最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 麗日
デク君がクレープを受け取ってる。
……こんな事ってある?
駅を出てからずっと、魔法の国に迷い込んだみたいに、不思議なことが起こってる気がする。
こんなに都合よく、一個だけ買えることなんて、あるわけが……
ああ、でも、買えてよかった。
「麗日さん、どうする? 座って食べる?」
「そ、そうだね……うん……」
だめだ、頭が回らない。
熱に浮かされたみたいに、ぽーっとなってて、現実感が無い。
川沿いの、近くのベンチに、並んで座る。
これが本当に現実なのか疑問に思う。
夢でも見せられてるんじゃないだろうか。
「えっと、これも写真撮らなきゃか」
「そ、そうだね……葉隠ちゃんと砂藤君、見たがってたもんね」
「でも今、ちょうど周りに人いないし……いや、風景じゃなくてクレープ撮らないとだから、結局自撮りしかないか。じゃあ麗日さん、ちょっとクレープ持っててもらえる?」
デク君からクレープを受け取った
手のひらに、作りたてのクレープの温かさを感じる。
デク君が携帯を取り出して、カメラを起動する。
「えっと……ぼ、僕たちも写ってないといけないんだよね」
「そっか。そうだね……二人で……」
デク君が持った携帯を見ながら、角度を調整していく。
「これ、画面に入れるの大変だね……」
「もうちょっと寄れば入りそうかな」
カメラの中に、一緒に収まるように近付く。
肩が触れ合った。
それだけじゃ足りなくて、少し斜めに、顔を寄せる。
今日一番近い距離。
カメラの映像を確認しながら、妙な既視感を感じていた。
なんだろう、これ……?
こんなこと絶対に初めてなのに、見たことがあるような……知ってるような……?
「――――っっっ!?」
雷に打たれたような衝撃が走り、全身に鳥肌が立った。
「ぁ…………」
うそ。
信じられない。
携帯の画面。
そこに映し出されている情景。
それは。
ずっと、ずっと、願い続けて。
何度も、何度も、夢に描いた。
いちばん憧れた、恋のカタチだった。
デク君と一緒に、すぐ近くで、顔を寄せ合って。
私達の間には、美味しそうなクレープが映ってて。
一緒に、クレープ半分こ。
夢見た景色がそこにある。
画面にその証拠が映っている。
ずっとずっと願っていた幸せが、今この瞬間に訪れている。
目の前の光景が信じられない。
嬉しさで胸がいっぱいになっていく。
画面の中の私の瞳が、泣きそうなくらい潤んでいくのが見えた。
「じゃあ、麗日さん。笑って?」
「あ、うん……」
そうだ、笑わなきゃ。泣いちゃダメ。
こんなに嬉しい一瞬なんだから。
憧れ続けた、夢の舞台に立ったみたいで。
泣きそうなのを我慢して、笑顔をつくる。
嬉しい気持ちを隠さないで。
幸せだ、って思いながら。
頬を綻ばせて。
丁度いいところで、小さなシャッター音。
「これでいいかな?」
デク君が撮った写真を見せてくれる。
私とデク君がクレープを手にして、頬を染めている。
とっても優しい笑顔のデク君。
幸せで胸いっぱいの笑顔をした私。
最高の一枚だった。
「……うん。いいと思う」
「じゃあ、グループLINKに送っておくね」
片手で自分の携帯を取り出し、デク君から送られてきた写真を確認する。
ずっと夢見てた情景が、いつでも見れる形になって、手元にあった。
そこに写る私は、大好きな人の隣で、幸せを独り占めしたみたいに笑ってて。
これが自分だって信じられないほどで、写真の自分に嫉妬してしまいそうになる。
見ているだけで幸せで、羨ましいくらい。
……この写真、私の宝物にしよう。
あとでこっそり、携帯の待ち受けにしよう。
帰ったら、印刷して写真立てに入れて、部屋に置いておこう。
いつでも、この瞬間を思い出せるように。
ああ、もう、どうしよう。
あまりにも嬉しくて。
舞い上がるほど幸せで。
今すぐ大声で泣きたくてたまらない。
「麗日さん、クレープ。お先に、どうぞ」
「あ、そっか……」
これ、食べるんだ。
夢が詰まった、大切な宝石のようで、食べるのがもったいない。
でも、手に感じる出来立ての温かさは、今しかない。
心底もったいないけど、食べるしかない。
「……じゃあ、先にもらうね」
デク君の眼差しに見守られながら。
一緒に買ったクレープに、ぱくり、とかぶりついた。
口に入れた瞬間、鼻の奥が、ツン、として、涙が零れそうになる。
喉の奥から嗚咽が漏れそうになったのを、必死に堪えた。
もう、さっきからずっと、言葉にできないくらい、胸がいっぱいで。
美味しい……。
すごく……すごく、美味しい。
ずっと夢見て、憧れて。
ずっと食べたかった。
デク君と半分このクレープ。
とっても甘くて。
ちょっと酸っぱくて。
どこか、ほろ苦で。
とろけるような、恋の味。
あんまりにも美味しすぎるから。
さっきから、嬉しい気持ちが身体中に溢れて、もうこれ以上は堪えきれなくて。
瞳に涙がふつふつと沸いてきていて。
もう無理だった。
「デ、デク君も食べなよ!」
顔も見ずにクレープを渡すと、勢いよくベンチを立つ。
「私ちょっと、お手洗い行ってくるから、待ってて!」
返事も待たずに駆けだした。
だって、もう、視界は涙でぐにゃぐにゃで、上を向いてないと、いまにも零れそうで。
まばたきをしたら、せっかく綺麗だって褒めてもらえたのに、メイクが流れてしまうから。
だから、デク君。
急にごめんね。
ちょっとだけ。
この嬉し涙を拭いてくるための、時間をください。
―――― to be continued