「なあ、次に柱になるの、誰だと思う?」
「おいやめろ、不謹慎だぞ」
「いいじゃんかよ別に。とにかく強い人だよな。んで頼りになる人。間違いない」
蝶屋敷の一室。安静を言い渡されている隊士が暇を持て余して始めた雑談。
実力が物を言う鬼殺隊で、最上位の実力者である柱が話題に上るのはよくある話である。誰々が強い、誰々が頼もしい、等の話は定番のネタだ。
「強いやつは階級上がる前から本当に強いからな。柱みたいな、この人が来てくれたからもう大丈夫って思わせてくれる人は
「いいかげんにしろ
ベッドの上で体を起こして身振り手振り交えて語る青年、垣畑を隣のベッドで横になったままの青年、次藤が窘める。興奮を隠さない声は部屋中に響いており、ともすれば廊下まで響いてしまいそうだ。
「んだよ、のりが悪いなあ……おい、
「え、僕ですか」
唇を尖らせた垣畑は反対側のベッドで寝る少年、菅原に話を振った。びくりと体を震わせると何とか話を合わせようと考え、やや間を置いて答える。
「その……いちおう、一人、います」
「お、なんだ話せるじゃん。誰よ誰よ」
「二人は知ってるかな……
菅原がその名を口にすると、それまで続いていた会話の空気が固まった。部屋に沈黙が満ちる。
「……あの、どうかしました?」
恐る恐る問うと、乗り出していた体を引いた垣畑も、その向こうで顔だけ向けていた次藤も、二人揃って何とも言えない表情をしていた。
「正気かよ……」
「よりにもよって唐沢か……」
「えっと、二人は唐沢さんのこと知ってるんですか?」
「知ってるも何も有名人だぜ。鬼殺隊随一の狂人としてな」
「きょうじん?」
「菅原はその唐沢が戦ってるところを見たことはあるか?」
「はい、僕が出した救援要請に応えてくれて、ちょうど僕が戦っていて危なかったところを助けていただいたんです」
垣畑と次藤の態度に戸惑いを見せるが、次藤の質問に応える内に当時の様子を思い出して菅原も口が回る。
「相手は異能の鬼だったんですけど、本当に一瞬でした。上から降ってくる大量の土砂を、僕の後ろから走り込んできたあの人が草を払うようにあっさり散らして、まばたきした瞬間にはもう鬼に近付いて、サクッて、簡単に首を斬ったんです」
自分が覚えた感動を少しでも二人に伝えたくて、菅原は起こした体を動かしながら語った。
「本当にすごかった……僕が苦戦してたのが何だったのってくらい軽やかに斬っちゃうんだもん。その後も、僕のことも労ってくれたし、
「……戦ってる唐沢の顔は見たか?」
「それが、実はその時の僕って意識が半分なかったみたいで。血もたくさん流してたし、それでこうして蝶屋敷に運ばれることになったし、あんまり詳しく覚えてないんですよね」
「肝心なところは見逃した、というわけか」
「みたいだな。運が良いのか悪いのか」
「どういうことです?」
顔を見合わせる二人を見て菅原は首を傾げた。少年の戸惑いを受けて、どう答えたものかと考えるも上手い返しが思いつかなかったのか、垣畑は肩をすくめた。
「唐沢草慈はな」
「はい」
「俺が思うにな」
「はい」
「一番柱になってほしくない隊士だ」
「……はい?」
「話はおしまいだ。俺は寝る」
それだけ言うと垣畑は布団を頭まで被って横になってしまう。焦った菅原は向こうのベッドにいる次藤を見るも、彼の表情も芳しくない。
「唐沢は『笑顔で鬼を斬る隊士』として有名なんだ」
「笑顔で?」
「……あまり語りたい内容ではない。お前も寝て体を治せ」
「あ、あの、それっていけないことなんですか? 鬼殺隊なら、鬼を斬って人を守ることができていれば、表情なんて気にしなくていいんじゃ」
「……菅原は鬼と戦う時、どんな顔をする?」
「どんなって」
「人を襲い殺して食うのが鬼だ。そういう化け物と戦うのに楽しい気持ちでいられる人間なんていない。緊張で体が硬くなるだけじゃない。誰だって表情がこわばって、目線も険しくなるものだ。お前もそうだろう」
「それは、まあ、はい」
「鬼を討つ俺達だって、負ければ殺されるし食われて終わる。鬼との戦いは常に命の奪い合いだ、例外はない。そんな鬼に
まるで忌々しいものを目にしたように天井を睨む次藤は話す。先ほど垣畑が口にした狂人という評を捕捉する内容は、言葉通り語りたいものではないのだろう。
「そんな男を、柱という上官に仰ぎたいと思うか」
「……」
「話し過ぎたな……お前も寝ろ。早く機能回復訓練を通りたいだろう」
「はい……」
こう言われてしまえばそれ以上聞くこともできず、菅原も布団に入り直す。
よくある雑談で盛り上がった空気はどこへやら。
静まり返った部屋で三人は体を休めるのだった。
適当に名付けたモブ隊士三人の雑談です。
こういう物語の始まり方、なんか好き。