最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 緑谷
写真撮影に悪戦苦闘していると、地元の方だろうか、一人の男性に声を掛けられた。
傍らには小さな子供と、母親と思われる女性がいる。見る限りご家族のようだ。
子供は歩き始めたばかりだろうか、とても小さい年齢にみえる。
「あ……すみません。お願い出来ますか?」
「はい、もちろん」
携帯を渡し、男性が少し離れ、写真を撮ってもらう。
お礼を言って携帯を受け取った。
足湯の全景と、背後の街並み、僕ら二人もよく映っている。
いい写真だった。
「ありがとうございます、助かりました」
「いえいえ。お安い御用です」
「こえなーい?」
子供が、たどたどしい言葉遣いで、足湯を指差している。
「これ? これはねえ、足湯だよ~」
「あちゆ」
「そう。ひーちゃんはまだ小さいから入れないよ~」
女性が、とても幸せそうに教えてあげている。
「はいゆ」
「入らないよ。ほら、帰ってゼリー食べるんだろ? さっき買ったゼリー」
「ぜいーたえゆ!」
男性が、コンビニのものだろうか、小さなビニール袋を揺すると、子供が袋を触ろうと手を伸ばした。
「うん、そうだね。じゃあ帰ろうね~」
よちよちと歩く子供と手を繋ぎながら、ご夫婦は去っていった。
その姿が見えなくなるまで、ずっと目で追っていた。
「やば……麗日さん、あの子めっちゃ可愛くなかった?」
「ね! あの子超可愛かったぁ!」
麗日さんと二人、隣同士で顔を見合わせる。
本当に幸せそうなご家族だった。
「頑張って歩いてたけど、歩き始めかなあ」
「二歳くらいじゃない? 一生懸命お喋りして、もう超かわいかったぁ!」
両手を胸の前でギュッと握り、身悶えするほど感動している。僕も全く同じ気持ちだった。
「麗日さん、子供好きなの?」
「うん。保育園とかにも行かせてもらうけど、すっごい楽しいし。デク君は?」
「僕も好きだな。洸汰君とか壊理ちゃんの小さいころとか、一緒に遊んでると、もう楽しくって。今は二人とも大きくなっちゃったし、あんまり小さい子供と遊ぶ機会無いけど」
「あ、じゃあ、個性カウンセリングの仕事、今度一緒にしてみる? きっと楽しいよ」
「本当に? すっごい行きたい。ああでも、根津校長とオールマイトに許可とらないと」
「ダメとは言わなそうだけど。またチームアップの申請出しておくね」
「ありがとう、是非お願いするよ」
「子供ってさあ、凄いんだよねえ。周りの人が、みんな笑顔になっちゃうんだよ」
「ああ、それすごい思った。なんか、さっきのご夫婦、すごくいい笑顔してたよね」
「そうそう! なんかもう、私達、幸せです! ってオーラ凄かった」
「だよねえ。子供いたら幸せだろうなあ」
「ねー。あんな風に親子で手を繋いで歩くの、すっごい幸せそう」
「麗日さん、すごくいいお母さんになりそうだよね。滅茶苦茶優しそうな気がするんだけど」
「そうかなあ? デク君こそ、いいパパになりそうじゃない? なんか毎日、すっごい遊んであげてそうやん」
「あーでも確かに、子供いたら一緒に遊びたいなあ。なんかもう、何してるの見ても楽しそうだし」
「デク君は子供いたら、どこ行きたい?」
「ええ、どこだろう。どこ行っても楽しそうだけど。ああでも、お弁当作ってピクニックとか楽しそう」
「ああ~、分かる! それすっごいやってみたい。ご飯食べて、その辺で遊んで、お昼寝したり」
「ほんと、最高だろうなあ」
「デク君は、子供何人くらいほしいの?」
「どうだろう? 僕一人っ子だったし、一人は欲しいけど。兄弟がいたら楽しそうだし、二人くらいは欲しいかなあ。麗日さんは?」
「私も一人っ子だったからね。親も共働きで、一人で家にいることが多かったからなあ。兄弟とか姉妹がいたらどんなかなあ、って思ったことは、何度も……」
急に言い淀んだ麗日さんの顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。
その瞳を見つめながら、ふと、我に返る。
……何でこんな話してるんだ?
結婚どころか、まだ交際もしていない男女が、子供が何人欲しいかって……
「そ、そろそろ上がろうか!?」
「そそそ、そうだね! 身体温まったよね!」
気恥ずかしくなって、お互いに反対側を向いて、足をお湯からあげる。
背中合わせになってしまい、それがまた何か恥ずかしく、ものすごく身体が温まっている事を自覚する。
本当に汗をかきそうだ。
恥ずかしさを振り払うように、カバンからタオルを取り出す。
手元に握ったタオルを見て、ふと考えた。
……これ、どっちが先に使えばいいんだ?
僕が使って麗日さんに渡す?
でもそれって麗日さんが使う時に嫌じゃないだろうか。
じゃあ麗日さんが使ってから僕が使う?
でもそうなると、麗日さんの足を拭いた布を使うわけで、なんかそれは、いいのか?
なんか変態っぽくないか?
……正解が分からない。
「麗日さん、先にタオル使う?」
「あ、デク君先でいいよ。持ってきたのデク君だし」
即決だった。特に気にしていないみたいだ。
……まあそれならいいか。
タオルで足を拭いて、麗日さんにタオルを渡す。
なんとなく見てはいけない気がして、背を向けたまま靴下を履き、靴を履く。
足先からポカポカした感覚が残っていて、だいぶ体温が上がった気がする。
「はい」
タオルが返される。
カバンに入れようかとも思ったけど、また使うかもしれない。
少し考えた後、カバンに結んで、乾かしていくことにした。
温泉の香りに混じって、ほんのりと、いい匂いがした気がした。
―――― to be continued