最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.463 また絶対に

※SIDE 緑谷

 

 

走り去る麗日さんの後ろ姿を見ながら、呆然とする。

 

一口だけ食べて渡されたクレープ。

……やっぱり嫌だったんだろうか。

 

ま、仕方ないか。

彼氏でもないのに、クレープ半分こ。

そりゃあ嫌に決まってる。

 

 

大きなため息をひとつ。

ざわつく心を落ち着かせる。

辛いのは僕じゃない、麗日さんだ。

一口でも食べてくれたことを感謝するべきだろう。

 

手渡されたクレープを食べながら、携帯を開いた。

 

少し上にスライドすると、さっき自分が送った、麗日さんとの写真。

 

なんか、僕と麗日さん、すごくいい顔してるな。

何も知らない人が見たら、仲睦まじい恋人同士にしか見えないんじゃないか。

これを皆に送ったのか。

……さすがに恥ずかしい。

 

 

みんなへのコメントどうしようか。

このクレープ食レポしなきゃ。

 

もぐもぐと食べながら、どう書くのがいいかと悩む。

砂藤君の参考になるようなコメントって、どう書けばいいかな。

 

そうしているとき、ふと、頭に浮かんだ思い付き。

 

この一緒にクレープ半分こした写真を、携帯の待ち受けにしたら?

麗日さんの、この眩しい笑顔を、毎日いつでも見られる。

 

 

心臓が、どくん、と跳ねた。

人に隠れて悪い事をしているような感覚。

 

いやいや……自分の携帯なんだし。

自分の携帯の待ち受けなんて、何にしても自由なわけだし。

恋人ではないかもしれないけど、大切な友達であることは間違いないわけだし。

別に誰にも責められる理由は無いわけだし。

 

やってもいいかな? いいよね?

いやでも万が一、誰かに見つかったら……

 

 

「あーーーーーっ!? デク君、食べすぎ!」

突然の声に驚いて顔をあげると、目の前に麗日さんがいた。

 

「え……あれ……?」

そうだ、お手洗いに行ってくると言っていた。

用が終われば戻ってくる。

なんだか逃げられたような気がしていたから、戻ってきてくれた事に驚いている自分がいた。

 

「もうっ! 私まだ一口しか食べてないんやよ!?」

半分ほどに減ってしまったクレープを指さされる。

 

 

「ずるいやん! 待っててよ! そんな美味しいの一人で食べて!」

「え? え?」

「私にも頂戴!」

ずいっ、と手を差し出される。

ワケも分からずクレープを渡した。

 

「あれ……? 麗日さん……いらなかったんじゃ?」

「何言うとんの? お手洗い行くから、待っててって言うたやん」

麗日さんは、隣に座ると、僕の歯形がついた、食べかけのクレープにかぶりついた。

 

……嫌じゃないの?

僕めっちゃ食べた後なんだけど。

逃げられたような気がしたのって、僕の気のせい?

 

 

もぐもぐと食べる麗日さん。

小動物のようにかぶりついている。

「ほら、やっぱり……めっちゃ美味しいやん……こんなの……ないやん」

眼を細めて、頬が赤く染まって、若干瞳が潤んでいる。

本当に、この上なく美味しそうで。

 

「……ねえ。あと全部、私が食べていいよね」

「あ、うん……いいけど……麗日さん、食べたかったの?」

「当たり前やん……ずっと、ずっと食べたかったんやもん……」

 

……そっか。

嫌がられたと思ったの、僕の勘違いか。

本当に麗日さん、食べたかったんだ。

 

僕と、クレープ半分こ。

 

 

 

頬を染めて、うっとりとして食べる麗日さんを見ていると、胸の奥が温かくなってくる。

なんだか本当に恋人同士になったようで。

こんな表情の麗日さんを見られるだけで、本当に幸せだって気持ちで満ちていく。

 

「……ねえ、デク君……?」

隣でクレープを食べながら、上目遣いで僕を見上げてくる麗日さん。

「その……デク君は……美味しかった? クレープ……」

さっきまで食べていたクレープの味を思い出す。

 

「あ、うん……たぶん」

「えっ!? たぶんって何!?」

「あああ、ごめん! 携帯触ってたから、ちゃんと味わってなくって」

「そ、そういうこと……むぅ……じゃあ、しょ、しょうがないな……最後の一口は譲ってあげよう」

 

 

「へ?」

麗日さんは包み紙を外して、

「これ絶対美味しいから。ほら、口あけて」

言われるがままに口を開ける。

 

「はいっ」

麗日さんが食べていたクレープ、最後の一口を、口の中に放り込まれる。

 

そのとき、麗日さんの指先が、僕の唇に触れた。

触れられた唇に、ぷに、という肉球の感触と、甘いむずかゆさが残る。

 

「どう? 美味しい?」

「……うん」

麗日さんに見つめられたまま、口の中のクレープを味わう。

 

 

 

その最後の一口は、とても甘くて。

胸の奥から、温かい幸福感が、じんわりと広がってくるようで。

さっき一人で食べたときは、全然分からなかった。

 

なんだこれ。

こんなの生まれて初めて食べた。

 

「……めっちゃくちゃ、美味しい。これ、また絶対に食べたい」

 

「ほら。やっぱり美味しかったやん」

 

麗日さんが満面の笑みを浮かべた。

陽の光を浴びて、花が咲いたような笑顔だった。

 

 

 

※SIDE 飯田

 

 

【元A組グループ】

 

デク

『ごめん、1個しか買えなかった』

 

 

緑谷君のコメントと共に、一枚の写真がアップされる。

 

「「「「「ぃぃぃよっっっっっしゃあああああああああ! クレープいったああああああああああ!」」」」」

本日一番の歓声が上がる。

あちこちでハイタッチが巻き起こった。

 

「なんだこの写真、今日イチじゃね!? 緑谷のやつ、腹立つくらい嬉しそうだな!」

「最初からやれやクソナードが! 手間かけさせやがって!」

「もうあいつら一生、砂藤に足向けて寝られねえぞ!? いや、バラせねえけどさ!?」

「何でもいいからって交渉して、最終的に全部買い占めたもんな、割り増しで!」

「金どうすんだ? スポンサーか? 俺らで割り勘か? ああもうこの際なんでもいいか!」

 

 

「お茶子ちゃん、すっごい嬉しそう……こんな顔初めて見たわ」

「ね!? やっっっばいよ、この笑顔! 超かわいい! 惚れるって!」

「あああんっ! お茶子ちゃん良かったねえ! なんか私、泣きそうなんだけど!」

「ここにプロポーズされました、って書かれたら、信じますわよ私!?」

 

みんなの歓声を聞きながら、僕も、目頭が熱くなる思いだった。

二人とも、喜んでくれただろうか?

いや、野暮なことは聞くまい。

この笑顔が、何よりの報告じゃないか。

 

 

「LINKのコメントどうする!?」

「味だけ! 味だけ聞こう! そんで終わり! 茶化すな! 余計な事は何も書くな!」

「ああああ、めっちゃなんか言ってやりてえ!」

「もう祝辞でも送りてえんだけど!? いや送れねえけどさぁ!」

「もうこのまま予定変更して、ここに式場創ろうぜ? 轟と八百万がいれば出来るだろ」

「式場ってどんなデザインだ?」

「ありがとう轟! 気持ちは一緒だけど、本当に作らなくていい!」

「いや待て! 来た! コメント来た!」

 

 

【元A組グループ】

 

デク

『うまく言えないけど、甘くてめっちゃ美味しかった』

ウラビティ

『すごく美味しかった! とろけた感じの味だったよ』

シュガーマン

『食レポありがとう。助かるよ』

インビジブルガール

『いいなー。私も今度食べてみたーい』

 

 

 

「そりゃクソ美味ぇだろうなあ!? 緑谷オイこら!」

「すっとぼけてコメント返したけどバレねえかな? 何の食レポにもなってねえもん」

「大丈夫だ、たぶん緑谷なら気付かねえ!」

「ねぇっ!? とろける味って何!? 何!? とろけてるのクレープじゃなくない!?」

「ああんっ、もう! なにこれ!? めっちゃ彼氏ほしくなるぅ!」

 

止むことのないクラスメイトの歓声を聞きながら、やって良かった、という充足感に満ちていく。

 

だがまだだぞ、緑谷君、麗日君。

まだ今日は終わっていない。

更に、いい思い出を作ってくれ。

 

 

―――― to be continued

 

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