最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.466 ひとりぼっちの二人

※SIDE 緑谷

 

 

宿に到着し、みんなに連絡した。

先にチェックインを済ませてくれという事だったので、お言葉に甘えることにする。

フロントで、麗日さんと、それぞれチェックインの手続きを行う。

預けていたキャリーケースも渡してもらえた。

 

実は、少々勘ぐってしまっていた。

まさか一部屋じゃないよな……と。

みんなで僕と麗日さんを、からかっているのではないか、と。

 

でも部屋は、ちゃんと男性と女性で一部屋ずつ分かれていた。

僕の前に鍵が置かれ、隣で麗日さんも鍵を受け取っている。

 

 

フロントの人に、同室の飯田君がまだ来ていないことを確認され、後から来るという旨を伝える。

隣で麗日さんが、梅雨ちゃんと芦戸さんの予定について話している。

もう疑いようがない、ちゃんと飯田君たち、みんなの予約も入っていたんだ。

少しでもクラスメイトを疑ってしまった事を、申し訳なく思った。

 

「ところで、お食事はお部屋でお召し上がりいただくのですが、皆さん一緒にお召し上がりと伺っております。緑谷様と飯田様のお部屋に運ばせていただきますが、宜しかったですか」

「はい、よろしくお願いします」

せっかく集まるのだ。みんな一緒に食べた方が良いに決まっている。

最初は宴会場だと聞いていたことを思えば、随分こじんまりしてしまったけど。

男部屋でいいのかと一瞬思ったが、女性の部屋に入り浸るのも憚られた。

 

 

「じゃあ麗日さん、また後で」

「うん、荷物置いたら、そっちの部屋に行くね。何号室?」

「ここだよ。麗日さんは?」

「ほい。こちらです」

お互いにキーを見せあうと、同じ階だった。番号も近そうだ。

考えてみれば、一緒に食事をするんだし、部屋を近くするのは当然か。

 

「同じ階だし、一緒に行こうか」

「そうだね」

エレベーターに乗り、客室に向かう。

部屋番号の書かれたプレートを頼りに進むと、お互いの部屋は、ちょうど廊下を挟んで向かい合わせだった。

 

「じゃあデク君、荷物置いたらそっち行くね」

「うん、分かった」

 

 

部屋に入ると、落ち着いた和室の部屋だった。

奥の寝室と、手前の居間との二間に分かれており、既に寝室には布団が敷かれている。

疲れた人はそのまま休めるようになっているのだろう、二間あるからこそできる準備だ。

布団はきちんと二枚。自分と、飯田君の分だ。

三枚無いところをみると、かっちゃんのキャンセルは準備をする前に間に合ったのだろうか。

 

一般的な旅館の和室は一部屋一間だと思う。

襖があり、二間ある部屋は、かなり豪華なイメージがある。これは色々と手配してくれた飯田君に感謝しないと。

窓の外には、今日歩いてきた街並みと、遠くに景観のいい山々の景色が広がっていた。

窓を開ければ心地よい風が吹き込むだろう。

 

 

荷物を置いて一息つく。16時を過ぎたところだった。

駅を降りてから、まだほんの少ししか経っていないような気がしている

電車で移動し、およそ半日、街中を歩いた。

多少は疲れているはずなのに、疲労も一切感じていない。

 

ふと、左手を見る。

麗日さんとずっと繋いでいた手。

まだその手の温もりが残っている。

今日一日のことを思い出す。

 

 

一緒に歩いた道。

一緒に入った足湯。

一緒に食べた食事。

一緒に選んだお土産

そして、一緒に半分こしてくれたクレープ。

 

ずっと隣で、眩しいほどの笑顔を見せてもらった。

時折いい匂いがして、心を落ち着けるのに必死だった。

会話の度に耳を揺らす声音が、風鈴のように素敵だった。

 

本当に……夢みたいに、最高の時間だった。

 

 

 

ふと、やりたかったことを思い出す。

携帯を取り出し、壁紙の設定画面を開く。

 

さっき撮った写真。

クレープを中心に置いた、麗日さんとのツーショット。

最高に素敵な麗日さんの笑顔。

それを設定する。

これでよし。

いつでもこの笑顔が手元で見られる。

 

「ねえ、デクくん?」

「ぉぅうわぁ!?」

突然声をかけられて、文字通りひっくり返った。

いつの間にか麗日さんが部屋に入っていた。

おそらく部屋に入る前に声をかけてくれたのだろうが、全く気付かなかった。

 

 

「ご、ごめん……そんな驚くと思わんくて」

「いや、僕の方こそ。考え事してて……ごめんね」

あまりの驚きに、心臓が早鐘を打っている。

ついさっきまで手を繋いで歩いていたのだと思うと、妙に緊張して仕方がない。

携帯の画面見られてないよね……?

 

「ねえデク君、LINK見た?」

「え?」

そういえば通知が入っていたけど、壁紙の変更を優先していて確認していない。

皆の予定はどうなったのだろうか。

 

 

 

 

【元A組グループ】

 

飯田天哉

『すまない。ヒーロー協会から急な呼び出しがあって行けなくなった。キャンセルの連絡は宿に入れておいたよ』

 

 

「えええええええ!?」

来るはずの男性メンバー、最後の一人が消えた。

ちょっと待ってくれ、という気持ちが沸き上がる。

 

 

【元A組グループ】

 

デク

『嘘でしょ? 飯田君が企画してくれた旅行なのに!』

飯田天哉

『本当に申し訳ない。埋め合わせは必ずさせてもらうよ』

セロファン

『仕事入っちまったか。まあ仕方ないよな』

デク

『そうだよね、無理言ってごめん。お仕事頑張ってね』

 

 

 

「……はぁ。一人ぼっちかあ」

断腸の思いでコメントしたが、残念な気持ちは変わらない。

これで今日、この部屋で寝るのは自分一人だ。

途端に寂しさが押し寄せる。

今日は修学旅行みたいに、みんなで布団に入って、意識が落ちるまで話そうと思っていたのに。

せめて今日来る予定だった、かっちゃんと飯田君と話したかった。

 

「みんなと話しながら夜更かししたかったな……飯田君だけでも来てくれたら……」

項垂れていると、更にLINKの通知音が鳴った。

 

 

 

【元A組グループ】

 

梅雨ちゃん

『ごめんなさい。いま呼び出しが掛かってきたの。私も次の駅で、帰りの電車に乗り換えてとんぼ返りするわ』

Pinky

『こちらも小森ちゃんから応援要請あり! ごめんね!』

ウラビティ

『うそでしょ!?』

デク

『こんな事ある!?』

烈怒頼雄斗

『急な出動はヒーローあるあるだ、どうしようもねえよ』

Pinky

『私も行きたかったー! 皆、気持ちは一緒だよ。お土産話よろしく!』

 

 

 

隣の麗日さんに視線を移す。

「あはは……私も一人ぼっちだ。夜は女の子トークしたかったな」

とても残念そうだ、すごく寂しそうに見える。

 

これではお互い、一人暮らしのアパートと変わらない。

風情のいい旅館も、急に色褪せてしまったように感じられた。

 

とはいえ麗日さんに、じゃあこの部屋で一緒に、なんて事は口が裂けても言えない。

もちろん何かするつもりなど毛頭無いのだが、そんな提案をすること自体が、非常識極まりないような気がしてならない。

 

 

「あ、そうだ。デク君。食事ってこっちの部屋だよね。こっちの方が景色良くていいね」

「そうなの?」

「うん。ちょっと見てみる?」

そう言われると気になる。向かいの部屋に行って見せてもらう事にした。

入るときに、女子の部屋だよな……と少し躊躇ったが、今は誰もいないし、普段は男女関係なく様々な人が泊まっている。

別に窓の外を見るだけなのだし、気にせずお邪魔することにした。

 

少々緊張して入ったが、部屋の隅にぽつんと麗日さんの荷物が置かれているだけで、自分のいる部屋とレイアウトは一緒だった。

奥の寝室には布団が三枚敷かれている。

 

 

ただ、窓の外の景観はそれほどでもない。

すぐ正面が、山壁が全面にそびえ立っており、木々が茂っている。

圧迫感がある、とまでは言わないが、遠くが見えないという意味で、どこか閉塞感を感じた。

先ほどまで自分がいた部屋の景観を見てしまったから、尚更そう感じる。

 

「これは……確かに僕の部屋の方が景色良いね」

「でしょ? これはちょっと残念やね」

「……もし良かったら、部屋替わろうか?」

どうせ誰もいないし、まだ部屋に入っただけで、何も使っていない。荷物だけ移せば、部屋を交換するのはすぐ終わる。

麗日さんに少しでもいい景色を楽しんでほしかった。

 

「ええよ、そんな。どうせ食事はそっちで楽しめるんやし。ご飯食べ終わったら、日も落ちて外真っ暗だろうし」

とりあえず戻ろう、という事で、先程までいた、自分の部屋に移る。

 

 

窓際、広縁の座椅子に、二人で向かい合うように腰かける。

何となく、二人で外の街並みに目を向けていた。

 

道行く人々。浴衣姿の人もいる。

子供連れの家族が楽しそうに歩いているのが印象的だ。

パトロールをしているヒーローや警官の姿もあった。

 

「本当に、いいところだよ……みんな来れればなあ」

「そうだよねえ。ほんと、それだけは残念やったね」

のどかで落ち着いた時間を楽しみながら、残念な気持ちが募る。

 

 

 

しばらく二人で他愛のない会話を続けていると、部屋の備え付け電話が鳴った。

 

「なんだろう。ちょっと待ってて」

麗日さんを広縁に残し、電話を取る。

「はい、もしもし?」

『お休みのところ失礼いたします。フロントの者ですが』

「はい、なんでしょうか?」

『お夕飯は皆さまお揃いになってから、というお話しでしたが、先程お連れ様が全員キャンセルとなってしまったようでしたので』

「ああっ、そうか、そうですね、はい。すみません、ご連絡してなくて」

『いえ、大丈夫でございます。それで、改めてお夕飯のお時間についてなのですが。先にご入浴されるお時間もあるでしょうから、だいたい何時くらいからスタートが宜しいでしょうか?』

 

 

「あ、先にお風呂入った方がいいですか?」

『基本的にはお客様の自由ですので、どちらでも構わないのですが……ただ、お食事後にそのままお休みになられる方も多いので、先にご入浴いただく方がよろしいかと』

確かに、食べてから動くのは億劫かもしれない。

そのまま寝てしまって、せっかくの温泉を堪能できなかったら勿体ない。

先にお風呂を済ませてしまう方が良い気がする。

食後に入りたかったら、また入ればいいわけだし。

「あ~……ちょっと待ってもらっていいですか?」

 

 

受話器に手を当て、麗日さんに伺いをたてる。

「麗日さん、ちょっといい?」

「どうしたん? 宿の人だよね?」

「そう、フロントから。食事の時間なんだけど、お風呂入った後の方がいいよね?」

「あ、そっか……うん、そうだね、先にお風呂済ませちゃおうか」

「食事の時間どうする? 18時くらいから用意してもらう感じで、その前にお風呂行ってこようか」

「うん、そうしようよ。時間的に丁度いいよね」

 

宿の人に時間を伝え、受話器を降ろす。

「じゃあ、お風呂行こうか。18時集合ということで」

「そうだね、折角の温泉だし。日本三大名泉を堪能してこよう」

 

二人で気を取り直し、お風呂に向かう事にする。

麗日さんも準備のため、部屋を後にした。

 

 

タオルを用意し、浴衣に着替えながら、思考を切り替える。

 

確かにみんな来れなくなってしまった。

でも逆に考えてみれば、麗日さんまでキャンセルにならずに済んだ。

本当に一人で取り残されたら目も当てられないところだった。

 

今日一日、嫌な顔一つせず、ずっと一緒にいてくれた麗日さん。

おかげで本当に楽しかった。

この旅行が楽しめているのは、全部麗日さんのおかげだといっても過言じゃない。

 

彼女の信頼に応えなければならない。

間違っても、決して変なことはしまいと心に誓い、部屋を後にした。

 

 

 

 

※SIDE 麗日

 

 

デク君の部屋を後にし、向かいの女子部屋に戻って、入浴の準備をする。

先に浴衣に着替えた方が楽だと思い、服を脱ぎ、下着の上に浴衣を羽織った。

 

キャリーケースを開け、着ていた服を仕舞い、スパバッグを取り出す。

部屋に置いてあったタオルとバスタオル。持ってきた化粧落とし、化粧水と乳液、メイク用品などを入れていく。

 

ふと、キャリーバッグの隅に、勝負下着の小分け袋が目についた。

絶対に持ってきて、と念押しされ、しぶしぶ持参していたものだ。

 

夜の女子会のときに着て、みんなにお披露目会して。

お喋りして盛り上がって。

そうして、先日服を買ってくれたときのお礼を伝えて……

今夜はそうやって楽しむものだと思っていた。

 

 

 

結局使うこともなかった。

女の子同士で話したかったな。

 

本当に仕方ないけど、こういうこともある。

みんなお仕事を頑張っているんだ。

 

デパートで買った普通の下着をスパバッグに入れて、キャリーケースを閉じる。

少し残念な気持ちを残しつつ、部屋を後にした。

 

 

―――― to be continued

 

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