最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 緑谷
待ち合わせ場所に到着すると、轟君、飯田君、切島君、心操君の姿が見えた。
既にみんな来ていたようだ。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「いや、まだ時間前だ。間に合っているよ」
「それにしても、みんなどうしたの? 旅行の買い出しなんて」
「服だよ服。温泉地だしさ、いっちょ気分の上がる、男らしいヤツをさ」
「緑谷はどんな格好で行こうと思ってるんだ?」
服か。なら僕はみんなの買い物に付き沿う形になるかもしれない。
正直服には困っていなかった。
「服なら、このTシャツ気に入ってるし、これ着ていこうかな、って。あとサンダルで」
そういって今着ている『ひしょち』と書かれたTシャツを見せた。
涼し気でいいと思っている、自慢の品だ。
行くのは温泉地だし、ちょうどいいだろう。
みんな驚いた顔をしている。
こんなにピッタリのTシャツがあるとは知らなかったのかもしれない。
「……あっぶねえ」
切島君が遠くの方を向いて、何か恐怖したような顔をした。
「どうしたの? 誰か危ない人でもいた? 走って転びそうになった子供とか?」
「あ? あ……ああ、そうだな。盛大に事故りそうになってるヤツがいた。虫取り少年が特撮の怪人と鉢合わせするような……まあ大事故はたったいま回避出来た……はずだ。大丈夫だ。気にすんな」
「よく見てるね、さすが烈怒頼雄斗」
「ところで……緑谷、お前の趣味を責める気はねえんだが」
ごほん、と轟君が咳払いをした。
「たまにはイケてる服っつうかさ、違う服を着てもいいんじゃねえか?」
「でも、旅行先って温泉地でしょ。こういうTシャツが合うと思うんだけど」
「まあ緑谷、そう言わずにさ。たまには男のオシャレってものをしてみようぜ」
「轟君、私服オシャレだと思うけど」
「お前の話だよ……」
「じ、実はだな緑谷……その、俺もいい年だからな。そろそろ異性にモテたいし、そのための服というのがほしいと思っている」
「心操君が!? チャートには表れてないけど、ナイトハイドは女性人気も高いのに、知らないの?」
「いや……その……俺自身には、あまり……」
何か凄く苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
よほど思い詰めているのだろうか。
「まあまあ、人気と実体は異なるもんだしさ。振り向いてほしい女は別にいるって察しろって」
確かに、切島君の言う通りかもしれない。
いくら人気があっても、気になる人がいるなら、その人に見てもらえなければ意味がない。
「俺もほら、そろそろ相手探せって親がうるさくてよ。いい機会だから服買おうかなって思ってさ。緑谷も気になる女の一人や二人いるんじゃねえの?」
そういわれて、ふと脳裏に麗日さんの姿が浮かんだ。
「あ……いや……僕は、その……ど、どうだったかな」
まだこの気持ちは、飯田君にしか話していない。
咄嗟に答えに詰まった。
「どうだったって、緑谷は気になる女、一人いるんだろ? うら」
「轟いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「あん? ――ぁ…………」
心操君の声に、突然轟君が押し黙った。
「え!? 心操君、いま轟君に洗脳かけた!?」
「かっ、か、かけるわけねえだろ!? 俺の個性は仕事にしか使わないんだよ!」
それもそうだ。心操君は一貫して、仕事にしか個性を使わない。
学生時代も訓練中にしか使わなかった。昔から続いている、鋼のように固い意志だ。
「でも轟君、なんか今、おか」
「おいおいおいおい轟! それに緑谷も! こんなところで話し込んでても埒あかねえぜ! とりあえず店入ろうぜ店! な!?」
切島君に肩を組まれ、轟君と一緒にバシバシ叩かれる。
とりあえず店に入ることにした。
「そういえば飯田君もカッコいい服がほしいの?」
「飯田はあれだ、ほら……飯田がそういう、デート着みたいな服選ぶの詳しいらしくて」
「なにっ!? あ、いや、ああ……そうだな、自覚は無いが、少々心得がある……気がする……」
「飯田君、真面目で誠実だし。インゲニウムの人気も高いもんね」
アドバイザーという事なら納得だった。
「でもそうなると、僕は特に買わなくてもいいかなあ」
「なにぃ!?」
「だって、デートする相手もいないし」
「何言ってんだ、これからするんだろ」
「え?」
轟君は真顔だが、僕はデートをする予定なんて無い。
そもそも何故そんなことを?
「そりゃ緑谷もそのうち彼女ができたらデートくらいするもんな。あと轟、ちょっと、考えて話そうぜ。な?」
「……そういえば、緑谷君は、誰か想い人などいないのか?」
「あ、えっと……」
飯田君は先日話したし、僕の事情を知っている。
気を遣って濁して伝えてくれているけど、麗日さんのことだとすぐ分かった。
「そうだぜ。お前だって気になる女の一人くらいいるだろ」
「ああ。文字通りデート着でも買うつもりで選んでみてはどうだろう?」
確かに、麗日さんと一緒に歩くのであれば、新しい服を買ってもいいかもしれない。
「じゃあ、ちょっとだけ……」
「俺ら奢るから、好きな服選べって」
心操君の言葉に驚き、目が丸くなった。
「ええ!? いいよそんな。むしろ僕はアーマーも皆に出資して貰っちゃった立場だし、僕に奢らせてよ。僕の服なんて無くてもいいから」
「いやいやいや! それはダメだ! 絶対にダメだ!」
「緑谷が真っ先に買え! 俺達なんかどうでもいいんだ!」
「そんなに!?」
「ああ。マジでだ。アーマーなんて過去のことは忘れようぜ、気にするな」
「いや、そんなわけにいかないよ!? あれとんでもない開発費が」
「いいんだよマジで。ほんといいから。一番出資したのは爆豪だし。とにかくお前が買わねえって選択肢は無しだ」
「まずお前が買え! とりあえず買えって! 金とか気にしなくていいから!」
「奢りが嫌なら自費でいい。とにかく緑谷君に服を買ってほしいんだ!」
みんな親切にも程がある。
やっぱり元A組の皆は特別だ。
背中を押されるような気分になりつつ、服を探していく。
新しい服か……
「うん、これとかいいんじゃない?」
Tシャツに『ゆあがり』と書かれている。温泉地にとても合いそうだ。
「いやそれはダメだ!」
「なんでこんなTシャツがこんな所に売ってるんだよ!?」
「本当にこういうの探すの得意だな君は!」
「え、ダメ? 温泉地にすごく合いそうなのに」
「虫取り少年が温泉小僧になっても変わんねえよ!」
「あっちはマッドサイエンティストが五人集まって知恵絞ってんだぞ!? わかってんのか!?」
「轟君、何の話!?」
「デートでも着れるような、カッコいい服を探すんだよ」
「せめてこっちの、無地の黒Tにしようぜ?」
切島君が、ごく普通のTシャツを手に取った。
「でもそれだと面白みがないかなって」
「いいんだよ、笑いとか取ったりしなくて!」
そうなのかな。ファッションなんだから、楽しんだ方が良いと思うんだけど。
でも、確かに『ゆあがり』じゃあ、カッコいいという感じではないかもしれない。
カッコいい感じというと、どういう服だろうか。
ハンガーにかけられたTシャツをめくっていき、目が留まる。
「じゃあ……こっちとかどう?」
これもTシャツだが、龍の刺繍が入っている。
やはりカッコいいというと、こういう感じになるんじゃないだろうか。
「いやだから何だよこの服!? どこにあったんだコレ!?」
「なんでこんな服があんの!? 何なのこの店!? こんな奇天烈なもの探したって滅多に置いてねえぞ!」
「どういう客層に向けて置いたのだろうな……」
刺繍の入ったTシャツが戻される。
「でもそうなると、カッコいい服って、どういう服なんだろう……」
そうして探しながら、『根性』と書かれたTシャツを見つけた。
「コレとか、カッコいいかな」
「お、根性か……案外アリかもしれねえな」
「いや、無いだろ。切島まで感化されんなって」
「この際ハッキリ言うが、緑谷君。文字入りは避けようか……」
「とりあえずあれだ、もういったん飯田が選ぼう! もう、そうしようぜ!」
「ああそうだな、そのための飯田だ」
「分かった。なら緑谷君、こっちはどうだ? 普通のポロシャツだが」
襟が付いている白いポロシャツを渡される。見た目にも涼しそうだ。
でもシンプルで少し寂しい印象を受ける。
「でもこういうのって飯田君の方が似合うんじゃない?」
「いやいいんだ、そういうオーダーなんだ。とにかく飯田のセンスに任せろって」
「パンツどうするよ?」
「ズボンなら、この短パンも楽そうでいいかな」
「いやだから緑谷、待てって。ラフすぎるんだよ」
「温泉地なら、ラフでいいんじゃない?」
「……そうなんだけど、そうじゃねえんだ。短パンじゃ上とも、たぶん隣とも合わねえんだよ」
苦虫を嚙み潰したような切島君。こんな表情はなかなか見ない。
しかしみんなファッションに詳しいんだと感心する。
自分は無頓着だから、分かる人は素直に尊敬してしまう。
「緑谷君。短パンより、こちらのスラックスの方がいいのではないか。スッとして見えるぞ」
飯田君が持ってきてくれたパンツを腰の辺りに当ててみる。
「う~ん、でもなあ……」
正直、自分に似合うかというと、自信が無い。
飯田君にはよく似合いそうだが。
「……なんか、僕のイメージじゃないような」
「いや、いいって! めっちゃ似合ってるって!」
「ほらお前この前の祝賀会、スーツで来てたじゃん!? あんときのお前めっちゃカッコよかったから! あんな感じにしようぜ!?」
「そんなに? ……でも、スーツなら普通にあるし」
「スーツじゃなくて私服な!? 私服でもスーツっぽく、こう、シンプルに纏めて、シュッとしよう!」
「そうそう! 緑谷おまえルックスいいんだから!」
「そんなお世辞いいよ。身の程は弁えてるよ」
苦笑する。気持ちは有難いが、僕はイケメンって柄じゃない。
悲しいかな、ここにいる四人の友人とは比べるまでもない。
「緑谷君、お世辞じゃなくて本当だ!」
「爆豪にも言われたろ、もっと自分を高く見積もろうぜ!?」
「緑谷のルックスが一番好みだって女、絶対いるって!」
「そんな人いるわけないじゃん」
「母ちゃん泣くようなこと言うんじゃねえ!」
「でも実際、僕にそんな浮いた話なんて、あったこと無いし」
「お前が気付いてねえだけで、あるんだよ! ずっとフワフワ浮きっぱなしの、桃色のヒ」
「轟いいいいぃぃぃぃぃ!」
「なんだ、――ぁ………」
心操君の声に、再び轟君が沈黙する。
「え!? 心操君、やっぱり轟君に洗脳かけたよね!?」
「だだだ、だからかけねえって! かけるわけねえだろ!? 俺の個性は仕事にしか使わないんだよ!」
「いやだって轟君が」
「まーったく轟は! 急に考え込んでどうしたんだ!? いい服でも見つけたか!?」
再び切島君がバシバシ叩いている。
「ん……いや、わりぃ」
「ねえ、いまのって洗脳解除じゃ」
「そんなわけねえだろ!? だいたい轟に洗脳かけてどうするんだ? こんな場所で。何もメリット無いだろ!?」
それもそうだ。
こんな場所でポリシーを破って轟君に洗脳をかけたって、なんの意味もない。
心操君も何の指示もしていない。
……じゃあやっぱり勘違いなのか?
どう見ても洗脳されてたように見えたんだけど。
「とにかく緑谷、お前にも浮いた話くらいあるだろ!? 思い出してみろよ!」
「そうだよ。緑谷って、大学行ってたろ? 教員免許取りに。バレンタインとかどうだったんだ? チョコとか貰えたんじゃねえの?」
「あ~、バレンタインか……確かにチョコ貰ったけど。でもあれ、絶対モテてるとかじゃないよ」
轟君の言葉に、大学のときの記憶が蘇る。
「何かあったのか?」
「なんか、みんなで計画してたのかな。朝から学校中でみんな凄い睨み合ってたんだよね。何してるんだろうと思ってたら、放課後になって、物凄い大勢の人から、一斉に凄い量のチョコ渡されて。いや、もちろん貰えたのは、すごく嬉しかったんだけど。他の学年や、他の学科の人も大勢いて、ほぼ学校中全員分くらいじゃなかったかな」
「お前それ、冗談抜きでモテまくってただけじゃねえの?」
「絶対違うよ。量もだけど、中身もおかしかったんだよ? チョコに本命って書いてあったり、母の命の恩人ですって手紙入ってたり、助けてくれてありがとう、とか……逆に義理って書いてあるのが一つも無かったんだよ」
「ぶん殴るぞテメェ!」
「モテまくってるじゃねえか!」
「いや絶対違うって。だって学校中から渡されて、義理より本命が多いって、どう考えたっておかしいでしょ」
バレンタインの本命チョコなんて、生涯に一つでも貰えれば人生に悔いがないほど嬉しいだろう。
それが数百個も一度に来るはずがない。
「しかもさ、一度も話したこともない、助けたこともない、名前すら知らない子が、助けてくれてありがとうなんて手紙書いてくるんだよ。おかしいじゃん。しかも女子だけじゃなくて、何人か男子までいたんだよ? ……あれたぶん、みんなで計画して、悪ふざけか何かやってたんだと思うよ」
見ず知らずの他人に手紙を添えての本命チョコ……そんなことあり得ない。
その上、友達でもない、男性からのチョコ……これが悪ふざけじゃなかったら何なのか。
恋愛に鈍い僕でも、流石にそのくらいは分かる。
「……お前、自分が高校時代に何したか思い出してみ?」
高校時代? みんなと楽しく学校生活した事しか記憶に無い。
学園祭にでも来ていたんだろうか。でもやっぱり、話したりした覚えは無いし……
あの戦いのことだろうか? でもそれはA組の皆や他のヒーローも一緒だし、やっぱり心当たりが無い。
「緑谷、その学校中から貰った大量のチョコはどうしたんだ?」
「どうやっても持ちきれなかったから、大学にタクシー呼んで家まで運んだよ。あとは周りの友達が食べるの手伝ってくれたかな。くれた人には申し訳なかったんだけど、本当に凄い量だったし……全部食べたら死んじゃうからって」
部屋の大半を占拠した大量のチョコを思い出す。
最初は半年くらいチョコレートだけ食べる生活になるかと思ったくらいだ。
「ちなみに緑谷君、大学時代にお付き合いした女性はいないのか?」
「そんなのいないよ」
あんな悪ふざけの対象にされていたくらいだ、彼女なんているわけがない。
「飲み会の誘いとか、凄かったんじゃねえの?」
「そういえば、なんか頻繁に飲み会に誘われたなあ。お酒に弱い女の子に限って誘ってくるんだよね」
あれもよく分からなかった。
僕もお酒は飲んだが、そんな頻繁に飲みたいとも思わなかった。好きでも嫌いでもない、という感じだ。
お酒好きは、お酒に強い人というイメージがあったけど、女性の場合は弱いほどお酒が好きなのかもしれない。
「完全に狙われてるじゃねえか……酔いつぶれた女どうしたんだよ?」
「毎回、周りの女の子が送っていったよ。僕に送ってほしいって毎回頼まれたんだけど、男の僕が女性を送っていくのはマズイからって、酔ってない子に猛反対されたなあ」
「周りが牽制し合ってたわけか……」
「なあ緑谷……本当に今まで彼女がいたこと無かったんだよな?」
「いないよ、何も無かったんだから」
「じゃあ、キスしたとか、どっかデートしたとか、そういうのも無いのか?」
「彼女がいたことも無いのに、そんなのあるわけ無いよ」
女性経験なんて全く無い。
手を繋いで歩いたことすらない。
この歳で恥ずかしいかもしれないが、本当のことだ。
「……お前、望めば大学でヤりたい放題だったんじゃねえの?」
「どういうこと?」
「こっちが聞きてえよ! なんなんだよ、お前がどういうことなんだよ!?」
切島君が泣きそうな顔をしている。
僕は何か悪い事でもしてしまったんだろうか。
「いや、結果オーライだ。僕らには何の問題も無い。今日ここで、心置きなく服を選べるというものだ」
「そうだな……まあ何でもいいから、とりあえず服買おうぜ。緑谷、この上着なんかどうだ。生地が薄いから涼しいし。そこのマネキンも着てるが、悪くねえんじゃねえか?」
轟君から、紺色の襟がついた上着を渡される。
色は暗めだが、確かに生地は薄いし、涼しそうな印象を受ける。
「とりあえず飯田が持ってきてくれたやつもあわせて、試着してみようぜ」
「そうだな、ほら緑谷、着てこいって」
「うん……まあ、みんながそう言うなら」
「あいつらがどんな改造手術してくるか分からねえけど、やるだけやっとかねえと」
「ああ。このままだと俺達が火達磨にされる」
「火達磨か。いざとなったら氷で防げねえかな……」
「物理じゃねえよ、精神攻撃だよ」
試着室で着替えている間、切島君、心操君、轟君が何やら相談している声が聞こえてくる。
きっとヒーロー活動の話だろう、僕も追いつけるように頑張っていかないと。
その後もいろいろと服を買え、最終的に、普通のTシャツに、襟のついた上着、スラっとしたパンツの組み合わせになった。
「なんか、僕のイメージじゃないような……俳優さんとかモデルさんみたいな格好じゃない?」
「いや……だいぶ、いいんじゃねえか?」
「ああ、特に問題は無いように思う。少なくとも俺的にはこれでいいと思う」
「やるだけやったよな。改造手術には及ばねえけど、及第点というか」
「あのハリネズミのようなイラストは忘れよう。僕にも何をするつもりか見当が付かない」
「みんな、何の話?」
「……俺らが先日見た、恐怖映像の話だ」
「絶対にオペ室でメス入れるつもりだよな、アレは。フィクションだと思いたい」
変なヴィランでもいたんだろうか。
「とりあえず、これと同じ感じで、いくつか選んでこよう」
「おう、頼む委員長」
「そういえば、結局僕の服ばっかり選んでもらっちゃったけど、みんなの服は?」
「あー……俺らのか」
「……まあ、俺はこれでいいか」
心操君が、すぐそばにあったTシャツを手に取った。
「んじゃあ俺はこれでいいかな」
「俺も」
轟君と切島君も、すぐそばにあった無地のTシャツを手に取った。
「そんな簡単に決めていいの!?」
「いいんだよ、気にするな」
「だって心操君、モテたいから服欲しいって」
「ああ、これが丁度いいんだ」
「すごく適当に見えるけど?」
「あー……緑谷の服選んでるときに、自分のも探してた。これで大丈夫だから心配すんな」
みんな物凄く適当に、どうでもいい服選んでるようにしか見えない。
でも、どうでもいい事にお金を使うような人達じゃない。
……ということは、これは僕の勘違いなのだろうか。
よく分からないまま会計を済ませ、僕だけ荷物が多い状態になってしまっている。
最初の想定とは真逆の有様だ。
店を出たところで、飯田君がこっそり耳打ちしてきた。
「ところで緑谷君。今度の旅行だが、是非とも今日買った服を着てきてくれ。それとサンダルは避けてくれ、出来ればいい靴を。最悪、歩きやすいようにスニーカーで」
「うん、そうするつもりだけど」
「すまないが、必ず頼む。その服装なら、麗日君も喜んでくれる……はずだ」
麗日さんの名前をだされてドキッとする。
そういえば旅行には麗日さんも来るんだ、いまのところキャンセルにもなっていない。
「あまり力になれなくて悪いが、これが僕からの応援だと思ってほしい」
「わかったよ。今日、飯田君いっぱい選んでくれたもんね。必ず着ていくよ」
そうだ、友達の心遣いだ。
この前、変な相談をして困らせてしまっていた。
飯田君も気にかけていてくれたのだろう。
そう思うと、手提げ袋の中の服が、とても尊いもののように思えた。
みんなとの旅行だ。これを着ずに何を着る。
もう旅行まで一か月もない。
今からとても楽しみに思えてきた。
―――― to be continued