最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.444 イメージトレーニング

※SIDE 麗日

 

 

帰ってから、ベッドに横になり、ぼーっとしていた。

 

今日も疲れた……お風呂にお湯は溜めたが、入るのが面倒くさい。

 

コチ、コチ、と時計の針の音が聞こえる。

 

部屋に置いたカレンダーが視界に入る。

旅行の日につけた、赤いマルが目立っている。

 

「デク君……また話せるやろか」

旅行中に訪れてほしい、甘い一時に想いを馳せる。

みんなと一緒にいたら、また話せないかも?

二人で抜け出して、ベランダかどっかで、また話したいな。

ちょっとでもいいから。

 

部屋は静かだ。

自分のため息が反響してしまうほどに。

テレビをつければ賑やかしくらいにはなるだろうが、そんな気分でもない。

 

 

(麗日さんと、もっと、話したいって思った。これからも、もっと、君と――)

 

同窓会の二次会に行く前のやり取り。

思い出すだけで胸が高鳴り、口元が緩み、頬が染まるのが分かる。

 

すっごく嬉しかった。

そういう意味なのかな、って勘違いしたくなるほどに。

今までの人生で一番嬉しかったかもしれない。

 

(気が合うね!)

 

嬉しくて繋いだ手。

人通りが多くて、すぐに気恥ずかしくなって放しちゃった。

ああもう、なんで放してしまったんだろう。

お店までの間だけでも、ずっと繋いでいればよかった。

 

 

部屋の隅に置かれたままの、初めて買った勝負下着の袋に視線を向ける。

あれからまだ一度も着ていない。

その時まで着なくていいのだから、別に着る必要は無いのだけど。

 

それでも。

みんな真剣に探してくれた。

最後に選んだのは自分だけど、友達の表情を覚えてる。

 

悪ふざけじゃなかった。

私をからかってるわけでもなかった。

 

顔を見れば分かる。

あれは、困っている人を助けるときの顔。

ヒーローの顔だった。

 

 

だからこそ、意味がわからなかった。

悪ノリなら理解できる。

からかっていたなら腑に落ちる。

 

でもそうじゃない。本気だった。

本気で、一分一秒に追われる中で最善を尽くす動きをしていた。

お金も全部出してもらっちゃった。今度何かで返さないと。

前々回の女子会で、デク君と次の約束が取り付けられなかったと嘆いたのを思い出す。

私はそんなに悲壮な顔をしていたんだろうか。

そして旅行が入ったから、みんな頑張ってくれてたのか……

 

 

ふと、なぜこんな危険物を、未だに出しっぱなしにしているのかと思い至った。

袋に入ったままだとはいえ、片付けるべきだ。

 

あの日は気疲れし過ぎて、帰ってからすぐに寝てしまったので仕方がないとしても、そのままにしておく理由はない。

他の服もそのまま出しっぱなしだが、それでも、こんなものを出しっぱなしにしていいわけがない。

とりあえず片付けよう。

何かの間違いで誰かの眼に触れたらとんでもない事になる。

 

タンスの奥深くにしまっておこう。

気怠さを感じつつも立ち上がり、勝負下着の入った袋を手に取った。

 

 

……これを着たらどうなるんだろう。

 

怖いもの見たさのような、興味の芽生え。

着てもいいのだろうか。

いや、自分のものだし、ダメってことは無いんだろうけど。

そういえば時間がなくて、試着をしていなかった。

着た感じがどうなるのかは、私にも分からない。

 

 

部屋のカーテンを確認する。

閉まってる。微塵も隙間が無い。

次に玄関。

大丈夫、鍵もチェーンも掛けられている。

 

「……お風呂、入らなきゃいかんしなあ」

そう、今日はまだ入浴を控えている。

疲れているが、疲れているからこそ入った方がいい。

そして当然だが、お風呂に入るなら服を脱がなきゃいけない。

誰でもそうだ、どうしようもないこと。

 

 

勝負下着を袋のまま洗面所に持っていき、扉を閉める。

お風呂に入るために、服を脱いでいく。

いつもの動作。

脱いだ物はネットに入れて洗濯機に放り込む。

後はお風呂に入るだけ。

 

「……これも、洗濯やな」

勝負下着を袋から出してみる。

買ったばかりで、まだ洗っていない。

だから、これも同じように洗濯機に放り込めばいい。

それはいい……それはいいのだが。

 

 

「……でも、確認は必要やんな?」

そうなのだ。困ったことに、あのときは試着をしていない。

あのとき選べるものの中では、一番可愛いものを選んだつもりだった。

でも、本当に喜んでもらえるか、がっかりされないか、確認が出来ていない。

 

もしかしたら、全然可愛くないかもしれない。

それは困る。

とても困る。

非常に困る。

お金を出してもらった皆にも申し訳ないし、またあんなお店に行く勇気は無い。

 

「か、確認やから……確認するだけやから」

おかしい、何故か緊張する。

一人で試着するだけなのに。

 

 

股下にショーツをあてがい、腰の横で紐を結ぶ。

こういうタイプは初めてだ。

普通に蝶結びでいいんだろうか。

 

ブラに手を通す。

レースが付いているけど、特に邪魔にはならなかった。

手を後ろに回して、頑張って結びを作る。ホックじゃなくて紐だから難しい。

上手く出来ているか分からないが、とりあえず今はすぐ脱ぐし、問題無い。

手を下ろすと、レースがふわっと腰になびいた。

普通の下着と大きく違うのはここだ。

 

 

洗面所の鏡で確認する。見慣れた自分の姿。

違うのは下着だけ。

身に着けた勝負下着を、身体を捻ってチェックする。

「う~ん……」

ひとまず、危惧していたほどの過激さはなかった。

 

ブラとショーツは、装飾は多いと思うけど、ちゃんと大事なところも隠せている。

普通のお店に置いてあるものと比べても、それほど極端に違うわけでもない。

目を引くのは、やはりブラの下に広がるレース。

透けた布が、お腹と腰、ショーツの上に薄くかかっているのが、何故かえっちな雰囲気を漂わせている。

隠しているのに、隠さない時よりえっちに感じるのは、何故なのか。

 

 

でも雰囲気以上に、お腹を少しでも隠してくれるのは、ありがたい。

私のお腹には、乱暴に刺された傷が残っている。

いまでも少し痛む傷。

その傷がついたことは受け入れているし、今更恨んでもいないし後悔も無いが、それとこれとは話が別だ。

隠せるものなら隠しておきたい。

 

レースをめくれば傷があるが、下ろせば傷はほとんど見えない。

こうしてみると、この下着を選んだのは、ベストな選択な気がしてきた。

 

 

「よし……お風呂入ろ」

とりあえず、試着はした。

おかしなところもなかったし、思わぬ副次効果も見つかった。

勝負下着というには平凡な気もするが、これ以上は私にはハードルが高い。

とりあえず返品する必要は無さそうだと分かったので良しとしよう。

洗濯機を回し、浴室へ向かう。

 

 

湯舟に入っていると、身体の疲れが抜けていくのを感じた。

面倒でもお風呂に入るのは大事だと実感する。

 

頭の中に、さっき身に着けた勝負下着の姿がよぎる。

 

……いったい、アレをいつ着るんだろう。

 

まだ付き合ってもいない。

しまったままの想いを伝えてもいない。

現状、着るタイミングがどこにも無い。

 

 

仮に付き合えたとして、おうちデートとか、そういう時だろうか。

でも、あんなもの着ていたら、めっちゃ期待しているように思われるんじゃないか。

気合入り過ぎだって、引かれるんじゃないだろうか。

そうなると、最初は普通の下着にしておいた方がいいんじゃないのか。

 

(ガッカリされてもいいの?)

三奈ちゃんの声が蘇る。

そうだ、最初が普通だと、いきなりガッカリされるかもしれない。

なら最初が肝心だ、最初にちゃんと着ていないと。

 

 

でもそう考えると、あの下着はそこまで普通と変わらないような気がする。

レースが付いて、紐で結ぶタイプだけど、逆にいえばそれだけだ。

隠すところはしっかり隠している。

透けてるわけでも穴が開いているいわけでもないし。

 

「う~ん……」

身体を動かし、湯船に深く収まる。

鼻だけ出して、口まで沈んで、ぶくぶくと泡を立てながら、考えを巡らせた。

 

 

やっぱり、皆の持ってきた、もっとえっちな感じがする方が良かったのかも?

百ちゃんのいうとおり、火力不足? だったのかも?

だからといって、スケスケだったり、穴が開いているのは、いくらなんでも……

 

デク君はどういうのが好きなんだろう。

好みがあるなら、それに合わせるのが一番早いけど。

でももし、穴開きが好きだと言われたら……う~ん、いくら何でも、いきなりそれは着れない気がする。

じゃあスケスケが好きだったら……いや、あれは全部丸見えだし、やっぱり着れない。

 

 

でもデク君は、そんなに過激なものは求めてないんじゃないか。

そんなイメージがある。

それこそ普通の……今回買ったやつで、十分喜んでくれるんじゃなかろうか。

 

あれ待って? そもそもデク君って、女性経験あるの?

あるようには見えなかったけど……あったら、すごく嫌だなあ……

上手じゃなくてもいいから、二人とも初めてでするのが、なんかいいなあ。

 

「うぅ~……」

ぶくぶく。ぶくぶく。

 

 

あれ? え、ちょっと待って?

そもそも、えっちって、どうやるの?

いや、アレをお股に入れるっていうのは、さすがに分かる。

分からないのは、そこに至るまでの流れだ。

 

まず裸にならなきゃ始まらない。でも最初は服着てるはず。

じゃあいつ脱ぐの? どうやって? どっちが先?

 

 

……男の子が先に脱ぐんじゃない?

先に……え、デク君が私の前で、自分から服を脱ぐ? そんなイメージ無いなあ……

じゃあ私が脱がすの? いや、そんなの無理だって。

 

だいたいデク君、脱いだらどんな身体してるんだろ。

腹筋とか絶対割れてるよね、鍛えてるし。

触ったら硬かったりするのかな。

 

 

それに、下まで脱いだら……あ、アレが。

……いや、いやいやいやいや。それ、ちょっとマズくない?

 

私たぶん、ダメだって思っても、絶対に直視しちゃうって。

目が離せなくなるんじゃ……それは大変なことになる。

はしたない女の子だと思われる。デク君が先に脱いじゃダメだ。

 

じゃあ女の子が先?

私が自分で脱ぐの? いや絶対無理だよ。

じゃあデク君が私を脱がしてくれる? え、そんなことするかな?

でもそういう雰囲気のときは、男の子はオオカミになるっていうし、デク君も獣みたいになっちゃうのかも?

デク君なら乱暴なことはしないと思うけど……脱がすくらいはしてくれるかも?

 

 

上に着てる服を脱がされたら、あの勝負下着が出てくるよね。

どうなんだろう。

喜んでくれるのかな。

……駄目だ、全然分からない。

 

まあ……仮に、ガッカリはされなかったとして、その先。

下着を付けたままじゃ、えっちはできない。

……穴が開いてればできるんだろうけど、それは買ってない。

だから下着も脱ぐ必要がある。

 

自分で脱ぐのは無理。

デク君に脱がしてもらうしかない。

 

 

……いや、脱がす、という動作とは違くない?

あれは普通の下着と違う。

ブラもショーツも紐で結ぶタイプだ。

 

だから脱がすときは、紐をほどくはず。

 

デク君の指が、私の下着の紐を摘まんで……

こう……紐を、引っ張って…………するする、って…………

 

 

「――っっ!? がばぼっ!?」

鼻からお湯が入ってきて溺れかけた。

慌てて身体を起こし、ゲホゲホとせき込む。身体を沈めすぎた。

呼吸を落ち着け、周囲を見渡す。

 

「……え? いや……え……? ……今、私、なに考えてた?」

脳裏に、直前まで組み上げていた行為の映像が蘇る。

慌ててお湯で顔を洗う。

 

「あー……もう……バカやん……」

初えっちの妄想とか、バカにも程がある。

まだ付き合ってもいないのに。

あんな下着買ったせいだ。

 

 

「……出よ」

長湯し過ぎた。

完全にのぼせて、全身が凄く熱くなってしまっている。

 

まだ付き合ってもいないのに、何考えてるんだろう。

そんな日は、まだまだ来ない。

 

シャワーの温度を下げて、少し冷たいお湯を浴びながら。

のぼせた頭を冷やすのだった。

 

 

―――― to be continued

 

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