最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 飯田
緑谷君と話してから数日。
インゲニウムの事務所で、チームアップの準備を進めていた。
ここ最近は個性カウンセリングのため、クリエティ、ウラビティ、フロッピーとのチームアップが多いが、これは別口だ。
災害を想定した訓練の要請があったので、海難救助に強いフロッピーと、音感探知に長けたイヤホン=ジャックにチームアップを要請したのだ。
災害時には、警察、消防、行政との連携。各ヒーロー事務所の持ち味を生かした、役割分担が重要になる。
あくまで訓練だが、だからこそしっかりと執り行いたいと思ってのチームアップだった。
数日前からこちらに来てもらい、訓練に向けて仕事を進めていた。
「二人とも、今日のところはもういいぞ」
「そう? まだ何かやる事あれば回してくれていいよ」
「いや、もうだいぶ揃ったよ」
仕事は順調で、準備も資料もほとんど出来上がっていた。
あとは明日、職員を含めて皆を集め、会議室で決議をとれば、消防に提出できる。そうなれば訓練本番を待つだけだ。
既に他の職員も帰宅している。
久々に旧友3名が事務所に残っているという状況だった。
ヒーローとはいえ、女性二人だ。早めに帰れるならその方がいい。
「あ、そうだ。飯田ちゃん。こんな時に悪いんだけど……少し時間あるかしら」
「どうかしたのか? 何か不備があったとか」
「違うの。えっとね……仕事とは関係ない話になっちゃうんだけど」
「構わない、話してくれ」
もう自分の仕事もほとんど片付いている。
あとは数件のメールを返したら、自分も帰ろうと思っていた。
「……緑谷ちゃんの事なんだけど」
「緑谷君が、どうかしたのか?」
先日会った時のことが思い出される。特に不調も見られず元気そうだった。
相談された悩みはあったが。
「ああそっか、飯田なら緑谷のこと詳しいじゃん」
「……なんだ?」
「あのね、知っていればでいいんだけど。緑谷ちゃん……いま、お付き合いされている女性はいるのかしら」
「……いないはずだが。何かあったのか?」
彼に特定の相手はいない。
それは知っている。
というかむしろ、麗日君と付き合いたいと切望していることを知っている。
「飯田になら話しても大丈夫でしょ。ちょっと聞いてくれる?」
「ああ、聞かせてくれ」
緑谷君に関わることなら是非聞いておきたい。
何か力になれるなら協力は惜しまない。
「あのさ、私らつい先日、お茶子とご飯行ったんだ。その時に聞いたんだけどさ。轟のチャート二位をお祝いした祝賀会あったじゃん。あの後、お茶子と緑谷、二人で二次会に行ったんだって」
つい先日、緑谷君から聞いたばかりだ。
「それでね、お茶子……たぶん飯田も気付いてたと思うけど。お茶子さ、ずっと緑谷のこと好きだったのよ」
「そうだったのか。いや、何となくそんな気はしていたが」
「まあバレバレだったからねえ……」
予想が確信に変わった。二人は間違いなく両想いだ。
「で、二次会行けて、お茶子は嬉しかったっていう……まあそれ自体は、楽しい時間で良かったね、って話なんだけど」
「お茶子ちゃん、緑谷ちゃんに気持ちを伝えるどころか、次の約束も出来なかったのよ」
「そう! 肝心なことを全然切り出せなくて。そのまま時間がきて、さすがに終電無くなりそうだからって、緑谷に駅まで送られて。で、そのままバイバイしちゃったってワケ」
「その時のことを後悔していたのよ。せめて次の約束くらい取り付けておけば、って嘆いてたわ」
耳郎君と蛙吹君の肩が落ちる。
彼女らも、友人にうまくいってほしいと願っていたのだ。
「緑谷も緑谷よ。終電近くまで一緒にいる時点で察しなさいよ」
「そうか……麗日君が」
緑谷君も同じ悩みを抱えていた。
「それで、飯田に聞きたいんだけどさ。緑谷がいまフリーなら、緑谷の好きな人って知ってる? いや、絶対お茶子でしょって思ってるんだけど、確証が無くて」
「ああ……そうだな……」
話していいものだろうか。
人の恋心など、おいそれと誰かに話すべきではない気もする。
でもいま、麗日君の気持ちを、二人から聞いてしまった。
両想いなのだ。うまくいってほしい。
「……実は僕も、緑谷君から全く同じ相談を受けていたんだ」
「どういうこと?」
そこで、先日会った時の話をした。
麗日君と二次会に行って楽しかったこと。
麗日君のことを特別だと意識していること。
次の約束をし忘れたのを悔いていること。
遊ぶ口実が欲しくて困っていたこと。
「なにそれ!? もう~、早く言いなさいよ! じゃあもう解決じゃん」
耳郎君の顔がぱっと明るくなり、ニコニコで携帯を取り出す。
さっと血の気が引いた。
「ちょっと待った、何するつもりだ!?」
「響香ちゃんストップ!」
「何って……LINKで二人に教えてあげれば解決でしょ。緑谷もフリーだし。両想いなんだから、おめでとう、付き合いな、って」
「それはダメだ!」
「響香ちゃん、さすがにそれは酷いわ!」
「え……え、なんで? その方が早いじゃん。両想いなんだよ? さっさとくっつけばいいじゃん、躊躇う理由無いでしょ」
耳郎君は携帯を持ってドン引きしている。何がいけないのかわからない、という表情だ。
「その……うまく言えないのだが。我々が伝えてはいけない気がする」
「そうよ。響香ちゃん、聞いて」
蛙吹君は落ち着いている。こういう時、彼女は頼りになる。
僕が言葉に出来ないこのモヤモヤを、うまく言語化してくれるかもしれない。
「響香ちゃん、二人の身になってみて。好きな人が、自分の事を好きでいてくれるって分かったら、それは確かに嬉しいわ。でもそれは、相手から直接伝えてほしいものよ。それが一番嬉しいもの。友達から伝え聞いても、本当かどうか分からないし、結局確かめなきゃいけない。もし本当だったとしても、何で自分に教えてくれなかったのかな、って思わない? それはとても寂しいわ」
「あ……」
耳郎君も合点がいったようだ。
「そうだよね……ごめん、私最低だ」
「いや、耳郎君。落ち込むことはない。友を思ってのことだと分かっている。いい情報に喜んで、少し空回りしてしまっただけだろう?」
「ごめんね響香ちゃん。本当は私も、響香ちゃんと同じ気持ちよ。いますぐ連絡して教えてあげたいわ……」
今度は蛙吹君が気落ちしていった。
「だって……」
蛙吹君が、心底困った顔で、ぽつりと。
どうしようもない真実を口にした。
「……だって、あの二人……放っておいたら、絶対に進展しないでしょう?」
その一言で、一気に部屋の空気が重くなった。
そう、絶対に進展しない。
それは恋愛経験など無い自分にも確信できるほどに。
他の人物ならいざ知らず、あの緑谷君と麗日君なのだ。
二人とも、相手を尊重する……といえば聞こえはいいが、尊重しすぎて、全く行動に移せない。
当事者の事だ、手を出すべきではない、と思う。普通であれば。
だがあの二人に限っては、放っておけば何も進展しないのは火を見るよりも明らかだ。
「……あれ? え、ちょっと待って? これ、詰んでない? ここからどうすればいいの?」
「どうすれば、というのは……」
「だって私達から伝えるのはダメで、放っておいても進展しないでしょ? あの二人は間違いなくこのまま平行線を辿るよ? それこそアラサーどころかアラフォーになっても未婚だよ?」
「そうね……それに緑谷ちゃん、押しに弱い所があるのよね。もしグイグイくるタイプの子が現れたら。自分を好きだって言ってもらえたら。その好意を無碍にできないと思うの」
「緑谷、ああ見えてモテる要素多いもんね」
「ああ……その通りだな、同意するよ」
友人として見ても、緑谷君はいい男だと思う。
誰にでも優しく親身で、わが身も顧みず助けに行く。
彼の精神性は自分の手本でもある。
いつどこで、緑谷君に心奪われる女性が現れても、何も不思議はない。
片思いが実らないのは仕方ないとしても、両想いで破局するのは悲しすぎる。
「もし緑谷ちゃんが、お茶子ちゃん以外の子と結ばれてしまったら……お茶子ちゃん、とても悲しむわ」
「つい先日、どれだけ悲惨な事になるか、目の前で見ちゃったもんね……」
「あの後、もしそうなったら、って考えてたんだけど……どうやって慰めればいいか、見当もつかないの」
「慰めようがないもの……女子会の空気、凄い事になるわよ」
「それに緑谷ちゃんの結婚式、私達、どうやって乗り切れば……」
「ぅぁぁ~……やっばぃ、それ……地獄だって……」
二人には何やら思い当たる節があるのか、葬式のように消沈している。
「……やっぱ、多少は怒られるの覚悟で、私らから話す? 地獄は回避できるし……」
耳郎君がスマホを振る。
それしかないのか。
だが、そうしたくない。
最悪の事態を防ぐためにも、なるべく早く結ばれてほしい。
しかし、つい先ほどのやり取りが蘇る。
本人に伝えてもらった方が嬉しいと、二人の気持ちを尊重した蛙吹君。
自覚して項垂れた耳郎君。
いまここで、緑谷君と麗日君に、お互いの気持ちを伝えてしまうのは簡単だ。
「そうね……本当は、私達から伝えるなんて、したくないけど……」
だが……それでは寂しい。
一度は最低だと自覚した行為を、肯定したくない。
こんなとき、どうすればいいのだろうか。
級友が悩んでいる。最低だと自覚した行為をしようとしている。
何とか止めたい。だが妙案が浮かばない。
親友を応援したい。本当にこんな方法しかないのか。
困った。
何かないか。
誰かいないだろうか。
何とかしてほしい。
誰か知恵を貸してほしい。
こんなとき、どうすればいい?
困った状況を打開できる……そんな、頼りになる……
「……ヒーロー」
「は?」
ぽつり、と口にでた言葉。
「……そうか。そうだ。ヒーローだ」
「ヒーロー? なにが?」
とっさの思い付き。無意識に口から出た言葉。何も決まっていない。
それでも、光明が差した気がした。
「ヒーローだよ! 誰かが困ったときは、ヒーローが解決すればいいんだ!」
立ち上がり、腕を広げて主張する。
「そりゃ解決してくれるヒーローがいればいいけど……なに? 恋愛相談してくれるヒーローでも探すの?」
「恋愛相談は結婚相談所の管轄よ? それに、緑谷ちゃんとお茶子ちゃんは、出会いに困っているわけではないわ」
「ヒーローならいるじゃないか! 僕たちはヒーローだよ!」
「……まあ私ら、職業ヒーローだけどさ……解決できないよ」
「専門外だものね……」
二人はまだ気付いていない。
だが自分はもう、気分が高揚し始めていた。
「二人とも。ヒーローはここにいる三人だけじゃないぞ!」
この方法なら、必ず解決できる。その確信があった。
(いい方法を思い付いたら、すぐに連絡させてもらうよ)
以前相談を受けたとき、緑谷君に自分が告げた言葉。
すまない、緑谷君。あれは嘘だ。
いい方法は思いついた。だが、君に連絡はしない。それが最もいい方法だからだ。
「忘れていないか? 緑谷君と麗日君の幸福を願い、知恵を絞ってくれる。そんなヒーローを、僕らは大勢知っているじゃないか。僕らだけでダメなら、より多くのヒーローを頼ればいい! チームアップと同じだ!」
学生時代を思い出す。
あの頃、みんなと共に過ごした日々が、胸に蘇る。
一緒に駆け抜けた青春が蘇ってくるような、そんな高揚感が満ちてきていた。
「元A組のヒーロー全員に、相談しよう!」
―――― to be continued