最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 麗日
さっき駅前で褒めてもらった言葉が、頭の中でずっと繰り返し響いてる。
私は変な顔してないかな。
せっかく一緒にいるのに、緊張して、恥ずかしくて、お喋りもできない。
生まれて初めて、大好きな人と……デク君と手を繋いで歩いている。
個性を使っていないのに、身体が浮かんでいるような感覚。
歩いているのに、その感覚が全然無い。
どうしよう……何を話せばいいんだろう……?
ちら、と隣のデク君を伺う。
デク君の顔は真っ赤だ。たぶん私もそうだけど。
恥ずかしいのかな。
だとしたら同じ気持ち。
私達は、周りから見たら、どんな風に見えるんだろう。
恋人同士みたいに見えるのかな。
私は、デク君の彼女みたいに見えるのかな。
そんな女の子になれてるかな。
だとしたら、嬉しい。
もちろん、本当の恋人じゃない。
でも、もしいつか本当の恋人同士になれたら……
一緒に、手を繋いで歩いている。
ただそれだけなのに、まるで夢みたいで、おとぎの国を歩いているように感じる。
もう一度、デク君の顔を伺う。
脳裏に女子会の会話が蘇る。
(緑谷ちゃん、結構カッコよくなってたわ)
(なんか男っぽくなったっていうか)
(バレンタインとか凄そうですね)
……確かに、昔と違って、カッコよくなってるなあ。
慌てて顔を前に戻した。
自分の顔が真っ赤に茹っていくのが、自分でも分かる。
意識すると、心臓の鼓動が早くなる。
だめ、だめ、だめ。意識しちゃいけない。
こんな大きな音してたら、隣にいるデク君に聞こえちゃう。
……聞こえてないよね?
不安になって、また隣に目を向ける。
そういえば、高校以来、私服を見るのは初めてかも。
あの頃はヘンテコなTシャツを好んでいたけど、この服も似合ってる。
スラっとしてて、まるでモデルさんか俳優さんみたいだ。
前を向いていても、繋いだ手が、男の人特有の、大きくて筋肉質な感触を伝えてくる。
暖かくて、優しくて、いっぱい頑張った手。
昔は何度か手を握ってもらったことがあった。
でも卒業してから、そんな機会は全く無かった。
少なくとも卒業してからだから……いや違う、祝賀会の二次会のときにちょっと握ってもらった。
でも、こんなに長い時間っていうのは、すごく久しぶり……というか、初めてじゃない?
こうしていると、守ってもらってるような気がして、安心してしまって。
なんか、デートしてるみたいな……
ああっ! だめ、だめ、だめ。
すっごい意識しちゃう。
違うって、これはナンパ対策! トラブル防止!
変な意味なんか無い、落ち着け私!
あーもう、さっきから何なんだろう。
歩いてるだけなのに。
鏡なんか見なくても分かる、いま絶対に変な顔してる。
今すぐ走り出して遠ざかりたい。
ちら、と、再び隣のデク君を伺う
やっぱり顔が赤い。
恥ずかしいの? 照れてるの? かわいい。
男の人のかわいい顔って反則だと思う。
でも、眉だけキリっとしてて、なんか頑張ってくれてるような。
かわいいのに、カッコいい。
この顔見てるだけで、胸がきゅんとする。
頭の中で駅前の会話が蘇る。
(なんか、今日の麗日さん、いつもと違う気がして)
(すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって)
(それで僕、さっきからずっと、緊張しちゃって)
(もちろん麗日さんはいつも綺麗なんだけど)
(今日は何か違うっていうか、すごく輝いてるっていうか)
(最初誰だか分かんないくらい、見違えるくらい可愛くて)
(髪とかすっごい艶々だし)
(なんか痩せたっていうか、スタイル良くなってるっていうか)
(頭の天辺から足の先まで全部綺麗で、手の先まで輝いて見えて)
(その服もすっごい似合ってて)
ああ、もう! だめだって!
いま思い出しちゃダメ!
恥ずかしいのと嬉しいのとで、顔がおかしくなる!
空いている方の手で自分の顔を覆った。
大体、なにこれ!?
なんで手なんて繋いでるの!?
本当ならここに爆豪君と飯田君、梅雨ちゃんと百ちゃんと三奈ちゃんがいたはずだ。
男の子三人と女の子四人で、自然と別れて歩く。
デク君とは、時折話したり目が合う程度の距離になる予想だったのに。
昔のクラスメイトが集まったら、普通なら絶対そうなるのに。
それがなんで、一緒に並んで、手を繋いで歩くことになるの!?
ああもう、梅雨ちゃんのせいだ、みんなのせいだ。
死にそうなくらい恥ずかしい。
梅雨ちゃん、私の気持ち知ってるくせに。
私のこと殺すつもりか。
あとで合流してきたら、絶対文句言ってやる。
顔を覆っていた手を降ろして深呼吸。
もう何度目だろう、ちら、と、再びデク君を伺う。
やっぱり顔が赤い。恥ずかしそう。でもかわいい、目元がカッコいい。
(すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって)
(それで僕、さっきからずっと、緊張しちゃって)
……え?
お世辞じゃなくて、本当にそうなの?
私が……その、綺麗になったって、可愛いって、本当に思ってくれてて……
それで、本当に……本当に緊張して、そんなに真っ赤になってくれてるの?
……うそでしょ。本当に?
ああ、もう、なにそれ、嬉しすぎる。
ずるいよそんなの。
きゅんきゅんして、おかしくなる。
デク君かわいすぎる。
ふと、デク君がこっちを見た。
視線が合う。
二人同時に、バッと顔を逸らした。
ああぁ……見られた、絶対見られた。
変な顔してるのがバレた。
せっかくさっき、可愛いって褒めてもらえたのに。
だめだ、こんなの、何話せばいいか全然分かんない。
ふと視線を上げると、街頭のカーブミラーに、私達の姿が写っていた。
手を繋いで、真っ赤になって。あらぬ方向を向いているデク君と。
目元は困ってるのに、口元がニヤニヤしそうなのを無理に我慢してぐにゃぐにゃになり、茹蛸みたいに赤くなった、私のとんでもなく変な顔。
――恥っずかしぃ!?
何この顔!?
変なんてもんじゃない、完全におかしい人だよ!?
だいたいなんで手繋いでるのに別の方を向いてるの?
なんで何も喋らないの?
なんで二人とも真っ赤になってるの?
子供じゃないんだよ!?
こんな変な二人組、他にどこにもいないよ!?
見たことも無いよ!?
ナニコレ!? どんな二人!?
「で、デク君っ!」
「は、はいっ!?」
耐えられなくなって名前を呼んだ。
突然の私の声に驚いたデク君が、少し上ずった返事をしてくれた。
「あ……あの! ……え……っと……」
何か喋らなきゃと思って声をかけたけど、何も考えてなかった。
どうしよう、と思いながら、目線をデク君に向ける。
真っすぐに私を見下ろす、想い人の顔がすぐ近くにあった。
「……あ……えっと……あの……あれ……?」
やば、近い。
どうしよう。
頭がフリーズして、何も出てこない。
手、繋いでるし。
「……どうしたの、麗日さん?」
「ぁ……ぇ……?」
どうしたのって……え? どうすればいいんだろう?
だって、手繋いでて。
私、すっごい変な顔してるから。
デク君が私を真っ直ぐ見つめてて。
だめだよ、こんな顔見ちゃ、恥ずかしいから。
「……何かあったの?」
「なんでもないからっ!」
恥ずかしすぎて、上ずった声が出てしまう。
瞳をぎゅっと閉じて、顔を伏せて前を向き、足を前に出す。
無理だってこんなの、何も考えられないっ!
「あ、麗日さん待って」
いきなり両肩を掴まれ、ぐいっと寄せられた。
「――――っっっ!?」
心臓が爆発したみたいに跳ねた。
悲鳴を上げなかったのが奇跡に近い。
「大丈夫?」
「え? ……え?」
大丈夫って、何が?
デク君の手が、いつの間にか私の肩にあって。
正面にデク君の顔があって。
こんなの、何も大丈夫じゃない。
心臓が口から飛び出そうで。
え、私、何されるの……!?
「いや、ほら……」
肩から手が離れる。
デク君が指す先にあるものに眼を向ける。
……信号機。赤だ。赤が点いてる。
車通りは多くないが、危ないことには違いない。
ようやく自分が何をしていたか理解する。
「ご……ごめ、ん……」
やばい、何も見えてなかった。
……仮にもヒーローでしょ、私。
こんな場所で信号無視とか何やってるの?
バカじゃないの?
浮かれた気持ちが水をかけたように静まり返り、とてつもない自己嫌悪に襲われる。
「…………やば……」
冷静になった途端に、どっと疲れが押し寄せてきた。
肩を落として項垂れると、今日のために準備した、ピンクのスカートと花柄メッシュの靴が視界に入った。
…………何やってるんだろう、私。
頑張ったのに。
褒めてもらえたのに。
初めて手を繋いで歩くことが出来たのに。
ずっと緊張して。
全然お喋りできなくて。
歩くことすら上手にできなくて。
私がこの旅行でしたかったのは、こんな、緊張して黙っちゃうようなことじゃなかった。
こんなハズじゃなかったのに……
「麗日さん、電車移動長かったから、疲れたのかもね。ちょっと休もうか」
デク君に手を引かれ、すぐ傍のお土産屋さん、その店先にあるベンチに腰掛けた。
「ちょっと待ってて」
すぐ側の自販機で、水を買ってきてくれた。
「はい、水……でよかったかな。先に聞けばよかったね。別のが良ければ、もう一個買ってくるけど」
「ううん、大丈夫……お水でいい、ありがとう」
水を受け取って、喉に流す。
ひんやりした感覚が心地よい。
一息つくと、いくらか落ち着いた。
……やっぱりデク君は、優しいなあ。
「…………デク君、ごめんね」
「へ? 何が?」
「さっき、デク君が緊張してる、って聞いてから……私も、なんか恥ずかしくて、緊張してしもうて……」
きょとん、とした顔のデク君。
少ししてから、急に笑い出した。
「もう……笑わんといてよぉ……」
恥ずかしいのもあるが、情けなくて、本当に申し訳なくなる。
「いやだって。僕も全く同じだったから。何話せばいいか、全然分からなかったし」
そういって、また笑い出した。
目の前で笑ってるデク君を見ていたら、何だか私も笑えてきた。
二人そろって緊張して、二人そろって恥ずかしがって。
さっきのカーブミラーに映った姿が思い出される。
すごく変な二人。何やってたんだろう。
ほんと、バカみたいだ。
一回笑うと、もうダメだった。
よく分からないけど、なんか可笑しくって。
笑いが収まるまで、二人でずっと笑ってた。
ひとしきり笑ったら、気恥ずかしい緊張感と、自己嫌悪の疲労感が、どこかに消えていた。
なんかスッキリして、元気が出てきて。
話したいことが、たくさん浮かんでくる。
聞きたいことが、山ほどある。
「――ああ、そうだ。デク君、あのね。この前、個性カウンセリングいった保育園に、面白い子おったんよ」
「へえ、どんな?」
「それがね――」
そうだ、思い出した。
ずっと、こうしたかったんだ。
デク君と二人で一緒に、笑いあって、楽しくお喋りする。
それが、今回の旅行でやりたいことだった。
せっかく二人きりなんだ。
緊張してちゃ、勿体無い。
二人とも恥ずかしかったんだって、もうバレちゃったし。
思いつくまま、いっぱい話しちゃおう。
―――― to be continued