最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 緑谷
「今日は、ヒーロー公安委員会の方が開催されたイベントがあるそうで、花火が上がると聞いておりますよ」
仲居さんが食器を片付けながら説明してくれた。
「そうなんですか?」
「だいたい一時間ほど打ちあがるという話でした。こちらのお部屋からはよく見えますね。ごゆっくりお楽しみください」
そういって、仲居さんは最後の食器を下げ、部屋を後にした。
部屋には僕と麗日さん、二人だけが残される。
眼下に眼を向けると、街中を歩く人たちも、足を止めて花火に眼を向けている。
警察官とヒーローが、夜警を行っている様子も見えた。
犯罪もトラブルもどこにも無く、ただ平和に花火を楽しむ人々が、そこにあった。
一瞬だけ緊迫した空気は、街の安全を確認した瞬間に霧散していた。
とても綺麗な花火だった。
様々な色が上がり、形も変わり、次はどんなものが上がるのかと、楽しみになってくる。
その期待を裏切らず、間断なく、大きな大輪の花火が上がっている。
「ねえねえ、デクくん。電気消した方が綺麗じゃない?」
言われて気が付いた。部屋が明るいままだ。
「そうだね。じゃあちょっと待ってて。せっかくだし窓も開けよっか」
部屋の明かりを落とすと、夜空の美しさがより鮮明になった。
そっと窓を開ける。
夜風とともに、大きな花火の音が、室内にも響いてきた。
陽の落ちた空には、星が輝いている。
ビルや街頭が少ない田舎町のせいか、標高が高いせいか。
普段よりも、遥かに多くの星が空に煌めいていた。
そこに、幾度も大輪の花が咲く。
麗日さんと二人、並んで、一緒に花火を見る時間。
ただその美しい閃光と音に顔を向けていた。
多種多様なその色に、なぜかふと、A組の皆の姿が浮かんだ。
皆と一緒に観れたら楽しかっただろうな、という気持ちが芽生える。
その気持ちに嘘は無い。
けれど同時に、この素敵な景色を、麗日さんと二人だけで観れていることに、また特別な幸福を感じた。
みんな来ないでくれて良かった……なんて、本当に申し訳ないことを思ってしまうほどに。
「花火、綺麗だね……」
「うん……すごい綺麗……」
会話が続かない。
何か喋った方がいいかと思ったとき、口田君の言葉が思い出された。
無理に喋らなくてもいいと。
一緒に同じ景色を見る。その時間が、立派なコミュニケーションなのだと。
その言葉に甘えることにした。
麗日さんと二人で、静かに、この綺麗な花火を観ていたい気分だった。
いつの間にか、左手が繋がれていた。
昼間の時と同じように。
繋いだのは、僕から? 麗日さんから? 分からない。
宿の室内でトラブルの心配なんか無い。いま、手を繋ぐ理由は無い。
……それでも、ただ、この手を繋いでいたかった。
こっそりと、隣の麗日さんに視線を移す。
薄闇の中、花火の光に、ぱっと照らされる横顔。
本当に、なんて綺麗で、可愛くて。
こうして隣にいてくれることに、たまらなく感謝したくなる。
その手に伝わる体温を感じながら、外の花火に目を戻す。
子供の頃から、花火を見たことは何度もあった。
いま目の前で咲く花火よりも、規模の大きな花火を、いくつも見たことがある。
それでも、今日ほど綺麗だと思った花火は無い。
間違いなく、人生で一番といっていい。
この花火は、何故こんなにも綺麗なんだろう。
繋いだ手の温もりが、何故こんなにも愛しいんだろう。
この夢のように素敵な時間が、永遠に続けばいいと、心から思いながら。
満天の星空に上がる、閃光の大花を観続けていた。
※SIDE 麗日
いつか、デク君と一緒に、星空を眺めたいな、と思っていた。
けれど、いま目の前にある光景は、それ以上だった。
もう、言葉に出来ないほど素敵で。
星が煌めく夜空に、何度も花火が昇る。
なんて綺麗なんだろう。
こんな素敵な景色を、デク君と二人っきり。
手を繋いで観られるなんて、夢にも思わなかった。
そっと、隣の想い人を見上げた。
花火に照らされた横顔。
胸が、きゅう、っと締め付けられる。
ああ……やっぱり、私は、この人が。
……緑谷出久が、好き。
どうしようもなく、そう実感する。
あの祝賀会の二次会で、前より少し打ち解けた。
今日一日、いっぱい話せた。
それでも決定的な想いは、まだ伝えられていない。
(この気持ちは、しまっておこう)
まだ雄英一年生だった頃、仮免試験の時に決めたこと。
でも、いつまでしまっておくんだろう。
自分はこの気持ちを、いつ伝えればいいんだろう。
誰か答えを教えてほしい。
外の花火が、答えを教えてくれたらいいのに。
外に視線を戻す。
灯いては消えていく、色とりどりの華。
人の一生は花火みたいだ、と例えたのは誰だろう。
ヒーロー稼業は、以前より安全になったとはいえ、いつ自分が事故に遭うかも分からない。
あの戦いで、生きてるのが不思議なほど傷ついたデク君。自分も死んでいたはずだった。
今こうして見ている景色は、本当に色々な奇跡の上に成り立っている。
いつまでもチャンスがあるわけじゃない。
この花火みたいに、今日という一日は一瞬でなくなってしまう。
ある日突然、彼は誰か別の女性と一緒になってしまうかも。
(未来なんて何かせな変わらんやろ)
昔、サー・ナイトアイさんに、私自身が言ったこと。
でも私は何もしないまま、もう何年もの時間が経過している。
あんな立派な人に……心底申し訳なくなる。
花火の光が広がる度に、色々なことが思い出された。
勇気がほしい。
この怖さを乗り越えられるだけのものが。
星空に、いくつもの花火が上がる。
すごく綺麗だ。うっとりするほどに。
隣にデク君がいる。
一緒に、その手を繋いで、この綺麗な景色を観ていられる。
なんてロマンチックで、幸せな時間なんだろう。
心の底から、じんわりと、幸せな気持ちが満ちていくのを感じる。
この時間が永遠に続いてほしい。
終わってほしくない。
このまま時間を止めてほしい。
そう願わずにはいられなかった。
―――― to be continued