最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 飯田
河原の空き地。
昨日と同じ場所に、僕らA組メンバーは集合していた。
「いま麗日さんの乗った電車が来たよ。緑谷君は変わらず、駅を出て北側のベンチに座ってる」
口田君から、二人の現在地の共有が入る。
それを基に、大きく印刷された下呂駅周辺の地図に、二人の位置を示すマグネットを置いた。
八年前の戦いで覚醒し、その後も鍛え続けた口田君の個性は、声の届かない距離の動物にもテレパシーを送り、情報共有ができるようになっていた。
この能力を駆使した、数十羽の種類も違う鳥達が、入れ替わり立ち替わり、距離も角度もバラバラで行う監視。
もちろん鳥だけでなく、野良猫や、果ては昆虫までも彼の目となる。
やられていると知らなければ、人間に気付けるようなものではない。
喋っている内容までは分からず、映像があるわけでもない。
しかし、位置だけならば把握は容易だという。
屋外での監視や尾行において、口田君ほど優れたヒーローも、そうはいないだろう。
「ようやく合流か。いよいよ始まるな」
「ええ、腕が鳴りますわ」
「もう俺はいいだろ。不参加の連絡入れとくぞ」
「ああ、大丈夫だと思う」
皆が気炎を上げる中、爆豪君はLINKにコメントを入れた。
「あ、緑谷君が離れた……トイレに行ったみたい」
「何やってんだあいつ」
「一人の時に済ませとけよ」
「ん~……ひょっとして、お茶子ちゃんが可愛くなってて、驚いちゃったとか?」
「そんな、思春期のガキじゃあるまいし」
好き放題に実況される緑谷君。
正直、覗きをしているようで、悪いことをしてしまっている、という気はする。
ただまあ、会話も聞こえないし、映像があるわけでもない。
僕らに伝わっているのは位置だけだ。
文字通り、陰ながら見守らせてほしい。
「来た! 緑谷からLINKだよ!」
芦戸君の声に、皆一斉に携帯を手にする。
「では諸君、作戦開始だ! 一度に全員の既読が付かないよう、一人の携帯を複数人で回して確認してくれ」
「コメントする人と内容、すぐ調整するよ!」
【元A組グループ】
デク
『麗日さん到着です』
飯田天哉
『では、今は緑谷君と麗日君が一緒か』
ウラビティ
『そうだよ~』
Pinky
『じゃあ緑谷さ、今日の麗日どんな感じか教えて?』
インビジブルガール
『あ、知りたーい。お茶子の私服どんな感じ?』
「さあ緑谷、麗日のこと、ちゃんと褒めてね?」
「今のお茶子ちゃんなら大丈夫なはずだよ」
芦戸君と葉隠君が、期待した声を上げる。
「さすがに基本くらい分かってるだろうなクソナードが」
「俺達は分からねえけど、そんなに麗日すげえの?」
「マジで改造手術してきたんか」
「超一流のプロに、完璧に仕上げていただきました。見違える、といっていいですわ」
「期待してるわよ、緑谷ちゃん」
女性陣はよほど自信があるのだろう。
さあ、緑谷君はどうくるか。
固唾をのんで、コメントを待った。
※SIDE 緑谷
返されたLINKのコメントを見て、どうしたものかと考えていた。
麗日さんがどんな感じか、教えてほしいとコメントが入っている。
どんな感じ?
どんな感じかって、そりゃあ……
ちら、と麗日さんに目線を向ける。
……とんでもないことになってるよ?
みんな、腰抜かすよ?
明るい太陽の下、なお眩しいその姿。
惚れた贔屓目もあるのかもしれないが、本当に、言葉にできないくらい綺麗で、可愛い。
自分が隣に立っているのが申し訳なくなるレベルだ。
今更ながら、飯田君達に感謝したい。
この麗日さんの隣に、普段のTシャツでは立っていられなかった。
あれではいくら何でも不揃いすぎる。
一緒に買い物に行ってよかった。
ギリギリ助かったという気がしてならない。
携帯の画面に目線を戻す。
皆のコメントが、この麗日さんに対する感想を求めている。
……でも、この衝撃を、いったいどうやって皆に伝えればいいのか。
どんなに言葉を尽くしても伝えられる気がしない。
いまの麗日さんを言葉にするのは難しすぎる。
絶対に、見た方が早い。
というか、見れば分かる。
……そうだよ、見てもらえばいいんだ。
そうすれば、僕が早く誰か来てほしいと願っていることも、もしかしたら伝わるかもしれない。
そう考えて、コメントを入力した。
※SIDE 飯田
【元A組グループ】
デク
『分かったよ。麗日さんの写真撮って送ればいいかな?』
「クソナードおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
手にしていたペットボトルを粉々に爆散させて、爆豪君がキレた。
「分かったじゃねえよ、何も分かってねえよアイツ! そうじゃねえんだよ!」
「褒めろよ、女がオシャレして来てるんだからさ!」
「緑谷あいつ、マジほんっとさあ!」
「どうでもいいときは誰だって褒めてくれるのに、肝心な時に限って! 緑谷君、こういう時こそ褒めてよ!」
「なんでこんなにニブいんだよ! 昔から全っ然変わらねえ!」
本人のいない所で炸裂する罵詈雑言。
緑谷君が、かつてこれほどクラスメイトに罵倒された事は無いだろう。
「諸君、僕も思うところはあるが、落ち着こう。ここに記載していないだけで、麗日君本人には、きちんと褒め言葉を掛けているかもしれない」
「そうかもしれねぇけどよ」
「この反応だと、絶対に何も言ってないだろ。緑谷だし」
「でも、一言も褒めてもらえなかったら、お茶子が可哀想だよ」
みんなで顔を見合わせる。
「写真……なるほど。皆さん、私にいい考えが。お任せくださいまし」
「ヤオモモ、どうするの?」
「何かいい手があるか?」
「まずは緑谷さんに便乗し、写真を撮っていただきましょう」
「それでどうするの?」
「その写真を元に、更に発言を促すのですわ。これなら緑谷さんもコメントしやすいので、麗日さんにもお喜びいただけるかと」
「よし、それでいこう」
「……それに、ただ撮って終わりにはさせません。緑谷さん、その写真という、あなたの一手。私が最大限に利用して差し上げますわ……お覚悟を」
八百万君が、不敵な笑みを浮かべ、携帯をタップした。
【元A組グループ】
八百万百
『それならば、お二人一緒の写真を送ってください。合流の確認になります。いかがですか?』
インビジブルガール
『それいいね。一緒に映った写真ちょうだい』
シュガーマン
『集まった人間が集まっていれば、みんなどんな感じか一発で分かるしいいな』
心操人使
『そっちの写真見て仕事頑張るよ。よろしく』
「これで良いでしょう」
不敵に笑う八百万君。
策を巡らす軍師のようで、非常に頼りになる。
「合流の確認になるとか、また面白い理由付けたな」
「でも実際その通りだし、いいんじゃね?」
もちろんここから先、誰も合流するつもりなど無い。
自分もまだ参加予定の枠に入っているが、タイミングをみて不参加の連絡を入れるつもりだ。
僕らはここでリアルタイムに相談しあい、適宜適切なコメントを入れていくだけだ。
「いきなりツーショットとか攻めたな」
「でも、いい手だと思うよ」
「あいつ自分で写真撮るって言い出したからな」
「見事なカウンターだ、八百万」
盛り上がるクラスメイトを見ながら、自分も気分が高揚していくのが分かる。
さあ緑谷君、君が言い出したことだ。
八百万君の指示通り、写真を撮るといい。
僕も正直、今の君達がどんな姿か気になっている。
※SIDE 緑谷
「一緒の写真?」
てっきり麗日さんの写真だけでいいかと思ったが。
「合流の確認かあ。まあ見るだけで確認できるもんね。さすが百ちゃん」
みんなと一緒に写真を撮るのはいい。
何の抵抗もないし、旅の思い出にも是非欲しい。
……ただ、今だけは困る。
何せ相手は麗日さんだ。
それも普段の麗日さんじゃない、今日の麗日さん。
こんな綺麗になってる、好きな人とのツーショット。
……心臓が破裂するぞ。
とはいえ、撮らないわけにもいかない。
写真を、と言い出したのは自分だし、旅行の思い出としても是非欲しい。
それに個人的にも、麗日さんとのツーショット写真なんて、喉から手が出るほど欲しい。
写真を撮るなら、やはり自撮りだろうか。
でもそれだと密着しすぎる。
さすがに、それは麗日さんも困る気がする。
ふと、すぐ近くを歩く人が目についた。
そうだ、旅行の写真なんだ。
周りの風景が写っていなければ、どこの写真だか分からない。
密着して自撮りをするよりは、誰かに頼んだ方がいい気がする。
誰か撮ってもらえそうな、話しかけやすそうな人を探す。
「すみません。もし、いま大丈夫なら、写真撮ってもらってもいいでしょうか?」
「ええ、いいですよ」
地元の人だろうか、立ち止まって携帯を触っていた男性に声をかけると、快くOKしてもらえた。
「じゃあ、あの観光案内所が写ってればいいですかね」
「そうですね、それでお願いします。麗日さんも、それでいいよね?」
「うん、いいよ。あの、すみません。お願いしまーす」
立ち位置を確認し、男性に携帯を渡し、麗日さんの傍へ。
そっと、隣に立つ。
腕や肩が触れてしまわないよう、慎重に。
変に近付き過ぎず、でも一緒にいることが感じられる、自然な距離感。
目線を前に向けても、隣から甘酸っぱい、いい匂いが漂ってくる。
ちら、と麗日さんを見やる。
何度見ても、その横顔が、本当に可愛くて、どうしても緊張してしまう。
……落ち着け、落ち着け緑谷出久。
写真を撮るだけだ。
普通に撮ればいい、普通に。
前を向く。
携帯を構える男性から声がかかった。
「はい、チーズ」
―――― to be continued