〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜   作:一葉 彩人

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─登場人物─

音居奏叶(おといかなと)
仮面ライダームジカの変身者であり、結ヶ丘高等学校に通う高校一年生。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。

鼓野志保(つづみのしほ)
人々を護る組織─プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。



#5 人々を護る組織

 

─某所─

 

薄暗い西洋風のシックな部屋。

 

人間の負の感情を利用してヌッラという怪物を生み出し、暗躍している組織─"ピリオド"。ここは、そのピリオドの幹部が招集された際に集まる部屋、"幹部の間"である。

 

部屋の奥には仰々しい玉座があり、そこに神々しい白いローブを身に纏った組織のボス─"マエストロ"が鎮座している。そのすぐそばには、執事服を着こなす高齢の男性が立っている。彼はマエストロの側近である"エントラージュ"だ。

 

「マエストロ。新たに生み出したジェッターレ・ヌッラですが、倒されてしまいました」

 

エントラージュは、昨日奏叶が戦った物を投げ飛ばす能力を持つヌッラ─ジェッターレ・ヌッラが倒されたことをマエストロに報告する。

 

「倒された?まさか…」

 

「はい。プロテクションが、ついに仮面ライダーの変身資格を持つ者を見つけたようです」

 

「そうか…それで、その仮面ライダーの変身者はどんな人物なんだい?」

 

マエストロからの問いに、エントラージュは謝罪の意を込めて一礼してから答える。

 

「変身者の正体までは、まだ…ただ、その仮面ライダーの名は"ムジカ"だそうです」

 

「ムジカ…そうか。厄介な相手になりそうだね」

 

「はい」

 

「それで、もう一人の…女の方のヌッラはどうなっている?」

 

どうやら、奏叶が戦ったジェッターレ・ヌッラの他にも、もう一人ヌッラになって動いている人物がいるようだ。

 

「彼女の方でしたら、順調に負の感情を蓄えていっていますよ」

 

エントラージュの言葉を聞き、マエストロは不敵な笑みを浮かべる。

 

「それは楽しみだ」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「平和だなぁ…」

 

自然豊かな木々に囲まれる中庭のベンチに腰掛け、俺はひとり春のそよ風を感じていた。

 

現在は昼休み。今日は朝から両隣の席の二人、澁谷さんと唐さんがスクールアイドル部設立の許可が降りなかったとかで慌ただしい様子だった。昼休みもいろいろと話し合うことがありそうだったので、二人が横並びで座れるよう澁谷さんに席を譲った俺は、教室を出て軽く学校内を散策してみた。

 

入学したてでまだ校舎のどこに何があるのかよく分からないので、いろいろと見て回り、最終的にまったり落ち着けそうなこの中庭で昼食を食べていたのだ。

 

「ふぅ…」

 

こんなふうにぼーっと平和なひと時を過ごしていると、昨日の戦いがまるで夢だったのではないかと思ってしまう。

 

昨日、俺は"仮面ライダームジカ"に変身して、初めて怪物と戦った。

 

しかし、これはあくまで始まりに過ぎない。これから出現するであろうあんな怪物と、俺は戦っていかなければならないのだ。

 

そして、いつかは俺の歌声を奪ったヌッラを見つけ出して倒す。そうしなければ、俺の歌声は取り戻せない…

 

このように、とにかく考えることが山積みでパンクしそうだったため、こうして中庭でひとりぼーっと過ごせたのは良い休息になった。

 

仮面ライダーやヌッラ、プロテクションについてなど、細かいことはまだ何も聞いていない。ちょうど今日の放課後、鼓野さんからその辺りの説明を受けることになっている。

 

「んーっ…そろそろ戻るか」

 

一つ伸びをした俺は、教室に戻るため中庭を後にした。

 

校舎に入り廊下を歩いていると、ふと音楽科の制服を着た女子生徒が目についた。彼女は鼻まで隠れてしまうほどの高さまで積み上げられた資料を、一人で運んでいる。

 

「あの、よかったら半分持ちますよ」

 

「いえ、でも…」

 

俺が声をかけると、彼女は遠慮がちに長いポニーテールを揺らす。

 

「いいからいいから。困った時はお互い様、ってやつです」

 

「では、お言葉に甘えて…お願いします」

 

ということで、俺は彼女が持っている書類から三分の二ほどの量を受け取る。

 

「ありがとうございます」

 

ひとつに束ねられた長く艶やかな黒髪を靡かせながら、彼女は微笑んだ。

 

「この学校じゃ男手も少ないですし、何かあったらいつでも頼ってください」

 

「ふふっ、助かります。(わたくし)葉月恋(はづきれん)と申します」

 

彼女─葉月恋さんは、書類を持ったまま綺麗にお辞儀をして自己紹介する。そんな彼女の所作はとても美しく、まさにお淑やかという言葉がピッタリだと感じてしまう。

 

「音居奏叶です」

 

そんな彼女に釣られて、俺もぺこりとお辞儀しながら自己紹介した。

 

「これ、どこに持っていきます?」

 

「生徒会室にお願いします」

 

歩き出した葉月さんの後ろに着いて、俺も歩き出す。

 

「あれ、でもこの学校って生徒会はまだ…」

 

ここ、結ヶ丘高等学校は今年からできた新設校。

開校して3日目のこの学校に、生徒会はまだないはずだ。

 

「えぇ、ちゃんとした生徒会はまだありません。ただ、それでは学校が上手く機能しませんので、生徒会選挙が開かれるまでの間、仮の生徒会としていろいろと手伝っているんです」

 

「凄いなぁ…」

 

「まだ新しいこの学校を、より良い学校にしたいというだけですよ」

 

微笑んで言った彼女の言葉に俺は感心していた。なんて真面目で、勤勉な人なのだろうと。

 

「きっとなりますよ。葉月さんみたいに素敵な人がいる学校なら」

 

「いっ、いえ…そんな…」

 

照れているのか、葉月さんは顔を赤くして俯いてしまった。

 

葉月さんもそうだが、千砂都や澁谷さん、唐さんと、俺がこの学校で関わった人たちはみんな素敵な人ばかりだ。そんな人たちがいるこの学校なら、きっと良い学校になるだろう。

 

少し歩いて生徒会室に着いた俺たちは、それぞれ書類を机の上に置いた。

 

「本当にありがとうございました。とても助かりました」

 

「いえいえ。また何か手伝えることがあれば、遠慮なく言ってくださいね」

 

俺はそう言って、生徒会室を出ていった。

 

 

 

─放課後─

 

帰り支度を済ませて学校を出ると、人目につきにくい端の方に、鼓野さんが立っているのを見つけた。

 

「すみません、お待たせしました」

 

「いえ、私が少し早めに着いてしまっただけですので」

 

会釈をしながらふんわりとした優しい声でそう言った鼓野さん。

 

こうして普通に話しているとこんなにおっとりとした人柄なのに、あんなに走り回っても息一つ切らさないぐらい体力がある人なんだよなぁ…

 

俺はふと鼓野さんに追われていた時のことを思い出して、身震いしてしまう。

 

「どうかしました?」

 

少し首を傾げて、大きな瞳で俺を見つめて問いかけてくる。その姿がとても可愛らしい。

 

追われている時はそんなことを考える余裕もなかったが、鼓野さんはかなり容姿の整った人だ。どちらかというと童顔で可愛らしく、それでいて大人の美しさを兼ね備えている。

 

「いえ、なんでもありません」

 

「それでは、我々の基地…"プロテクションベース"に案内しますね」

 

今日の目的の一つは、プロテクションが活動拠点にしている基地に案内してもらうことだ。その基地のことを、プロテクションベースと呼んでいるらしい。

 

「5分ぐらい歩きますけど、大丈夫ですか?」

 

「え?あ、はい、もちろん」

 

逆にそんなに近くにあるのか…

 

 

そして、5分後。

 

「着きました」

 

本当に5分で着いた。

 

いや、それにしても…

 

「ここって、お店ですよね?」

 

目の前にあるのは、レトロな雰囲気を醸し出しているレンガ造りのお店だった。その看板には【アンティークショップ・ソナーレ】と表記されている。

 

「はい。ここは音楽関係の骨董品を扱うお店です。蓄音機やレコード、楽器類など、古くて貴重なものが沢山ありますよ」

 

そう説明して、鼓野さんは扉を開けて店の中に入っていった。

 

いや、なんのお店か説明してほしかったわけじゃないんだけどなぁ…

俺は内心苦笑しつつも、彼女に続いて店の中に入る。

 

先程の説明通り、店内には初めて見るような昔の蓄音機や楽器などが沢山置いてあった。珍しい物ばかりの店内を俺が見ている内に、鼓野さんは奥にいる店主さんであろう50代ぐらいの男性に話しかけていた。

 

「昭宗さん、こんにちは」

 

「やぁ、志保ちゃん」

 

鼓野さんが店主さんと話を始めたので、俺は鼓野さんの後ろに移動する。

 

「音居さん、ここの店主の神窪昭宗(かみくぼあきむね)さんです」

 

「はじめまして。音居奏叶です」

 

鼓野さんからの紹介を受けて俺が名乗りながら会釈をすると、神窪さんも優しく微笑んで会釈を返してくれた。

 

「志保ちゃん、彼が例の…?」

 

「えぇ」

 

「それはそれは…頑張ってね」

 

例の…頑張ってね…あ、もしかして仮面ライダーのことか?

 

「頑張ります…!」

 

仮面ライダーのことを知っているということは、この人もやはり関係者ということか…

 

「それじゃあ、私たちはこれで」

 

「あぁ、いってらっしゃい」

 

鼓野さんは神窪さんに一言声をかけ、そのまま店の奥の方にスタスタと歩いていく。店の中に入っていいのかと戸惑いつつも、店主の神窪さんが何も言わないから良いのだろうと思い、俺も鼓野さんに着いていく。

 

そして、辿り着いた先には厳重なセキュリティゲートがあった。扉についている認証端末に、鼓野さんが持つスマートフォンを翳すことでロックが解除され、その先にはエレベーターがあった。

 

「扉の中に、また扉…」

 

「えぇ。組織の基地ですから、セキュリティは厳重なんです」

 

なんて会話とともに、俺たちはエレベーターに乗り込む。

 

「え!?あ、本当に基地に向かってたんですか!?」

 

「ふふっ。もしかして、基地に案内するとか言いながら骨董品店に買い物に来たと思っていましたか?」

 

「いや、まさか骨董品店を経由して行くだなんて予想もしてなくて…」

 

エレベーターに付いているボタンを見る限り、今から向かう基地は地下一階〜地下三階まであるようで、鼓野さんは地下一階【B1】のボタンを押す。

 

「''プロテクションベース''は、アンティークショップ・ソナーレの地下にあります。厳密に言えば、プロテクションベースの広さは1階のお店より広いですが…」

 

まさか音楽骨董品店の地下に、基地があるだなんて…

 

「先程お会いしたソナーレの店主、神窪昭宗さんは、これから会うプロテクションの創設者であり長官の弟さんなんですよ」

 

なるほど。それで店の下に基地があって、神窪さんも事情を何となく知ってそうだったのか…

 

そして、エレベーターは地下一階に到着し、扉が開くと俺は"プロテクションベース"へ足を踏み入れる。

エレベーターを降りると、目の前は壁になっており、その左右に廊下が伸びている。

 

「この廊下を左に進むと長官室が、右に進むと資料室があります。そして、今から向かう大きな会議室兼私たちの仕事場でもある"メインルーム"は、左右どちらの廊下からでも入れます」

 

鼓野さんに案内されながら右側の廊下から進むと、突き当たりを左に曲がってすぐのところにドアがあった。

 

「これから音居さんがここに来られる際、主に入る部屋はここだと思います」

 

鼓野さんが扉の前に立つと、自動でスライド式の扉が開いた。

 

「では、どうぞ」

 

「しっ、失礼しまーす…」

 

中に入ると、まず視界に入ったのは中央にある長方形型の大きな机。

 

そして、左右の壁際に二つずつひとり用のデスクがあった。その上にはパソコンや資料などがあることから、このデスクが鼓野さんが普段仕事をしているところなんだろう。

奥の壁には大きなモニターがあり、その両隣にはホワイトボードが一つずつある。

 

ここが、プロテクションベースのメインルーム。

部屋の奥には、一人の男性が立っていた。

 

恐らくあの人が、プロテクションの長官…

 

「音居奏叶さんをお連れしました」

 

鼓野さんに案内され、俺はその男性の前にやってきた。

 

「どうもはじめまして、音居奏叶くん」

 

その第一声は歓迎の意が感じられるとても優しい声だった。

どちらかというと低めのトーンではあるが、丸みを帯びた朗らかな声。それなのに、彼の雰囲気からはそこはかとない重厚感がある。言葉では上手く言い表せないが、柔和な雰囲気の中にどこか只者ではないと感じさせる何かが眠っている。そんなような感じだ。

 

「私がプロテクション長官の神窪政宗(かみくぼまさむね)です」

 

神窪政宗さん。白髪混じりの短髪、フレームの細い眼鏡をかけ、ダブルスーツをビシッと着こなしている。スラッとした体型でかなりの長身であり、目測で俺よりも10cm近く高く感じるので、恐らく身長は180cm代後半といったところだろう。

 

「結ヶ丘高等学校一年、音居奏叶です。よろしくお願いします」

 

「あぁ、よろしく」

 

神窪さん…だと弟の昭宗さんと混同するか。

政宗さんは俺の挨拶に言葉を返すと、「音居くん」と俺の名を呼んだ。

 

「危険なのにも関わらず、仮面ライダーとして戦うことを決断してくれて本当にありがとう」

 

感謝の言葉と共に、政宗さんは俺に頭を下げた。

 

まさかいきなり感謝されるとは思っていなかった俺は、つい呆気にとられてしまった。

 

怪物と戦う組織のトップが、まだ高校生の俺なんかに頭を下げて感謝するなんて…政宗さんは、とても義理堅い立派な人なんだろう。出会ったばかりだが、俺はそう感じていた。

 

「怪物と戦う力が俺にしかないのなら、俺はその力で人を守りたいと思いました。それに、俺も怪物から取り返したいものがあるので…」

 

「我々は、これから君を全力でサポートする。改めて、よろしく頼む」

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

俺と政宗さんは、力強い握手を交わした。

 

「鼓野、早速彼にアレを…」

 

「かしこまりました」

 

政宗さんに促され、鼓野さんはあるものを俺に差し出してきた。

 

「これって、スマホ…?」

 

それは、鼓野さん本人も使っているのと同機種と思われるスマートフォンだった。黒とシルバーを基調にしたスタイリッシュなデザインで、今まで見たことのない機種だ。

 

「これは、我々プロテクションが開発したスマートフォン、''プロテクフォン''です」

 

プロテクションのスマートフォンで、プロテクフォン…うん、そのまんまだ。

 

「このプロテクフォンは、基本的なスマートフォンの機能はもちろんのこと、今後の戦いをサポートしてくれる様々な機能が搭載されています。このプロテクションベースに入る際のドアロックの解錠等も、こちらで行っていただきます」

 

先程ここに入るためのセキュリティゲートを通る際、鼓野さんはスマートフォンを翳してロック解除していた。それと同じ手段で、これからは俺もここを自由に出入りできるということになる。

 

「加えて秘密保持にも適しており、プロテクフォン内部のデータが流出、ウイルス感染や乗っ取りといった被害に遭う可能性は限りなくゼロに近いです。世界中探しても、これ以上に秘密保持が可能なスマートフォンはないでしょう」

 

なにそれすっごい…!!

この重厚な見た目も相待って、スパイみたいでなんかワクワクする…!

 

「音居さんさえよければ、このプロテクフォンを普段使いのものとしてお使いいただけますが、どうしますか?」

 

その問いに俺は逡巡する。

普段使いのスマホと分けてもいいが、そうなると常に所持しておかなければならないスマホが2台ということになる。

2台持ちとなるとそれはそれで不便だよな…

 

ということで、スマホはプロテクフォン一つにまとめてしまうことにした。鼓野さんにデータの引き継ぎ等をしてもらうため、俺は今持っているスマホを預ける。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

スマホを受け取った鼓野さんがデータ引き継ぎのため自身のデスクについたのと同時に、そんな溌剌とした声がメインルーム内に響いた。

 

その声の主、メインルームに入ってきたのは爽やかな男性。波巻きパーマがかかった黒髪に、可愛らしく人懐っこさを感じる顔立ち。赤いジップアップパーカーに黒いカーゴパンツというラフな格好をしていて、年齢は二十代前半ごろに見える。

 

「あ!もしかして彼が?」

 

「あぁ。仮面ライダームジカの変身者、音居奏叶くんだ」

 

「っ!?」

政宗さんの紹介を聞き終える前に、彼は俺に駆け寄ってきて勢いよく俺の右手を両手で掴む。

 

「わぁぁ!キミが仮面ライダームジカなんだ!ボク、狼谷(かめたに)そら、よろしくね!」

 

「お、音居、奏叶です…よろしくお願いします…」

 

あまりの勢いに押され、苦笑しつつ俺も挨拶を返した。

 

「狼谷。いきなりそんな勢いで駆け寄ると、音居くんも戸惑うだろ」

 

「あ!すみません!」

 

「すまんね、音居くん。狼谷は今年ウチに入ったばかりの新人でな。まぁ、やる気はとてもある隊員だ。今後は彼とも関わっていくことになると思うが、よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします、狼谷さん」

 

フォローに入った政宗さんに頷き、俺は改めて狼谷さんに笑顔で挨拶を返した。

 

「それで狼谷、頼んでおいた資料はできたかな?」

 

「ハイ!バッチリですよ、もう政宗さんのパソコンに送って…ああぁぁあ!?」

 

自信満々といったドヤ顔で自身のデスクのパソコンを操作する狼谷さんだったが、突然驚愕して叫び声を上げた。政宗さんはそれを聞いただけで何かを察したようで、困ったように顔を顰めている。

 

「はぁ…また何かやらかしたのか?」

 

呆れたようにため息混じりに聞く政宗さんを見るに、狼谷さんは日常的に何かやらかす人なんだと察しがついてしまった。

 

「データ、保存と間違えて消しちゃいましたぁぁぁぁ!」

 

そう泣き叫んだ狼谷さんは、そのままの勢いで見事なスライディング土下座を決めながら「申し訳ございません」と何度も繰り返し謝っている。

 

いや保存と間違えて削除って…よくそんな真逆な間違えしたなぁ…

 

「狼谷…失敗は誰にでもあるが、君は同じミスが多すぎだ。人々の平和を護る組織の一員として、もっと慎重に動きなさい」

 

「本当にごめんなさぁぁぁい!!」

 

政宗さんが呆れ顔で注意し、狼谷さんが全力で謝る。その様子を、俺は苦笑しながら眺めていた。

 

「すみません。いきなり、こんなお見苦しいところをお見せしてしまい…」

 

いつの間にか再び俺の隣に来ていた鼓野さんが、目頭を押さえながら謝罪した。

 

「お待たせしました。プロテクフォンへのデータ移行、終わりました」

 

そして、鼓野さんから俺の新たなスマートフォンとなったプロテクフォンを受け取る。

 

「それから、こちらも…」

 

プロテクフォンに加えて、鼓野さんは3枚の白い半透明なディスクを渡してきた。これは、この前も一枚もらった物だ。

 

確か…

 

「ブランクエネルジアディスク、でしたっけ?」

 

「はい」

 

ブランクエネルジアディスク。

これに強い決意や想いなどといった感情が結びつくことで、仮面ライダーに変身するために使用する"エネルジアディスク"に覚醒する。

 

先日、澁谷さんの歌を聴いて戦う決意が固まったことで、俺はこれを"ブルースカイエネルジアディスク"に覚醒させたのだ。

 

「音居さんが再び何か強い感情を抱いた時、またエネルジアディスクを覚醒させる可能性があります。ヌッラとの戦いにも役立ちますので、こちらもお渡ししておきますね」

 

俺は3枚のブランクエネルジアディスクを受け取りながら、ふと気になったことがあり鼓野さんに聞いてみる。

 

「そういえば、ヌッラの胸にもディスクが埋まってましたよね?それを分離破壊することで、人間に戻すことができるって…」

 

「''レタルジアディスク"のことですね」

 

ヌッラの胸に埋まっている禍々しいディスク─レタルジアディスク。

 

黒い半透明なディスク─ブランクレタルジアディスクに、恨みや憎しみなどといった"負の感情"が結びつくことにより、その負の感情を抱いた者を"ヌッラ"へと変貌させる。

ヌッラになってしまうと、その人の中の負の感情が過剰に増幅し、力に飲み込まれて凶暴化してしまうそうだ。

 

「誰しも、人間の中には"音楽の力"が眠っています。これは、本来は人間の心の糧となる素晴らしい力ですが、ピリオドはレタルジアディスクを利用して、負の感情を抱いた者の音楽の力を歪めた形で発現させ、ヌッラへと変貌させるのです」

 

鼓野さんが説明したそのメカニズムなら、エネルジアディスクは…

 

「我々は、ピリオドから奪取したブランクレタルジアディスクを基にして、ブランクエネルジアディスクを開発しました」

 

「えっ…?」

 

鼓野さんの発言に驚き、思わず声を漏らす。

 

まさか、エネルジアディスクの基となったのは、敵が使うレタルジアディスクだったとは…

 

「エネルジアディスクは、ステレオドライバーを通して使用者の音楽の力を最大限に引き出し、仮面ライダーの力を与えます。しかし、それに適応できる人物は、その膨大な力に飲み込まれず戦えるほど、清く強い音楽の力を持っている者のみ」

 

「それが、俺だったんですか…?」

 

俺の問いに、鼓野さんは「はい」と力強く頷いた。

 

俺にそんな力があるなんて…正直、一度仮面ライダームジカに変身した今でも、そんな実感は湧いていない。

 

俺が改めてそのことに驚いていると、メインルームの扉が開く音を耳にして、俺は視線をそちらに向ける。

 

「失礼します」

 

入って来たのは、凛とした雰囲気の男性。

ピシッと整えられたセンターパートスタイルの黒髪に、しっかりと締められたネクタイと皺ひとつないスーツ…一目見ただけでわかる、この人はできる人だ。

 

「九重くん」

 

彼に気づいた政宗さんが声をかける。

 

「こちら、頼まれていた資料です」

 

彼はそう言って角形封筒に入った書類を政宗さんに手渡すと、俺の前までやってくる。

 

「君が、仮面ライダームジカの変身者の…」

 

「はっ、はい…音居奏叶です」

 

すると、彼は胸ポケットから取り出した物を俺に見せる。それは、中央の桜が印象的な金色の記章がついた手帳─警察手帳だ。その中には、"警部 九重誠"と記されている。

 

「私は警視庁の九重誠(ここのえまこと)だ。ピリオド撲滅のため、今はプロテクションとともに捜査している。よろしく」

 

「彼はピリオドの事件を担当している現職の刑事なんだ」

 

九重さんの挨拶の後、政宗さんがそう説明を付け足した。

 

あんな怪物、警察も全く対応していないとは思ってはいなかったけど、警察にもピリオドの捜査を担当する部署があるのか…

 

「ピリオドやヌッラについては、警察の中でもまだ限られたごく一部の者しか知らない。そのため我々は、これまでも主に九重くんを通して警察と協力してきた」

 

警察内部でもごく一部の人しか知らないヌッラの捜査を担当しているということは、やっぱりこの人は只者ではなさそうだ。

 

「そして、近頃ピリオドの動きがより活発になってきたことも踏まえ、プロテクションに特別捜査官として二名の警察官が来てくれることになった。そのひとりが、彼だ」

 

「本当なら、私が仮面ライダーになれたら良かったのだが…まだ高校生の君を巻き込んでしまって、申し訳ない」

 

鼓野さんをはじめ、政宗さんも九重さんも、俺が戦うことに負い目を感じているんだろう。3人ともから、同じ謝罪を受けた。

 

「先程説明があった通り、私もこれからはここを拠点に捜査する。もう一人、俺の部下もいるんだが…手続きの関係で、俺よりも遅れての参加となる。彼のことも、後日紹介させてくれ」

 

プロテクションの特別捜査官として、九重さんと彼の部下の方、二人の刑事さんもピリオドとの戦いに参加する。刑事さんもいるということに、俺はより一層の心強さを感じた。

 

「何かあったら、いつでも気軽に頼ってほしい」

 

「はい!」

 

政宗さんを筆頭に、鼓野さん、九重さんと、プロテクションのメンバーは心強い人たちばかりだ。狼谷さんはまぁ…ちょっと頼りないけど、いい人そうだし。

 

正直、怪物と戦うなんて俺にできるのか、不安な部分もたくさんある。でも、こんなに頼もしい人たちが支えてくれる。それを知ったことで、俺のその不安は少し解消された。

 

これから、俺ももっと頑張らないと…!!

 





──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』

「いきなりのステージで1位、か…」

高校生活が幕を開けて数日。
共にスクールアイドルを始めることを決めたかのんと可可だったが、スクールアイドル部設立のために、学校側からハードルの高い条件を求められる。

「笑顔を奪って、二度とステージに立てないようにしてやるのよ!」

そんな中、現れた新たなヌッラ。その目的に隠された真意とは…

「我々に自由を!」

『#6 笑顔を求めて』





─────

【登場人物設定】

鼓野志保(つづみのしほ)
年齢:29歳
誕生日:4月16日
血液型:A型
身長:158cm
趣味:カフェ巡り、筋トレ
特技:持久走
好きな食べ物:パン、コーヒー
好きな言葉:待てば海路の日和あり
好きな動物:ポメラニアン

プロテクションの一員であり、若くして長官補佐を任されるほど優秀な人物。補佐業務のほか、ヌッラの調査や仮面ライダーの変身資格者の捜索も担当している。
奏叶が仮面ライダームジカになった以降は、その戦闘支援も重要な任務となっている。

おっとりとした印象を与える一方で、細やかな気配りができる有能な女性。変身できない自分にもできることを増やそうと日々鍛錬を重ねており、その身体能力は奏叶を大きく上回る。
まだ高校生である奏叶が戦うことを心苦しく思っており、何かと気を遣いすぎてしまう一面もある。















─────

『#5 人々を護る組織』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!

今回も準備でき次第、活動報告の方で#5について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!

お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!

次回『#6 笑顔を求めて』は、7月2日20時に投稿予定です。
次回もお楽しみに!
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