最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 麗日
花火の終わりが、夢の終わりのように感じた。
童話のシンデレラは、魔法が解ける鐘の音を聞いたとき、こんな気持ちだったのかな。
窓が閉じ、カーテンが閉められた。
魔法の舞台が、幕を下ろすように。
さっきまでの素敵な景色はこの部屋からなくなった。
今日という日の魔法が終わる。
ああ……終わっちゃう。
胸の奥がぎゅぅっ、と痛くなった。
胸がいっぱいになるほど幸せな今日の想い出が、急に寂しさばかりを連れてくる。
デク君と一緒に歩いた。この手を繋いで。
ずっと好きだった。
ずっと憧れて、ずっと想い続けて。
傷だらけの手。その傷と同じくらい辛い思いをして、頑張って、乗り越えてきた人。
その傷を少しでも癒してあげられたら。
今日やっと、再びその手を繋げた。ずっと繋いでいられた。
こんな日が訪れるなんて思わなかった。
一緒に選んだキーホルダー。ウラビティを選んでくれた。
幼馴染のダイナマイトも、チャート2位のショートも、仲良しのインゲニウムも、大好きなオールマイトもあったのに。
一緒に歩いたことを、思い出すためと言ってくれた。
帰った後も、今日を思い出してくれるための、ウラビティ。私のキーホルダー。
たまらなく嬉しかった。お店の中で泣き出しそうになるほどに。
一緒に半分こしたクレープ。
ずっと恋焦がれた夢が叶った瞬間。
すごく、すごく幸せで、涙が溢れてくるほど美味しかった。
お風呂上りの、頑張ったメイク。ちょっとでも綺麗に見てほしくて。
並んで観た花火。すごく綺麗だった。繋いだ手から幸せが感じられて。
この時間が永遠に続いてほしいと思った。
終わるのが怖かった。
でも終わってしまった。
あの祝賀会の二次会みたいに。
もうやる事は何もない。デク君だって毎日疲れてる。
寝かせてあげなきゃいけない。
嫌われたくない。
でもこの手を離したら、今日の魔法は解けてしまう。
部屋に戻りたくない。
人の喜ぶ顔が好きだった。
だから、一番好きな人の邪魔はしたくない。
困らせることなんて、したくない。
(これは、しまっておくの)
ずっと好きだった。
ずっと、ずっと、目の前にいるこの人が。
それはたぶん、最初に逢った、雄英の入試のときから。
初めて助けてくれたあの時から。ずっと一途に、あなただけが。
(しまっておくの、大切に)
胸が締め付けられる。
手を離したら終わってしまう。夢のような一日が。
私は皆が笑ってるのが好き。
一番好きな人には、一番笑っていてほしい。
だから、ずっと痛む、この胸の切なさも、しまっていた。
好きな人の邪魔にならないように。
好きな人が夢を叶えられるように。
好きな人がお仕事を頑張れるように。
その姿を見て、私も頑張れるように。
邪魔なものは、しまっておけばいい。
これまでと変わらない。
しまったまま、この部屋を出ればいい。
隣の部屋に戻って、一人で眠る。
誰もいない、暗い部屋に。
そんなの嫌だ、戻りたくない。
ずっと好きだった人が、いま目の前にいるのに。
世界で一番、一緒にいたい人。
まだ手が繋がれている。
この手を放して戻る? なんで? ずっと繋いでいたいのに。
シンデレラは鐘の音を聞いたとき、どうして舞踏会から帰れたの?
王子様が目の前にいたのに。その手を繋いで踊っていたのに。
何を考えていたの? わけがわからない。
しまっておくんだ。
デク君を寝かせてあげなきゃ。困らせちゃいけない。
部屋に戻って一人で泣けばいい。
私はここにいちゃいけない。
……だって、もしかしたら、デク君には他に好きな人がいるかも。
その考えがよぎった途端に、胸がぎゅうぅっ、っと締め付けられた。
心を雑巾のように乱暴に絞られたかと思う、うずくまりたくなるほどの痛みだった。
錯覚じゃない、本当に感じる痛みと苦しさ。
デク君が他の女性と一緒に歩いてる空想。
私じゃない、他の女の子と手を繋いでいる。
――嫌だ。
その子に笑顔を向けている。
――嫌だ。
僕の彼女なんだ、と紹介される。
――嫌だ、嫌だ。
結婚式に出てほしいと、悪夢のような招待状が届く。
そんなの嫌だ、絶対に耐えられない。
胸が張り裂けて死んじゃう。
想像するだけで、こんなに苦しい。
もし本当に好きな人がいたら? 知りたくない。怖くてたまらない。
ずっと、しまっている想い。
私を見てほしい。私が隣を歩きたい。一緒に同じ時間を過ごしたい。
……そんな夢が叶ったらどれだけ幸せか、いままで知らずにいれたのに。
知りたくなかったのに。
だから、しまっておけたのに。
友達のままでいられたのに。
なのに、今日は、その夢が叶っていたから。
どれだけ幸せなことか、もう知ってしまったから。
ずっと手を繋いで、一緒に歩いて。
同じものを見て、同じものを食べて、笑いあって。
いっぱい話して、いっぱい写真撮って。
あんなに美味しいクレープを半分こして。
大好きなデク君が、ずっと私だけを見てくれた、今日という一日。
ずっとその手の温もりを感じられた、夢のような一日。
甘い暖かさに包まれた、そんな幸福を知ってしまったから。
部屋に戻りたくない。まだ一緒にいてほしい。
しまっておこう。困らせちゃいけない。でも一緒にいたい。
私はただの友達かも。そんなの嫌だ。
誰か他の子が好きなのかも。そんな残酷なこと知りたくない。
一人の部屋は嫌。誰もいない部屋は嫌。魔法が終わってほしくない。
戻らなきゃ。デク君に嫌われたくない。一番好きな人の笑顔に水を差したくない。
でも戻りたくない。今日が終わってほしくない。あとちょっとだけ一緒にいて。
ふと見上げると、デク君の顔には困惑の表情が浮かんでいた。
何かを凄く悩んで葛藤しているような。
ああ、迷惑かけてしまってる。
ごめんなさい。
早く出ていかないから。こんなところで黙って固まってるから。
私は皆が笑ってるのが好き。
一番好きな人が笑ってくれるのが一番好き。
困らせちゃダメ。嫌われたくない。早く部屋を出なきゃ。戻りたくない。
今日一日の記憶が何度も頭を駆け巡る。
駅前で、綺麗だって褒めてくれた。嬉しかった。
手を繋ぐとき、気恥ずかしそうだった。
それでも私を守るために、頑張ってくれた。すごく嬉しかった。
満天の星空に打ち上がる花火を観た。
楽しくて、幸せで、とってもロマンチックで。
今日という一日が、すごく楽しかった。
ごめんねデク君。もう出ていくから。おやすみって言うから。
嫌だ、そんなこと言いたくない。
もう最後の花火があがった。
終わりの鐘は鳴っている。
今日という魔法は終わったんだ。
けれどまだ、添えられるように繋がれた、この手が残っている。
あまりに簡単に離せてしまう、二人の手のひら。
それでも、この儚い繋がりが、最後に残ったガラスの靴のようで……
いつだって私を大切にしてくれて。
いっぱい傷ついて、頑張ってきたこの手に、まだ触れていたい。
あんな暗くて寂しい部屋に戻りたくない。
独りぼっちは嫌。
この手を放したくない。
もっと触れていたい。
友達のままでいたくない。
一人の女の子として見てほしい。
私だけを想ってほしい。
あなたの一番になりたい。
誰よりあなたの傍にいたい。
その胸に飛び込んで、思いっきり抱きしめてほしい。
全部ただの我儘だ、『困らせたくない』の正反対。そんなの分かってる。
だから、しまっておくんだ。
ずっと伝えたかった、あなたが好きだって。
そしてずっと一緒にいてほしい。
でも、そのたった一言が、どうしても言えなくて。
いつも動けなかった。
奥歯がガチガチと震えて、喉から声が消えてしまう。
ごめんなさい、と断られたら?
他に好きな人がいたら?
その瞬間に私の心は壊れてしまう。
知りたくない。怖くてたまらない。
好きで、好きで、どうしようもなく好きなのに。
怖くて、怖くて、どうしようもなく怖くてたまらない。
デク君が他の女の子と親しくしているだけで、不安になって。
スキンシップの激しい子がいると、すごく嫌で、心がざわついて。
何でもないんだって分かると安心して。
高校時代のクリスマスだって、バレンタインだって、チャンスなんていっぱいあった。
でも、結局伝えられなかった。
この気持ちは、しまっておこうって決めたから。
邪魔をしたくなかったから。それ以上に怖かったから。
いつも、どうしようもなく怖くなって。
いつだって、自分でも情けなくなるくらい臆病で。
なんでこんなに怖いんだろう。勇気が出せないんだろう。
そんな私も、しまっておけばいい。
この手を離したら、最後の魔法が解けてしまう。
ガラスの靴が消え去って、夢が覚めてしまう。
ここまできても、まだ私は想いを口にできない。
好きだって伝えたいのに。
きっと大丈夫だって、何度も何度も、精一杯、勇気を振り絞るのに。
それでも、奈落の底に落とされるような、とんでもない怖さに、声が出せなくて。
いいんだ、勇気が足りないなら、しまっておこう。
臆病な自分も、ずっと抱いてる恋心も、知りたくない恐怖も。
全部、全部、しまっておこう。
この手を離して、しまっておこう。
この手を離して。
この手を離すの。
もういいから。
しまっておけばいいだけ。
…………離れたくない。
ダメだって分かってるのに。
それでも、どうしても……
…………一緒にいたい。
自分でも気付かないうちに、瞳から、涙が零れ落ちた。
次の瞬間。
繋いでいた手が、離されていた。
―――― to be continued