最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.465 一番早いのは誰?

※SIDE 緑谷

 

 

今日の宿は、少し坂を上ったところにある。

駅前で宿のマイクロバスに乗ってもいいけど、何となく歩いていこう、という話になった。

実際、そこまで遠い距離でもない。

何より……もう少し、この手を繋いでいたかった。

 

坂を上って宿への道を歩いていると、眼下に、別のホテルの中庭が見えた。

そこに人が集まっている。

 

スーツ姿の人が大勢いる。

その中心には、羽織袴と白無垢を着た二人。

和装の結婚式だ。

 

もう式も終わったのだろうか。

入れ替わり立ち代わり、記念撮影をしているようだ。

 

 

「いいなあ……」

隣にいる麗日さんが、ぽつりと零した。

その視線は、憧れをもって、新郎新婦の晴れ姿に向けられている。

 

「結婚式が?」

「だって、みんな笑顔でいるんだよ……新郎新婦も、周りの人たちも」

「そういえば、麗日さんは、周りの人の笑顔を見るのが好きなんだっけ」

「うん……みんな笑ってて。祝福されて……みんな、すっごく、幸せそう……」

 

 

「最近は結婚式しない人も多いっていうけど、やっぱり挙げたいよね」

「うん。私は結婚式したいなあ。人のに参列するのもだし、自分の式もやりたいって思う」

ふと気になった。

麗日さんは、どんなのが似合うんだろう。

普通のウエディングドレス? それとも和風の白無垢?

 

「麗日さん、着るとしたら、やっぱりドレス? それとも和装?」

「ん~……どっちかで選ぶなら、やっぱりドレスの方がいいかなあ。何となくやけど。こうして見ると、和装も良さそうだなあって思うけどね」

「確かに、麗日さん、ドレス似合いそうだよね」

「そうかな?」

「うん。今日の服、その白い上着もピンクのスカートも、すごい似合ってるし。なんか、ドレス着た時のイメージが湧くっていうか」

「お……おぉぅ。えへへ、ありがとう……デク君はどっちが似合うかなあ」

 

 

「僕? 考えた事ないや」

「じゃあ、自分が着るなら、どっちがいい? 羽織袴か、タキシードか」

どっちがいいだろう?

頭の中に二つ並べてみるが、決められない。

 

「う~ん……僕の場合は、本当にどっちでもいいなあ。花嫁さんの希望に合わせたいかも」

「花嫁さんも、どっちでもいい、って言ったら?」

「ええ~、その場合どうするかな……あ~でもそれなら、花嫁さんが着た時に綺麗な方、って決めるかもしれない」

「へ~、優しんだ」

「いや、こだわりが無いだけっていうか。僕は本当にどっちでもいいし。やっぱり、結婚式って、女性が主役っていうイメージあるから」

「ブーケトスとかするのも、花嫁さんだもんね」

「そういえば、ブーケトスって和装だと無いよね? いや、最近はあるのかな?」

「ブーケトス、どうせなら、やってみたいなあ」

「確かに、ブーケトスあった方が楽しそうだよね」

 

 

「ね。もし私が投げたら、誰がキャッチしてくれるんだろ」

「麗日さん、誰呼ぶの?」

「やっぱりA組の皆は呼びたいかな。B組の子も呼びたいし。他にもお世話になってるヒーロー仲間なんかも」

「結構人数が集まりそうだし、取りに行く人は多そうだけど。実際誰がキャッチするかなあ」

「みんな運動神経いいし、落とすことは無さそうだけど。やってみるまで分かんないね」

「誰に向かって投げたいとかある?」

「そんなの無いよ。誰かが受け取ってくれたら、それだけで嬉しいかな」

 

 

「じゃあ、人の結婚式だったら、キャッチして受け取りたい?」

「ん~……どうなんだろ。でもどうせなら、手に持ってみたいかも」

「あれ? でもブーケトス受け取るのって未婚の人だけだよね?」

「そうとは限らないらしいけど、一般的には未婚の人が受け取るイメージがあるよね」

「なら、麗日さんが受け取るなら、他の人が先に結婚しないとか。誰が結婚するかなあ」

「え~、誰だろう……私を式に招待してくれて、結婚しそうな人だよね」

 

 

「呼んでくれるとなると、やっぱり元A組の皆とかが可能性高いんじゃないかな」

「そうなると誰だろう……響香ちゃんか百ちゃんかなあ」

「ああ、耳郎さんは何か分かるかも。上鳴君と事務所が隣なんだっけ」

「そうそう! 響香ちゃん、いつも違う違うって否定するけど、絶対何かあるって! 上鳴くんともずっと仲いいし」

「確かに学生時代から、耳郎さんと一番仲よかったのって、上鳴君だったかも」

「ね。そのうち、いきなり結婚しそうだよね~」

「元A組で一番結婚しそうなのって、確かにあの二人な気がするなあ」

「うん、絶対そうだと思う」

 

 

「八百万さんも何かあるの? いま名前上がってたけど」

「ご家族とか親戚から、お見合いの話が結構来てるんだって。断ってるっていう話だけど、もしかしたらあるかなあ、って」

「なるほどなあ。じゃあ、耳郎さんと八百万さんが候補か」

「そうだね。私が先に結婚しなければ、あの二人が有力候補かな」

 

「でもさ、A組の皆って、まだみんな未婚なんだよね。20代半ばだし、そろそろ身を固める人が出てきてもいいんだけど」

「そうだよね。誰かいきなり結婚しそう」

「誰が一番最初に結婚すると思う?」

「ええ~、誰だろう? 響香ちゃんな気がするけど」

「でもあの二人は、案外あのままな関係が続きそうな気もするなあ」

「それはあるよね。でもそうなると誰だろう、全然分かんない」

 

 

「男子だと誰かなあ?」

「ええ~……飯田君とか良い人見つかったら、ちゃんと結婚まで進みそうだなあ。かっちゃんとか、いきなり結婚しそう」

「あ~でも飯田君はすっごい分かる気がする。結婚願望ある女性からすると、すごい理想の男性って感じするよね」

「あとは誰だろう……みんな良い人が見つかれば結婚しそうだし、そうじゃなきゃ、しなさそうでもあるんだよなあ」

元クラスメイトの顔を思い浮かべる。

 

 

「案外、麗日さんが一番早かったりして」

「そうかなあ。だってわた……し、は………………」

急に会話の流れが途切れた。

「ん? どうしたの? 麗日さんは――――」

好きな人、いるの?

首を隣に向けたときに、その一言を出せず、固まった。

 

真っ赤になって黙ったまま、僕を見上げている麗日さん。

 

その姿を見た瞬間に、我に返った。

手に伝わる温もりが、急に存在感を増して、いま誰と手を繋いでいるかを主張してくる。

 

固まってよかった。

会話の流れのまま、とんでもない事を聞いてしまうところだった。

好きな人がいる、って答えられたらどうするつもりだ。

 

 

っていうか、なんでこんな話してるんだ?

ブーケトスとか、結婚式に誰を呼ぶとか、何着るとか。

手を繋いだまま。

 

隣に音が聞こえるんじゃないかってくらい、心臓がバクバクしてくる。

さっきまでの和やかな空気はどこへやら、いま僕らの空気は完全に凍り付いていた。

 

やばい、どうしよう。

この空気は……まずい。

駅前で合流した直後と同じ、何も話せない空気。

直前まで話していた内容が内容だから、あの時より、やばい。

 

 

今すぐ走って逃げ出したいような気分だ。

でも手を繋いでるからそれも出来ない。

そういえばさっき、クレープ半分こしたんだよ。

一番特別な人と、この子と、クレープを、麗日さんと……

 

いやいやいや、マズいって。

よく考えたら何やってるんだ。

手を繋いで、クレープ半分こして……これもう、やってることが完全に恋人同士じゃないか。

そういえば小さい子供を眺めて子供何人欲しいみたいな話もしたし、いま結婚式の話してるし、いや本当にちょっと待って、何だこれ。

 

何でそんな話が自然に出てくるんだよ。

 

 

「あ……あっははは……ごごご、ごめんね、デク君」

「え?」

麗日さんが、他所に目線だけ移しながら、空いた片手で髪をくしくしといじっている。

 

「あの。えっと。私が。けっけけ、結婚式がどうの、なんて話したから……なんか、あの……なんか、変な感じになっちゃって……!」

「あ……あああ、いやいやいやいや! ごめん、僕も同じ話してたし! 麗日さんが謝ることじゃないっていうか!」

「へ、変な意味やないからっ! 世間話、世間話だよね!」

「大丈夫! 分かってる! 世間話! 大丈夫だから! 僕の方こそごめん!」

 

 

お互いに謝りあって、ようやく再び歩き出せた。

 

「あー、あはは……私、へ、変な話、しちゃったなあ」

「いや、それはもう、たまたま結婚式してる人、見ちゃったせいだし……」

「はは……ははは……え、えーと……今日、晴れてよかったよね……」

「うん、ほんとに……ずっといい天気で助かった……」

「ね、ね~。雨降ったら、食べ歩き、出来なかったもんね……」

「そうだよね。いろいろ美味しかったし……あー……晴れて良かったなあ……」

 

 

二人で、手を繋いで、宿への道を歩く。

お互いに、相手の顔を見ることが出来なくて。

今日一番、何を話せばいいかが、分からなくて。

何故かすごく、繋いだ手が熱くって、誰の手かを意識してしまって。

 

麗日さんは、誰が好きなんだろう。

誰と結婚するんだろう。

ウエディングドレスを着た麗日さんは、どれだけ綺麗なんだろう。

 

そのとき、隣にいるのが……僕だったらいいのに。

 

麗日さんと手を繋いで歩く、宿への坂道。

ただ宿へ向かうその道が、どこか、違う世界に続いてるように感じられた。

 

 

―――― to be continued

 

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