最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.441 麗日お茶子・ドレスアップ

※SIDE 麗日

 

 

今日は一ヶ月ぶりの女子会の日だった。

電車を降りながら、先日の女子会を思い出す。

 

「……今日は皆に謝らんとなあ」

 

まさか、自分があんなに大泣きするとは思っていなかった。

 

 

デク君と、私じゃない、誰かの結婚式。

その招待状が手元に届く。

想像しただけで胸が張り裂けるほど痛んで、耐えられなかった。

 

まだそんな悪夢のような郵便物は届いていない。

だから泣く必要なんてなかった。

折角の楽しい女子会を、私のせいでお通夜状態にしてしまった。

もっと心を強く持たないと。

ちゃんと謝って、それから、今日は旅行の話をしよう。

 

何着ていこう、どこを見て回ろう、お風呂は気持ちいいかな……

そんな話をするだけでも、きっと楽しい事だろう。

 

 

「お茶子さん、来ましたわね」

駅の改札をくぐると、既にみんなが揃っていた。

だが、何か普段と様子が違う。

 

五人とも腕を組み、あるいは腰に手を当て、肩幅に足を開いて立っている。

その眼は炎が宿ったかのように力強く、これからヴィランとの決戦に向かうかのような気迫に満ちている。

威風堂々という言葉がピッタリな仁王立ちで、人数もあって特撮の戦隊ヒーローのようだ。

 

雰囲気に一瞬気圧されたものの、すぐに近寄って声をかける。

 

 

「みんな先に来てたんだ。でもお店じゃなくて駅で待ってるなんて。あの、この前はごめんね。私、ちょっと取り乱しちゃって」

「全く気にしていません、そんな話はどうでもいいですわ。すぐ行きますわよ」

「へ?」

「お茶子ちゃん、今日はご飯は後よ!」

「まずは服を買いに行こう! こっち!」

みんな、本当にどうでもいい、という感じだ。

先日の事は許してくれたのだろうか。

 

 

手を引かれ、ずんずんと早足で進む友人達と、歩調を合わせて進む。

服を買うのは構わないけど、みんなの気迫が凄い。

「え? ねえ、服はいいんだけど、なんで急に?」

「ご飯屋さんは遅くまでやっていても、服とかのお店は閉まっちゃうでしょ」

「時間との勝負です。服の次は靴、できればベルトや鞄もそれ専用のお店で探したいですわ。それから化粧品類」

「え、そんなに? 服だけじゃないの? 夕方だよ? 今から?」

「今しかないじゃん!」

 

 

特売セールでもやってるのかな? 平日のこんな時間に?

「みんな、ほしい服があるの?」

「何言ってるの、麗日の服だよ」

「私の?」

「他に誰もいないでしょ」

「え? 待って、なんで急に? そんな話してなかったやん」

「してなかったっけ?」

「そういえば麗日さんには連絡が漏れていたかもしれません」

「まあいいじゃん、とにかく服買いに行こう!」

 

 

訳も分からないまま、デパートの一角に到着する。

即座に散開して、わき目も振らず服をあさり始める友人達。

示し合わせたかのように統率の取れた動きだ。

 

とりあえず近くの響香ちゃんに近づく。

「あの……分かんないんだけど、なんで急に私の服なんて? もしかして前回の女子会で取り乱しちゃったから、かな……ほんとに、ごめんね」

「ああ、そういうのじゃないから。全然気にしないで」

 

 

こちらには眼もくれず、真顔で一心不乱にハンガーをずらして、服をチェックしている。

怒っているようではない。

ただ、何故そうしているのかが分からない。

「とりあえず麗日、このパンツどうかな」

響香ちゃんに薄いベージュのパンツを渡され、腰のあたりにあてがわれる。

 

困惑しつつ試着室に向かわされる。他のみんなも続々と服を持ってきた。

「……パンツスタイル、似合ってはいるけど」

「緑谷ちゃんの趣味かしら?」

「どうだろう。もっと締めて足のライン出る方がいいかな?」

「でも男受けいいのはスカートだよ? 緑谷君はどっち派?」

 

急にデク君の名前が出て、どきっ、としてしまう。

「デ、デク君は関係無いんじゃないかな?」

「あるに決まってるでしょ。次、このスカート試して」

「この上着とベルトも合うんじゃないかな。ちょっとこれも着てみて」

「こっちのワンピースもいいと思うわ」

「あっちに帽子あったけど、いる?」

「迷うより先に持ってこよう」

 

 

次々と渡される服の山。

着せ替え人形にでもされたような気分だ。

 

「ねえ、なんで急にこんなに? 私何も分からないんだけど」

「麗日お願い、時間無いから。とりあえず早く試着して?」

「お茶子ちゃん、分かんなくてもいいから、早く着ましょう?」

「なんで? なんで皆そんなに必死なん? 今度の旅行のため? 一緒に温泉行くだけだよ?」

「ああもうっ! いいから早く着なさい、時間がありませんのよ!?」

「はっ、はいいぃ!?」

百ちゃんの勢いに押されて、更衣室のカーテンを閉める。

……なんであんなに必死なんだろう?

 

 

何度も着替えを繰り返し、皆の前に現れる。

その度に新しい服が渡され、回収され、眼が回る忙しさだ。

 

私だって女の子だ。

こうしてお店で新しい服を手にして、袖を通すのを楽しく感じる気持ちは人並みにある。

けれども今は、その楽しさを感じている余裕は全く無い。

新しい服を買うのを楽しんでる、という空気ではないのだ。

何故かみんな、災害時の救援物資調達をしているような、緊迫した空気を纏っている。

 

「これダメだね、こっちの方がいい」

「これも違うね、返してくる」

「合うっちゃ合うけど、どういう系がいいかな」

「でもお茶子童顔だし、やっぱ下はパンツよりスカートの方がよくない?」

「あ、分かる。カッコいい女より、可愛い女目指した方が合いそう」

「そうなるとスカートだね。ロングでいいよね?」

「うん、今回短いのはいらない」

「そうだね、様子見て長さ調節すればいいし」

「上の方で止めて、こうすると……うん、いいね。足長く見える」

 

 

なんで皆こんなに真剣なんだろう?

原因として思い当たるのは、やはり前回の女子会でやらかした大号泣だけだ。

でもそれは違うと言われているし、そもそも泣いたから服買うっていうのも違う気がする。

訳が分からない。

 

「ワンピースどう? ありじゃない?」

「ありだと思う、違う色も持ってきて」

目まぐるしく服が渡され、皆も慌ただしく動いている。

まるでファッションショーのモデルでもしているみたいだ。

 

 

「このあたり、だいぶ良いと思うんだけど……」

「合わせてもまた変わるし、選ぶの難しいよね……」

「バッグとの色の合い方とかも考えたいし、ちょっと今すぐ決めるのは厳しいわ」

「皆さん、19時を過ぎました。もう時間がありません」

いつの間にか凄い時間が経っていた。

 

「ここで絞るのは無理だね、とりあえず良さそうなの全部買おう! 後で家で着てからLINKで写真送ってもらって、それで判断していこう」

「そうね。当日の天気とか気温でも、コーデ変わるし。選択肢あった方がいいよね」

「じゃあ、とりあえずこれ全部会計してくるね!」

 

 

みんなのやり取りに驚愕した。

目の前にある服の山は一着や二着ではない。

「ちょっと待って、全部!? そんな、すごい金額になるよ! そ、そんなお金持ってないよ!?」

「お金は気にしないで、スポンサー付いてくれてるから」

「スポンサーって何!? 百ちゃんのこと!? そんな奢ってもらう訳にいかんよ!?」

「いいから、いいから」

 

制止も聞かず、葉隠さんに服を纏めて持っていかれてしまう。

「いや、ちょっと、ほんと待って!? そんなに買ってもらうワケにいかな」

「あーーーーーっ! ヤバイ! 忘れてた!」

突然、隣で響香ちゃんが叫んだ。

「なに響香ちゃん、どうしたの!?」

「服で思い出した! ウチら、アレのこと全然考えてなかった!」

「アレって何ですの?」

 

「 勝 負 下 着 ! ! 」

 

 

「なあぁっっっっ!?」

響香ちゃんの口から、とんでもない単語が飛び出してきた。

 

「響香ちゃん!? こんなところで何言ってるの!?」

周囲の眼が気になって、キョロキョロしてしまう。

いまの発言が他所の誰かに聞かれてはいないかと思うと心配で仕方がない。

 

「なんてこと! 私としたことが、痛恨のミスですわ! こんな大事なことを忘れていたなんて!」

「一大事だわ、当日になって気付くなんて!」

「百ちゃん!? 梅雨ちゃん!?」

 

 

「ナイス耳郎ちゃん、私も完璧に忘れてた! 今ならまだ店開いてるよね。ちょっと待って、すぐ調べるから!」

三奈ちゃんがサッとスマホを取り出して検索を始める。

 

「お茶子ちゃん、恥ずかしがらずに教えて。勝負下着、どんなの持ってる?」

「ええええ!? な、つ、梅雨ちゃん!? な、ななな、そんな、そんな、しょしょしょっ」

全く予想外の質問に、顔が真っ赤になっていくのが分かる。

 

梅雨ちゃんは真剣な表情で聞いてくるが、勝負下着だなんて、そんなモノあるわけない。

私はずっとデク君一筋で、彼氏なんて居たことが無い。

当然、勝負下着なんて必要無いわけで。

持ってるかと聞かれても、まずどういうモノが勝負下着に該当するのか、それすらもよく分からない。

 

 

「この反応は一つも持って無いヤツだよ! マジでやばいよ!」

「響香ちゃん、ヤバイって何が!?」

「大丈夫、近くに店あった! でも今日は20時閉店、今すぐ行くよ!」

「一番最初に気付くべきだったね。ほらお茶子、勝負下着買いに行くよ!」

「ちょっと待って!? そもそも勝負下着って何!? まだ袋開けてない綺麗なヤツならちゃんとあるよ、デパートで買ったやつがちゃんと」

「お茶子ちゃん、それは勝負下着じゃないわ」

キリっとした梅雨ちゃんにバッサリ否定される。

 

 

「違うの!? じゃあ勝負下着って何!?」

「勝負下着ってのはね、男がめっちゃ喜んで、理性が飛んでケダモノになっちゃう、えっちのための下着のことよ!」

「はああああああぁぁぁっっっ!?」

何となくそうかも、と予想はしていたが、三奈ちゃんの表現があまりに火の玉ストレートすぎる。

 

「子連れで行けるお店に売ってるような豆鉄砲で、緑谷の理性を崩せるわけないでしょ!?」

「緑谷さんの理性は戦車並みの重装甲でしてよ! 大砲が必要ですわ! 対戦車ミサイルかロケットランチャー並みの火力が無くては!」

「ほら、分かったら行くよ!」

 

ぐいぐいと手を引かれていく。

会計に行っていた葉隠さんも合流して、行先変更に即座に納得している。

 

「待って!? なんも分からんって!?」

「いいからすぐ動く! こんな問答してる時間も惜しいんだから!」

「待って、待って!? 私、勝負下着なんて、そんなのいらんて!」

 

「「「「「 い る に 決 ま っ て る で し ょ ! ! 」」」」」

 

 

駄々をこねる要救助者を一喝するように、五人同時に声が揃った。

「一番重要じゃない!」

「いやいやいやいや、だって! 勝負下着って、そんなん何に使うんよ!?」

 

「緑谷君を落として、えっちするために使うに決まってるでしょ」

「えっちする時に興奮してもらわなかったら、どうすんのよ」

「殿方とえっちするためには必要不可欠でしょう?」

「緑谷みたいなタイプは、攻めすぎなくらい攻めないと、えっちに持ち込めないって」

「お茶子ちゃんは、緑谷ちゃんと、えっちしたくないの?」

「みんな、人のいる往来でその単語使うのやめよう!?」

 

 

手を引かれて歩くが、どこへ連れていかれてしまうのか、誘拐されるような不安が襲う。

「待って、待って、ほんとに待って!? なんで!?」

「理由は説明したでしょ」

「いやだから全然分からな」

「いいから! 説明なんか後、さっさと歩く!」

「想定外の事態ですわ、一刻を争います!」

 

 

あれよあれよという間に店に着く。

 

【18歳未満お断り】の紙が貼られた妖しい外観の店舗に、全く躊躇いなく入っていく友人達。

手を引かれるまま店内に連れ入れられる。

暖色系の照明と艶黒い壁紙が、アダルティな店内を演出していた。

 

店中に並ぶ、初めて見る下着の山。

そのどれもが見たことも無いデザインで、端的に言えば刺激が強い。

子供も通りがかる、デパートの下着売り場に陳列することは避けたい商品であることは一目で分かる。

 

店の奥には下着の他にも、生地の薄い……コスプレ衣装だろうか、セーラー服やナース服みたいなモノが並んでいる。

更にその奥には衣服ではない、何か小物を入れているであろう箱が陳列されていたが、それが何かを考える前に顔を背けた。

 

 

「ほら探すよ。麗日、スリーサイズ教えて?」

「そ、そんなん、いきなり……い、いくつやったかなあ?」

覚えてはいるが、すっとぼけるしかない。

みんなの気が変わって帰ることを祈るばかりだ。

 

「問題ありません、サイズはこちらの紙に控えてあります。皆さんこのサイズで着れるものを探してください」

百ちゃんが紙を取り出した。

BWHのアルファベットと数値、更にはカップ数まで書かれている。

間違いなく私のサイズだった。

 

「合ってるぅ!? 百ちゃん、なんで知っとるんよ!」

「細かいこと気にしなくていいから、早くお茶子も探して」

「待って!? 絶対おかしいって、なんで私のサイズが」

「あーはいはい。この前、麗日に聞いたじゃん」

「響香ちゃん、私、自分のスリーサイズなんて話したことないよ!?」

「酔ってて忘れたんでしょ」

「ヒーローはお酒飲まへん!」

 

 

わけが分からない。

でも誰も説明してくれない。

私の制止も疑問もどこ吹く風、全く聞き入れてくれない。

皆、卑猥な下着が並ぶ売り場をズンズン進み、ぱっぱと下着を手に取っていく。

 

「麗日、これはどう?」

「え……ええええ、スケスケぇぇ!?」

渡されて反射的に持ってしまったが、布が透けている。

手にした指の色も輪郭もくっきりだ。

こんなの着たら大事なところが丸見えになっちゃう。

 

「こっちとかどう?」

「布めっちゃ小さい!?こんなん紐やん、何も隠せないよ!?」

 

「パンドルショーツは?特別感はかなりあると思うけど」

「何これ!? ふんどし!? どうやって穿くの!?」

 

「こっちのショーツはどう? 穴空いてるけど。流石に攻めすぎ?」

「ひゃああああああああああ!? なにこれ無理無理無理無理!」

 

 

見ているだけで恥ずかしい。顔から火が出そうになる。

「ちょっと待って!? こんなん持ってきて、何でみんな平気なんよ!?」

「必要なことだから」

「救助活動中に恥ずかしいとか言ってる人いないでしょ。同じよ」

「実際似たようなもんだしね」

「訳わからんよ!?」

 

スーパーで野菜や魚でも見繕うような顔で、直視もできない下着を漁る友人達。

次々と渡されたブツを抱えたまま、頭を抱えてしまう。

「……何でみんな平気なん? 救助活動って何なん? みんな持ってるん? 持ってるのが普通なん? 何に使うん? 今までそんな話全然しなかったやん? 何やこれ、私がおかしいんか?」

あまりの状況に頭が混乱する。

 

店内で大騒ぎをしてしまっている自覚もあるが、他にお客さんも見当たらず、店員も我関せずだ。

 

 

「これはどう? 黒だからエロい感じ出ると思うけど、これじゃ普通すぎる?」

 

「ブラどうする? フロントで紐結ぶタイプだと、解いてもらえるとこ見えるよ」

 

「Tバックは? ベタすぎるかな」

 

「麗日タイツ好きだし、網タイツとかガーター付けてみたら?」

 

これまでの人生で一度も見たことがない、卑猥な下着がぽいぽいと渡される。

両手に大量の下着を持たされ、あまりの羞恥に卒倒しそうになる。

 

 

「待って、これ本当にどういう状況!?」

「いいから。お茶子ちゃん、どれがいいかしら?」

「麗日さん、好みとかあります?」

「もしくは緑谷の好みは?」

「初えっち、どう進めたい?」

「分からん! 分からん! 分からへんて!」

 

 

どうしてこんな場所にいるのか、何が起こっているのか。

選ぶどころじゃない、頭が混乱し過ぎておかしくなりそうだ。

 

「どうする? お茶子こんなんだし、決められないでしょ。さっきみたいにもう全部買っとく?」

「時間無いし、全部買って、家で試してもらおうっか」

「やめてえええぇぇぇ! こんなん持って帰れへんよ!」

とんでもない提案がされる。断固拒否だ。

家にこんな下着が大量にあったら、羞恥でおかしくなってしまう。

誰にも見られないのだとしても、自宅にこんなものを置いておけない。

 

 

「みんな今日どうしたん!? 何でこんな事になっとるん!? こんなんどれも買われへん! 買われへんよぉ!」

あまりの恥ずかしさに涙が零れてきた。

店の中だというのに座り込んでしまう。

そんな私の有様に呆れたのか、皆は少しトーンダウンしてくれた。

 

「……お茶子ちゃん、信じて。私達は、悪ふざけでこんな事をしているわけではないわ。私達みんな真剣なのよ」

梅雨ちゃんが優しく諭してくれる。

真剣なのは分かる、正直ドン引きするほどに。

みんな、からかっているようには微塵も見えない。

むしろ本当に災害救助でもしているかのような、必要な事だけに特化した動きをするときの、切迫した緊張感がある。

 

 

だからこそ意味が分からない。

何でみんな、こんな必死になって、私の勝負下着なんて選んでるのか。

 

「……麗日、よく考えて」

三奈ちゃんが私に目線を合わせて、肩に手を置いてくれた。

その手は優しいが、また一段と際どいブツが握られているのが怖い。

ホタテ貝のようなデザインがされたコレは何なんだろうか。

 

「もし。もしもだよ。将来、緑谷とそういう関係になれたら、どうする?」

「ど……どうするって……何が……」

「見せる下着、何でもいい?」

「何でもって……わけじゃない……と思うけど……」

 

 

瞳の奥を覗き込むような、まっすぐな視線で、告げられた。

 

「ガッカリされてもいいの? キレイだねって、褒めてもらいたくないの?」

 

「――――っっっっっ!」

胸を拳銃で撃たれたような、凄まじい衝撃が襲った。

 

好きな人に肌を見せて、ガッカリされるなんて、死んでも嫌だ。

女としてこれほどの悲劇はない。

叶うことなら、キレイだねって褒められたい。

女性として当たり前すぎる願望。

 

 

反射的に、デク君の顔が脳裏に浮かんだ。

 

「うぅぅぅ……」

こんな下着、見るのも恥ずかしい。

選ぶなんてとても出来ない。

着るなんて以ての外だ。

 

……それでも。

 

ガッカリされるのだけは嫌だ。それだけは絶対に嫌だ。

 

褒めてもらいたい。喜んでほしい。

心の底から湧いてくる想いがあった。

 

 

「麗日ごめんね。無理させてる自覚はあるんだ。でもね、一つも無いと、いざって時に困るよ?」

「一つも持ってないんでしょ? 全部買うのが無理なら、一個だけ選ぼう?」

「私ら奢るからさ。一個だけ。選んでみようよ」

「……一個だけ?」

「そう、一個だけ。お茶子が一番キレイになれるやつ、探そ?」

 

一番キレイに……それなら探せるかもしれない。

えっちなのは無理だけど、キレイになれるものなら。

 

「レジ行かなくていいから。奢りだからこっちが買ってくるし、決まったらすぐ店出ればいいから」

 

なんでみんな、こんなに親切なのか。

親切すぎて、ほとんど有難迷惑だけど……

疑問は尽きないが、とにかく一個だけ選ぼうという気持ちにはなった。

 

 

「ぅぅ……」

みんなが持ってきてくれた下着の山。

正直この中から選ぶのはハードルが高すぎる。

もうちょっと、普通の、自分でもギリギリ着られるものを選びたい。

 

「ちょっと……探す……」

眩暈を覚えつつ、フラフラとした足取りで立ち上がり、並んだ下着を見ていく。

 

透けているのはダメ。

布が少なくて紐みたいのもダメ。

穴が開いてるなんて論外だ。

 

 

デク君の顔を思い出す。

 

私だって女の子だ。

好きな人に喜んでほしい、褒めてもらいたいという気持ちはある。

 

でも……どうしても、恥ずかしい気持ちだって、ちゃんとあるわけで。

 

いざそういう関係になれたとしても……恥ずかしいものは、恥ずかしい。

最後まで、隠すところは隠していたい。

 

 

ちゃんと隠せるやつ。

それでいて可愛いやつ。

いつもよりキレイになれるやつ。

 

店内に直視できない下着が並ぶ。

それでも何とか自分が着れそうなものを探す。

 

みんなこんなの着てるんだろうか。

百ちゃんとか背も高くてスタイルいいし、どれも似合いそう。

梅雨ちゃんは持ってるのかな。

恥ずかしがってる私がおかしいんだろうか。

 

 

そんな事を考えながら見ていたときに、ふと、視線が止まった。

 

ブラとショーツのセット。色は白。

布面積もちゃんと大きく、普通の下着と変わらない。

花柄の装飾が多めにされており、可愛い部類に入る気がする。

 

特徴的なのは、ブラの下から腰のあたりまで、透けたレースの布が垂れ下がっていること。

まるで小さなワンピースだ。

 

お腹の部分はレースで透けるが、本来そこは普通の下着でも隠されようがない。

局部が透けたり全体的に細くなったりすることに比べれば、真逆のアプローチ。

レースの布がある分、普段着ているものよりも、布面積の総量は増えているといえる。

ちょっとショーツの横が紐で結ぶ形なのと、股下から後ろ側が若干細すぎる気もするが……まあ、そこはまだ妥協できる。

 

 

とにかく布面積が増えるのはありがたい。

喜んでほしいと思うが、やっぱりどうしても恥ずかしい。

普通の下着姿より隠せる部分が増えるなら、その方がいいのでは。

 

これでいいのか迷うが……まだ他に比べて、過激さが抑えられている気がする。

総評して、今選べる中では一番まともな気がした。

 

「お茶子ちゃん、それにする?」

「……うん」

「レース付きだね。可愛いくていいじゃん」

「大砲というには、いささか火力不足かと思われますが……」

「でも逆に、緑谷ってエロに突っ切るより、こういう可愛い系の方が喜びそうじゃない?」

「それもそうですわね……火砲ではなく電子兵装というわけですか」

よく分からない評価だけど、みんなも概ね好意的なようだ。

 

 

「試着どうする?」

「聞いてみよっか」

そのとき、閉店を告げる音楽が、店内に流れ始めた。

 

「流石に今から試着は無理だね」

「買わない選択肢だけは無いよ、いったんコレにしよう?」

「そうだね。じゃあ、これ買ってくるよ」

「いや、そんな……お金……」

「気にしないでって。まだこれから靴見なきゃいけないんだから、すぐ行って。私も会計済ませたら向かうから」

 

 

そういって、響香ちゃんが下着を持ってカウンターに向かってしまう。

 

何で平気な顔してるんだろうか。

買うのが恥ずかしくないのだろうか。

そういえばスポンサーって何だろうか。

 

放心して脱力している私の手を、百ちゃんが握ってくれた。

 

「百ちゃん……」

力なく、百ちゃんの方に顔を向けた。

百ちゃんは優しく、けれども力強く、口にした。

 

「靴屋さんの閉店時間が迫っています、すぐに参りましょう。その後は化粧品です」

 

 

――――時は過ぎ、23時。

 

長い買い物を終え、居酒屋で遅い夕飯にありついていた。

食事は出され、お腹も空いているが、気が疲れすぎて正直もう食欲も無い。

 

「後ほどタクシーを手配します。麗日さんのご自宅に、荷物を運び込むのもお手伝いしますわ」

 

傍らには、まるで業者の仕入れかと見紛うほどの、大量の荷物があった。

デパートで買った大量の服に、何足もの靴。更に化粧水をはじめ大量の化粧品類。ハンドバッグもいくつもある。

その中には、羞恥にまみれて買った一着も含まれている。

 

 

「香水だけ間に合わなかったけど、どうする? なくてもいい?」

「私がCMで起用された時に頂いた試供品がありますわ。明日朝一で、全部事務所にお届けします。使うかどうかは、実際に試して頂いて、それから後で判断しましょう」

 

「ねえ……なんで……こんなことに……」

私の疑問は晴れないままだ。

「今度の旅行、緑谷君も来るでしょ」

「しっかり綺麗になって、アピールしよ?」

「私ら集まれるの、この女子会だけだしさ。今日、いきなり連れ回してごめんね」

 

「みんな……」

みんなの心遣いに泣きそうになる。

やっぱり前回の大号泣が影響していたんだ。それしか考えられない。

 

「みんな、この前、ごめんね……ありがとう……」

「いいってことよ! しっかりアピって、更に向こうへ! Plus Ultra! ってね!」

葉隠さんの服が、明るい声と共に動いた。

 

 

「うん、頑張る……お金、ちゃんと返すから」

「あ、お金はマジでいらない。気持ちだけ受け取っとくよ、返される方が面倒だから」

「でも響香ちゃん……」

「お茶子ちゃん。そう思うなら、あなたが緑谷ちゃんと上手くいくように頑張るのよ」

「そうですわ。また明日以降に試着して、写真を送ってくださいまし。数があるから大変でしてよ」

「ほら、もう遅いし。ご飯食べて、早く帰ろう?」

「うん……ありがとう」

 

戦場を渡り歩いたような買い物の後で、気疲れは残っていたけど。

少しだけ食欲が戻っていた。

 

 

―――― to be continued

 

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