最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 緑谷
川を渡り、南に移動して。
小さい公園のような場所に、四角い足湯があった。
丁度ご年配のご夫婦が出たところだった。
「デク君、あったよ足湯! 入ろ、入ろっ!」
「うん。僕も足湯ってあんまり入ったこと無いし、楽しみだったんだよね」
「いやぁ~、下呂温泉だもんね。これは是非とも堪能したかったんだよ。だから今日はタイツやめといたんだ」
よく見れば、確かに今日は素足のようだ。
スカートが長かったのもあって気付かなかった。
「下呂温泉は、美人の湯、とも言われていてね、泉質がいいんだよっ」
「でも麗日さん、肌キレイだと思うけど」
「うぇっ!?」
麗日さんの髪が跳ね、頬が染まっていく。
しまった、思ったことをそのまま言い過ぎたかもしれない。
「ああ、ごめん……今のセクハラだったかな?」
「あ、あはは。うへ。いやいや、いいよ、ありがとね。ほら、早く入ろうよ」
「うん、そうしよう」
恥ずかしそうではあったが、気にしないでくれたみたいだ。正直助かる。
腰かけて靴を脱いだ。
「あ、でも……タオル、キャリーケースの中だ。出し忘れちゃった」
麗日さんが靴を脱ぐのをためらい、手荷物を確認していた。
「僕持ってきてるから、よかったら使って」
「いいの?」
「麗日さんがよければ、全然いいよ」
「じゃあお言葉に甘えて、入っちゃおう」
にっこりと笑ってくれた。
そんな顔を見ると、準備していてよかったと思う。
ズボンの裾をまくり、靴下を取る。
お湯に足を浸けると、心地よいお湯の温度と、何とも言えない心地よさに包まれる。
「は~~~……」
足先から疲れが溶けていくみたいだ。
「これすごいね麗日さん、お湯が普通と全然違うよ」
ほんのりトロみがあるというか、ヌルりとしてるというか。
足をこすり合わせると、スベスベしているというか、触り心地が良くなっている。
これは確かに肌に良さそうだ。
美人の湯と言われるだけのことはある。
見ると、麗日さんは、向かいで靴を脱ぎ終わったところだった。
さっきタオルを探していたせいだろう。
お洒落な靴だし、スニーカーより脱いだり履いたりするのが大変そうだなあ、と思って眺める。
「んしょ」
麗日さんが靴下を取ると、スカートの先から足先があらわになった。
小さな足に、整えられた五指の爪が艶をもっている。
ふと違和感が生じた。
何か、とんでもなく悪いことをしているような、見てはいけないモノを見ているような。
……あれ?
大丈夫か、これ?
麗日さんがスカートをつまみ、その裾が、するする、とたくし上げられていく。
日焼けしていない白い肌が陽の下に晒され、膝頭までが顔をのぞかせた。
すべすべとした、手触りの良さそうな肌。
マシュマロみたいに柔らかそうなふくらはぎ。
膝から足首まで魅力的なラインが形成され、いいようのない色香を醸し出している。
違和感が大きくなる。心臓の鼓動が早くなる。
……待って。
やばい、なんだこれ。
麗日さんが片膝を曲げて、階段を下りるようにして、足先がお湯に向かう。
スカートが膝上の少し上に移り、太ももが、ほんの少し覗く。
ちゃぽ、と小さい音を立てて、ゆっくりと、足先からお湯に浸かっていく。
なぜか自分の身体が硬直し、目の前の光景から目が離せない。
……ちょっと待って。
まずいってこれ。
「あっ、温か~い」
心地よさそうな麗日さんの声が耳を打った。
もう一方の足をお湯に浸し、スカートの位置を整えて、腰を下ろした。
スカートが膝頭までめくられ、奥の太ももが薄っすらと覗く。
お湯に浸かった膝から下の足を、ゆっくりと動かして、お湯をくぐらせている。
木枠で組まれた足湯の暗い背景を背に、麗日さんの細い足が、まるで白鯉のように泳いでいる。
「あ~~、気持ちいい~~~。これいいね~」
「うん……」
ふにゃっとした笑顔の麗日さん。
ガチガチに固まっている僕。
まずい、本当にまずい。
まともに返事も出来ない
目の前の一連の光景に、心臓が、バクバクと変な動きをしている。
なぜか喉がカラカラに乾いて、思わず生唾を飲み込んだ。
たぶん今自分は平静を装うために顔が固まってると思う。
ついでに下腹部に血流が集まるのが分かった。
本当に勘弁してくれ、そこが硬くなるとマズいんだよ。
いや待て、落ち着け、落ち着け緑谷出久。
このままじゃ永遠に足湯から出られなくなる。
そうだ、学生時代を思い出せ。
麗日さんの足なんて何度も見てきたはずだろ。
眼を閉じて、記憶を思い出せ。
毎日見ていた制服姿……は、常にタイツを履いていたな。
ヒーロースーツ……は、コスチュームで覆われている。
あとは……あとは……
―――― 麗日さんの素足なんて、まともに見たこと無かった!
ダメだ、思い出すんじゃなかった、逆効果だ!
体育祭のチア姿や文化祭の衣装などで、膝が見えたことはあったと思う。
でもこんなふうに足先の爪まで露わになったのは初めてじゃないか?
そりゃそうだ、人間誰だって、普段は靴を履いているんだから、足の先まで見える機会なんかそうそう無い。
普通の学校なら水泳の授業をするところ、僕らは救助訓練が殆どだったし!
そんなときはジャージかコスチュームだ。
いや待て、雄英にもプールはあったんだ。
使う機会は少なかったけど、ちゃんと水泳の授業もあった。
だから見た事はあるはずだ。
そうだ、あるはずだ……けど、だいたい男子と女子で固まるし、そんなに近付くこともなかった。
林間合宿の前にプールでトレーニングしてた時もあったけど、でもあの時は女子は遊んでて男子はトレーニングで……やっぱり別行動して分かれてた。
ああっ、ダメだ!
いずれにせよ、こんな至近距離で素足を見たことなんて、絶対に無い!
お湯に浸かる、健康的な白い素肌。
美術館の彫刻みたいに芸術的なライン。
足の爪まで綺麗に整えられている。
何か、隠しておかなければいけないものを、眼にしてしまっているような。
そもそも、もういい加減に緊張にも慣れてきたとはいえ、それでも今日の麗日さんは、普段と違って、すごく綺麗なんだ。
さっき風間君にもビビられたくらいには別人だ。
目線を合わせられない。
心臓の動きが更に激しくなる。
足湯に入ってるだけだろ。
なんでこんなにドキドキするんだ?
好きな人だからそう思うのか?
……あれ? 女性と足湯って入っていいんだっけ?
そりゃ法律上問題無いんだから、入っていいんだよな。
いや……だったらこれもう、法律がおかしいんじゃないか?
足湯って本当に健康に効果ある?
逆に心臓止まったりしない?
駄目だ、全然落ち着くことが出来ない。
何か、他のことを考えよう。
……そうだ、みんなに写真を送らないと。
とはいうものの。
この状態の麗日さんを、写真で撮って送るのか?
……え? それ、ダメじゃない?
なんか……滅茶苦茶に魅力的ではあるんだけど。
この至近距離で撮った麗日さんの、素足の写真というのは……あまり大勢の人に見せるべきではないというか。
うん……なんというか、やめておいた方がいいというか……嫌だな。
少し考え、自分の足の写真を撮って送ることにした。
たぶんダメ出しされるけど、今は気が紛れれば何でもいい。
「とりあえず、みんなに写真送っといたよ」
「うん、ありがとう」
いったん携帯を触ったおかげか、いくらか落ち着いた。
お湯の中を泳ぐ、麗日さんの足先。
素直に、とても綺麗だと思った。
ぼーっとしていると、麗日さんの綺麗な足先が、僕の足に、ちょん、と触れた。
心臓が跳ね上がり、思わず足を引っ込める。
「デク君、どうしたの?」
「いや、その、ごめん! 足当たっちゃって!」
正確には僕は足を動かしていないので、当てたのは麗日さんの方だが、そんなことはどうでもいい。
きょとん、とした顔の麗日さんは、急に、にや~っとした。
「あれぇ~? デク君は、くすぐったがりなんかなぁ~?」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、足を伸ばし、僕の足に当ててくる。
「ちょっ!? ちょっと!?」
驚いた猫のようにビクッとなり、全身の毛が逆立つのが分かった。
麗日さんの足の裏が、僕の足の甲に触れ、ゆっくりと前後に動かされる。
スベスベの肌の感触が伝わってくる。
温泉の成分でお湯がトロトロなせいで、肌が滑らかに触れ合って、とんでもなく気持ちがいい。
足先の五本の指が絶妙なアクセントとして添えられる。
くるぶしを撫で上げられ、足首を擦られ、指の間に入り込もうと開かれる。
お湯の中で感じられる、肌の触れ合い。
人生で初めて味わう、極上の心地よさ。
まっずい、まっずい、まっずい!
これ、本っっっ当にまずいって!
「ちょっ!? ちょちょっと、ほ、本当にダメだって!」
「えぇ~? なんでぇ~?」
にやにやして足を触れ合わせてくる麗日さん。
麗日さんは遊びのつもりかもしれないけど、こっちはたまったもんじゃない。
心臓が爆発したみたいに動いている。
意思に反して股間にどんどん血流が送られて、ヤバイ事になっている。
これ以上されると本当に死んでしまうかもしれない。
なんというか、社会的に!
何とかやめさせないと。気を逸らさないと。
「そっ! そうだ! LINK! コメントが来てる!」
「ああ~……そういえば、通知鳴ってたね」
「見よ! 確認しよ! 来れない人達もいたし!」
すぐに携帯を取り出し、画面に目を向ける。
心頭滅却、足の感覚を可能な限りシャットアウトする。
麗日さんの動きが止まった隙に、可能な限り足を遠ざけた。
【元A組グループ】
Ⅸ黒い鳥Ⅸ
『すまん、写真は有難いが、これだけ見ても何だか分からん』
テンタコル
『緑谷の足?』
烈怒頼雄斗
『旅行の写真なんだから、顔写してもらえるか?』
イヤホン=ジャック
『お茶子も一緒に写ってくれる?』
大・爆・殺・神ダイナマイト
『だからネットの画像みたいなもんはいらねえっつうんだよクソナード』
「やっぱり一緒に撮らないとダメかあ」
分かってはいたけど。
でも麗日さんを撮るのも、なんか嫌だったし。
「まあ仕方ないよ、デク君、一緒に撮ろ?」
「うん、そうしよっか」
返事をするものの、前かがみに座ったまま、動かない僕……
「……私、そっち行く?」
「うん、ごめん……そうしてもらえると助かる……」
いま、立てないし……
「ちょっと待って」
麗日さんは立ち上がり、そのままスカートをたくし上げ、ぱちゃぱちゃとお湯の中を歩いてくる。
歩きにくそうで非常に申し訳ないけど、どうしようもない。
そのまま、隣にすとんと座った。
さっきよりもすぐ近くに、すぐ隣に。肩が触れ合う。
「なな、なんで?」
「へ? だって近付かないと、一緒に写真撮れないでしょ?」
「ああ、そ、そうか……」
足湯の中にいるせいで、誰かに頼んで携帯を渡すことも出来ない。
自撮りするしかない。
だから近づくしかない。
写真を撮ろうとするが、どうしても足元を写そうとすると顔まで写らない。
自撮りをする予定など無かったので、自撮り棒みたいなものも無いし。
かといって顔が入るようにすると、足湯に入っていることが分からない。
何より、麗日さんが気になって、撮影に集中できない。
さっきまでの足の感触と、いま感じる肩の感触。
心臓の動きが早いままだ。
どうしても平静を保てない。
くっそ……落ち着け、落ち着け、落ち着け……
そのとき、ふと声をかけられた。
「よろしければ、撮りましょうか?」
―――― to be continued