最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.471 Dream Out

※SIDE 緑谷

 

ひときわ大きな花火が上がった。

そのまま麗日さんと、次の花火を待つ。

しかし、外はさっきまでの時間が嘘だったかのように、花火の音は消えている。

足を止めていた人たちも、ちらほらと歩きだしている。

 

時計を見ると、9時を過ぎていた。

仲居さんが話していた、花火の終わる時間。

「麗日さん……花火、終わっちゃったね」

「……うん」

 

 

終わってほしくなかった。

麗日さんと手を繋いで、ずっと観ていたかった。

でも物事には終わりがくる。

 

冷えた夜風が入り込んでいた。

「窓、閉めるね」

「…………うん」

 

右手で窓を閉め、そのままカーテンを閉めた。

途端に、月明りと星々に照らされていた部屋は、ほとんど暗闇に覆われる。

 

そういえば電気を消していたんだ。

いったん電気をつけるか、それともカーテンだけ開けるか……

 

そう声を掛けようと、麗日さんの方を見たとき。

 

 

今日一番、心臓が跳ねた。

 

 

 

寝室から漏れだす暖色の薄い明りが、麗日さんの姿を浮かび上がらせていた。

小柄な身体。

耳にかかるサラサラの髪。薄い浴衣に包まれた肢体。隙間から除く白い肌。

なぜか寂しそうな表情。

そして、繋がれた手。

 

目の前の光景に目を奪われる。

身体が硬直する。

喉の奥から言葉が消えた。

何も喋れなかった。

 

心臓の鼓動が早くなる。

 

今日やる事は全て終わっていた。

足湯に入って、食べ歩いて、観光して、クレープを半分こして、お土産も買い、温泉で疲れを癒し、料理に舌鼓を打ち、たくさん話した。

満天の星空と、綺麗な花火も見終わった。

 

最高の一日だった。これ以上なんて望めないくらいに。

 

 

 

それでも、まだ麗日さんとの手は繋がれていた。

あとはこの手を放し、また明日、と声をかけて床につく。

 

それで今日という日は終わる。終わってしまう。

いままでの人生で最も幸福を感じた、永遠に続いてほしいと願った、今日という日が終わる。

 

それでいいんだ、手を放そう。

彼女を部屋の前まで見送って、今日を終わりにしよう。

 

そう思うのに、手が全く動かない。繋がれたままだ。

なぜか喉が乾いていく。

 

 

ダメだ、何してる。すぐに手を放せ。

そう思っているのに、手が動かない。

 

麗日さん……『デク』をヒーローの名前にしてくれた人。

黒鞭が暴走したとき、しがみついて止めてくれた。

 

僕が責任と恐怖に押し潰されて、学園に帰れなかったとき、連れ戻してくれた人。

屋上で必死に叫んでくれた。

今でも鮮烈に覚えている。

大勢の人に敵意を向けられて、それでも立ち向かってくれた。

 

 

(そうやって出ていった彼がいま、どんな姿か見えていますか!?)

(特別な力はあっても! 特別な人なんていません!)

(まだ学ぶことが沢山ある、普通の高校生なんです!)

(ここを! 彼の! ヒーローアカデミアでいさせてください!)

 

あのとき麗日さんは、僕のために、どれだけの勇気を振り絞ってくれたんだろう。

あのとき僕がどれだけ嬉しかったか。どれだけ救われたか。

きっと、どんなに時間をかけて、どんなに言葉を尽くしても、伝えきれはしないだろう。

 

麗日さん……ずっと助けてくれた。誰よりも大切な人。僕のヒーロー。

やっと自分の気持ちに気付けた、愛しくてたまらない人。

僕にとって、一番特別な人。

 

 

そうだ。だから絶対に傷つけちゃいけない。

悲しませたり、怖がらせたりしたくない。

 

麗日さんが、こんな暗い部屋で、男に手を掴まれている。

そんな状況が、もう許せない悪行だ。

その手を放せ、緑谷出久。今すぐに。ヒーローが何をやっている。

 

左手から伝わる、愛しい人の体温。

その手の柔らかさと温かさが、心に染みてくる。

ずっとこの手を握っていたい。

 

薄暗い部屋の中、麗日さんの姿だけが瞳に映っている。

この身体を引き寄せて、思い切り抱きしめられたら……

 

ふざけるな。どれだけ怖がらせてしまうか。彼女の心に傷をつけるつもりか。

そんな事してみろ、生かしておかない。窓から飛び降りて頭を割ってやる。

 

 

呼吸が荒くなる。

放したくない。一緒にいたい。あと少し、ほんの数秒だけでも。

 

ダメだ、ダメだ、ダメだ。早く手を放せ、緑谷出久!

麗日さんを怖がらせるな。一ミリも傷つけるな。悲しませたら絶対に許さない。

いままでどれだけ助けてもらったと思っているんだ。

 

ずっと支えてくれた。久しぶりに会えた祝賀会。

やっと自分の気持ちに気付いたのに、一瞬で過ぎ去ってしまった二次会。

駅で見送ったとき、胸の奥には寂しさが残った。

次の約束もできなかった。

もう一度逢いたかった。

 

今日の駅前での再会。

見違えるほど綺麗になっていた。

一緒に手を繋いで街を歩けた。なんて幸せだったか。

 

 

手を放せ。

今日が終わってしまう。

部屋に送れ。

次はいつ逢える。

一人で眠れ。

こんなに近くにいるのに。

 

頭の中がグチャグチャだ。

振りほどかなきゃいけないのに、力が入らない。

 

 

 

どれだけ葛藤していただろう。

ふと、麗日さんの頬を、一筋の涙が伝った。

 

 

全身に冷や水を浴びせられたようだった。

熱い劣情と冷たい理性のせめぎ合いが、一瞬で決着する。

 

 

――怖がらせるな。

 

 

反射的に、繋いでいたその手を――――――

 

 

―――― to be continued

 

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