最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.434 困ったときは

※SIDE 飯田

 

 

緑谷君と話してから数日。

インゲニウムの事務所で、チームアップの準備を進めていた。

ここ最近は個性カウンセリングのため、クリエティ、ウラビティ、フロッピーとのチームアップが多いが、これは別口だ。

 

災害を想定した訓練の要請があったので、海難救助に強いフロッピーと、音感探知に長けたイヤホン=ジャックにチームアップを要請したのだ。

災害時には、警察、消防、行政との連携。各ヒーロー事務所の持ち味を生かした、役割分担が重要になる。

あくまで訓練だが、だからこそしっかりと執り行いたいと思ってのチームアップだった。

数日前からこちらに来てもらい、訓練に向けて仕事を進めていた。

 

 

「二人とも、今日のところはもういいぞ」

「そう? まだ何かやる事あれば回してくれていいよ」

「いや、もうだいぶ揃ったよ」

 

仕事は順調で、準備も資料もほとんど出来上がっていた。

あとは明日、職員を含めて皆を集め、会議室で決議をとれば、消防に提出できる。そうなれば訓練本番を待つだけだ。

 

既に他の職員も帰宅している。

久々に旧友3名が事務所に残っているという状況だった。

ヒーローとはいえ、女性二人だ。早めに帰れるならその方がいい。

 

 

「あ、そうだ。飯田ちゃん。こんな時に悪いんだけど……少し時間あるかしら」

「どうかしたのか? 何か不備があったとか」

「違うの。えっとね……仕事とは関係ない話になっちゃうんだけど」

「構わない、話してくれ」

 

もう自分の仕事もほとんど片付いている。

あとは数件のメールを返したら、自分も帰ろうと思っていた。

「……緑谷ちゃんの事なんだけど」

「緑谷君が、どうかしたのか?」

先日会った時のことが思い出される。特に不調も見られず元気そうだった。

相談された悩みはあったが。

 

 

「ああそっか、飯田なら緑谷のこと詳しいじゃん」

「……なんだ?」

「あのね、知っていればでいいんだけど。緑谷ちゃん……いま、お付き合いされている女性はいるのかしら」

「……いないはずだが。何かあったのか?」

彼に特定の相手はいない。

それは知っている。

というかむしろ、麗日君と付き合いたいと切望していることを知っている。

 

 

「飯田になら話しても大丈夫でしょ。ちょっと聞いてくれる?」

「ああ、聞かせてくれ」

緑谷君に関わることなら是非聞いておきたい。

何か力になれるなら協力は惜しまない。

 

「あのさ、私らつい先日、お茶子とご飯行ったんだ。その時に聞いたんだけどさ。轟のチャート二位をお祝いした祝賀会あったじゃん。あの後、お茶子と緑谷、二人で二次会に行ったんだって」

つい先日、緑谷君から聞いたばかりだ。

 

 

「それでね、お茶子……たぶん飯田も気付いてたと思うけど。お茶子さ、ずっと緑谷のこと好きだったのよ」

「そうだったのか。いや、何となくそんな気はしていたが」

「まあバレバレだったからねえ……」

予想が確信に変わった。二人は間違いなく両想いだ。

 

「で、二次会行けて、お茶子は嬉しかったっていう……まあそれ自体は、楽しい時間で良かったね、って話なんだけど」

「お茶子ちゃん、緑谷ちゃんに気持ちを伝えるどころか、次の約束も出来なかったのよ」

「そう! 肝心なことを全然切り出せなくて。そのまま時間がきて、さすがに終電無くなりそうだからって、緑谷に駅まで送られて。で、そのままバイバイしちゃったってワケ」

「その時のことを後悔していたのよ。せめて次の約束くらい取り付けておけば、って嘆いてたわ」

 

 

耳郎君と蛙吹君の肩が落ちる。

彼女らも、友人にうまくいってほしいと願っていたのだ。

「緑谷も緑谷よ。終電近くまで一緒にいる時点で察しなさいよ」

「そうか……麗日君が」

緑谷君も同じ悩みを抱えていた。

「それで、飯田に聞きたいんだけどさ。緑谷がいまフリーなら、緑谷の好きな人って知ってる? いや、絶対お茶子でしょって思ってるんだけど、確証が無くて」

「ああ……そうだな……」

 

話していいものだろうか。

人の恋心など、おいそれと誰かに話すべきではない気もする。

でもいま、麗日君の気持ちを、二人から聞いてしまった。

両想いなのだ。うまくいってほしい。

 

 

「……実は僕も、緑谷君から全く同じ相談を受けていたんだ」

「どういうこと?」

 

そこで、先日会った時の話をした。

麗日君と二次会に行って楽しかったこと。

麗日君のことを特別だと意識していること。

次の約束をし忘れたのを悔いていること。

遊ぶ口実が欲しくて困っていたこと。

 

 

「なにそれ!? もう~、早く言いなさいよ! じゃあもう解決じゃん」

耳郎君の顔がぱっと明るくなり、ニコニコで携帯を取り出す。

さっと血の気が引いた。

「ちょっと待った、何するつもりだ!?」

「響香ちゃんストップ!」

「何って……LINKで二人に教えてあげれば解決でしょ。緑谷もフリーだし。両想いなんだから、おめでとう、付き合いな、って」

 

 

「それはダメだ!」

「響香ちゃん、さすがにそれは酷いわ!」

「え……え、なんで? その方が早いじゃん。両想いなんだよ? さっさとくっつけばいいじゃん、躊躇う理由無いでしょ」

耳郎君は携帯を持ってドン引きしている。何がいけないのかわからない、という表情だ。

 

「その……うまく言えないのだが。我々が伝えてはいけない気がする」

「そうよ。響香ちゃん、聞いて」

蛙吹君は落ち着いている。こういう時、彼女は頼りになる。

僕が言葉に出来ないこのモヤモヤを、うまく言語化してくれるかもしれない。

 

「響香ちゃん、二人の身になってみて。好きな人が、自分の事を好きでいてくれるって分かったら、それは確かに嬉しいわ。でもそれは、相手から直接伝えてほしいものよ。それが一番嬉しいもの。友達から伝え聞いても、本当かどうか分からないし、結局確かめなきゃいけない。もし本当だったとしても、何で自分に教えてくれなかったのかな、って思わない? それはとても寂しいわ」

「あ……」

耳郎君も合点がいったようだ。

 

 

「そうだよね……ごめん、私最低だ」

「いや、耳郎君。落ち込むことはない。友を思ってのことだと分かっている。いい情報に喜んで、少し空回りしてしまっただけだろう?」

「ごめんね響香ちゃん。本当は私も、響香ちゃんと同じ気持ちよ。いますぐ連絡して教えてあげたいわ……」

今度は蛙吹君が気落ちしていった。

 

「だって……」

蛙吹君が、心底困った顔で、ぽつりと。

どうしようもない真実を口にした。

 

「……だって、あの二人……放っておいたら、絶対に進展しないでしょう?」

 

 

その一言で、一気に部屋の空気が重くなった。

 

そう、絶対に進展しない。

それは恋愛経験など無い自分にも確信できるほどに。

他の人物ならいざ知らず、あの緑谷君と麗日君なのだ。

 

二人とも、相手を尊重する……といえば聞こえはいいが、尊重しすぎて、全く行動に移せない。

当事者の事だ、手を出すべきではない、と思う。普通であれば。

だがあの二人に限っては、放っておけば何も進展しないのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

「……あれ? え、ちょっと待って? これ、詰んでない? ここからどうすればいいの?」

「どうすれば、というのは……」

「だって私達から伝えるのはダメで、放っておいても進展しないでしょ? あの二人は間違いなくこのまま平行線を辿るよ? それこそアラサーどころかアラフォーになっても未婚だよ?」

「そうね……それに緑谷ちゃん、押しに弱い所があるのよね。もしグイグイくるタイプの子が現れたら。自分を好きだって言ってもらえたら。その好意を無碍にできないと思うの」

「緑谷、ああ見えてモテる要素多いもんね」

「ああ……その通りだな、同意するよ」

 

 

友人として見ても、緑谷君はいい男だと思う。

誰にでも優しく親身で、わが身も顧みず助けに行く。

彼の精神性は自分の手本でもある。

いつどこで、緑谷君に心奪われる女性が現れても、何も不思議はない。

片思いが実らないのは仕方ないとしても、両想いで破局するのは悲しすぎる。

 

 

「もし緑谷ちゃんが、お茶子ちゃん以外の子と結ばれてしまったら……お茶子ちゃん、とても悲しむわ」

「つい先日、どれだけ悲惨な事になるか、目の前で見ちゃったもんね……」

「あの後、もしそうなったら、って考えてたんだけど……どうやって慰めればいいか、見当もつかないの」

「慰めようがないもの……女子会の空気、凄い事になるわよ」

「それに緑谷ちゃんの結婚式、私達、どうやって乗り切れば……」

「ぅぁぁ~……やっばぃ、それ……地獄だって……」

二人には何やら思い当たる節があるのか、葬式のように消沈している。

 

 

「……やっぱ、多少は怒られるの覚悟で、私らから話す? 地獄は回避できるし……」

耳郎君がスマホを振る。

 

それしかないのか。

だが、そうしたくない。

 

最悪の事態を防ぐためにも、なるべく早く結ばれてほしい。

しかし、つい先ほどのやり取りが蘇る。

本人に伝えてもらった方が嬉しいと、二人の気持ちを尊重した蛙吹君。

自覚して項垂れた耳郎君。

 

 

いまここで、緑谷君と麗日君に、お互いの気持ちを伝えてしまうのは簡単だ。

「そうね……本当は、私達から伝えるなんて、したくないけど……」

だが……それでは寂しい。

一度は最低だと自覚した行為を、肯定したくない。

 

こんなとき、どうすればいいのだろうか。

級友が悩んでいる。最低だと自覚した行為をしようとしている。

何とか止めたい。だが妙案が浮かばない。

親友を応援したい。本当にこんな方法しかないのか。

 

 

困った。

何かないか。

誰かいないだろうか。

何とかしてほしい。

誰か知恵を貸してほしい。

 

こんなとき、どうすればいい?

困った状況を打開できる……そんな、頼りになる……

「……ヒーロー」

「は?」

 

ぽつり、と口にでた言葉。

「……そうか。そうだ。ヒーローだ」

「ヒーロー? なにが?」

とっさの思い付き。無意識に口から出た言葉。何も決まっていない。

それでも、光明が差した気がした。

 

 

「ヒーローだよ! 誰かが困ったときは、ヒーローが解決すればいいんだ!」

立ち上がり、腕を広げて主張する。

「そりゃ解決してくれるヒーローがいればいいけど……なに? 恋愛相談してくれるヒーローでも探すの?」

「恋愛相談は結婚相談所の管轄よ? それに、緑谷ちゃんとお茶子ちゃんは、出会いに困っているわけではないわ」

「ヒーローならいるじゃないか! 僕たちはヒーローだよ!」

 

 

「……まあ私ら、職業ヒーローだけどさ……解決できないよ」

「専門外だものね……」

二人はまだ気付いていない。

だが自分はもう、気分が高揚し始めていた。

「二人とも。ヒーローはここにいる三人だけじゃないぞ!」

 

この方法なら、必ず解決できる。その確信があった。

 

(いい方法を思い付いたら、すぐに連絡させてもらうよ)

以前相談を受けたとき、緑谷君に自分が告げた言葉。

 

すまない、緑谷君。あれは嘘だ。

いい方法は思いついた。だが、君に連絡はしない。それが最もいい方法だからだ。

 

 

「忘れていないか? 緑谷君と麗日君の幸福を願い、知恵を絞ってくれる。そんなヒーローを、僕らは大勢知っているじゃないか。僕らだけでダメなら、より多くのヒーローを頼ればいい! チームアップと同じだ!」

 

学生時代を思い出す。

あの頃、みんなと共に過ごした日々が、胸に蘇る。

一緒に駆け抜けた青春が蘇ってくるような、そんな高揚感が満ちてきていた。

 

「元A組のヒーロー全員に、相談しよう!」

 

 

―――― to be continued

 

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