最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.448 麗日お茶子・スタイルアップ

※SIDE 麗日

 

 

「ねえ……本当に、こんな仕事ってあるの?」

落ち着いた雰囲気の店舗で、施術着に着替えながら、何度目になるかも分からない疑問を口にする。

 

「実際あるのですから、こうして来ているのでしょう?」

「お仕事に文句言っちゃうかあ。偉くなったねえ、ウラビティさん?」

「そんなんちゃうて……」

一緒に来ている百ちゃんと拳藤さんの声が、カーテン越しに聞こえてくる。

 

 

「でも、全身エステの体験モニターって……こんな仕事、聞いたこと無いよ?」

「ヒーロー業に対しての効果検証とヒアリングが目的だと、説明があったじゃないですか。これは正式な手続きで依頼されたお仕事ですし、人員を揃えるためのチームアップのお願いでしてよ?」

「うん……そうなんやけど……」

 

そうなのだ。

これは仕事の依頼で、提示された書類は全て正規のものだった。

本物の店舗さんから、ヒーロー公安委員会に提出された依頼書。

その依頼書が公安委員会で承認されたことを示す許可証、そこに捺された会長の認印。

その仕事が公安委員会からクリエティの事務所に回され、事務所間で交わされた契約書。

全て完璧に揃っていた。

 

 

最初は、明日の旅行にあわせて、百ちゃんや皆が、こんな事してるのかと勘繰った。

先日の服と同じく、私をいじくりまわして、デク君にアピールさせようとして、楽しんでいるんじゃないか、と。

 

……けど、それは不可能だ。

いくらなんでも、全身エステのフルコースなんて、まともに頼んだらすごいお金が必要だ。

さすがに皆もそこまでやるとは思えない。

何よりも、ヒーロー公安委員会の印鑑なんて偽造したら、公文書偽造で立派な犯罪になってしまう。

 

実は、あまりに現実感が無い依頼だったので、絶対に何かの間違いだと思って、徹底的に調べた。

が、書類はどこからどう見ても本物で、過去に処理した書類と見比べても、何の違いも無かった。

疑いようのない、本物の書類だった。

 

 

ヒーローには一般企業や店舗からも様々な仕事が依頼される。

そして、ヒーローに仕事を頼むときは、ヒーロー公安委員会に届け出て、承認を受ける必要がある。

昔はもっと緩く、直接事務所に依頼できたらしいが、いつからかこの制度になった。

少なくともホークスが会長に就任した現体制では必須事項だ。

現行犯とか突発的なものは別にして、基本的には申請がいる。

 

今回のように、百ちゃんの事務所に依頼を出す場合、まずその旨をヒーロー公安委員会に届け出て、承認してもらえなければ、そもそも仕事の依頼ができない。

非合法な仕事の撤廃、極端な報酬差の是正、公安側でヒーローの業務実績を一元管理する……など、意図は多々あるそうだが、要はヒーローと企業、双方を守るための施策だ。

 

 

審査も緩く、よほど変な内容や常識外れの金額でもなければ、基本的には承認される。しかもほとんどの場合で即日承認だ。

申請さえしておけば文句は出ない、カタチだけの制度……それが世間一般の認識だった。

 

しかし、だからこそ届け出をしないと、ヒーローと企業双方に厳しい罰則が下る。

仕事の内容に関わらず、未申請の方が後々面倒になるのだ。

偽造なんて未申請より更にリスクが高い。

そんな事するくらいなら最初から素直に申請した方がいいに決まってる。

百ちゃんがそれを知らないハズが無いし、書類はどう見ても本物。

だからこそコレは信じるしかないわけで……

 

 

「八百万さん、化粧品のCMとかもやってるもんね」

「ええ、その延長みたいなものでしょうね」

「そっか……そういうもんなんか……?」

腑に落ちないが、そんな事もあるんだろうか?

 

「なに? もしかして、謝礼金が少ない?」

「いや、お金は別にええんやけど……」

そう、この仕事は私がお金を払うのではなく、逆に貰う立場なのだ。

それほど高額ではないとはいえ、こんなの、お金払ってでも受けたい人が山ほどいるだろう。

店舗側からの仕事の依頼なのだから当然なのだが、それが疑問に拍車をかけている。

 

「いい加減に納得してくださいよ。今日は空いていて、ご協力いただけると仰ったではありませんか」

「うん……会議二つと個性カウンセリング、夜も対談が一個入ってたんやけど、なぜか全部リスケになっちゃって」

「おかげで私の仕事を受けていただけました。助かりましたわ」

そうなのだ。百ちゃんも拳藤さんも、更には店舗の人までも、あくまで私の予定に合わせて、今日の実施にしてくれたのだ。

 

 

「……二人はたまに、こういう仕事来るの?」

「ここまでガッツリ長時間というのは初めてですが、たまに似たようなものはありましてよ。ねえ拳藤さん」

「うん。マウントレディさんとか、ウワバミさんとかと仕事してると、ちょくちょくあるよ」

「そうなんか……そういうもんなんか……」

 

納得できないまま、着替えを終え、カーテンを開ける。

「あれ!? 百ちゃん達、着替えは?」

二人とも着替えておらず、来たときの私服のままだ。

 

「私達は別メニューでしてよ。私はハーブティーの効果測定、拳藤さんはハンドクリームの効果測定です」

「ええっ!? ちょっと待って、それ絶対マズイって!」

どう考えても内容の質が違いすぎる。

 

 

「何が?」

「メニューが違いすぎや! 私だけ凄い良い思いするやん!?」

「それは仕方ありませんわ。そのコースは、一度もエステを受けたことのない女性ヒーロー、というのが、モニターの条件でしてよ?」

確かにそれは依頼書にも書いてあった。

 

「普段から受けてる人だと、効果が分かりにくいんでしょ。だから未経験者を募集したんじゃない?」

「お店としては宣伝に用いりたいのでしょうね」

「でもでも、だって! これ、百ちゃんのところに来たお仕事なんに!」

「だからこそ責任を持って、相応しい人材をアサインしたのではありませんか。これで私が私欲丸出しで、ウソをついてそのコースを受けていては、事務所の信用にキズがついてしまいますわ」

「それは……そうかもしれんけど……!」

 

狼狽える私をよそに扉が開き、スタッフの方が入ってきた。

「お着替え終わりましたか?」

「あの……でも……」

「はい、大丈夫ですわ。では、ウラビティさん? お、し、ご、と。よろしくお願いしますね?」

百ちゃんの、あくまで仕事だという圧を受けつつ、更衣室を後にした。

 

 

施術室に通されると、二人の施術師に迎えられた。

瓜二つの顔に、髪をそれぞれ右と左にサイドテールに結んでおり、一目で双子と分かる。

「本日は、エステサロン身流のご依頼を受けていただき、ありがとうございます。本日施術を担当させていただく、身流整良と申します」

「同じく、細良と申します。よろしくお願いいたします」

「はい、よろしくお願いします……」

現実感が無いまま挨拶を交わす。

髪を向かって右に結んでいるのが整良さん、左に結んでいるのが細良さんか。

……絶対分からなくなる気がする。

 

 

「では施術前に再度確認ですが、麗日様は、ヒーロー業をされていて、まだこういったエステのご経験は無い、ということでよろしかったでしょうか」

「はい、ヒーロー名はウラビティです。こういったエステみたいのは、ちょっと今まで受けた事は無くって……マッサージとかはあるんですけど」

ヒーローは身体が資本だ。マッサージや柔軟、筋トレなどは行っている。

ただ、美容に関するメンテナンスみたいなものは、あまりやってきていない。

 

「ありがとうございます。ではモニターの条件はクリアされていますので、ご依頼のとおり、後ほどアンケートをお願いいたします」

「はい、それはもう……頑張って書かせていただきます」

自分が仕事として貢献できるポイントはそこしかない。

とにかくビッシリ埋めて、百ちゃんと、お店の役に立とう。

 

 

「では本日の施術内容のご説明をさせていただきます。まず今から、全身のマッサージをさせていただきます。ストレッチに近いもので、揉みほぐすのではなく、身体を開いていく感じですね」

「開く?」

「人間の身体って、放っておくと、どんどん丸まっていくんですよ。腰の曲がってしまったお年寄りや、猫背になってしまった人が分かりやすいかと。あれって、身体が丸まってるんです。逆に、背中を反っている人って、いなくないですか?」

「ああ……確かにそうですね」

「ですので、丸まった身体を開いていく、というのが大切になります。背筋を伸ばし、胸を張って、踵を揃えて、スッと立つ。それが人間として、キレイな立ち姿ですよね。モデルさんやアナウンサーさんのイメージです」

「なるほど……」

確かに、どれだけ痩せていても、猫背でいては魅力半減だ。

 

 

「全身のマッサージが済みましたら、次にスチームサウナとなります」

「スチームサウナ? あの温泉とかにあるヤツですか?」

「そうですね、あのイメージに近いです。ハーブを用いた蒸気で、全身のデトックスを促します」

汗で悪いもの出そう、ってことか。

 

「その後、オイルマッサージになります。皮膚に染み込ませ、筋肉の緊張を更に和らげ、リンパ管の老廃物を流れやすくします。オイルとチタンを用いて、全身のリンパを流していきます」

「チタン?」

「チタン金属です。美顔ローラーなど、見たことありませんか?」

すぐ傍の棚に近寄ると、スッと、先端に丸いローラーが付いたものを取り出してくれた。

「ああそれ、顔とかコロコロする……」

「そうです。色々種類がありますので、全身の各所に合わせて使わせていただきます」

 

 

「最後に全身のオイルをふき取りますが、このときに脱毛を行います。といっても、普通に剃るだけですので、お肌や毛根にダメージが入ることはありません。剃毛といった方が正確ですが」

「ああ、助かります。お願いします」

脱毛は興味があるが、痛かったりするのは避けたい。普段も剃るだけにしているし、そうしてくれると助かる。

個人的にも、明日明後日がキレイでいられればいいし……

 

「また施術中は、適宜、私たち二人の個性、流体化を使わせていただければと思います。これは固体を温度変化を待たず液体にする個性でして、固まったセルライトの除去、詰まったリンパの改善、固まった筋肉の緊張緩和、血行促進と老廃物の排出を促す効果を目的として使います」

「そんな個性あるんや……」

「一般的には、鉄や氷を冷たいまま液体にするような個性と認知されていますが、私達は施術に応用しております。個性を使わなくても施術は出来ますが、痛みを少なく、より高い効果を期待出来ますので、ご了承いただけるとありがたいのですが。もちろん施術への個性使用について、認可は受けております」

「はい、使ってもらって大丈夫です。お願いします」

あくまで仕事で来ているのだ。

変なことをされるわけでもないし、とりあえず全部YESと答えておいた方が役に立てるだろう。

 

 

「では、まず最初に、各所の計測をさせていただきますね」

「計測?」

「はい。バスト、ウエスト、ヒップ、それから太もも、ふくらはぎ、二の腕を、メジャーで太さを測らせていただきます」

「え……そんなところまで測るんですか」

ちょっと怖いというか、恥ずかしいというか。

あまり知りたくない数値が出てきそうだ。

 

私の不安を予想してか、整良さんがニコッと笑った。

「施術前と、施術後で、どれだけ効果が出たか、数値で確認するためのものです。お金を払っても効果が出ていなかったら、イヤじゃないですか。今回はモニターですし、店舗側に記録は残しませんので」

「ああ……そういう事なら、はい」

確かにどのくらい効果が出たかは、数字で見れば一発だ。よほど自信があるんだろうか。

 

服の採寸のように体のあちこちを測られ、それからマッサージが始まる。

確かに普通の寝転がって受けるものと違っていた。

胸を反らしたり、肩甲骨に深く指を入れられたり、お腹を押されたり……マッサージというより、整体に近い気がする。

疲れた身体が解れていくようで気持ちがいい。

 

 

「では、スチームサウナに移らせていただきますね。こちらにご移動お願いします」

中心に穴が空いた椅子だった。トイレの便座のようだが、便座よりは穴が小さい。

「椅子でやるんですか?」

てっきりサウナ用の部屋があるのかと思っていた。

 

「そのとおりです、ここからハーブを入れた蒸気が出てきます。こちらに体育座りのように座っていただけますか」

言われるままに座ると、美容室で髪を切る時につけるような、大きなクロスを被せられた。

ビニールのような、アルミホイルのような、かなり気密性の高いクロスで、首から下が、椅子まで全て覆われる。

なるほど、これで蒸気を閉じ込めるわけだ。

 

 

「では、これから蒸気が出て参ります。ちょっと熱いかもしれませんので、お気を付けください。それと、ハーブの匂いが強いので、ちょっと臭いかもしれません」

「はい…………あ、本当だ」

見えはしないが、椅子から蒸気が出て来たのが分かる。

火傷する程ではないが、かなりの高温だ。確かにこれはサウナになる。

ハーブの香りもするが、密閉されているせいか、それほど強い匂いでもない。

 

「熱すぎるとか、匂いでご気分悪いとか、ありませんか?」

「ええ、大丈夫です」

ぼーっと蒸気を浴びながら、ゆっくり時間が過ぎていく。

身体が温まって、代謝が良くなっていくのが分かる。

クロスで見えないし、蒸気の水気もあって判別できないが、自分の身体は相当汗ばんでいるだろう。

首から上は涼しいが、頭からとめどなく汗が出てきている。

二人が時折、ぽんぽんと顔の汗を拭きとってくれるのが心地よかった。

 

 

「それでは、スチームサウナの方、止めさせていただきますね」

だいぶ時間が経ってから、ようやくスチームサウナが終わった。

首から上は涼しかったとはいえ、それでものぼせたような感じになってきたので助かった。

蒸気が止まり、クロスが外されると、ムワッとしたハーブの強い匂いが漂った。

もしこれがずっと続いていたら、少し臭いと思うかもしれない。

 

首から下は、お風呂に入ったかのように、全身びしょ濡れだった。

施術着もぐっしょりと湿っている。透けてはいないし、女性スタッフだからいいのだが。

座ったまま、濡れた身体を両側からタオルでぽんぽんと拭いてもらえた。

タオルの柔らかさが心地よい。

 

「施術着ですが、いったんお着替えされますか? このあとオイルマッサージとなりますので、また濡れてしまいますが」

「あ~……問題無いなら、このままで大丈夫です」

身体が蒸されて、全身だるいし、頭もぼーっとする。

正直、着替えるのは面倒だった。

 

施術台に戻され、うつ伏せに寝転ぶ。

正直このまま寝てしまいそうだ。

「お疲れでしたら、寝てしまっても大丈夫ですよ」

「あ~……助かります」

仕事だから寝るわけにいかないと思いつつ、寝てしまえるのは助かる。

ただ、この後のアンケートの事を考えると、しっかり起きていたい。

 

 

身体にオイルを垂らされて、二人の手でゆっくりと塗り広げられる。

身体が左右同時にやってもらえて、とても気持ちがいい。本当に息ピッタリだ。

 

「痛いところや、触れてほしくないところ、気になるところがありましたら、言ってくださいね」

「あ、はーい……」

トロッとした感触と、ぽかぽかした感じ。

さっきのスチームサウナの影響か、オイルの効果か、それとも個性を使っているのか。

身体が水みたいに溶けていく感覚だ。

 

背中を塗り終わったら仰向けにされ、全身がオイルに浸される。

「では浸透させますので、このまま数分お待ちください」

薄いビニールの布団のようなものをかけられる。

身体がぴっちりして、パックをされているようだ。

身体は十分温まっているが、肌だけが更に熱く火照っていくのを感じる。

 

 

「それではこれから、リンパ流していきますね」

チタンの金属で、右足を絞られるように撫でられていく。

 

「はい………………あ、いたたたた……」

ふくらはぎの、向う脛のあたりで、小さく痛みが走った。

 

「ここ詰まってますね。なるべく痛みのないようにしますが、耐えられないようでしたら言ってください。大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です。痛気持ちいいくらいです。全然やってもらっちゃっていいので……」

「では、続けさせていただきますね」

正直、痛い。だが、耐えられないほどではない。実際気持ちがいい。

 

 

「……はい。いま右足だけ行いましたが、どうでしょうか?」

「へ…………ぇええっ!?」

目視で確認して、冗談抜きで驚いた。

肉眼で分かるほど細くなっている。明らかに右足の方がスラっとしている。

ラインも綺麗になっていた。

 

「詰まっていると浮腫みに繋がります。こうして流してあげれば、しっかり細くなれるんですよ」

「こ、こんなに効果あるんや……」

エステなんて受けたことが無いから知らなかった。

 

「もちろん個人差がありますが、普段やっていない人は、効果が出やすいかもしれません。ウエストも細くなりますし、バストアップ、ヒップアップ効果もありますよ。フェイスラインも整います」

うーん、確かに仕事ばっかりだ。

運動もしているからいいと思っていたが、それだけでは足りなかったのか。

 

 

「では、このまま全身を行っていきますね」

施術が再開され、痛気持ちいい感覚が与えられる。

脚や腕、お腹や胸、鎖骨から首、顔全体も解きほぐされていく。

 

自分が綺麗になっていく感覚。

エステにはまる人がいるというのも頷ける。

やり過ぎはよくないが、たまにはいいな、と思う。

 

いつか、デク君とデートできる日が来たら……

その時に、また受けてみたいなあ。

 

 

―――― to be continued

 

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