最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 飯田
【元A組グループ】
デク
『合流した写真だよ』
緑谷君から送られてきた写真は、駅前であることがよく分かる一枚だった。
にっこりと笑った麗日君。
緑谷君は対照的に硬い表情をして写っていた。
「なんつー顔してやがんだ、あのクソナードは」
「証明写真じゃねえんだぞ」
「もっとくっつければいいのに」
「肩でも抱けよ」
「緑谷にそんなこと出来るわけないと思うが……」
「つーか緑谷、なんか頭濡れてねえか?」
「でもでも! 見て! お茶子めっちゃ可愛い!」
「ね! これお世辞いらないよ!? ほんとにただ思ったまま感想言えばOKだよ!」
「いや本当だよ。これマジで麗日か? ……お前ら何したの?」
「祝賀会のときにこんな人間いなかっただろ」
「いや確かにさ、髪切ったり化粧すりゃ変わるけど……いくらなんでもコレは変わり過ぎだろ」
「……容姿の進化……人智を超えた再構築、か」
「まさか本当に改造手術したんじゃねえよな?」
「はっはっは! いいぞ、もっと私達を讃えよ!」
「女って怖えぇな……」
そのとおりだった。
ありきたりな表現かもしれないが、大変身といって差し支えない。
緑谷君の表情が固くなってしまうのも頷けた。
みんなの感想も同意だが、個人的に何より喜ばしかったのは、あの時一緒に買った服を着てきてくれたことだ。
麗日君は格段に綺麗になっているが、緑谷君もきちんとデートに相応しい装いになっている。
「何はともあれ、お茶子ちゃんの写真が来たんだから、これで攻勢に出れるよ!」
「肝心なことは緑谷に言わせるぞ。発言を促すコメントを入れていこう」
「逃げるんじゃないわよぉ、緑谷ァ……!」
二人の姿が分かり、みんなもやる気が増しているように見える。
本当に頼もしい仲間達だ。
そうとも、今日このときのために、みんなで準備してきたのだ。
どんどん面白くしていきたい。
※SIDE 緑谷
【元A組グループ】
インビジブルガール
『ねえ、なんかお茶子変わってない?』
テイルマン
『確かに雰囲気が違うな』
Ⅸ黒い鳥Ⅸ
『緑谷、そちらでは何も思わないか?』
イヤホン=ジャック
『そうだよね。なんかいつもと違うっていうか?』
ピンキー
『緑谷から見てどう? 一緒にいると分かるでしょ?』
皆から返ってきたコメントは、あまりに信じられないものだった。
何か変わってる?
雰囲気が違う?
……それだけ? 嘘だろ?
その程度しか分からないのか?
写真じゃよく伝わらないのか?
こんなにしっかり撮れてるのに?
なんでみんな、こんなにニブいんだ。
写真を見せても分からないなんて、これもう、どう伝えればいいんだ。
コメントを求められても困るよ。
見ればわかるじゃないか。
スタイルも違う、髪も違う、服だっていつもと全然違うのに凄く似合ってる。
もはや別人といっても差し支えない。
頭の天辺から足の先まで全部綺麗で、とんでもなく可愛いくなってるじゃないか。
………………そんなことを、ここに書けって? ……僕に?
できるわけないだろうが、そんなこと!
そんな恥ずかしいことを書いたら、隣の麗日さんにも伝わってしまう。
ただでさえ緊張して困っているのに、輪をかけて気まずくなる。
この後どうやって一緒に歩けばいいんだ。
っていうか何でまだ誰も来ないんだよ!?
車で向かってる人とかいないの!?
ああもう、みんな写真をよく見てよ、写真を!
見れば絶対分かるじゃないか!
分かるだろ? 分かってよ!
何で伝わらないのか、イライラしてきた。
ちゃんと写真を見れば分かるんだよ、写真を見れば!
……うん、そう書こう。
※SIDE 飯田
【元A組グループ】
デク 『こっちでも変わらないよ、写真で見たまんまだよ』
「クソナードおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
地面をえぐる大爆発が起きた。
どこにも影響のない場所を選んでいるのは、爆豪君も最低限の冷静さを保っていたおかげか。
「ヘタれてんじゃねえぞ、クソナードが!」
「緑谷、お前ぇが褒めなきゃ意味ねえだろうが!」
「お茶子ちゃん、すっごい頑張ってるのに!」
「バカか!? バカだろ! いくら何でもこれはバカだって!」
「さすがに空気読めよ……」
「キレイになってる、ってコメントするだけでいいんだがな」
「なんでこんな綺麗なパスもらってて決められねえの!?」
「……なあ、これバレてるんじゃね? 逆にオイラ達を監視して、わざとやってるんじゃないかなアイツ」
「割とマジでどうするよ。次で緑谷スリーアウトだぜ? もう爆豪が直接殴りに飛んでっちまうぞ」
「まだ始まってないのに麗日がキレて帰るんじゃねえかと心配になるな」
「さすがに麗日君も怒ったりはしないと思うが……」
ここまでくると、緑谷君に褒め言葉を出させるのは、かなり難しいだろう。
我々が褒めてしまうという手もあるが、コメントの流れ的にはおかしい。
とりあえず、会ってすぐに褒めさせる作戦は失敗となってしまったか。
「いったん、今褒めてもらうのは諦めましょうか……本人にだけ褒めるのと、オープンなLINKに書くのは、抵抗感も違うでしょうから……」
「まあ、もしかしたら、今日どこかで褒めてあげれるかもしれないもんね」
「それより、ここからどうするかだな……とりあえず移動開始してもらわねえとだけど」
確かに、いつまでも駅前に居てもらうワケには行かない。
僕らは誰も合流しないのだ。
このまま待ってもらっても、日が暮れたって誰も来ない。
「待って。移動を開始してもらうなら……私に、考えがあるわ」
考え込んでいた蛙吹君が口火を切る。
「どうするんだ?」
「かなり危険な賭けになるわ。もしこれを提案して、通らなかったら、正直取り返しがつかない。でも、この一手が通れば……絶対に今日一日が上手く行くはずよ」
「……自信はあるのかい?」
蛙吹君が携帯を見せる。
「みんな、知恵を貸して。私は今から、このコメントをしようと思ってる。この内容で大丈夫か、チェックをお願い。もしこれで良いなら、みんなにはアシストをお願いしたいわ」
皆が内容を確認し、顔を見合わせ……無言で頷き合った。
蛙吹君が、絶対に今日一日が上手く行く、と言い張るだけのことはある。
これはまさしく切り札、最強のジョーカーだ。しかも最初に切るのが最も強い。
確かにこれが通れば、我々のサポートなど不要といっていいほど、状況は良くなる。
「これはやるしかないな」
「是が非でも通すべきだろ」
「ああ、これさえ決まれば……」
「必ず成功させましょう」
作戦は決まった。
すぐにコメントする人選を行い、順番を整え、実行に移す。
褒めさせるのは出来なかった。
確かに無理やりだったかもしれない。
だが、これで終わりにはしないぞ。
僕ら全員の知恵を結集して、必ず君達二人を、いい雰囲気にしてみせる。
※SIDE 緑谷
【元A組グループ】
飯田天哉
『駅前でただ待っていても暇だろう。僕はまだ時間がかかるし、先に観光を楽しんでくれないか』
Pinky
『そうだね。着いたら連絡するから、先行ってて~』
梅雨ちゃん
『二人だけで街を歩くなら、手を繋いでおくといいわ。トラブル防止になるから』
「「 ええええぇぇ!? 」」
予想もしていない梅雨ちゃんのコメントに、二人で素っ頓狂な声が上がった。
麗日さんと顔を見合わせるが、すぐに顔が赤くなっていくのを感じて、お互いに顔を背けてしまう。
【元A組グループ】
デク
『何言ってるの梅雨ちゃん!? 麗日さんに迷惑だよ!』
ウラビティ
『ダメだよ、デク君困っちゃうよ!』
Ⅸ黒い鳥Ⅸ
『蛙吹は何もおかしなことは言ってないと思うが?』
八百万百
『とてもいいご提案ですわ。人通りの多い観光地ですから、その方が何かと良いでしょう』
Pinky
『お茶子がナンパとかされたら困るでしょ? 緑谷知らないかもだけど、ナンパって断るのも大変なのよ。怒らせるのも嫌だし、しつこいのも困るし、無いのが一番いいの』
イヤホン=ジャック
『いま緑谷しかいないんでしょ? 守ってあげてよ』
「ナ、ナンパ!?」
確かにその可能性は否定できない。
麗日さんは、贔屓目無しに、魅力的な容姿をしていると思う。
実際、ヒーロー『ウラビティ』は、その容姿も含めて人気が高い。
特に今日の麗日さんは、何故かとんでもなく綺麗なのだ。
声を掛けたくなる男はいるかもしれない。
しかし……手を繋ぐ?
そんな事をしてもいいのか?
恋人同士がすることじゃないか。
【元A組グループ】
飯田天哉
『僕も蛙吹君達と同意見だ。トラブルは防止できるに越したことはない』
インビジブルガール
『麗日は親しみやすいから、声掛けやすいんだよね。だから心配』
焦凍
『よく分からないが、手をつなぐのは迷惑なのか? 俺も親父とお母さんを案内するときは手を貸してるんだが、もしかすると迷惑だったんだろうか』
大・爆・殺・神ダイナマイト
『んなわけねーだろ、何も間違ってねえよ。おいクソナードも見習え。お前もういい加減にしやがれ』
麗日さんと二人で、LINKの画面を開いたまま、顔を見合わせる。
何かコメントを打とうとするが、否定する材料が何も出てこない。
その間にも、みんなのコメントがどんどん追加されていく。
【元A組グループ】
アニマ
『轟君すごいよ、尊敬する』
烈怒頼雄斗
『爆豪落ち着け。あ、気にしなくていいから』
イヤホン=ジャック
『ほんとに轟は立派だよ。ねえ緑谷もそう思うでしょ?』
かみなり
『緑谷、先生やってるんだろ。生徒に観光地では気を付けろって言わない?』
グレープJ
『もしかしてオイラ達が変に茶化したり、からかったりするとでも思ってるのか? みんないい大人だぜ? 誰もそんな事しねえよ』
セロファン
『安全のためなんだから、深い意味なんて無いだろ。シートベルトと一緒だぞ』
心操人使
『むしろヒーローが安全を軽視する方が問題だよな』
テイルマン
『俺つい先日、道で迷子の手を引いて親御さん探してたよ。俺は何か恥ずかしいことをしたのか?』
まるで示し合わせたかのように、皆の意見が一致している。
っていうか、どうしたんだ?
そもそも今日は皆、仕事や用事があるんじゃ?
何でこんなに返事が早いんだ。
【元A組グループ】
デク
『みんなコメント早くない!?』
イヤホン=ジャック
『そりゃ現地に行けない分、レポート楽しみにしてるから。事務所で随時チェックしてるよ~』
大・爆・殺・神ダイナマイト
『安全軽視してるヒーロー兼教員なんていたら、誰だってすぐ何か言いたくなるわ』
テンタコル
『緑谷、気にするのはそこじゃないだろう? トラブルを防止する方法を考えてくれ』
みんなの意見は筋が通っているような気がする……ここまで言われると、さすがに断るのは不自然に思えてきた。
観光地の人混みで、女の子を守る。
それはとても尊い行為だと思う。
グループLINKには、大量の『大義名分』が連なっている。
自分だって本心では、麗日さんと手を繋げたら嬉しい。
当然だよ、好きな女の子なんだから。
でも、麗日さんに嫌な思いはさせたくない。
悩みがあったりする人の手を握ってあげるのと、衆人環視の中で手を繋いで歩くのは、全然話が違う。
人目も憚らず手を繋ぐなんて、どう考えたって恋人同士がすることだ。
……にも拘らず、困った事に、断るための理由が無い。
断るための尤もらしい理由が、何一つ思い浮かばない。
「じゃ……じゃあ……手、繋ぐ?」
「そ……そうだね。何かあると困るもんね」
おずおずと手を差し出す。
「あの、その……イヤなら、無理しなくても!」
「……ううん、大丈夫」
俯きながら、真っ赤に頬を染めた麗日さんが、そっと手を差し出してくれた。
指先から、そっと静かに、ゆっくりと。
壊れ物に触れるように、優しくその手に触れる。
触れた指先から、甘いくすぐったさが生じた。
掌を重ねると、その手の暖かさが伝わってくる。
指先にある肉球の、ぷに、とした感触が、他の誰でもない麗日さんの手だと主張してくる。
声には出せないが、震えるほどの幸福感が胸に溢れてくる。
女の子の手。麗日さんの。
祝賀会の夜以来。
あのときは我に返って、すぐに手を放してしまった。
好きな女の子と手を繋いでいるという事実に、自分の顔が紅潮していくのが分かる。
やばい、いま絶対に変な顔してる気がする。
目の前の麗日さんは、俯いて、瞳を合わせてくれない。
人前で恥ずかしいんだろうか、耳まで真っ赤になっている。
緊張をほぐしてあげないと。
こういうとき、気の利いた男は何を言うべきなんだろうか。
何か、何か気の利いた……
「……麗日さん、手スベスベだね」
「ふえっ!?」
驚いた麗日さんの髪が跳ねた。
思わず素直な感想が口から出てしまったが、しまったと思った時にはもう遅かった。
いまのは完全にセクハラだったんじゃないか、と焦りが出てくる。
だが麗日さんは怒ることもせず、落ち着いて僕の手をとると、その感触を確かめていた。
「……デク君は、手、傷だらけだ」
「あ……そうだね……」
綺麗な麗日さんの手と比べて、申し訳ない気持ちになる。
「いっぱい頑張った証だね。なんか好きだな、私」
そのとき、不意に学生時代の想い出が、フラッシュバックのように脳裏に蘇った。
目の前にいる彼女の笑顔は、かつて入学直後、心が救われた時の笑顔だった。
(がんばれって感じで、なんか好きだ私)
麗日さんと出会うまで、『デク』は蔑称だった。
受け流していたけど、言われて良い気分になった事は無かった。
でも、あのとき。
彼女の笑顔と言葉で、それは覆った。
意味が変わった。救われた気がした。
そうして自分は、ヒーロー名を決めた。
蔑称だった渾名は、頑張れ、と自分を奮い立たせるヒーローの名前になった。
周囲からそのヒーロー名を呼ばれる度に、頑張れ、と励まされているようで。
胸の内を支配していた緊張と気恥ずかしさが、すっ、と小さくなっていく気がした。
代わりに、繋いだその手から、麗日さんに対する、愛しさと、感謝の気持ちが沸きあがってくる。
ずっと緊張で暴れていた心が、落ち着いていくのを感じた。
「……ありがとう、麗日さん」
いまのぶん。そして、これまでのぶんを含めた感謝だった。
「へ? なんで?」
麗日さんにしてみれば、お礼を受ける意味が分からないのだろう。
だが、細かく説明するつもりはなかった。分からなくてもいい。
昔と変わらず、自分を救ってくれた女の子に、ただ感謝を伝えたかった。
「じゃあ、せっかくだし、行こうか」
「う、うんっ」
手を繋ぐ。それは、この子を守るため。それでいいじゃないか。
ゆっくりと歩く。
麗日さんが歩きやすい速度を探しながら、歩調を合わせて。
なるべく負担が無いように、守れるように。
歩調を揃えて歩きながら、大事なことを伝え忘れている事に気付く。
「……それと、さっきはごめんね」
「へ、何が?」
「いや……さすがに僕、挙動不審すぎたというか……」
頭を掻きながら、先刻までの、あたふたした自分を恥じる。
のっけから逃げ出して、水を被って。
オシャレして来てくれた女の子に何も言ってない。
何をやってるんだ、僕は。
素直に伝えればいいことじゃないか。
「……なんか、今日の麗日さん、いつもと違う気がして」
「…………へ?」
「何故かは、よく分かんないんだけど。なんか……すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって。それで僕、さっきからずっと、緊張しちゃってて」
「…………ぁ、ぇ」
「いやっ! もちろん麗日さんはいつも綺麗なんだけど! 今日は何か違うっていうか、すごく輝いてるっていうか、最初誰だか分かんないくらい、見違えるくらい可愛くて! 髪とかすっごい綺麗でサラサラだし!? なんか痩せたっていうか、スタイル良くなってるっていうか! 頭の天辺から足の先まで全部綺麗で、手の先まで輝いて見えて、その服もすっごい似合ってて! ああもうええっと、ごめん! なんかすっごい変な事言ってる!」
やばい。
焦って余計なことまで全部言ってしまっている気がする。
「あ……はは……そ、そうかな……」
「うん……その……うん。今日の麗日さん、すごく……すごく、綺麗で、可愛いと思う」
「あっは……はは……うへ……おぉぅ……そ、そっかぁ。あ……ありがと、ね……」
真っ赤に染まった顔を伏せて、髪をいじっている。
そんな仕草も可愛らしくてたまらない。
「あの……ごめんね。僕に言われても嬉しくないかもしれないけど」
「いやいや。その、あの……うん。うれ、嬉しい、よ……? ……ぉぉ……はは……」
……ダメだ。
恥ずかしいのと、麗日さんが可愛すぎるので、なんかもうどういう感情か分からないぞコレ。
麗日さん個性使ってないよね?
足の裏に地面の感触が全然無いんだけど。
「えっと……じゃあ、行こうか!」
気恥ずかしさを振り払うように、道の先を指した。
「そっ、そうだね! 時間もったいないもんね!」
お互いに耳まで赤くなりながら、一緒に歩く。
繋いだ手が、少し熱を帯びたような気がした。
―――― to be continued