〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜   作:一葉 彩人

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─登場人物─

音居奏叶(おといかなと)
仮面ライダームジカの変身者であり、結ヶ丘高等学校に通う一年生。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。

澁谷(しぶや)かのん】
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発され、スクールアイドルを始めることを決意した。

唐可可(たんくぅくぅ)
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。

嵐千砂都(あらしちさと)
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。ダンスが得意で、結ヶ丘では音楽科に所属している。

九重誠(ここのえまこと)
警視庁 公安部に所属する刑事であり、階級は警部。
ヌッラ捜査のため、特別捜査官としてプロテクションにも所属している。



#7 エールの道しるべ

 

─放課後─

 

「九重さん?」

 

一日の授業を終えて学校を出た俺は、プロテクションの特別捜査官であり警視庁の刑事である九重誠さんを見つけた。

 

「急にすまない。昨日のヌッラのことで…少し、中で話せるか?」

 

自分のであろう黒いセダンを指差しながら言う九重さんに、俺は頷いて着いていく。

 

ということで、九重さんが運転席、俺が助手席に乗り込むと、九重さんは昨日のヌッラについて判明している情報をまとめた資料を渡してきた。

 

「ソリッゾ・ヌッラ…?」

 

「分析の結果わかった、昨日のヌッラの名称だ。他にも昨日のヌッラについてわかったことをまとめてある」

 

再び資料に目を落とすと、ソリッゾ・ヌッラの写真に加え、いくつかの特徴が記載されている。その中でも特に重要であろう情報は、やはり能力についてだ。

 

「昨日現れた直後のヌッラの様子から、恐らく笑顔を奪うという能力は右手から発動されると思われる」

 

「なるほど…ところで、昨日狙われた高梨楓さんは無事だったんですよね?」

 

「あぁ。笑顔は奪われていないし、念の為病院で検査も受けてもらったが、特に異常はなかった」

 

「良かった…」

 

「それから、君にもお礼を伝えてくれと。本当は会って言いたいそうなのだが、流石に君の正体を明かすわけにもいかず、伝言という形にしてもらった。その時も、とても笑顔で言っていたよ」

 

アイドルだからとかそういうの以前に、やはり笑顔というのは人間の大切な感情表現の一つだ。それができなくなるというのは、想像もできないほど辛いことだろう。

 

少なくとも、彼女がそんな状況になってしまうのを防げたと知り、少しだけ安心した。

 

「それから、ヌッラである可能性が高い人物が判明した」

 

九重さんから、追加で一枚の資料を受け取る。そこに写るのは、ひどい隈に痩せこけた頬、顔色も青白い窶れた一人の女性だった。

 

遠藤(えんどう)さつき。彼女がヌッラの正体…」

 

「あくまでまだ可能性の段階だ。音居くん、"パッションズ"というアイドルグループは知ってるか?」

 

パッションズ…確か、少し前から爆発的人気を博している4人組のアイドルグループだ。今や地上波の歌番組やバラエティなどにも引っ張りだこで、昨年末の歌番組にも初出場し、確か二ヶ月後には初のドーム公演が控えていたはずだ。

 

「えぇ。名前ぐらいは…」

 

「一週間ほど前、ソリッゾ・ヌッラが最初に襲ったのがパッションズの4人だ。現在4人はプロテクション管轄の病院に入院中で、体には特に異常はなく健康状態ではあるものの、常に虚ろな目で一切笑顔になれない状況になっている」

 

そういえば、一昨日の生放送に急遽出演できなくなったとSNSで話題になっていたが、これが原因だったのか。

 

「もしあと一週間で症状を治す方法が見つからなければ、初のドーム公演も中止にせざるを得ないそうだ」

 

「っ…!?」

 

俺はパッションズについて詳しくは知らないが、それでもドーム公演というのがいかに重要なステージなのかぐらいはわかる。きっと彼女たちにとっても、目標や夢として掲げていたステージだったはずだ。

 

それなのに、どうしてヌッラは彼女たちの夢を奪うようなことを…!!

 

「それで、その資料の女性…遠藤さつきについてだが、彼女は本来パッションズのメンバーだった人だ」

 

「えっ?」

 

驚く俺を前に、九重さんは説明を続ける。

 

パッションズというアイドルグループは、本来5人でのデビュー予定だったそうだ。そして、そのメンバーの一人が遠藤さつき。

彼女は、当初センターを任されるほど事務所から期待されていた人物だった。しかし、そんな彼女に嫉妬して疎ましく思うようになった他のメンバーが、彼女へ陰湿なイジメ行為を繰り返すようになった。それが原因となって心身を病んでしまった彼女は、笑顔を作ることすらもできなくなり、夢だったアイドルを諦めることになってしまったそうだ。

 

「そんな話が…」

 

「最初に襲ったアイドルグループに因縁があり、笑顔を奪われアイドルを挫折するという経験も、ソリッゾ・ヌッラの能力に深く関係している。更に彼女は、一週間前から所在がわからなくなっている。それらから推測して、恐らくソリッゾ・ヌッラの正体は遠藤さつきだ」

 

俺は、人の夢を奪うヌッラに対して怒りを抱いた。

しかし、ヌッラになってしまった彼女も、夢を奪われた人だった。それも、ヌッラでもなんでもない人間の理不尽な嫉妬によって…

 

「でも、彼女はどうして関係ないアイドルの人たちまで…」

 

「レタルジアディスクに負の感情が結びつきヌッラになった人は、その力に飲み込まれて理性が働かなくなる。力を使えば使うほど負の感情は増大し、制御できなくなる。だから、関係のない人まで襲ってしまうようになるんだ」

 

夢を奪われてしまった人が、今度は関係ない人の夢まで奪おうとしてしまう。

そんなの、絶対にダメだ…!

 

「次にヌッラが現れたら、必ず止めます。街の人のため、そして…彼女のためにも…!!」

 

 

 

─翌日─

 

「疲れだぁ…!!」

 

「なんだかキモチヨクナッテキマシタ…」

 

「じゃ、その勢いでもう1セット走る?」

 

「「無理ィィ!!」」

 

ちょうど近くを通りかかったので、澁谷さん、クゥクゥ、千砂都が練習している様子を見にきた。

すると、丁度ランニングが終わったところらしく、疲れ果てた澁谷さんとクゥクゥはその場に座り込んでいた。

 

「お疲れさま」

 

「あっ、奏叶くん!」

 

「はい、良かったらどうぞ」

 

俺は3人に一本ずつ、さっき自動販売機で買ったスポーツドリンクを渡した。

 

「わーい!アリガトウゴザイマス!!」

 

「ありがとう!奏叶くん」

 

クゥクゥと澁谷さんは早速疲れた体にスポーツドリンクを流し込んでいく。

 

「奏叶くん、私の分まで…なんだか悪いね」

 

千砂都はもらったスポーツドリンクを握りしめながら、遠慮がちに言った。

 

「ううん。俺も千砂都みたいに二人の力になりたいけど…俺にできることは、これぐらいだからさ」

 

「奏叶くん…ありがと!それじゃあ、有難く頂くね」

 

すると、近くの教室の窓から、音楽科の生徒たちが練習している歌声が漏れ聞こえてくる。

 

「っ…」

 

音楽科の生徒たちの歌声を耳にして、澁谷さんは何かを感じたようで、グッと体に力を入れて勢いよく立ち上がった。

 

「よしっ、もう1セット!!」

 

「えぇ!?」

 

「奏叶くんのお陰で元気出たよ!ありがとう!」

 

驚くクゥクゥを連れて走り込みに行こうとした澁谷さんは、一度振り返って笑みを浮かべた。

 

「本番、楽しみにしてる!」

 

「うん!行ってくるね!!」

 

「行ってらっしゃい!!」

 

そうして、3人は再び走り込みに行った。

 

代々木スクールアイドルフェス…澁谷さんとクゥクゥの初めてのステージ、楽しみだな。

 

毎日ヘトヘトになるまで頑張っている澁谷さんとクゥクゥの初ステージに、俺は期待を膨らませていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

─某所─

 

ここは、ピリオドの拠点にある一室。以前マエストロとエントラージュが話していた幹部の間とはまた別の部屋である。

 

マエストロの側近であるエントラージュが、その部屋で座り込んで虚ろな目をしている女性に話しかける。

 

「昨日は失敗してしまったようですね」

 

「もっ、申し訳ありません!変なヤツが、邪魔してきて…」

 

その女性…遠藤さつきは少しだけ顔を上げ、エントラージュを見つめながらそう言った。

 

「謝る必要はありませんよ。ただ、マエストロ…我々のボスは、あなたの活躍に随分と期待されています」

 

「次こそは、必ず」

 

「そんなあなたに、とっておきの情報を…」

 

不敵な笑みを浮かべたエントラージュは、彼女の耳元で囁きながら一枚のチラシを渡す。

 

「代々木、スクールアイドルフェス…?」

 

「えぇ。ここには、アイドルを夢見る高校生たちが大勢参加します。次の舞台、ここにしてみるのは如何でしょう?」

 

彼女は少しの逡巡の後、受け取ったチラシをグシャッと握り潰す。

 

「はい。ここで、たくさんのアイドルの笑顔を奪ってやります。私が受けた苦しみを、味わわせてやる…!!」

 

「ほほっ…頼もしい」

 

綺麗に整えられた白髪の髭を撫でて笑ったエントラージュは、そのまま部屋から出ていった。

すると、部屋の外では青いローブに身を包んだ男が立っている。

 

「お待たせしました。グラヴィータ」

 

エントラージュは、外で待っていた青いローブの男を"グラヴィータ"と呼んだ。

 

「先日ヌッラを倒した仮面ライダームジカ。彼に興味はありませんか?」

 

その問いに、グラヴィータは鋭い眼光で答える。

 

「どれぐらいの強さか、試してみたいと思っていたところです」

 

「でしたら、ニエンテ・ヌッラを囮に彼を誘き出しましょう。是非、彼と一度戦ってみてください」

 

「……有難き幸せ」

 

メキメキと音が鳴るほど拳を握りしめるグラヴィータに、エントラージュは満足げに頷く。

 

「それから、その際に彼女が代々木スクールアイドルフェスを狙っていると伝えてください」

 

「えっ?しかし、それでは止めに来いと言っているようなもので…」

 

「それで良いのです。彼女の能力は強力ですが、まだまだ浅い。ただ人から笑顔を奪うだけではなく、ムジカと戦うことで更に強化されるでしょう」

 

「なるほど…」

 

「それに、我々としてもムジカのデータが欲しい。もしそこで彼女、ソリッゾ・ヌッラが敗れてしまったのなら、それまでだったということです」

 

目を細め、冷たい声でそう言い放ったエントラージュ。

 

「かしこまりました。では、ムジカと戦う際にはフェスの件も伝えます」

 

「頼みましたよ。マエストロは、あなたにはより一層期待されております」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

ソリッゾ・ヌッラとの戦いから数日が経った。

しかし、あれ以来ソリッゾ・ヌッラは姿を現さず、俺は普通の高校生活を送っていた。

 

学校帰り、小腹が空いた俺は千砂都がバイトしているキッチンカーのたこ焼き屋を訪れた。のだが…

 

「いっ、いらっしゃいませぇ…」

 

普段の活気ある千砂都の声ではない、げんなりと力の抜けた歓迎の声が聞こえた。

 

「澁谷さん!?」

 

「あ、奏叶くん。うぃっすー!」

 

何故か千砂都ではなく澁谷さんがたこ焼きを作っていることに驚くと、キッチンカーの陰から千砂都がひょっこりと出てきた。

 

「千砂都、なんで澁谷さんがたこ焼き作ってるの?」

 

「それがね…かのんちゃん、また歌えなくなっちゃったみたいで…」

 

「っ…そう、なのか…」

 

これはかなりまずい事態だ。数日後に控えた代々木スクールアイドルフェスになんとか間に合えばいいけど、二度目となるとそう簡単に行くかどうか…

 

そういえば、今日一日澁谷さんもクゥクゥも教室で静かだったのはそれが原因か…

 

「でも、なんでたこ焼き?」

 

澁谷さんが歌えなくなったからと言って、たこ焼き屋で働く意図が理解できずそう聞くと、千砂都はえっへんといった様子で胸を張って説明を始める。

 

「かのんちゃんが歌えなくなる原因はプレッシャー。だから、不慣れな状況に対応できると変われるんじゃないかって。たこ焼きって、作ってる間見られることが多いでしょ?」

 

確かに、俺もここに来るとついつい千砂都がたこ焼き作ってる姿を見ちゃってたな…

 

「つまり、ずっとお客さんの視線を感じながら作業することになる。そのプレッシャーの中で、ちゃんとたこ焼きを作れるようになれば!」

 

「歌えるようになるんじゃないか、というわけだね」

 

「うん!」

 

千砂都が言いたいことはなんとなくわかった。

 

しかし、そう簡単に上手くいくんだろうか…

 

「奏叶くん。はい、お待たせしましたー!」

 

たこ焼きが焼き上がったようで、澁谷さんから声がかかる。さっきまであんなに緊張と不安でげんなりとしていたのに、今の澁谷さんは、花咲くような可憐な笑顔をしている。

 

すごいな、澁谷さん。きっと今も物凄く不安で辛いはずなのに、また歌えるように明るく振舞って頑張っているんだな…

 

「奏叶くん?」

 

「あ…ううん。ありがとう、いただきます」

 

代金をトレーの上に置きたこ焼きを受け取った俺は、キッチンカーの近くにある椅子に座ってたこ焼きを食べることにした。

 

そして丁度食べ終わった頃、たこ焼き作りを終えた澁谷さんが、試しにたこ焼き屋のお客さんたちの前で歌ってみようとマイクを構えるが…

 

「なってない…」

 

"なってない"というのは、"歌えるようになってない"ということ。

彼女がもう一度歌えるようになるには、いったいどうするのがいいのだろうか…

 

 

それから衣装を見に行くという3人と別れてすぐ、ヌッラが暴れていると連絡を受け、俺は急いで現場に向かった。

 

「ニエンテ・ヌッラだけなのか…?」

 

しかし、そこにいたのは数体のニエンテ・ヌッラのみで、ソリッゾ・ヌッラの姿はなかった。

 

「とにかく止めないと…!」

 

ステレオドライバーを装着し、変身ボタンを押してブルースカイエネルジアディスクを装填する。

 

「変身!」

 

『翼を広げ 叫ぶ 大好きを胸に さあ今

あの雲の向こうまで

澄み渡るあの青へ 俺だけの"(みち)"を進め

未来はきっとブルースカイ』

 

純白のボディに、天色のアーマー。カモメのような嘴と、翼のような装飾を持つ頭部。

青空の力を宿した戦士─仮面ライダームジカ ブルースカイに変身した。

 

変身した俺は、ニエンテ・ヌッラたちの方へ走り出す。

 

「はっ!やぁ!」

 

不気味に蠢きながら俺に攻撃を仕掛けてくるニエンテ・ヌッラたちを、パンチや蹴りといった肉弾攻撃で倒していく。

 

ニエンテ・ヌッラは通常のヌッラとは違い、人間が変貌したわけではない。負のエネルギーが集まって実体化したにすぎないため、通常のヌッラのように特殊な能力を使ってくることも、ダメージが通りにくいこともない。

 

とはいえ、もちろん人間よりは遥かに強靭な体と攻撃力を持つため、普通の人では敵わないが、仮面ライダームジカに変身している状態では難なく倒すことができる。

 

「これで決める…!」

 

残りのニエンテ・ヌッラを一気に倒そうと考え、俺はステレオドライバーの必殺技ボタンを押す。すると、流れてくるメロディーと共に周りの空間ごと全て青空が澄み渡っていく。

 

『ムジカ・ブルースカイ フィーネ』

 

─ムジカ・ブルースカイ フィーネ《青空浄舞(せいてんじょうぶ)》─

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

浄化効果で動きが鈍った相手へ圧縮させたエネルギーを放出し、上空から強力なキックを放つムジカ ブルースカイの必殺技《青空浄舞》を放ち、俺は全てのニエンテ・ヌッラを倒した。

 

「ふぅ…」

 

着地して息を吐いた俺は、そのまま変身を解除しようかと思ったのだが、ふと声が聞こえて咄嗟に止める。

 

「お前が、仮面ライダームジカか」

 

「っ!?」

 

思わず体が硬直した。重厚で、威圧感のある声。その異質な気配に、俺は恐る恐る振り返る。そこにいたのは、青いローブに身を包んだ屈強な男だった。

 

何者だ、この人…

仮面ライダームジカを知っている上に、この気配…只者じゃない。

 

「あなたは…?」

 

「俺はピリオドの幹部のひとり、"グラヴィータ"」

 

男─グラヴィータは、青いローブを脱ぎ捨てた。

姿が顕になったその男は、黒短髪にキリッとした瞳を持ち、身長はそこまで高いというわけではなく俺より低いが、筋骨隆々で威圧感のある見た目をしている。

 

「っ!?幹部…」

 

"幹部"というその言葉に、俺は仮面の中で冷や汗を流す。

 

大きな体格にとてつもない威圧感を持つ、ピリオドの幹部。恐らく、今の俺では敵わない圧倒的な格上…

 

「なあに、そう警戒するな。今日は少しお前の力を試したいだけだ」

 

そう言いながら、グラヴィータはゆっくりと歩き出す。俺がそんな彼を警戒して構えていると、グラヴィータは一気に距離を詰めて俺を掴むかのように手を伸ばしてくる。

 

「うぉっ!?っと…ちょっ!?待って…!」

 

俺は間一髪でそれを避けたが、グラヴィータは更にもう一度手を伸ばしてきて、再びそれを避けると今度は蹴りが飛んでくる。

 

「くっ…!」

 

俺はその蹴りを腕で防いだが、かなり重い。そんな一撃のダメージに気を取られた隙に、グラヴィータに首元を掴まれて身動きが取れなくなってしまった。

 

相手は生身なのに、一切太刀打ちできない。それに、なんでかわからないけど、体が重くて動きが鈍くなってるような気がする。

 

「さっきから避けるばかり…どうして反撃してこない?」

 

「アンタがピリオドの幹部だとしても、今は人間の姿だろ…!そんなアンタと、仮面ライダーの力を使っては戦えない…!!」

 

俺がそう答えると、グラヴィータは鼻で笑う。

 

「ふっ…甘いな、甘すぎる。そんな甘い考えで、俺たちの組織を相手にしようとしているのか。呆れたもんだ」

 

グラヴィータは首元を掴んでいた手を離し、今度は俺の胸元に向けて手のひらを翳した。

 

「ぐぁっ!?」

 

瞬間、まるで目に見えない鉄球が激突したかのような、凄まじい衝撃が俺を襲う。

彼は俺の体に一切触れていない。それなのに、強烈な"見えない圧力"によって俺の体は無様に地面を転がり、後ろへと吹き飛ばされた。

 

なにが、起こった……!?

 

まずい…このままだと、一方的やられてしまう…

 

「こうなったら…!」

 

俺は一気にグラヴィータへと距離を詰める。

 

攻撃はできないけど、せめて拘束ぐらいは…!

 

「っ!?」

 

拘束しようと伸ばした俺の右手をサラリと躱わしたグラヴィータは、逆にその右手首を掴んできた。そしてそのまま、俺の懐に潜り込んだ彼の肘が容赦なく脇腹を抉る。

 

「ぐはぁっ!?」

 

俺の息が詰まった隙を見逃さず、彼は俺の腕を巻き込みながら鋭く踏み込む。

次の瞬間、視界が反転し、俺の身体は派手にコンクリートの地面へと叩きつけられた。所謂、一本背負いで投げ飛ばされたのだ。

 

「くっ…くぅっ…!」

 

流れるように放たれた突然の投げ技に、俺は上手く受け身を取ることができず背中に強い衝撃が走る。

 

「まあいい。今日はこのぐらいにしてやろう」

 

仰向けで倒れる俺を見下ろしながら、グラヴィータは戦いの終わりを告げた。

 

「お前にいいことを教えてやる。ソリッゾ・ヌッラが次に狙うのは、"代々木スクールアイドルフェス"だ」

 

「なに!?」

 

驚く俺を他所に、グラヴィータはこの場から去っていく。

 

「おい待てっ!」

 

俺はなんとか立ち上がって叫んだが、その時には既に、グラヴィータはこの場から姿を消してしまっていた。

 

盲点だった。ソリッゾ・ヌッラが狙うのはアイドルだが、そこにまさかスクールアイドルまで含まれているとは…それも代々木スクールアイドルフェスといえば、澁谷さんとクゥクゥが初めて立つステージ。

 

俺の脳裏に、フェスに向けて必死に練習をする二人の姿が浮かび、拳に自然と力が入る。

 

「ふたりの初ステージを、台無しになんて絶対にさせない…!!」

 

 

その後、俺は九重さんにソリッゾ・ヌッラの次の狙いが代々木スクールアイドルフェスだということを連絡した。ソリッゾ・ヌッラがフェス当日まで姿を現さないのだとしたら、とにかく今は備えておくしかできない。

 

「もう暗くなっちゃったな…ん?」

 

帰路に着いた頃には、既に日は沈み辺りは暗くなっていた。

そんな中、少し前に見知った人物がいることに気づいた。両サイドにまん丸お団子がある白髪が特徴的な少女、嵐千砂都だ。

 

「千砂都、さっきぶり」

 

俺は前を歩く千砂都に駆け寄って声をかける。

 

「あ、奏叶くん。今帰り?」

 

「うん。千砂都も?」

 

「さっきまでクゥクゥちゃんのお家にいて、今出てきたところ」

 

千砂都は笑ってそう答えるが、いつものような元気溌剌とした笑顔ではない。今の千砂都は、さっきよりもどこか浮かない顔をしているように感じた。

 

「なんかあった…?」

 

「え?」

 

「さっき会った時より、なんか元気ないように感じたから」

 

「あはは…バレちゃったか」

 

千砂都は観念したように苦笑した。

 

「実はね、Sunny Passionがフェスに急遽参加することが決まっちゃって…」

 

「サニーパッション?」

 

「去年の東京代表にも選ばれた二人組のスクールアイドルだよ」

 

去年の東京代表…ってことは!?

 

「フェスはその人たちが優勝する可能性が高いってことか…」

 

「うん。本番まであと5日だから、練習をハードにすることもできない」

 

澁谷さんが歌えなくなってしまったところに、また大きな壁が立ち塞がった。その上、フェスそのものをソリッゾ・ヌッラが狙っているという問題もある。

 

「解決しないといけないことが山積みだな…」

 

何か少しでも力になれることがあればいいけど、何も思いつかない自分がもどかしい。それに、同じ歌えないという問題を抱えているからこそ、もう一度歌えるようになることがどれだけ難しいことかもわかる。

 

いったい、どうすれば…

 

そんな考えを巡らせていると、ふと隣から視線を感じる。

 

「千砂都?どうかした?」

 

「あ、ううん。ただ、まだ知り合ったばかりの二人のために、どうしてそこまで考えてくれるのかなって…」

 

「……実はさ、俺も澁谷さんと同じように、ずっと好きで頑張ってきたことがある日突然できなくなったんだ」

 

大好きなことが、ある日突然できなくなる。もう一度だけやってみよう、それを繰り返す度に、あんなに好きだったはずのことができなくなったという事実を痛感して、挑戦すること自体が怖くなってしまう。俺も、そんな経験をしてきたからこそ…

 

「だから、諦めずに挑戦しようって頑張る澁谷さんを見てたら、応援せずにはいられなかったというか…力になりたいって思ったんだ」

 

「奏叶くん…」

 

「って、ごめん。なんか暗い話しちゃったね」

 

ついつい暗い話をしてしまったと思い、俺は慌てて明るく振る舞って話を切り替えようとする。

 

「ううん。ありがとう」

 

「なんで千砂都が言うの?」

 

「んー…かのんちゃんの幼なじみとして、かな?」

 

そう言って千砂都が笑うので、俺も釣られて笑ってしまう。

ひとしきり二人で笑った後、俺は伝え忘れていたもうひとつの理由があることを思い出す。

 

「あ、それと、クゥクゥの大好きなことに真っ直ぐに、ひたむきに頑張り続ける姿を見てると、なんだか応援したくなっちゃうんだよね」

 

「あ、それわかる!クゥクゥちゃんすごいよね。スクールアイドルに憧れて、上海から日本に来ちゃうんだもん」

 

俺の脳裏には、朝練後にヘロヘロになりながら登校してくるクゥクゥの姿が浮かんだ。苦手な運動をあんなになるまで練習するのも、心の底からスクールアイドルが大好きだからなんだろうな。

 

「きっと…かのんちゃんは、そんなクゥクゥちゃんの想いに応えたいんだろうな…」

 

千砂都が小さく何か呟いた。なんと言ったのかまでは聞こえなかったが、大切な幼なじみを想っての言葉だろうということは、彼女の表情からひしひしと伝わってきた。

 

「やっぱり、心配だよね…澁谷さんのこと」

 

千砂都と澁谷さんがどれだけお互いを大切に想い合っているのかは、出会ったばかりの俺でもわかる。きっと千砂都は、今も澁谷さんのことが心配で仕方がないのだろう。

 

「うん。でも…」

 

しかし、彼女は笑った。

 

「大丈夫。きっと、かのんちゃんなら大丈夫だよ!」

 

それは、幼馴染を信じてやまない芯のある笑顔だった。

 

 

 

─翌日─

 

Sunny Passionの参加が決まって、澁谷さんのプレッシャーが大きくなっているんじゃないかと心配していた俺だったが…

 

「おはよう!奏叶くんっ!」

 

そんな心配は杞憂だったようだ。

朝、教室で出会った彼女は、晴れやかな笑顔で俺に声をかけた。クゥクゥと二人で、絶対にライブを成功させる。そんな強い決意が籠った笑顔で。

 

千砂都の言った通りだな…

 

本番までに歌えるようになるかも、フェスで1位になって活動を継続できるかも、まだ何もわからない。

 

だけど、これだけは言える。

 

きっと、澁谷さんなら大丈夫だ。

 





──次回、『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』

ソリッゾ・ヌッラの次の目的が、かのんと可可が出場する代々木スクールアイドルフェスだと判明した。

「いよいよ明日だよ…」

フェスに向けて毎日一生懸命に練習している二人の想いを傷つけさせない。そう固く誓った奏叶は、新たな力に覚醒する!

「人の温かさから、夢を追いかける力をもらうことだってあるんだ!!」
「歌える。ひとりじゃないから…!」

『#8 温情の星』





─────

【登場人物設定】

《九重 誠(ここのえ まこと)》
年齢:28歳
誕生日:6月17日
血液型:O型
身長:178cm
趣味:読書
特技:バスケ
好きな食べ物:まんじゅう、あんこう鍋
好きな言葉:不撓不屈
好きな動物:ドーベルマン

警視庁 公安部に所属する刑事。階級は警部。
ピリオドの捜査・対策のため、プロテクション 特別捜査官も兼任している。

冷静で堅物という印象を持たれがちで、第一印象は近寄りがたいと感じられることも多い。しかし、実際は職務に対して誰よりも真摯で、市民を守るという信念を誰よりも強く抱いている。















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『#7 エールの道しるべ』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!

今回も準備でき次第、活動報告の方で#7について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!

お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!

『#8 温情の星』は、明日7月5日20時に投稿予定です。
次回もお楽しみに!
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