最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
No.432 相談事
※SIDE 飯田
雄英の応接室。
懐かしい母校の雰囲気を楽しみつつ、旧友である緑谷君と共に仕出し弁当をつついていた。
「飯田君、今日は本当にありがとう」
「なに、お安い御用さ。いつでも呼んでくれ」
今日は雄英の学生に対して実技指導を行うため、授業協力に来ていた。
昼食は久しぶりに母校の学食を嗜みたい気持ちもあったが、プロヒーローがいると質問攻めにされやすい。
満足に食事が取れないことも度々ある。それを慮っての仕出し弁当だろう。
「先日の祝賀会から一カ月ほどか。雄英での君に会えて嬉しい」
率直な気持ちだ。
仕事で雄英を訪問させてもらう機会は久しぶりで、新鮮な気持ちだった。
後輩達の元気な姿を見て、自分も活力を貰ったように感じる。
轟君のチャート2位をお祝いした祝賀会が、つい先日のことのようだ。
食事をしながら、他愛のない話が続く。
お互いに話題は尽きない。仕事のこと。生活のこと。最近のヒーロー界隈のこと。
そんな、ありふれた話をしていたときだった。
「ああそうだ……あの……実は飯田君に、ちょっと相談したいことがあって……」
頬をかきながら、どこか照れくさそうにしている。
彼がこんなことを言い出すのは珍しい。
「なんだ? 遠慮はいらない。緑谷君の頼みなら、僕は何でも聞くぞ」
「頼み……というか、相談というか……」
あはは、と乾いた笑いを零しながら、なかなか本題が出てこない。
「僕でよければ、どんな相談でも聞こう。だが話したくないなら、話さなくても構わない。緑谷君の話したいタイミングで構わないさ」
任せてくれ、と胸を張る。無用な詮索もしない。
緑谷君の力になりたいのは、偽らざる本心だった。
「えっと……この間、祝賀会あったよね。ほとんど同窓会だったけど。轟君のお祝いした」
「ああ。久々に皆に会えて、とても楽しかった」
「それで、その……お開きになった、あの後なんだけど……」
緑谷君の顔がどんどん真っ赤に染まっていく。
「その……麗日さんと……二次会に、行きまして……」
「そうだったのか? 知らなかった」
「あ、あああのあの! ごめんね、飯田君も誘えば良かったかもしれないんだけど、でもタイミングが悪かったというか、今更みんなを呼び戻すのは憚られたというか。あの日僕全然麗日さんとは話せてなかったから、少しくらい話ておきたいなって思って、ほんとちょっとでよかったんだけど! あの、決して皆を忘れてたわけでもなくって、飯田君も居てくれて全然良かったんだけど、その、ごめんね! ちょっと話に夢中になってたら、もう改めて呼ぶ時間でもなくって、悪いなって思ってたんだけど! でも久々に麗日さんと話してたら、時間がすぐ経っちゃって、気が付いたらもう終電間際で、ええっと、ほんとごめんね!?」
両手をわたわたとさせながら、必死に説明してくれる。
なんだか微笑ましい気持ちになった。
「僕のことは構わない。今日も話せているし、全然気にしないでくれ」
「あ、ありがとう……でもやっぱり、ごめんね」
手元のお茶に手を伸ばし、一口飲む。
緑谷君も同様にお茶を啜り、一息ついた。
少しは落ち着いてくれただろうか。
「それで、相談というのは?」
「その……えっと……あの日、祝賀会の前に、かっちゃんに言われたんだけど。みんな特別は、誰も特別じゃない、って」
「ああ、それはそうだな」
爆豪君は口調こそ悪いが、よく人を見ているし、芯をとらえた発言をする事がある。
「それで、なんかあの日、ずっとそれが残ってて。僕にとって、元A組のみんなは、本当にみんな特別なんだけど。でも、かっちゃんの言う事も一理あるかな、って思ったときに、僕ってA組の誰も特別じゃないのかな、とか考えちゃって……」
もじもじとしながら、俯いて言葉を続ける。
教員というより少年のようだ。あの頃と同じように。
「それで、その……僕にとって、一番特別なのって、誰なのかな、って思ったら、その……」
茹蛸のように赤くなった旧友は、蚊の鳴くような小さな声で続けた。
「……麗日さん、が……一番、特別なのかな……って、思って……」
彼はこちらを見ていない。ずっと俯いている。
誰の顔も見れないほど恥ずかしいのだと、愚鈍な自分でも分かる。
勇気を振り絞って話してくれたのだ。
「そうか。君は麗日君が……」
在学中から、もしかして、という気はしていた。二人はとても親しかったから。
きっと他の皆も薄々感付いていただろう。
だが、人の恋路に踏み込むのは無粋な気がして、自分からは触れなかった。
「いいことじゃないか。もし君たち二人が結ばれたなら、僕は友人として、心から喜ばしい」
「そ、そう……?」
「ああ、もちろんだ」
偽りのない本心だった。
自分から見てもお似合いの二人。
もし二人が交際を始め、うまくいけば。
いずれ結婚式が挙行されるのではなかろうか。
そうなれば、何としても参列させてもらいたいと思う。
仕事の予定を調整し、急なヴィラン犯罪でキャンセルする事の無いよう、サイドキックやチームアップを検討し、万全の準備を整えなければ。
服装も大事だ。二人の門出に相応しいよう、一番いい礼服を買おう。
ネクタイや靴も最高の物を揃えねばならない。
いや待て、結婚式であれば、誰よりも新郎を立てる必要がある。
あまり気合を入れ過ぎて、過度に目立ってはいけない、程度が大事だろう。
買う時は店員さんによく相談しなければ。
披露宴はどのような形式になるだろうか。
許されるなら参列者の方々に、新郎新婦の紹介をする機会をもらえないだろうか。
二人がどれだけ素晴らしい人間か、親友として伝えずにはいられない。
スピーチの他に、余興も必要だろう。
どのようなものがいいだろうか。
最後には元A組の皆と、緑谷君を胴上げしてあげたい。
……と、そこまで考えたところで、気が早すぎる事に気付いた。
二人はまだ付き合ってもいないんだ。
まだまだ先の話だ、いま考えても仕方ない。
それでも、想像するだけで、とても楽しく、幸福な気持ちになる。
もし実現すれば、それはもう、自分にとっても最高の一日になるだろう。
「いい事じゃないか、恥ずかしがることはない。応援するよ」
爆豪君も実にいいアシストをしたものだ。
今度個人的に感謝を伝えたい。
だが、そこでふと疑問が沸いた。
彼の悩みは何だ?
「では、二次会で麗日君と話せたのは僥倖だったんじゃないか。悩む必要がどこにあるんだ?」
「そうなんだけど、その後が……実は、そうでもなくて」
「何かあったのか?」
「その……」
緑谷君が消沈し、言い淀む。
もしかしてケンカでもしたのだろうか?
だが、緑谷君と麗日君の人となりを知る自分としては、この二人が短時間でケンカをするとも思えない。
「実は……麗日さんと、次に逢う約束……し忘れちゃって」
そういうと、彼は叱られた子犬のように項垂れた。
確かに約束が無ければ、次に逢えるのはいつになるか分からない。
「つまり、次に逢う約束を取り付け、麗日君と付き合いたい、という事だな」
「そ、そのっ! 付き合いたい、とまで言っちゃうと、大袈裟なんだけど。でも、もっと仲良くなれたらな、って……思っ……ちゃったりして。でも、約束してないから、どうしようかな、って……」
「とりあえず、逢って話ができればいいのだろう? ならば、普通に呼び出してみてはどうだろうか?」
「それだよ飯田君! 普通って何!? 普通が分からないんだよ!? 普通の呼び出しってどうやるの!?」
「普通は普通だろう? たとえば……」
「たとえば!?」
……そこでふと、何も具体案が無いことに気が付いた。
たとえば? たとえば何と誘うか。
……遊びに行こう、とか?
無難だが、よく考えたら、付き合ってもいない異性に、この誘い方はあまりしない気がする。
異性を誘うなら、やはりデートか?
いや待て、男女で遊ぶのがデートという言葉の定義ではないのか?
ならば遊びに行こう、というのは、デートしよう、と同じか。
いきなりそれはハードルが高そうだ。
やはり呼び出すには口実、理由がほしい。
休日一緒に遊ぼう?
元クラスメイトという繋がりはあるから、出来ない話ではない。
だが、そもそも個性カウンセリングなどで忙しい『ウラビティ』を、ただ遊びに行こうと呼び出すのも憚られるのではないか。
世間は休日でも、『ウラビティ』が休日とは限らない。
そもそもヒーローは休日の方が仕事が増える傾向にある。
……では仕事を口実にしてはどうだろうか。
いやダメだ、それでは仕事の話になってしまう。
緑谷君が望んでいるのは、仲を進展させるための会話だろう。仕事以外で逢いたい。
そもそも本当に仕事があればまだしも、架空の仕事をでっち上げるわけにもいかない。
「うーーーん……」
解釈を広げるべきか。
逢うのはあくまで手段と考えれば、目的は仲良くなることだと言い換えることが出来る。
麗日君と仲良くなる方法。
広義な表現をすれば、女性と仲良くなる方法……
無難にプレゼントだろうか?
だが何も理由なくただ物を贈るのも不自然ではなかろうか。
そうなると誕生日かクリスマスといった記念日を待たなければいけなくなってしまう。
だが付き合ってもいない異性から、そんな日にいきなりプレゼントなどされても驚いてしまう。
「う~~~~む……」
よく考えたら、自分も特定の女性と恋仲になった事はない。
どうすれば女性と仲が深められるかなど、自分がまず学んだほうがいいのではないか。
今すぐレシプロターボで書店に走り、恋愛指南について綴られた書籍を探すべきではないか。
「……すまない緑谷君。普通に誘えと言ってなんだが、これは難しい問題だな」
「でしょ? ……どうすればいいのか、全然分からなくて」
緑谷君ががっくりと肩を落とす。
……情けない。友人の役に立ちたいというのに。
何かいい方法が無いだろうか。
「ごめんね飯田君、変な相談して」
「いや、そんな事は無い。むしろ僕が不甲斐なくて、申し訳ないばかりだ」
「……はぁ。なんでこんな歳まで何もしなかったかな……」
「年齢は関係ないだろう。特に君達の場合は、状況が過酷だったじゃないか」
そう。何よりあの頃は大変な時期だった。
歴史的な戦い、そこからの復興。
多くの建物が瓦礫と化し、避難民で溢れかえっていた。
恋をしても、その想いを伝えるのは憚られたし、成就したとしても、出かける先もない。
この二人に限らず、全国的にそういう風潮だった。
被害の無い地域でも、結婚式場などは廃業するところが多かったと聞く。
ましてやヒーローともなれば、自分の幸福の前にまず人助けが優先される。
もちろんあの頃に結ばれた人も多いだろうが、時期を待った人も多いだろう。
二人が八年間も想いを秘めていたのは、二人の性格もあるだろうが、時勢的に仕方ない部分もあったように思う。
緑谷君も、自分の気持ちを自覚したのは最近のようだが、それだって、恋愛のことなど考えている暇がなかったせいなのではないか。
「今は具体策が出せなくて申し訳ないが、いい方法を思い付いたら、すぐに連絡させてもらうよ」
「うん。ありがとう、飯田君」
お弁当を食べながら、思考を巡らせる。
いったいどうすれば、緑谷君と麗日君の仲を進展させられるのか。
ふと、目の前の親友の顔が、これまで助けてきた人達と重なった。
親とはぐれた迷子、道に迷ったお年寄り、大事な落とし物を探している人。
そうだ、自分はよく知っている。
程度の差はあるし、悩みの種類は異なっていても。
これは、助けを求めている人の顔だ。
―――― to be continued