最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 麗日
手を繋いで、一緒に歩く。
さっきまでと違って、会話も弾んでいた。
周りの景色も輝いて見えて、デク君の顔もよく見える。
恥ずかしさは変わらないけど、もうバレちゃってるし。
なんかもう、吹っ切れたというか、恥ずかしがってちゃ勿体ないというか。
なんでもやってやれー、という気持ちになっていた。
時折、思い出したように赤くなるデク君が、見ていて本当に、かわいくて、楽しい。
(なんか、今日の麗日さん、いつもと違う気がして)
(すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって)
さっきの嬉しい言葉が、何度も頭の中でリピートされてる。
きっと私も、何度も変な顔になっているんだろう。
それでも、何度でも聞きたい。
もっと私を見てほしい。
そしてその、照れたような困ったような、かわいい顔を、もっと私に見せてほしい。
私の心のアルバムに残しておくんだ。
心が弾んで、足取りが軽くて。
繋いだ手のひらから、幸せな気持ちが沸き上がってきて。
最高に楽しい気分だった。
もっとデク君の面白い顔を見たいという、悪戯心が沸いてくる。
もうこの際、腕でも組んでみようか?
どんな反応するんだろう?
どうせまだみんな来ていないし、今だけは二人っきりだし。
いや……さすがに攻めすぎかも……
そんな事を考えながら歩いていると、視界が開けた。
飛騨川にかかる、下呂大橋。
そこそこの川幅はあるが、普通に歩いて渡れる距離の橋だ。
街の東側に行くには、ここを通る必要がある。
「うわぁ、すっごい綺麗」
橋の中腹までくると、周囲の景色がよく見えた。
眼下を流れる川面が、光をキラキラと反射している。
水深が浅く、水も綺麗なためか、川底までがくっきり見えた。
川沿いに立ち並ぶ旅館の数々と、陽の光を浴びて鮮やかな緑色に染まる山々が見渡せる。
川を流れる水音と、涼しい風の音が、何とも言えず心地よかった。
景色を眺めていると、携帯が鳴った。
見ると、いくつかコメントが入っている。
【元A組グループ】
インビジブルガール
『二人とも、いま何してるの~?』
イヤホン=ジャック
八百万百
『当日で申し訳ありません。私も急な仕事で行けなくなってしまいました。緑谷さん、麗日さん、お楽しみ中恐縮ですが、旅行の思い出に、写真など送っていただければ励みにさせていただきます』
Pinky
『ヤオモモお疲れ! 私も写真見たーい!』
「うそ、百ちゃんも来れないの!?」
「八百万さんの事務所、凄い人気あるしね……個性で何でも作れるし」
「あ~あ、残念だなあ」
「でもその分、写真撮ってあげようか。駅前でしか写真撮ってなかったし」
「うん。来れなかった人多いし、写真送ってあげよう」
デク君が携帯を取り出し、あたりの風景を撮っていく。
確かにこの位置は景色がいいし、写真を撮るにはうってつけだろう。
すぐ人のために動くこういうところ、なんかいいなあ、って思いながら、その姿を眺めていた。
※SIDE 飯田
携帯に送られてきた写真を前に、A組の皆の口元に、ニヤリとした笑みが浮かんだ。
「予想通りだな、緑谷のやつ」
「ええ。奥手で恥ずかしがりな緑谷さんのことです。こういう、ただの風景写真を送ってくることは分かっておりました」
「ごめんね~緑谷君。私達のコメントは布石だったのだ!」
「本当に、面白いくらい簡単に引っかかってくれたな」
眼に怪しい光を携え、ふっふっふ、と悪い笑みを浮かべる面々。
「さっきは写真という素敵な一手をありがとうな、緑谷。全力で利用してやるぜ」
「じゃあまずは耳郎、手はずどおりにコメントを頼むぜ」
「オーケー。面白くしていくよ?」
悪ふざけを楽しむ顔をした人達が、そこにいた。
※SIDE 麗日
【元A組グループ】
イヤホン=ジャック
『ねえ、出来れば二人も一緒に写ってくれると嬉しいんだけど』
かみなり
『そうだな、緑谷と麗日の様子が知りたい』
「「一緒に!?」」
画面を見て、デク君と同時に声が上がった。
思わず顔を見合わせ、視線が合う。気恥ずかしくて顔をそらした。
響香ちゃんも何を言い出すんだろう。
一緒の写真はさっき送ったのに。
【元A組グループ】
心操人使
『確かに風景だけじゃ、仲間の写真って感じはしないもんな』
青山
『君達がどう旅行しているかが分かると嬉しいな』
大・爆・殺・神ダイナマイト
『おい出久。みんな場所だけならネットの画像で間に合ってるってよ』
烈怒頼雄斗
『そこまで言わねえけど、誰か写っててほしいとは思うよな』
インビジブルガール
『私も旅行気分味わいたーい。二人が楽しそうにしてるところ頂戴~』
楽しそうにって……また無茶苦茶なお願いをされている。
でも確かに、旅行の写真ってそういうものかもしれない。
知ってる人が誰も写って無かったら、それはただの風景写真だ。
それならネットで探せばいい写真はいくらでもある。
自分が逆の立場でも、楽しそうなクラスメイトを見たいと思う。
それに……一緒に写った写真は、私もほしい。
確かに駅前でも撮ったけど、デク君との想い出は、多ければ多いほど嬉しい。
だから、ちょっと頑張ってみる。
「デク君、みんなの言う通りだよ。写真撮ろうよ」
「うん、そうだね。ちょうどいい場所だし、撮っておこう」
デク君が携帯を片手に、誰か頼めないかと探している。
ちょうど通りがかったヒーローに近寄った。
「あれ……風間君じゃん、久しぶり!」
デク君が凄く嬉しそうに声をかけている。
私には面識がないけど、知ってる人だろうか。
デク君よりも背が高く、がっしりとした身体をしている。
顔はまだ学生の面影が残る、若々しさを感じさせるヒーローだった。
「えっ、緑谷先生!? うわぁ、お久しぶりです!」
「久しぶりだね。こんな所で会うなんて思わなかったよ」
その口ぶりで察しがついた。
おそらくデク君が教員になった以降の、雄英の卒業生なのだろう。
身長差と顔立ちのせいか、デク君の方が生徒に見えてしまう。
「風間君はこの辺で働いてるの?」
「いえ、普段は別のところです。今日は観光地の警備訓練イベントということで、事務所がチームアップを依頼されまして。サイドキックの僕も、こちらに駆り出されたんです」
そういって、屈託のない笑顔を見せてくれた。
警備訓練? そんなイベントあったっけ?
しかし見れば、確かに今日は警官やヒーローの姿が多いような気がする。
観光地だからそんなものかと思っていた。
「緑谷先生は、彼女様とデートでしょうか?」
「「はぇっ!?」」
デートという単語に、私とデク君、二人同時に変な声が出た。
デク君の顔が真っ赤になる。
私も頬が上気していくのを感じていた。
「いやあの、風間君、これはその」
「すっごい綺麗な人ですね。さすが緑谷先生です」
さらっと褒められた。更に顔が熱くなる。
なにこのイケメン。
最近の子ってみんなこうなの?
「いやいや、違うから! 彼女でもデートでもないから!」
デク君が必死に説明する。
そのとおりなのだが、改めて明言されると寂しくなる。
もうちょっと、こう……上手い言い方してほしいなあ、とか、思ってしまう。
具体的にどう、というのは、私も思いつかないけど。
「え、でも……」
風間君の視線が、私達の繋がれた手に注がれている。
そりゃ男女で手をつないで歩いているのだから、デートに見られても仕方がない。
「これは防犯のためだって! ほら、女の子なんだから、ナンパされると困るでしょ! トラブル無い方がいいでしょ!?」
「こんなところで……ナンパ……?」
視線を斜め上に上げて考え込んでいる。
小さく何かを察したように微笑すると、納得したように微笑んだ。
「いえ、確かにトラブルは無い方が良いですよね。失礼しました」
「……あの、本当に違うからね? 雄英の同級生だから。今日はA組の同窓旅行で、これからまだ他にみんな合流するからね?」
「はい、大丈夫ですよ。分かりまし…………え、同級生?」
さっきまでの笑顔はどこへやら、怪訝な顔をされ、私に視線が注がれる。
「うん、そうだけど?」
「え……? いや、俺、伝説の元A組の皆様は、全員存じて……あれ? すみません、B組の方ですか?」
「A組だよ。風間君、何回か授業でも外部講師で来てもらってるよ」
「え……すみません、こんな綺麗な人いましたっけ?」
「あの……ウラビティです」
「はああぁぁ!?」
おずおずと名乗ると、信じられないモノを見たように驚かれた。
眼を見開き、口元を抑え、一歩二歩と後ずさり、その視線が、私の頭から足までを、何度も往復している。
……なんだろう。
「あの、風間君……?」
「いや……え……ええ? あの……ちょ、ちょっとすみません!?」
携帯を取り出して、画像検索が開かれる。
入力される『ウラビティ』の文字。
出てきた画像と、私の顔とを、交互に見比べられる。
「……本当に、ウラビティさん……? ああでも、本当だ……特徴は確かに……」
驚いた顔のまま、携帯をしまう。
「……あの、すみません、大変失礼を承知で申し上げるのですが……なんか今日のウラビティさん、普段と全然違くないですか? めっっっちゃくちゃ綺麗じゃありません?」
「あ、風間君もそう思う? 僕もそう思って。今日の麗日さん、あ、ウラビティ。やっぱり全然違うよね?」
「いや、これ……違うっていうか、もう……えぇぇぇ……」
「ああよかった、さっきの僕と同じ反応だ。そうなんだよ、頭バグるくらい綺麗になってるから、本当に驚いたんだよ」
頭を抱える風間さんと、「やっぱり皆ニブすぎるよな、絶対おかしいよ、どうしたんだろう」、とブツブツ話すデク君。
なんか、目の前で褒められて、むずがゆい。
繋いだ手が汗ばんでいくのではないかと心配になってしまう。
「ああそうだ、忘れるところだった。それで風間君。よかったら、写真撮ってくれない?」
「へ……ええ、もちろん。喜んで」
考え込んでいた彼が、役目を思い出したかのように、デク君の携帯を受け取った。
適度な距離を取り、角度を調整して、笑顔をつくる。
「緑谷先生、ウラビティさん。ご確認お願いします」
風間君から返された携帯を、二人で確認する。
橋の中腹で並んで写る私達と、背後に温泉街、遠くに緑の生い茂る山々。橋の下を流れる川が光を反射して、綺麗に写っていた。
涼し気な風が感じられる、とても素敵な写真だった。
「うん、ばっちり。風間君、ありがとう」
「……ところで、緑谷先生。ひとつだけ、よろしいでしょうか?」
「なに?」
彼はにっこりと笑い、一言。
「とてもお似合いですよ」
どきりとした。
デク君が真っ赤になっている。たぶん私もだ、鏡なんか見なくても分かる。
「だ、だだ、だから! そういうんじゃないから!」
自分達二人なら我慢できても、人に言われるとやっぱり恥ずかしい。
「ええ、分かっています。では、自分はパトロールに戻ります。緑谷先生、お会いできて嬉しかったです」
「あ、うん……僕も嬉しかったよ。パトロール頑張ってね」
「はい! 緑谷先生もウラビティさんも、今日は仕事を忘れ、安心してご観光ください。それでは!」
そういうと、風間君は張り切ってパトロールに戻っていった。
恩師のいる場所で、事件など起こさせない。自分が必ず防いでみせる。
最後の言葉には、そういう意気込みが滲み出ていた。
「……自慢の生徒さんやね、緑谷先生?」
「うん、風間君は凄く優秀だったから。僕が教える事なんて殆ど無かったよ」
背中を見送るデク君の視線は、とても優しくて。
いい先生をやっていることが伺える。
「自分が育てた生徒だ、って自慢していいと思うけど?」
「そんな偉そうなこと言えないよ。僕は彼に実技訓練してないし」
「……でも、いきなり目の前で検索されたのは驚いたけど」
「あ、ごめんね……なんか彼、真面目すぎるというか、ちょっと不器用というか、ストレートなところがあって。相変わらずだったよ」
「ヒーロー科って、癖の強い人多いもんね」
「いや最近思うけど、ヒーロー科だけじゃないよ?」
二人で笑いあった。
「それで麗日さん、とりあえず、これからどうしようか?」
そう、これまでは、とくに何も考えずに、駅から真っ直ぐ歩いてきただけだった。
行き先が決まっていない。
のんびり街をお散歩してもいいけど、それにしたって向かう先は決めておいた方が良い気がする。
少し考え、行きたい場所があったことを思い出す。
「ね、デク君。足湯行こうよ」
―――― to be continued