最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 緑谷
クレープを食べ終えたところで、宿に向かって歩き出した。
坂を下り、橋を通って、もう一度飛騨川を渡る。
そのまま歩くと、ちょうど最初に休憩した、お土産屋さんに差し掛かった。
「さっきは私が休憩しただけで、中には入らなかったったけど……せっかくだから見ていく?」
「そうだね、時間あるし。この辺のお土産ってどんな物があるか気になるよね」
お土産は明日買えばいいかと思いつつも、店内を見てみたい気分だった。
店内に入ると、土産物としてのお菓子、漬物、置物などが並んでいた。少し変わったものといえば、風鈴なんかもある。
「デク君、ここお菓子の試食できるね」
「どうする? 今買っちゃった方がいいかな?」
「戻ってキャリーケースに入れちゃえば帰る時に楽やし、いま買っちゃおうか」
「そうだね。試食できるし、ここで選んじゃおう」
雄英の教職員と、実家と……頭の中で必要な数を考える。
漬物は冷蔵が難しいし、無難にお菓子でいいだろう。
二人で試食しながら、どれがいいかを選んでいく。
だいたい選んだところで、面白いものを見つけた。
「ねえ麗日さん、これ見て」
ひとつを手に取って見せる。
「なにこれ。ご当地オールマイトやん」
「そう。面白くない?」
カエルの着ぐるみを着た、ご当地バージョンのオールマイトだ。
温泉地だからか、湯浴みタオルを頭に載せてあり、タオルには【下呂】と刻印されている。
デフォルメされて非常に愛嬌があるデザインになっている。
オールマイトのグッズは色々と持っているが、こういった全国各地のご当地アイテムまでは、さすがに集めきれるものでもない。
当然これは持っていなかった。
オールマイト以外にも、エンデヴァー、ベストジーニスト、翼のあったころのホークスといった、有名どころが並んでいる。
「デク君、デク君。これ見て」
麗日さんが指したのは、A組のみんなのキャラクターだ。その内容に自然と笑いが零れる。
「ダイナマイト……目つき悪いよかっちゃん。梅雨ちゃんは着ぐるみ着てないね。個性カエルだからかな」
元A組のみんなも、今や立派な有名ヒーローだ。こうした商品も展開されていた。
「ショートはカッコいい感じにしてあるんやね。やばい、テンタコルめっちゃ可愛えぇ」
「インゲニウムとかすっごいカッコいいよ、ロボっぽくて。うわ、ファントムシーフはカエルの執事にしか見えない」
一緒に声を上げて爆笑したかったが、店の中だから、堪えるのに必死だった。
ようやく笑いの波が引いてきた頃、真面目に買うかどうかを考えだした。
普通のぬいぐるみやストラップなどはどこでも買える。
しかし、こういったご当地商品はそうはいかない。普段手に入らないし、その場所でしか買えないから、価値がある。
「気持ちだけなら、全部ほしいけど……集め出したらキリがないしなあ」
「コレクションしたいんじゃなくて、旅行の想い出だもんね」
「うん……でも、いざ選ぶとなると難しいな」
「だよね。すごく分かる」
今日この地に来れたのも、本当に偶然だ。
全部は無理でも、どれか一つくらいは買って帰りたい気がする。
(皆特別は、誰も特別じゃねぇンだってよ)
先日の幼馴染の言葉が蘇る。
「……これがいいかな」
しばし逡巡して、『ウラビティ』を手に取った。
カエルの被り物をしてデフォルメされたデザインで、とても可愛らしい。
「私!? どうして? デク君、オールマイトじゃなくていいの?」
「だって、今日ずっと一緒に回ってるから。一緒に歩いた思い出になるかなって。なんか急に来れない人多かったし、余計に。あ、だからインゲニウムとかは、後で飯田君が合流できたら、明日またここで買ってもいいし……ああでも、麗日さんが嫌なら、他のにするけど」
「ううん、嫌じゃない!」
とっさに麗日さんに手をとられ、キーホルダ―を握らせられた。
これを買ってくれとお願いされているようにすら感じる。
「じゃ、じゃあ……僕はこれで。麗日さんは?」
「私は……そうだなあ……」
麗日さんはなにを選ぶだろう?
自分のものを選んでほしい気持ちはあるものの、悲しいかな、そもそも『デク』のご当地キーホルダーは無い。
あの大戦で僕も有名になったとはいえ、あの頃は仮免だったし、ヒーロー活動に復帰したのも、アーマーが出来てから。つい最近だ。
僕のグッズも一般的なものはいくつか存在するけど、こんなご当地商品まで作られてないのは当然といえる。
そもそも、こんなの無理に買うモノでもないし。
麗日さんは何も選ばない可能性もある。
口元に人差し指をもってきて、んー、と目線を動かしている麗日さん。
こんな仕草も可愛いな、と思ってしまう。
「じゃあ、私はこれにしようかな」
麗日さんが選んだのは、僕が最初に手に取った『オールマイト』だった。
「あれ? 麗日さん、オールマイトでいいの?」
「うん」
もちろん嫌いなわけでないだろう。
雄英でも指導してもらったし、好きなヒーローの一人だと思う。
けど、特別好きだという印象も無い。
仲のいい『フロッピー』やA組で一番チャートの高い『ショート』、それこそ自分の『ウラビティ』もある。
わざわざ『オールマイト』を選ぶ理由が思い当たらない。
「だってこれが一番、デク君のこと思い出せそうやし」
にっこりと微笑む麗日さん。
今日一日かけて慣れたはずなのに、心臓がまた、どきっ、とした。
「僕のことを、思い出す……ため?」
「え……あれ……?」
瞬間的に、ボンっと音が鳴るような勢いで、真っ赤になる麗日さん。
「あ、えと、あのね!? 私だって、今日のこと思い出したいし!? だったら一緒に歩いたし、デク君かなって思うけど、デク君のやつ無いやん!? 私がウラビティを買うのもなんか違うし!? って思ったら、デク君に一番近いのって、やっぱりオールマイトなんかなあ、って思って!」
「あ……う、うん! そうだよね、分かるよ、分かってるよ! ありがとう!」
何故か二人して焦ってしまう。
落ち着いたら、なんだか可笑しくて、笑いあい、一緒にお会計をした。
お土産のお菓子と一緒に買った、旅先の、どこにでもある安物。
それでも、何かとても大切な宝物かのように思えて。
優しくそっと、鞄に仕舞ったのだった。
―――― to be continued