最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 緑谷
とても美味しい夕飯だった。
どれを食べても絶品だ。
ラッコも初めて食べたけど、とても美味しかった。
もっと獣臭いかと思ったけど、全然そんな事もなかった。
ラッコがそういうものなのか、料理人さんの下拵えが上手いのかは分からないけど。
食事中、目の前に座る麗日さんに、何度も目を奪われる。
お風呂上りで化粧も落としてサッパリしているはずなのに、昼間に勝るとも劣らず素敵だと思う。
髪の隙間にのぞく首元。
浴衣の袖からのびる腕。
風呂上りに上気した肌が、浴衣の隙間から覗いている。
意識してはいけないと思いつつも、下腹部に血液が集まっていく。
机があって良かった。さすがにこんな姿を見せるわけにはいかない。
生理現象なのだからどうしようもないのだが、何故今日はこんなにも……
食事に集中して、会話を楽しんでいると、次第に股間も落ち着いていった。
そうだ。意識しすぎるな。
食事が終われば、麗日さんは部屋に戻る。
この時間を大事にするなら、平常心でいなければ。
食事が済んだ頃、仲居さん達がやってきた。
料理を下げてくれている最中、この後どうしようかと試案していた。
この後、麗日さんは部屋に戻る。
名残惜しいが、片付けが済んだらお開きだ。いや、少しくらいは話してもいいかもしれない。
ただ、男のいる部屋に長居させるわけにもいかないから、程度が大事だろう。
そんな事を考えながら、食器が下げられているのを眺めていた、そのときだった。
全く予想していなかった、太鼓を叩いたような重い音が、窓の外から聞こえた。
聞き間違いかと耳を澄ませた次の瞬間、何かが弾けたような、大きな音が続いた。
瞬時に全身が総毛立った。
麗日さんと一瞬だけ視線を交わし、まさか、と二人で窓に駆け寄る。
浴衣がズレることを気にしていた麗日さんも、そんな事はお構いなしだ。
事件か、事故か。いずれにせよ何か起きたのでは?
今日は街中にヒーローが多かったが、どうなっているのか。
二人で外を見回す。
日が落ちて薄暗い街並み。もうすっかり夜の景色だ。
周囲の建物はそのままだ、火の気もない。怪我人の姿もない。
一見すると何もない。
いや、道行く人が、足を止めて、同じ方を向いている。
何がある?
同じように顔を向ける。
小高い丘のような山稜があるだけだ。
山々には夜の闇が落ちて、山稜は黒いシルエットしか見えない。
あの方向から音がしたのか?
丘の向こうから、小さな光が昇った。
白い光が尾を引きながら、ゆらゆらと空に向かっていく。
あれはなんだ?
白い光が、ふっと消えた。
消えた? どこに行った?
そう思った、次の瞬間。
大きな炸裂音と共に、夜空に眩い光を放つ、大輪の花が咲いた。
※SIDE 飯田
「部屋の位置的に、見えているはずだよな」
上鳴君の言葉に、上がった花火の位置を確認し、旅館のある方角に目を向ける。
「さすがにあの丘よりは高く上がる。宿との間に障害物はない。必ず見えているはずだ」
今日一日、携帯の画面越しではあったが、様々なアシストをしてきた。
みんなの機転の高さには驚かされた。
だが、携帯の連絡だけならば、わざわざ僕らが岐阜県までやってくる理由は無い。
今日ここに、こうして集まっている最大の理由が、まさにこれだった。
「スケジュール的には、ご飯が終わって片付けが行われている時間かと。丁度いい時間のはずです」
「ほんとに見えてるかな?」
「さっき本部から確認の連絡が来たよ。向こうの温泉地側からも、ちゃんと見えてる。大丈夫」
「部屋の位置関係的には、緑谷ちゃんのいる部屋でご飯を食べているはずよね。宿としてはそっちオススメという事にしていたし」
「わざわざ景観の悪い部屋に変更する人はいないでしょうし、おそらく大丈夫ですわ」
「この花火が、少しでも二人の想い出作りに寄与できれば嬉しいが」
本心だった。
二人に幸せになってほしいと思った。
仲良くなりたいけれど、どうすればいいか分からないと……そう悩んでいた緑谷君の顔が浮かぶ。
今日のデートは楽しんでくれただろうか。
二人の大切な思い出になっていれば、これに勝る幸せは無い。
かつてステインと対峙した時の事を思い出す。命がけで助けてくれた緑谷君の姿。
あれを機に自分は変われたのだと思う。
どれだけ時が経とうと、どれだけ礼を尽くそうと、彼への感謝が絶えることは無い。
二人にとって一番大切な人と、素敵な思い出を作ってほしい。
そのために、皆で協力して、この日のために様々な準備をした。
大勢の人に協力を依頼した。
この地で絶対に事件が起こらないよう、警官やヒーローを集めた。検問も行った。
グループLINKで毎日相談し、周到に計画した。
そして、これが最後の大仕掛け。
暗い夜空を照らす、灼熱に輝く大輪の花。
平和でなければ打ち上げることが出来ないもの。
そういう意味では、この花火は、平和の象徴といえるだろう。
「あ~、もう一回温泉入りたかったなあ」
「俺達は昨日入ったじゃねえか。これが終わったら解散だ」
「大部屋で最後の作戦会議して、楽しかったよな」
「何が作戦会議だ、ほとんど飲み会だったじゃねえか」
「いいじゃねえか爆豪。お前が一番美味そうに飲んでたろ」
「うっせえ、触れんな」
「……あいつら、今日どっかで告白出来たかなあ」
「そうなってくれれば嬉しいけど、さすがに一日じゃ無理じゃない?」
「一日の最後に花火見ながら告白って、やっぱ難しいかなあ」
「決議取った中では一番いいんじゃないか、って話だったけど」
「まあ、私らが何やったとしても、最終的には二人の問題だしね」
「ケロ。そうね。どっちにしろ、楽しんでくれればいいわ」
「告白は出来なくても、どこかで次のデートの約束さえ取り付けてくれれば、今回の作戦は上出来だよな」
「ああ、それさえ達成できれば十分だ。あの二人なら、後は自然と上手くいくだろう」
僕らが用意できたのは、それほど凄い花火じゃない。
どれだけ協力があったってお金には限りがあるし、花火は高価だ。
スイッチ一つで点火するような仕掛けはない、手動着火だ。
玉の大きさだって川幅の制限があって、それほど大きくない。
着火位置が見せられないために、低い位置での演出も出来ない。
ただ打ち上げるだけ、と言えば、それまでだ。
それでも何とか頑張って、およそ一時間ほど打ち上げ続けられるだけの量を集めた。
何とか単調にならず、飽きないように。
可能な限り、種類も演出レパートリーも考えた。専門家に相談もした。
今日という日の締めくくりに、僕達から渡せる、最後の贈り物。
部屋から見ているのだろうか。音だけでも聞こえているだろうか。
緑谷君と麗日君の、初めてのデート。
二人が共に望んでいた時間。
でも、お互いに多忙で……何よりも、奥手で。
相手を尊重しているからこそ、少しの我儘も口にできない二人。
遊びに行こう、とすら言い出せない二人。
誰よりも優しい二人であるがために、ずっと叶わなかった、二人だけの時間。
ならば僕らが、その時間を作ってみせようじゃないか。
みんなで旅行という方便。嘘で騙したのは間違いない。
二人の他に誰も来なかったことで、残念な思いをさせてしまったかもしれない。
その非難は甘んじて受けよう。
それでも、二人には仲を深め、どうか素敵な思い出を作ってほしかった。
余計なお節介、と笑われるだろうか。
だが、他ならぬ彼が教えてくれた事だ。
「余計なお節介ってやつは、ヒーローの本質なんだろ?」
夜空に向かって、ぽつりと呟く。
打ち上げられる花火の音で、誰にも聞こえない独り言。
人の恋路への干渉など、最初から最後まで、余計なお節介以外の何物でもない。
二人とも、こんな事しなくていい、と怒るかもしれない。
それでもいい。
それでも、僕らは手を差し伸べよう。
それがヒーローの本質だからだ。
携帯に送られてきた、今日一日の、二人の写真。
照れくさそうで、でも楽しそうで、とても嬉しそうな。
そんな親友の顔を沢山見せてもらった。
これが僕らへの報酬だ。
どれだけ大変だったとしても、やってよかった。
とても温かい気持ちにしてもらった。
轟君、爆豪君が、順に着火していく。
周囲の僕らは、用意したプログラムを確認し、点火する花火とタイミングを、二人に伝える。
ベストなタイミングで、花火が上がる。
その一発一発が、僕らの想いだった。
もっと仲良くなってほしい
幸せになってほしい。
素敵な思い出になってほしい。
その気持ちだけで、みんな今日まで頑張ってきた。
大きな閃光と音が、何度も夜空に広がる。
多彩な色が夜空を美しく飾る。
これは協力してくれた全ての人が、二人のために、平和な一日をプレゼント出来たことの証明だ。
今日一日、何の事件も起こらず、街は平和そのものだった。
だからこそ、この花火は空に昇る。
ここにいるみんなが、二人に対して、それぞれの想いがあった。
感謝であり、労いであり、激励であり、応援であり、親愛であり。
僕らの想いを込めた光が、白糸を引きながら、夜空に昇っていく。
夜空を照らす、大輪の花。閃光と轟音。
それこそが、僕らの気持ちを代弁していた。
ほんの少しでもいい。
二人の想いが通じ合う手助けになれば。
言葉を届ける必要は無い。
誰も、二人に僕らの暗躍を伝えることはない。
それでいい。
感謝はいらない。
知らないままでいい。
謝礼ならもう貰っている。
緑谷君。麗日君。
かけがえのない友よ。
どうか、幸せになってくれ。
―――― to be continued