ったのさっきが初めてだし、詳しい事情とかは何も知らないんだけど…

まぁ、それも忘れてしまうほどに興奮しているのだろう。

 

「ごめんごめん。でも、俺もちゃんと聴いてたよ」

 

「そうなの!?」

 

俺が歌を聴いていたことに気づいていなかったのか、澁谷さんは目を丸くして驚いている。

 

「すごい勇気もらえた、ありがとう」

 

「そんな、勇気だなんて…」

 

俺の言葉に照れたのか、頬を赤く染めてそっぽを向く澁谷さん。

 

でも、澁谷さんの歌に勇気をもらったのは事実だ。

なんせ、澁谷さんの歌を聴いていなかったら、俺は戦えていなかったかもしれないのだから。

 

「さて、もう暗くなりそうだしそろそろ帰ろうか」

 

既に空は夕焼けに染まっていた。

赤く輝く夕日を背に、俺たちは帰路に着いた。

 

 

こうして、俺の仮面ライダームジカとしての戦いが幕を開けた。

 

この選択が、俺にとって正しかったのか、そうじゃないのか。それはまだわからない。

いったい、この先にはどんな未来が待ち受けているのだろうか…

 

 

 

 

 

これは、スクールアイドルとして輝く少女たちと、仮面ライダーとして戦う少年の物語である。

 





──次回、『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』

「それでは、我々の基地…"プロテクションベース"に案内しますね」

仮面ライダームジカとして、正式にプロテクションと協力していくことになった音居奏叶。
そして、いよいよプロテクションの基地─プロテクションベースに足を踏み入れる。

「私がプロテクション長官の神窪政宗(かみくぼまさむね)です」

続々と登場するプロテクションの仲間たち!

「データ、保存と間違えて消しちゃいましたぁぁぁぁ!」

次回、『#5 人々を護る組織』





─────

【登場人物設定】

音居奏叶(おといかなと)
誕生日:3月19日
血液型:O型
身長:176cm
趣味:カラオケ(歌えていた頃)、散歩、音楽鑑賞
特技:歌うこと(現在は歌えない)、空手
好きな食べ物:ハンバーガー、チキン南蛮、粉物
好きな言葉:好きこそ物の上手なれ
好きな教科:現代文、音楽
好きな動物:カエル、コウノトリ

歌の力を宿す戦士─仮面ライダームジカの変身資格者であり、結ヶ丘高等学校に通う一年生。
一見すると落ち着いた印象を与えるが、人情深く心優しい少年。些細なことでも思い悩んでしまう繊細さを持ち、優柔不断な一面もある。

幼少の頃から音楽…特に歌うことが大好きで、歌に対する情熱は人一倍強い。自分の歌で誰かを笑顔にし、元気づけたいという想いを胸に、一時は謎の中学生シンガー『奏音(かのん)』として活動していた。
しかし、とあるヌッラの能力により歌声を奪われてしまい、表向きには学業への専念を理由に活動を休止した。

自分のように理不尽な力で大切なものを奪われる人々を助けるため。そして、自分自身の歌を取り戻すため。
仮面ライダームジカとして戦うことを決意した。















─────

『#4 勇気の青空』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
無事に仮面ライダームジカも登場したことですので、今回より後書きにて次回予告に加え、一つずつ設定を紹介しようと思います。

そして、今回も準備でき次第、活動報告の方で#4について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!

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もしよろしければ、よろしくお願いします!

次回『#5 人々を護る組織』は、6月30日20時に投稿予定です。
次回もお楽しみに!
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