最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.473 true

※SIDE 麗日

 

 

その手に感じていた温もりが消えた。

最後の魔法が。

 

デク君に手を離された。

私が離したんじゃなくて、デク君に離された。

 

それは、最後に残ったガラスの靴が砕けたようで。

 

 

瞬間、全身が総毛立った。

 

すぐ背後に『怖いもの』がいる。

ついに追いつかれた。

ずっと逃げ続けていた真っ黒いそれが、必死に遠ざけていたものが、夢の世界の幻が、産声をあげて現実に現れようとしている。

 

奈落に落とされるような宣告を、ほらもう一秒後に告げられるぞ、と『怖いもの』が囁いてくる。

 

 

 

――タダノトモダチ――

――ゴメンナサイ――

 

「ぃゃあぁっ!?」

 

あまりの恐怖に、逃れるように反射的に、目の前にいる人にしがみついた。

こんなの幻だとか幻聴だとか、考える余裕すら無かった。

 

「う、麗日さん!?」

困惑するデク君の声が聞こえる。

 

やばい、抱き着いちゃった!

どうしよう、どうしよう、どうしよう!?

なにやってるの、迷惑かけちゃってる、早く離れなきゃ、嫌われちゃう、どうしよう、いやだ、助けて!

 

 

しまっておくんだ。

しまっておけばいい。

しまっておかなきゃ。

 

この怖いものも、この切ない胸の痛みも、一人で眠る寂しさも。

全部、全部、全部、何もかもしまっておけばいい、それでいい!

 

どれだけ思っても、『怖いもの』は嬉々として踊り、囁いて。

胸に秘めた、私の大切な宝物を、勝手に取り出していく。

 

――やめて、やめて、やめて! いまそんなもの見せないで!

 

 

横顔を見つめては頬を染めた学生時代の日々。

いまもコスチュームのポケットに忍ばせているお人形。

特別だって言ってもらえて胸が高鳴った二次会。

服を買って応援してくれた友達の顔。

楽しみにマル印を付けていたカレンダー。

手を繋いで歩いた街並み。

半分こしたクレープの写真。

二人で観た夜空の花火。

 

――全部まとめて、グチャグチャにされてしまう悪夢。

 

「ああっ、ああああ! やだ、やだあっ!」

 

 

助けて、怖いよ!

デク君の浴衣を掴んで泣き叫ぶ。

奥歯がガチガチと鳴り、全身がぶるぶる震えた。

 

しまっておくんだ。

拒絶されたら、私の宝物が全部壊されちゃう。

 

「どうしたの!? 何かあったの!? 落ち着いて、大丈夫だから!」

 

あんなに綺麗な花火だった。

きっとデク君も楽しんだ。水を差したくない。

 

何やってるの私、バカじゃないの!?

こんなところで泣いてちゃいけない。

しまっておくんだ。

 

怖くてたまらない。誰か助けて。お願い、誰か。デク君、助けて……!

 

 

 

気が付くと、デク君が私の手を握ってくれていた。

「ほら、大丈夫だよ……どうしたの?」

 

その手が優しくて、温かくて。

もう一度繋いでくれたことが嬉しくて。

私を心配してくれる顔が優しくて。

この手を握っているときだけは、怖いのが消えていて。

迷惑かけたくないのに、まだ離れたくなくて。

泣いちゃいけないのに、涙がぽろぽろ零れて。

嫌われたくないのに、笑顔が作れなくて。

 

 

思考も感情も滅茶苦茶で。

もうどうすればいいのか、何も分からなくて。

 

(もっと好きに生きてね)

 

誰かの言葉が頭に響いて、ふっ、と、頭が真っ白になった。

 

思考も何も無く。

ただ、いけないワガママだけが、口に出てしまっていた。

 

「……離れたく、ない…………まだ、一緒にいて……?」

 

 

 

 

※SIDE 緑谷

 

 

僕の胸に顔を埋めて。

痛いほど強く僕の手を握って、その手が震えていた。

 

「……わかった。離れないから。一緒にいよう?」

こくん、と頷く麗日さん。

 

「本当は……僕も、麗日さんと離れたくなかったんだ。でも、ごめんね……ずっと手を握ってたら、怖がらせちゃうかと思って……手、離しちゃって」

ぶんぶんと首を振ってくれる。

 

「僕からもお願い……もう少し、一緒にいてくれる?」

大きく、こくん、と頷いてくれた。

 

 

 

繋いだ手のひらが小さくて。

その震えを取り除いて、安心させてあげたくて。

 

どうしようもなく、抱きしめたい。

 

「……ごめん、嫌なら言って? すぐ離すから」

 

細いその背中に、そっと手を回す。

拒絶はなかった。

逆に、麗日さんの腕が僕の背中に回されて、より強く抱き着かれる。

 

「……僕も、まだ一緒にいたかったんだ」

小柄な柔らかい身体。

クラクラするほどの甘い香り。

「花火が終わって、麗日さんを部屋に帰してあげなきゃって思ったけど……どうしても、手を離したくなくて」

 

 

世界で一番愛しい人が、自分の腕の中にいる幸福感。

「さっきの花火だって……麗日さんと、二人で一緒に観れたのが、すごく嬉しくて……みんな、来ないでくれてよかった、なんて……すごい、申し訳ないこと思っちゃったくらいで……」

 

想いが溢れてくる。

「今日一日が、ずっと、夢みたいで……駅で逢った時から、ずっとドキドキしっぱなしで……手を繋いでるだけで、舞い上がるほど幸せで……半分こしたクレープとか、本当にすごい嬉しくて」

 

気のせいだろうか。

胸の内を吐露するほどに、麗日さんの震えが、だんだん収まっていくように感じる。

「僕にとって、麗日さんは、一番特別な人だから」

 

 

あの祝賀会のときに気が付いて、二次会のときに、確信に変わった、自分の気持ち。

世界でたった一人、麗日さんに対してだけ起こる、自分の胸の高鳴り。

 

気付いて自覚したのは最近だ。

でも昔からずっと、この気持ちは心の奥底にあった。

自分の気持ちにも気付けなかった、愚かな自分。

かっちゃんに罵倒されるのも無理はない。

 

そうだ。

あのときは伝えられなかった。

もう一度、ちゃんと伝える機会がほしかった。

だから飯田君にも相談した。

いまが一番いいタイミングじゃないか。

 

 

肩に手を置き、そっと、少しだけ身体を離す。

麗日さんの、涙に濡れたその顔が、すぐ目の前にある。

 

『特別』なんて言葉で、濁しちゃいけない。

ちゃんと伝えるべきだ。

 

伝えるべき言葉を胸に宿す。

途端に、凄まじい緊張感と恐怖が襲ってくる。

自分一人の勇気じゃ、乗り越えられないほどの恐怖。

 

それでも。

さっき教えてくれた、離れたくない、の一言が。

まだ一緒にいたい、という想いが。

 

乗り越えられるだけの、後押しをくれた。

 

 

 

「麗日さん」

 

その愛しい顔を、真っすぐ見つめて。

この想いが本物だって、確信して。

 

「あなたが好きです」

 

麗日さんの瞳が、まん丸に見開かれた。

大きく息を吸って、呼吸が止まって、信じられない、といった表情で。

 

「僕は、麗日さんが好きです。一人の女の子として、他の誰よりも一番、あなたが好きです」

 

もう一度。

はっきり、分かるように。

何の勘違いもさせないように。

 

あなたを大切にします、という気持ちを込めて。

 

 

 

「あ……ぁ…………あ……」

麗日さんの瞳から涙が零れ落ちた。

次から次へと溢れて、顔をくしゃくしゃにしていく。

 

「あ……ぅ……ああ……うああ……わあああああああああああっ!」

堪えるような嗚咽を漏らして、堰を切ったように泣き始めた。

 

「わああああ! ああっ、あああああああ! ああああぁ、ああああああ!」

背中に回された腕に力が入る。

胸に顔が押し付けられ、ぎゅうっ、と、強く抱きつかれる。

その涙すら愛しくて。

世界一大切な女の子を抱きしめた。

 

 

「ぅぅぁああああああ! わあああああああ! ああ、ああ、わああああああ!」

僕の胸の中で、泣きじゃくる麗日さん。

そっとその身体を抱きしめて、落ち着けるように、優しく髪を撫でる。

 

「わあああっ! 私も、私も。私もずっと好きやったんよ!? ずっと、ずっとずっと、ずっと! デク君のこと。私、私が一番っ、デク君が、大好きで、でも怖くって!」

背中に腕が回された腕が、浴衣を掴んでいて。

その身体の柔らかさを全身で感じた。

 

 

「ああっ、デク君、好き! 好きやったの。ずっと、私、デク君、デク君が大好き。一番好き。ずっと大好き! 離れたくないぃ!」

「ありがとう。僕も。麗日さんのことが好きです。大好きです」

 

「あああああああっ! 大好き、大好きっ! 離れちゃやだ、戻りたくないの! お願い一緒にいて、一緒にいて! 私のこと、ぎゅってして! デク君、好き、好きぃ。一緒にいてよぉ!」

「うん、ありがとう。大丈夫。大丈夫だから。一緒にいる。どこにもいかない。君が好きだから」

 

 

「ああああっ! 怖かったぁ、怖かったよぉ! 怖くて、言えなくて、ずっと怖くて、ごめん、ごめんなさい……! だって私、怖くて! 勇気なくって、好きって言えなくって! いつも怖かったぁ!」

 

「うん、うん。大丈夫。僕も、麗日さんが、大好きです。世界一好きです。ごめん、本当にごめん、もっと早く伝えればよかった。怖かったよね、ごめんね」

 

「よかったぁ、よかったよぉ! もう、もう怖いのやだぁ! 好き、大好き! ぎゅってして! あたま撫でて! 寂しいのやだぁ、いっぱい好きって言ってぇ! ぅわああああああっ!」

 

 

請われるままに、更に強く抱きしめた。

柔らかな髪を撫でて、何度も、何度も、伝えられなかった想いを伝える。

涙と一緒に、たくさんの想いを伝えてくれる麗日さんが、本当に、たまらなく愛しくて。

僕も自然と涙が出てきて。

 

可愛いお願いをして、たくさん甘えてくる麗日さん。

初めて見る姿。

きっと、気が遠くなるほど長い間、ずっと耐えていたんだと思う。

 

だって麗日さんは、いつもそうじゃないか。

ずっと、いつも、自分の事より、他人を優先して。

いつも、ずっと。

 

 

 

そんな強い麗日さんだから。

全部ワガママだって、抑えて、抱え込んで。

ずっと心の奥底に、しまっていたんじゃないのか。

本当はずっと、誰かに寄りかかって、甘えたかったんじゃないか?

 

なら、僕がそうなりたい。

麗日さんが、何でも話せるように、ずっと手を繋いでいたい。

安心して甘えて、なんでも話してもらえるように、ずっと。

 

 

強く抱きしめあったまま、何度も、何度も、想いを伝えあう。

万感の勇気が必要な想いを。

だからこそ、貰えたら嬉しい想いを。

 

温かい、幸せな気持ちで満たされながら。

 

 

―――― to be continued

 

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