─登場人物─
【
仮面ライダームジカの変身者であり、結ヶ丘高等学校に通う一年生。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発され、スクールアイドルを始めることを決意した。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。ダンスが得意で、結ヶ丘では音楽科に所属している。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
大きなポニーテールが特徴的。とても真面目で、お淑やかな人物。
【
警視庁 公安部に所属する刑事であり、階級は警部。
ヌッラ捜査のため、特別捜査官としてプロテクションにも所属している。
【
プロテクションが笑顔を奪うヌッラの正体ではないかと目星をつけている人物。
人気アイドルグループ─パッションズの元メンバーだったが、チームメイトからの陰湿ないじめにより笑顔を失い、夢だったアイドルを諦めることになった。
「失礼します」
代々木スクールアイドルフェスの前日。
俺は先生から頼まれた書類を葉月さんに届けるため、生徒会室にやって来た。
「……」
一声かけて中に入ったのだが、葉月さんは何やら窓の外を熱心に見ていて俺に気づいていない。
「葉月さん?おーい、葉月さん」
「はっ…!」
葉月さんに近づいて名前を呼んでも気づかなかったので、葉月さんの視線の先に手を出して振ってみると、ようやく俺に気づいたようだ。
「おっ、音居さん…?」
「これ、先生が葉月さんに届けてほしいって…」
俺が書類を見せると、葉月さんは申し訳なさそうに眉を下げる。
「すみません…気が付かなくって…」
「大丈夫大丈夫。そういう時ぐらい誰でもあるよ」
そう言いながら書類を渡すと、彼女は恥ずかしそうに笑いながら受け取った。
「何見てたの?」
葉月さんが見ていたものが気になりその窓を覗き込むと、そこには明日のフェスに向けて練習する澁谷さんとクゥクゥの姿があった。
「お、澁谷さんにクゥクゥ。頑張ってるなぁ」
Sunny Passionがフェスに参加すると決まってから、二人はより一層練習に身が入っている。参加が決まったと千砂都に聞いたあの日はどうなるんだろうかと不安を感じたが、翌日からの二人には明らかに変化があった。
それは、何も練習に対してだけじゃない。澁谷さんとクゥクゥの関係性にも変化があった。クゥクゥが澁谷さんのことを"かのん"と呼ぶようになったり、澁谷さんのクゥクゥに対する信頼度も増したようで、絆がより深まったみたいだ。
「明日のフェス、楽しみだなぁ…!」
ソリッゾ・ヌッラが襲ってくる不安はありつつも、あんなに頑張っている二人を見たらライブが楽しみで仕方がない。
そう思った俺は、ついそんな独り言を零してしまう。
「っ…」
すると、葉月さんが少し顔を顰めて息を飲んだ。
「どうかした?」
「……いえ、なんでもありません!書類、ありがとうございました」
慌てて誤魔化すように笑顔を作った葉月さんは、話を逸らすかのように渡した書類についての礼を言った。
「それじゃ、俺はこれで」
書類を届けるという目的は済んだので、俺は生徒会室から出ようと踵を返す。スライド式の扉を開いたところで、俺の脳裏に先程の葉月さんの表情が浮かんだ。
葉月さんは、一人で何か大きなものを抱えている。
理由はわからないが、何故かそんなふうに思ってしまった。的外れな直感かもしれないけど、もし本当にそうなのだとしたら、ほんの少しでも彼女の力になりたい。
「葉月さん。なにかあったらいつでも頼ってね」
不安を感じた俺は生徒会室を出る前に一度振り返り、そう伝えた。
それから、荷物を取りに教室に戻ると、澁谷さんが自分の机で帰り支度をしていた。
「あ、奏叶くん。今から帰るの?」
「うん。さっき練習してるの見えたよ、頑張ってるね」
「ありがとう。いよいよ明日だよ…」
緊張してるのだろう。澁谷さんは苦笑気味にそう言った。
少しでも彼女の緊張を和らげる方法があれば…あ、そうだ。
「澁谷さん、ちょっと手出してもらってもいい?」
「え?あ、うん…」
澁谷さんは戸惑いつつも右手を出した。俺はその手を両手で包み込み、親指で手のひらの中央部を優しく押す。
「へっ!?」
澁谷さんは驚いて顔が少し赤くなるが、俺は気にせず言葉をかける。
「澁谷さんなら、きっと大丈夫だよ。今日まですごい頑張ってて、それを俺も、クゥクゥも千砂都も知ってる。そして何より、君自身が一番知ってる」
本番がどうなるかなんて…結果がどうなるかなんて、わからない。でも、フェスに向けて彼女たちが積み上げてきた努力は、俺が、千砂都が、そして何より澁谷さんとクゥクゥ自身が知っている。
「だから、大丈夫。頑張れ、かのん」
"かのん"
彼女のことは、今まで名前では呼ばなかった。それはそういったタイミングが特になかったというのもあるが、同じ名前だからだというのが大きい。歌手活動をしていた時の俺と。そして何より、あの子と……
だけど、今だけは名前で呼びたかった。ちゃんと名前を呼んで、彼女のことを応援したいと思った。
「っ…」
澁谷さんは俺の手をぎゅっと握り返し、しばらくしてから顔を上げた。
「ありがとう、奏叶くん」
顔を上げた言った彼女の表情は、見惚れるほどに可憐な笑顔だった。
「すごい…!なんだか本当に緊張が解れて、体の余分な力が抜けた気がする」
「良かった。これ、俺が昔ばあちゃんにしてもらったおまじないなんだ」
彼女の手を解きながらそう説明した。
これは、昔幼稚園で歌を発表することになって緊張していた時に、ばあちゃんがやってくれたおまじないだ。あれ以来、何か緊張することがあると俺も一人でこうして緊張を紛らわせていた。
「一人の時でも、さっきの所を親指で押して深呼吸してみると、ちょっと緊張解れるよ」
澁谷さんは俺の説明を聞いて、さっき俺が押していた部分を確認するように自身の手のひらを見ていた。
「…奏叶くん」
「ん?」
澁谷さんは俺の様子を伺うように、上目遣いをして潤んだ瞳で見つめてくる。
「明日、見に来てくれる…?」
「もちろん。絶対、応援しに行くよ」
俺の返答に、澁谷さんははにかんでとびきりの笑顔を見せた。
あ、てか勢いで澁谷さんの手握っちゃったけど大丈夫だったかなぁ…嫌われてないといいけど…
一人になった帰り道、先程のことを思い出してそんな心配に襲われる俺なのであった。
そして、いよいよ代々木スクールアイドルフェス当日を迎えた。
「奏叶くん、うぃっすー!」
「千砂都、うぃっす!」
会場で俺を見つけてパタパタと駆け寄ってきた千砂都に、俺も同じように挨拶を返す。
「いよいよだねぇ…!」
「うん、楽しみだね」
今日の千砂都は、ライブが楽しみでいつも以上にウキウキとした様子だ。もちろん俺も楽しみだが、それ以上に、やらなければいけないことがあるため気を抜けない。
二人の…クーカーのライブが、上手くいくために。
「千砂都、ごめん。俺、一緒には観れないんだ」
ライブを妨害しようとするソリッゾ・ヌッラを止めるため、俺は千砂都と一緒にライブを観ることはできない。
「え?」
「でも、俺もちゃんと観てるから。心の底から応援してるから、だから…」
ヌッラが現れることも、俺が戦うことも、理由は何も話せない。そのため、自分でもなんて言えばいいのか悩みながら必死に言葉を紡いでいると、千砂都は頷いて優しく微笑んだ。
「うん。何があるのかはわからないけど、奏叶くんのことだから、きっと大事なことなんだよね」
「ごめん」
「なんで謝るの?絶対、クーカーのライブは観るんでしょ?」
その問いに、俺は力強く頷いた。
「あぁ、もちろん!」
「よしっ。じゃあ二人の正面からの応援は、私に任せて!お互い、目一杯クーカーを応援しよう!」
「そうだね!」
二人笑い合って別れ、千砂都はステージに近いところへ、俺は客席全体が把握できるよう後方へと移動した。
「そろそろだな…」
いよいよ次がクーカーの出番だ。
未だソリッゾ・ヌッラが現れる気配はない。いっその事、このまま現れることなく終わってくれたらいいのだが…
しかし、そんな願い虚しく、視線の先に現れた一人の人物に気づき、警戒心を一気に高める。
「っ…!」
ステージに向かってスタスタと歩いていくその人物に背後から近づき、肩に手を置いて動きを止める。
「待ってください、遠藤さつきさん」
「っ…だれ…?」
その人物─遠藤さつきは、驚いてこちらに振り返る。
そんな彼女の姿を見て、俺は思わず驚いてしまう。
九重さんから、事前に過去の遠藤さつきの写真は見せてもらっていた。その写真の彼女は、とても可憐で明るい笑顔をした女性だった。
しかし、今の彼女はアイドルをしていたその頃の面影を一切感じないほどに、やつれきっていた。虚ろな目、痩せこけた頬、笑顔の欠片もない。これもグループ内での陰湿ないじめにより、アイドルを辞めざるを得なくなったことが原因なのだろう。
「やっぱり、あなたがソリッゾ・ヌッラだったんですね。遠藤さつきさん」
「……まさか、あなたが仮面ライダー…?」
俺はステレオドライバーを腰に装着することで、その問いの答えを示す。
「あなたがアイドルから笑顔を奪う理由が、過去に所属していたアイドルグループで起こった出来事が原因であることは、既に知っています」
「そう…」
小さく呟いた彼女は、俯いていた顔を上げる。
「じゃあほっといてよ!私は、私が奪われたように、笑顔を奪ってアイドルなんてさせなくしてやるのよ!」
「アンタにそうしたアイドルの人たちへの復讐はもう終わった!これ以上は必要ないはずだ!」
「私も最初はそう思っていたわよ!でも、足りない…私のこの苦しみを、もっとたくさんの人に味わわせてやるのよ!!」
そう言葉を吐き捨てた彼女の表情は、まるで何かに取り憑かれたかのように狂気に染まっていた。
これが、レタルジアディスクの魔力…負の感情を増大させて、元の目的から外れて更に人々を襲ってしまうということなのか。
「今アンタが襲おうとしているのは、アイドルってだけで何の関係もない人たちだろ!」
「っ…!」
彼女は唇を噛み締め、俺をキッと睨みつける。
「アンタが理不尽な悪意でアイドルができなくなったんだとしても、何の関係もない人を同じ目に遭わせようとするのは絶対に間違ってる!」
「うるさいうるさいうるさい!!」
遠藤さんは癇癪を起こしたように頭を掻きむしりながら喚いた。
それと同時にステージを見ている観客から大きな歓声が上がり、俺以外の人たちには彼女のその喚き声は聞こえていない。
ふとステージ上に目をやると、そこには澁谷さんとクゥクゥが背中合わせで立っていた。
ライブまでに決着をつけられなかったか…
せめて、お客さんたちがステージに夢中な今のうちに決着をつけないと…!
二人とも、頑張れ。
心の中で二人にエールを送っていると、遠藤さんも振り返りステージ上を一瞥した。
「ふっ…あの子たちも、どうせいつか挫折してアイドルなんてやらなければ良かったと思うようになるのよ」
その瞬間、強い怒りが込み上げてくる。
「違う!!!」
彼女の言う通り、挫折してしまうようなことに直面することだってあるかもしれない。でも…それでも…!
「どんなことがあっても、前を向いて頑張れる。あのふたりは、そんな力を持ってるんだ!」
歌えないというトラウマにずっと悩んでいた澁谷さん。
念願のスクールアイドルをするために来日したのに、いきなりフェスで1位という高い壁を突きつけられたクゥクゥ。
それでも二人は挫けずに立ち上がり、毎日必死に練習していた。
「もしかしてあなた、あの二人の知り合いかしら?」
「あぁ、友達だ」
澁谷さんもクゥクゥも、結ヶ丘でできた大切な友達なんだ。そんな二人の初ライブ、邪魔なんて絶対にさせない。
その時だった。突然ステージ上のライトが消えた。
お客さんたちから困惑の声が上がっており、演出などではなく予期せぬ事態なのだろう。
「っ…!?」
何があったんだ…?
俺の視線に気づいた遠藤さつきは再びステージの方に振り返る。そして、ステージ上のトラブルに気づいた彼女は大きく笑った。
「あはははは!なんだ、私が笑顔を奪う必要もなかった。これで、あの子たちはライブができない。ずっとこのトラウマを抱え続けることになるのよ!」
一人高笑いする遠藤さつき。
どうして…こうも次から次へとトラブルが…
「澁谷さん…クゥクゥ…」
心配のあまり、二人の名前を呟いた。
二人が夢を追いかけ始めたばかりだっていうのに…こんなところで、終わってしまうのか…
悔しさのあまり拳を握り締め、俺の視線がステージから外れかけたその時だった。
「っ…!」
観客席から、暗いステージ上を照らす無数の灯りが現れた。
「あれは…!」
二人のライブを応援しようと、お客さんたちがペンライトでステージ上を照らしてくれているのだ。
「もう一度、ステージを見てみろよ」
未だ高笑いを続ける遠藤さつきにそう言うと、彼女は怪訝そうに振り返る。
「なっ…!なんなのよコレ!?」
「確かに、人の理不尽な行動から夢を挫折してしまうことだってあるかもしれない。でも、それだけじゃない…!」
「くっ…」
「人の温かさから、夢を追いかける力をもらうことだってあるんだ!!」
澁谷さんも、クゥクゥも、ひとりじゃないんだ。
千砂都や家族、学校の友達、他にもこうやって応援してくれる人だってたくさんいる。
それに何より、お互いがお互いを支えあっている。
そんな温かさに触れた二人なら、きっとライブも…!
俺がそう感じた時、以前鼓野さんからもらったブランクエネルジアディスクが眩い光を発した。
「くっ…!そんなの、認めない!こんなフェス、私がぶっ潰してやる!!」
そう叫んだ遠藤さつきは、レタルジアディスクを取り出した。
そして、取り出したディスクを胸の前まで持ってくると、彼女の体が禍々しい赤茶色の煙に包まれた。
煙が晴れると、彼女は白い不気味な仮面を被った禍々しい赤茶色の怪物─ソリッゾ・ヌッラへと姿を変えていた。
「ライブの邪魔はさせない」
俺はステレオドライバーの変身ボタンを押し、ディスクトレイを展開させる。
そして、先程新たに覚醒したディスク─"スターライトエネルジアディスク"を取り出した。それをディスクトレイに装填した俺は、空に向かって手を掲げる。
「変身!」
再び変身ボタンを押してディスクトレイを格納すると、ステレオドライバーのレベルインジケーターとスピーカー部分が黄色に発行し、優しく、温かさを感じるようなバラード調の曲が流れ始める。
『小さな輝きが 今 飛び跳ねる心を
解き放って どんな暗闇だって 照らしていく
この光が 温もりが 力をくれるんだ
逸る気持ちに身を任せて 始まりのスターライト』
すると、俺の周りを囲むように五線譜と音符が出現する。
更に星を模したエフェクトと、眩い光が出現し、それらに俺の体は包まれていく。
そして、俺の体は青空の力を宿したムジカ ブルースカイとはまた違う姿へと変わっていく。
まず、全身がまるで夜空のようなミッドナイトブルーカラーへと変化していく。そのミッドナイトブルーのボディの中に、夜空で光り輝く無数の星たちのように、青白く光るラメが散りばめられている。
そんなボディの上から、胸、両腕、前腕部、脛に同じくラメが入ったミッドナイトブルーカラーのアーマーが装着される。
そして、ベースボディ、アーマーともにより一層光り輝く星のような金のラインが走っていき、暗いベースカラーのボディを輝かせる。
胸の中心には、仮面ライダームジカ スターライトのエネルギーが蓄えられているムジカ・コアがあり、金色に光り輝いている。
頭部は全体を覆うようにメットを被り、まるでウサギのように、左右の頭頂部に後方に向かって伸びる耳が付いている。
複眼も星のように光り輝き、その上にあるメットのバイザー部分は、ブルースカイと同じくマイクカバーのように網目上になっている。
そして、額には金色のト音記号が模られている。
「この前とは、違う姿…!?」
俺の姿を見たソリッゾ・ヌッラが驚きの声をあげる。
俺は、"星の力"を宿した戦士─仮面ライダームジカ スターライトに変身した。
きっと、今の二人なら最高のライブができるだろう。
そのためにも、誰にも気づかれずソリッゾ・ヌッラを倒さなければならない。
気合いを入れた俺は、少しでもクーカーの応援に繋がればという想いも込めて、ムジカ スターライトの能力で体から眩い光を発した。
「さぁ、ライブの開幕だ…!」
〜〜〜〜〜
私─澁谷かのんは、代々木スクールアイドルフェスの出番を目前に控え、ステージ袖で待機していた。
「カノン、衣装とっても似合ってマス!」
目をキラキラと輝かせて私にそう言ってくれたのは、一緒にステージに立つクゥクゥちゃん。
「クゥクゥちゃんも、とっても可愛いよ!」
私がそう言うと、クゥクゥちゃんも嬉しそうに「えへへ」と笑う。すると、私たちの一つ前のグループのパフォーマンスが終わったようで、お客さんたちからの歓声が聞こえる。
「いよいよデスネ…!」
ついに私たちの番がやってきた。
そう思うと、さっき見たお客さんの数を思い出してとてつもない緊張が襲ってくる。
「あ、そうだ…」
私はふと昨日奏叶くんに教えてもらったおまじないを思い出した。
「すぅー…はぁー…」
教えてもらった通りに、手のひらの中心を親指で押して深呼吸をする。すると、不思議と少し落ち着いた気がする。
「カノン、行きましょう!」
「うん…!」
ステージに上がり最初の立ち位置にクゥクゥちゃんと背中合わせで立つと、ステージの明かりがつく。すると、お客さんたちからの歓声が上がった。
「そろそろ、始まりマスヨ…」
「うん…」
緊張を解すためにもクゥクゥちゃんの手を握ろうとした私だったが、急に体が動かなくなる。
「っ…はぁ…はぁ…」
大きなステージ。たくさんの人の目。
緊張が再び襲ってきて呼吸が荒くなる。
もしこれで1位になれなかったら、スクールアイドル活動は認められない。
──もし、私が歌えなかったら…
「ダイジョウブ…」
「っ…!」
後ろに立つクゥクゥちゃんから、震えた声が聞こえる。
「ダイジョウブ…ダイジョウブ…」
何度も何度も、消え入るような声で自分自身に言い聞かせるように大丈夫と唱え続ける。
そうだ…緊張してるのは私だけじゃない。クゥクゥちゃんだって同じなんだ。
私の前では気丈に振舞ってくれていたけど、クゥクゥちゃんだって緊張して、不安で仕方がないはずだ。彼女にとっては、これで1位になれなかったら、日本に来た理由すら失ってしまうようなものなのだから。
しかし、そんな私たちに更なるハプニングが襲いかかってくる。
「「えっ!?」」
バチっと大きな音を立てて、ステージ上のライトが消えてしまった。突然の出来事に、私とクゥクゥちゃんはもちろん、お客さんたちからも困惑の声が上がる。
どうして…なんで突然、明かりが…
「「うぅっ…」」
もうダメだ。そう思わずにはいられず、私は緊張と不安に押しつぶされそうになり目を瞑る。
いったい、どうしたら…
「わぁっ!?カノン、見て!!」
私と同じで、困惑と不安に押しつぶされそうになっていたはずのクゥクゥちゃんから、歓喜の声があがる。それに戸惑いながらも、私は恐る恐る目を開く。
すると、そこには眩い光に溢れた景色が広がっていた。お客さんたちが暗闇に包まれた私たちのステージを照らすように、無数のペンライトの光を向けてくれていたのだ。
「わぁっ…!」
更には、お客さんたちからの応援の歓声まで聞こえてくる。
明るくて、綺麗で、温かい。
そんな空気に包まれた私は、さっきまでの緊張が消え去り不思議と笑みを浮かべていた。
その時、何なのかはハッキリとは見えないけど、お客さんたちの更に奥の方から一層の眩い光が見えた。
『頑張れ、かのん』
その光を見た瞬間、何故か昨日の奏叶くんの言葉が過った。
そうだ…!
何度も助けてくれた奏叶くん、ずっと支えてくれたちぃちゃん、それにお母さんやありあ、こうして応援してくれる人たちがいっぱいいる。
私は、今度こそクゥクゥちゃんの手を握る。
そう。何より、一緒に頑張ってきたクゥクゥちゃんがいるんだ。
もう大丈夫。
「歌える。ひとりじゃないから…!」
〜〜〜〜〜
「さぁ、ライブの開幕だ…!」
まるで二人を鼓舞するかの如くステージ上の明かりが再び点灯し、クーカーのライブが始まった。
"Tiny Stars"/クーカー
それと時を同じくして、俺とソリッゾ・ヌッラの戦闘も始まった。
怒りに憎しみ、負の感情が溢れ理性を失ったソリッゾ・ヌッラは、ただただ持つ力を最大限込めてこちらに突っ込んでくる。その瞬間俺の体は光り輝き、一瞬でソリッゾ・ヌッラの背後に回る。
「っ!?」
突然俺が目の前から消えたことに気づいた時には、攻撃の勢いを止めることができなくなっていたソリッゾ・ヌッラはそのまま体制を崩す。
「はっ!」
体制を崩したソリッゾ・ヌッラに左手で手刀を繰り出し、その次に右足で蹴る。
この姿は、ブルースカイの時と比べるとパワーと防御力が低いように感じる。防御力に関しては特に低く、攻撃を一つ受けるだけで相当なダメージが入るだろう。
だが、その代わりにスターライトはスピード力に特化している。普通の人なら決して目で追うことができないほどの"超スピード"で移動することができるのだ。
そのスピードのお陰で、攻撃を防御することなく避けることができ、パワーが少なくても加速の反動を活かして相手にダメージを入れることができる。
「速い!?この前の姿と、全然違う…!」
驚いているソリッゾ・ヌッラに俺は一瞬で接近し、更に手刀、肘打ちと攻撃を加え、最後に膝蹴りを入れる。
「くぅっ…はぁぁぁぁ!」
しかし、ソリッゾ・ヌッラもまだまだ諦めない。
こちらに走ってきて、再び攻撃を加えようとしてきたところを…
「はぁっ…!」
「ぬぁっ!?ひっ、光で、前が…!?」
俺はアーマーに装飾された星から強い光を放ち、その影響で目が眩みソリッゾ・ヌッラの動きが封じられる。
「だったら…これで!」
俺が放つ光によって距離が離れていたソリッゾ・ヌッラは、光が止むと既に右手にエネルギーを溜めていた。
あの笑顔を奪う力か…
「ふんっ!」
そしてソリッゾ・ヌッラは俺に向けてエネルギーを放射したが、それをムジカ スターライトの能力であるスピード力を活かし、超高速で移動し避ける。
「っ!?」
再び目の前から消えたことで、俺を捉えられなくなったソリッゾ・ヌッラは混乱している。俺はそんなヌッラの背後に回る。
「こっちだ」
「後ろ!?」
「はっ!やっ!てやぁっ!!」
ソリッゾ・ヌッラが俺の声に気づき振り返ったので、俺は再び手刀を入れる。そしてそれを受けてよろけたヌッラを蹴り飛ばす。
「くっ、くぅっ…」
「これで決める」
俺はステレオドライバーの必殺技ボタンを押す。すると、ドライバーからメロディーが流れ、俺の体から再び眩い星の輝きが放たれる。
「まっ、眩しい…!?」
そして、俺の体から放たれた星の輝きは、やがてソリッゾ・ヌッラを満天の星で溢れる夜空で出来た空間に誘う。
「はっ!やっ!たぁっ!」
俺は再び超スピードの能力を駆使し、ソリッゾ・ヌッラの周りを移動して錯乱させる。そしてそのまま超高速でヌッラに接近し、すれ違い様に攻撃、また周りを移動してはすれ違い様に攻撃、というのを数回繰り返す。
「はっ!」
頃合いを見計らい、超スピードで移動した勢いを利用して上空に高く飛び上がる。その瞬間、ムジカの体が煌めく。
『ムジカ・スターライト フィーネ』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
俺の体は一層の光を放ち、まるで流れ星かの如くソリッゾ・ヌッラに向かって一直線に下降する。そして、その勢いのまま星のエネルギーを充填した右足で強力なキックを放った。
─ムジカ・スターライト フィーネ《
「このライブに、アンコールはない」
彼女のヌッラとしての暴走に、"
でも…
星煌乱舞を受けたことにより、ソリッゾ・ヌッラの胸部にあるレタルジアディスクが真っ二つに割れ、遠藤さつきは人間の姿に戻った。
そして、俺も変身解除して、彼女の近くに落ちている割れたレタルジアディスクを回収する。
ステージ上では丁度二人のライブが終わったところで、お客さんたちから大きな歓声が上がっていた。
お疲れさま、二人とも。
ライブ最高だったよ。
ソリッゾ・ヌッラと戦いながらではあったが、クーカーのライブもしっかりこの目と耳に焼き付けていた。感想は、今度会った時にちゃんと伝えよう。
「そんな…私は、いったい何を…」
毒素により力に飲み込まれていた遠藤さつきだったが、レタルジアディスクが破壊されたことにより冷静さを取り戻し、困惑していた。
「私は、もう終わりよ…」
ヌッラになるきっかけは本人が元々抱えていた負の感情であったにしろ、きっと彼女自身もここまでのことをするつもりなんてなかったはずだ。
もちろん、だからと言って許されることでは決してない。でも…
「……終わりなんてこと、ありません」
俺が声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げる。
「生きている限り、終わりなんてない。人生は、何度でもアンコールが…いや、何度だって始まりがある」
俺の瞳には、ステージで嬉し涙を流しながらお客さんへ手を振っている澁谷さんが映る。
「彼女…澁谷かのんさんは、大好きな歌が人前だと歌えないっていう悩みをずっと抱えていた。でも、一緒にステージに立つクゥクゥがいて…何より、彼女自身が挫けずに努力をしたから、こうしてライブを成功させることができた」
そして、これからする話は、本当は話すかどうか悩んでいた。先日、九重さんと話した時に聞いた話。本来なら、又聞きした俺が伝えるべきではなく、ちゃんと本人たちの口から伝えられるべき事だ。
しかし、今の遠藤さんになら、伝えておくべきだと思う。それが、彼女が再び前に進むほんの少しのきっかけになればと願って。
「……パッションズの人たち、後悔してると言っていたそうです」
「え…?」
遠藤さん自身が笑えなくなり、夢であるアイドルを目指せなくなった元凶でもあるパッションズの現メンバー。
ソリッゾ・ヌッラに襲われて、同じように笑顔を奪われてようやく、自分たちがしてしまったことがどれだけ卑劣だったかに気づいて後悔した。遠藤さんからすれば遅すぎるし、決して許せないことだろう。
「彼女たちがあなたにしたことを許せ、だなんて言えません」
俺だって、俺の歌声を奪ったヌッラのことを許すことなんてできないと思う。
「でも、復讐だけに囚われたらダメです。まずはあなたがしてしまった罪を償ってください。そして、それからは"あなただけの人生"を歩んでください」
「私だけの、人生…」
その言葉を反芻するように呟いた彼女に頷いていると、万が一の際にお客さんたちの避難ができるように近くに待機していた九重さんがやって来た。
「すまない、待たせた」
「九重さん。彼女のこと、お願いします」
「あぁ」
九重さんは遠藤さんの両手に手錠をかけ、ゆっくりと立ち上がらせる。
「ありがとう。詳しくはまた後日」
「はい」
九重さんが遠藤さんを連れて歩き出し、彼女もそれに素直に応じ歩き出そうとしたところで一度足を止めた。
「あの、名前聞いてもいいですか?」
俺は一度九重さんに視線を向け、名を明かしていいのかと目で訴える。すると、彼は頷いてくれた。
「音居奏叶です」
「音居さん。この後どうなるかはわからないですけど…やり直してみようと思います。いつか、また笑える日が来るって信じて」
そして、遠藤さんは九重さんと共に歩いていった。
彼女が再び笑えるようになる日がいつなのかはわからない。
でも、最後の遠藤さんの表情は、ヌッラになってしまっていた時よりも随分と優しい表情をしていた。
「ふぅ…」
張り詰めていた緊張が解けた俺は、一気に体の力が抜けて少しよろけてしまう。すると、そんな俺の体を支えるように両肩に手が置かれた。
「おっと…大丈夫?」
俺の体を支え、そう声をかけてくれたのは千砂都だ。さっきのライブを観て感極まったのか、目に少し涙の痕がある。
「ちっ、千砂都!?いつからそこに…?」
「え、今来たばっかりだよ?奏叶くんを見つけたと思ったら、急によろけるから慌てて…」
よかった。どうやら千砂都は、俺がムジカである姿も、遠藤さんや九重さんと話しているところも見ていないようだ。
「そうだったんだ、ありがと」
「奏叶くん、ちゃんと観てた?」
どうしたのか、何をしていたのか、そんなことは一切聞かず千砂都は一言それだけ聞いてきた。
何を、なんて聞くまでもなく、クーカーのライブのことだろう。
「最高だった!!」
「だよね!!」
そんな短い会話を交わして、俺たちは思いっきりハイタッチを交わして笑い合った。
そして、その日クーカーは新人特別賞をもらった。
しかし、1位はSunny Passion。そのため、澁谷さんとクゥクゥはスクールアイドルを続けられないかもしれない。
でも、結果を聞いた澁谷さんとクゥクゥの表情は、後悔なんて一切感じられないほどの満面の笑みだった。
──次回、『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「改めて、君のお陰で事件を解決することができた。感謝する」
新たな力─仮面ライダームジカ スターライトに覚醒し、無事にソリッゾのヌッラの事件を解決した奏叶。
「
束の間の平和が訪れた奏叶は、思わぬところで葉月恋と遭遇する。
そして、そんな二人の前に現れた奏叶の過去を知る人物とは…
「やぁ」
『#9 秘密の音色』
─────
【オリジナル仮面ライダー設定】
《仮面ライダームジカ スターライト》
"ステレオドライバー"に、星の力を秘めた"スターライトエネルジアディスク"を装填して変身する。
スピードに特化した姿であり、超高速で移動することができる。ただし、その反動でパワー値が低いため、基本はエフェクティングソードなどの武器を用いた戦闘を得意とする。
その他の戦闘では、持ち前の俊敏さを活かし、加速の勢いを攻撃へと乗せることで威力を増幅する。そのため、拳による打撃よりも、手刀などの鋭い一撃を主体とした戦闘スタイルを取る。
また、星の力で光を操ることも可能。強力な眩い光を放ったり、幻惑の光を放ち相手の動きを一時的に封じる能力を持つ。
─スペック─
身長:198cm(耳まで含むと215cm)
体重:91kg
パンチ力:0.59t
キック力:1.7t
ジャンプ力:24m(ひと跳び)
走力:1.02秒(100m)
─モチーフ─
楽器:マイク
自然:星(夜空)
動物:うさぎ
─デザイン─
夜空を思わせるミッドナイトブルーのスーツに、星の輝きを思わせる黄金色のラインを纏い、流星のような鋭さと俊敏さを兼ね備えたシルエットを持つ。頭部にはマイクメッシュの複眼や高性能な集音器を兼ねたうさぎ耳型ユニットを備え、額には星をあしらったト音記号のエンブレムを配置。
胸部には黄金の星雲が渦巻く「ムジカ・コア」を搭載し、前腕のスピーカーや全身を走る発光ラインは、超スピードでの移動の際流れ星のような軌跡を描く。
─必殺技─
【ムジカ・スターライト フィーネ《
周囲を美しい夜空に変化させ、自身から眩い星の光を放つことによって相手を撹乱させる。その状態で超高速で動き相手へ怒涛の連撃を浴びせ、最後に高く飛び上がり上空から高速のキックを放つ。
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『#8 温情の星』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
今回も準備でき次第、活動報告の方で#8について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!
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次回『#9 秘密の音色』は、7月7日20時に投稿予定です。
次回もお楽しみに!