最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.472 ガラスの靴

※SIDE 麗日

 

 

花火の終わりが、夢の終わりのように感じた。

童話のシンデレラは、魔法が解ける鐘の音を聞いたとき、こんな気持ちだったのかな。

 

窓が閉じ、カーテンが閉められた。

魔法の舞台が、幕を下ろすように。

さっきまでの素敵な景色はこの部屋からなくなった。

今日という日の魔法が終わる。

 

 

ああ……終わっちゃう。

 

胸の奥がぎゅぅっ、と痛くなった。

胸がいっぱいになるほど幸せな今日の想い出が、急に寂しさばかりを連れてくる。

 

デク君と一緒に歩いた。この手を繋いで。

ずっと好きだった。

ずっと憧れて、ずっと想い続けて。

 

傷だらけの手。その傷と同じくらい辛い思いをして、頑張って、乗り越えてきた人。

その傷を少しでも癒してあげられたら。

 

今日やっと、再びその手を繋げた。ずっと繋いでいられた。

こんな日が訪れるなんて思わなかった。

 

 

一緒に選んだキーホルダー。ウラビティを選んでくれた。

幼馴染のダイナマイトも、チャート2位のショートも、仲良しのインゲニウムも、大好きなオールマイトもあったのに。

一緒に歩いたことを、思い出すためと言ってくれた。

帰った後も、今日を思い出してくれるための、ウラビティ。私のキーホルダー。

たまらなく嬉しかった。お店の中で泣き出しそうになるほどに。

 

一緒に半分こしたクレープ。

ずっと恋焦がれた夢が叶った瞬間。

すごく、すごく幸せで、涙が溢れてくるほど美味しかった。

 

お風呂上りの、頑張ったメイク。ちょっとでも綺麗に見てほしくて。

 

並んで観た花火。すごく綺麗だった。繋いだ手から幸せが感じられて。

 

 

この時間が永遠に続いてほしいと思った。

終わるのが怖かった。

でも終わってしまった。

あの祝賀会の二次会みたいに。

 

もうやる事は何もない。デク君だって毎日疲れてる。

寝かせてあげなきゃいけない。

嫌われたくない。

でもこの手を離したら、今日の魔法は解けてしまう。

部屋に戻りたくない。

 

人の喜ぶ顔が好きだった。

だから、一番好きな人の邪魔はしたくない。

困らせることなんて、したくない。

 

 

(これは、しまっておくの)

ずっと好きだった。

ずっと、ずっと、目の前にいるこの人が。

それはたぶん、最初に逢った、雄英の入試のときから。

初めて助けてくれたあの時から。ずっと一途に、あなただけが。

 

(しまっておくの、大切に)

胸が締め付けられる。

手を離したら終わってしまう。夢のような一日が。

 

私は皆が笑ってるのが好き。

一番好きな人には、一番笑っていてほしい。

だから、ずっと痛む、この胸の切なさも、しまっていた。

 

 

好きな人の邪魔にならないように。

好きな人が夢を叶えられるように。

好きな人がお仕事を頑張れるように。

 

その姿を見て、私も頑張れるように。

 

邪魔なものは、しまっておけばいい。

 

これまでと変わらない。

しまったまま、この部屋を出ればいい。

隣の部屋に戻って、一人で眠る。

誰もいない、暗い部屋に。

 

 

そんなの嫌だ、戻りたくない。

ずっと好きだった人が、いま目の前にいるのに。

 

世界で一番、一緒にいたい人。

まだ手が繋がれている。

この手を放して戻る? なんで? ずっと繋いでいたいのに。

 

シンデレラは鐘の音を聞いたとき、どうして舞踏会から帰れたの?

王子様が目の前にいたのに。その手を繋いで踊っていたのに。

何を考えていたの? わけがわからない。

 

 

しまっておくんだ。

デク君を寝かせてあげなきゃ。困らせちゃいけない。

部屋に戻って一人で泣けばいい。

私はここにいちゃいけない。

 

……だって、もしかしたら、デク君には他に好きな人がいるかも。

 

その考えがよぎった途端に、胸がぎゅうぅっ、っと締め付けられた。

心を雑巾のように乱暴に絞られたかと思う、うずくまりたくなるほどの痛みだった。

錯覚じゃない、本当に感じる痛みと苦しさ。

 

 

デク君が他の女性と一緒に歩いてる空想。

私じゃない、他の女の子と手を繋いでいる。

――嫌だ。

 

その子に笑顔を向けている。

――嫌だ。

 

僕の彼女なんだ、と紹介される。

――嫌だ、嫌だ。

 

結婚式に出てほしいと、悪夢のような招待状が届く。

 

そんなの嫌だ、絶対に耐えられない。

胸が張り裂けて死んじゃう。

想像するだけで、こんなに苦しい。

もし本当に好きな人がいたら? 知りたくない。怖くてたまらない。

 

 

ずっと、しまっている想い。

私を見てほしい。私が隣を歩きたい。一緒に同じ時間を過ごしたい。

 

……そんな夢が叶ったらどれだけ幸せか、いままで知らずにいれたのに。

知りたくなかったのに。

だから、しまっておけたのに。

友達のままでいられたのに。

 

なのに、今日は、その夢が叶っていたから。

どれだけ幸せなことか、もう知ってしまったから。

 

ずっと手を繋いで、一緒に歩いて。

同じものを見て、同じものを食べて、笑いあって。

いっぱい話して、いっぱい写真撮って。

あんなに美味しいクレープを半分こして。

 

大好きなデク君が、ずっと私だけを見てくれた、今日という一日。

ずっとその手の温もりを感じられた、夢のような一日。

甘い暖かさに包まれた、そんな幸福を知ってしまったから。

 

 

 

部屋に戻りたくない。まだ一緒にいてほしい。

 

しまっておこう。困らせちゃいけない。でも一緒にいたい。

私はただの友達かも。そんなの嫌だ。

誰か他の子が好きなのかも。そんな残酷なこと知りたくない。

 

一人の部屋は嫌。誰もいない部屋は嫌。魔法が終わってほしくない。

戻らなきゃ。デク君に嫌われたくない。一番好きな人の笑顔に水を差したくない。

でも戻りたくない。今日が終わってほしくない。あとちょっとだけ一緒にいて。

 

 

ふと見上げると、デク君の顔には困惑の表情が浮かんでいた。

何かを凄く悩んで葛藤しているような。

 

ああ、迷惑かけてしまってる。

ごめんなさい。

早く出ていかないから。こんなところで黙って固まってるから。

 

私は皆が笑ってるのが好き。

一番好きな人が笑ってくれるのが一番好き。

 

困らせちゃダメ。嫌われたくない。早く部屋を出なきゃ。戻りたくない。

 

 

今日一日の記憶が何度も頭を駆け巡る。

駅前で、綺麗だって褒めてくれた。嬉しかった。

手を繋ぐとき、気恥ずかしそうだった。

それでも私を守るために、頑張ってくれた。すごく嬉しかった。

 

満天の星空に打ち上がる花火を観た。

楽しくて、幸せで、とってもロマンチックで。

今日という一日が、すごく楽しかった。

 

ごめんねデク君。もう出ていくから。おやすみって言うから。

嫌だ、そんなこと言いたくない。

 

もう最後の花火があがった。

終わりの鐘は鳴っている。

今日という魔法は終わったんだ。

 

けれどまだ、添えられるように繋がれた、この手が残っている。

あまりに簡単に離せてしまう、二人の手のひら。

 

それでも、この儚い繋がりが、最後に残ったガラスの靴のようで……

 

 

 

いつだって私を大切にしてくれて。

いっぱい傷ついて、頑張ってきたこの手に、まだ触れていたい。

 

あんな暗くて寂しい部屋に戻りたくない。

独りぼっちは嫌。

この手を放したくない。

もっと触れていたい。

友達のままでいたくない。

一人の女の子として見てほしい。

私だけを想ってほしい。

あなたの一番になりたい。

誰よりあなたの傍にいたい。

その胸に飛び込んで、思いっきり抱きしめてほしい。

 

全部ただの我儘だ、『困らせたくない』の正反対。そんなの分かってる。

だから、しまっておくんだ。

 

ずっと伝えたかった、あなたが好きだって。

そしてずっと一緒にいてほしい。

 

でも、そのたった一言が、どうしても言えなくて。

いつも動けなかった。

奥歯がガチガチと震えて、喉から声が消えてしまう。

 

 

ごめんなさい、と断られたら?

他に好きな人がいたら?

 

その瞬間に私の心は壊れてしまう。

知りたくない。怖くてたまらない。

 

好きで、好きで、どうしようもなく好きなのに。

怖くて、怖くて、どうしようもなく怖くてたまらない。

 

デク君が他の女の子と親しくしているだけで、不安になって。

スキンシップの激しい子がいると、すごく嫌で、心がざわついて。

何でもないんだって分かると安心して。

 

 

高校時代のクリスマスだって、バレンタインだって、チャンスなんていっぱいあった。

でも、結局伝えられなかった。

この気持ちは、しまっておこうって決めたから。

邪魔をしたくなかったから。それ以上に怖かったから。

 

いつも、どうしようもなく怖くなって。

いつだって、自分でも情けなくなるくらい臆病で。

なんでこんなに怖いんだろう。勇気が出せないんだろう。

 

 

そんな私も、しまっておけばいい。

 

この手を離したら、最後の魔法が解けてしまう。

ガラスの靴が消え去って、夢が覚めてしまう。

 

ここまできても、まだ私は想いを口にできない。

好きだって伝えたいのに。

きっと大丈夫だって、何度も何度も、精一杯、勇気を振り絞るのに。

 

それでも、奈落の底に落とされるような、とんでもない怖さに、声が出せなくて。

 

いいんだ、勇気が足りないなら、しまっておこう。

臆病な自分も、ずっと抱いてる恋心も、知りたくない恐怖も。

 

 

 

全部、全部、しまっておこう。

この手を離して、しまっておこう。

 

 

この手を離して。

 

この手を離すの。

 

もういいから。

 

しまっておけばいいだけ。

 

 

 

 

…………離れたくない。

 

ダメだって分かってるのに。

 

 

それでも、どうしても……

 

…………一緒にいたい。

 

 

 

自分でも気付かないうちに、瞳から、涙が零れ落ちた。

 

 

次の瞬間。

 

繋いでいた手が、離されていた。

 

 

―――― to be continued

 

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