最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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~閉幕編~
No.499 現実を受け入れて


※SIDE 麗日

 

 

『――prrrrrrrrr!』

 

突如鳴り響いた部屋の電話に、二人同時に、びくっと上体を起こす。

 

こんな夜中に、なぜ客室の電話が鳴るのか。

大好きな人と結ばれて、愛を囁きあって、幸福の真っ最中なのに。

怪奇現象は望んでいない。

 

「はい、もしもし?」

デク君が訝しがりつつも、駆け寄って受話器を取った。

「え、おは……は? ああ、はい、眠れて……え、食事……食事ぃ!?」

 

デク君の驚愕の声に、顔を見合わせて、直後、同時に時計を見やる。

 

――生半可な怪奇現象など足元にも及ばない、とてつもない怪異が襲来した。

 

長針が12付近にあるのはいい。

だが、短針が8を指している。

 

 

……………………は?

 

8時……?

8時。

8時って……そんな馬鹿な。

あの時計壊れてるんじゃないか。

短針と長針が逆になって動いてない?

 

だって、花火が始まったのが8時で、一時間は打ち上がるよって仲居さんが話してて。それは覚えてる。

……え、待って…………いまって、夜だよね?

 

デク君と私、どっちが着ていたものかも分からない浴衣を引っ掴む。

なぜかあちこち濡れて湿っている。

……浴衣は脱いでからシたのに。

 

胸元を隠しつつ、そっと広縁に向かう。

カーテンの隙間に指を差し込み、そっと数センチ横へ。

 

隙間から、眩いほどの太陽光が部屋に差し込んだ。

即座に指を抜いてカーテンを閉じる。

 

 

朝。

……あさ? ……なんで?

……え、だって……花火が終わって……あれから、まだ数時間くらいしか……せいぜい12時過ぎとかじゃ……

……9時から8時って……時計が逆回転して……

……いや、だって……そんなはずが……

 

「はい、はい。準備が出来てる……いや、え……今からですか!? 今から部屋に運ぶ!?食事を!? え!?」

 

デク君の言葉に頭が覚醒して、ようやく現実を受け入れる。

もう朝の8時。食事の時間だ。

これから食事がやってくる。

この部屋に。

 

 

 

この部屋に!?

 

 

あたりを見渡す。

 

畳はいたるところに飛散した水跡があった。障子や襖、柱、壁にまで飛び散っている。

テレビは愛液が流れた水跡が幾筋もつき、机からはコップを倒した時のように水がぽたぽたと滴り、現在進行形で畳の水跡を拡大している。

座布団だってびしょ濡れで、座れる状態じゃない。

 

いたるところに、いくつもの愛液のシミが出来ている。

ところどころ白い精液もこぼれ落ちている。

 

そして当然と言えば当然だが、布団が一番ひどい。

乾いた部分が見当たらないほどびしゃびしゃに濡れている。

 

脱ぎ散らかした衣類が記憶にない場所に散乱し、それだって愛液で濡れている。

 

 

 

無事なものなど何一つ見当たらない。

あらゆるものが、私の愛液とデク君の精液で濡れまくっていた。

……9割以上が私の愛液なんだろうけど。

 

そして部屋中に満ちている、えっちな匂い。

お互いの汗と、私の愛液と、デク君の精液が混じった匂いが、ムンムンと漂っている。

室内にいても分かるのだ。

鼻の慣れてない室外の人は、より強烈に匂いを感じ取るだろう。

 

部屋は二間とも、どこを見ても羞恥で顔を覆いたくなるほどの、とんでもない有様になっていた。

 

おまけに私達は、一糸纏わぬ全裸。

汗と愛液で、風呂上りのように全身びしょ濡れ。

まず身体を拭かなきゃ服も着れない。

 

 

 

「食事! 食事は――」

デク君が目配せをしてくる。

ぶんぶんと全力で首を横に振る。

こんな部屋に人を入れられる訳が無い。

 

「もうちょっと! もうちょっと待ってもらえませんか、いま起きたばっかりで! はい! まだ向かいの部屋にいる友達も来てないし、まだ寝てるんじゃないかなー、あははははは! だから、ちょっと今は無理で、はい!」

冷静にみれば、フルチンで電話してる姿は笑いを誘うが、笑っている場合じゃない。

固唾をのんで見守る。

 

 

デク君が受話器を置く。

「8時15分にしてくれるって!」

 

短すぎる、何もできない。

 

10時チェックアウトなら、遅い時間から食事を準備するのは旅館の人も避けたいだろう。

8時でも遅いくらいだ。

ギリギリの時間。それは分かる。

 

でもこの惨状は15分ではどうにもならない。

そもそも着替えられるかすら分からない。

 

 

「しょしょしょ、食事って、キャンセルできないかな!?」

「そうしたいけど、昨日からみんなに、写真撮ってコメントしろって催促されてるし、朝食も写真だけは撮らないと!?」

「ああっ! そうやった! ……じゃ、じゃあ、二人とも寝坊して、食べられなかったって言うとか!?」

「寝過ごしてたら電話でモーニングコール来るのは皆知ってるんだし、無理じゃない!? 間違いなく誤解されるよ!? ああっ、いやっ、正確には誤解じゃないんだけど! このタイミングでそう思われるのは何か避けたいというか!」

 

詰んでる。

 

どうしよう……?

 

 

 

全裸で固まったまま、どうすればいいか全く考えがまとまらない。

こんな部屋に食事が運ばれてきたら、仲居さんは卒倒するし、私達も羞恥で倒れる。

 

「麗日さん、とりあえず隣の部屋に運んでもらおう!」

隣の部屋。

そうだ、私の部屋がある。

まだ無事な部屋が。

「分かった! それでお願い!」

 

 

デク君がすぐ電話をかける。

「あの、食事なんですけど! 向かいの部屋でお願いできませんか? 友達がそっちにいて……はい。はい。……え、はい…………いやいやいやいや! 昨日と同じは困るというか、あの、両方の部屋で一回ずつ食べたかったなって、そういう話になって! はい! ……いや一緒なのは分かるんですけど、どうしても気分変えたいなって! ……はい、どうしてもお願いしたくて……ああ、すみません。ほんと、ありがとうございます。はい……はい……はい大丈夫です、部屋番号そこで合ってます。はい、お願いします。どうもすみません、ありがとうございます」

 

デク君が受話器を置いて親指を立てる。

「あっちの部屋でOK!」

とりあえずこの部屋に人が入る事は無い。

まずは一安心だ。

 

 

だがそれでも、いまだ自分達が全裸なのは変わらない。

 

「とりあえず着て、すぐ隣行こう! もう来る!」

長針が『1』を過ぎている。一刻の猶予も無い。

 

大急ぎで身支度を整える。

タオルを引っ掴んで、濡れた身体を拭いていく。

 

部屋の隅に転がっていた勝負下着を、とりあえず身に着ける。

これも濡れていて気持ち悪いが、とにかく隣に行って着替えるしかない。

……なんで濡れてるんだろう。

 

 

浴衣を手に取って、愕然とした。

「ま、まずいよデク君!? こ、これ……」

浴衣は2着とも、愛液が迸った水跡で濡れていた。

明らかに色合いがおかしくなっているし、たぶん匂いもする。

こんなものを着て人前に出れるわけがない。

 

急いで替えの浴衣を探す。

替えの浴衣。クローゼットに一着だけあった。

 

「それデク君使って!」

「麗日さんは!?」

「あっちの部屋にあるやつ使う! 着替えるし!」

 

比較的濡れていない、被害の少ない浴衣を受け取り、乱雑に羽織る。

急いで帯を回し、形も気にせずぱぱっと結ぶ。超特急だ。

向かいの部屋の鍵を手に取る。

 

 

出る時に誰かと鉢合わせしないだろうか。

急いでいるが、人に会うのはマズイ。

扉をそうっと開け、外を伺う。

 

幸い部屋の前には誰もいなかった。

が、廊下の奥では、食事を用意している、仲居さんの後ろ姿が見える。

 

まずい、まずい、まずい!

 

向かいの部屋に飛び寄り、急いで鍵を開ける。

昨日出たときと変わらない、無事な部屋が目の前にあった。

昨晩部屋を出る時は寂しく感じたが、いまはオアシスのように感じられる。

 

 

乱雑に部屋に入ると、大急ぎで浴衣を探す。

浴衣。新しい替えの浴衣。

 

どこ、どこ、どこ!?

 

クローゼッの下、奥の方を探す。

あった、これだ。

 

探し終えると同時に、新しい浴衣に着替えたデク君が入って来た。

「麗日さん、大丈夫!?」

「うん、浴衣あった。セーフ!」

 

 

とりあえず机に鍵を置こうとし……なぜかその鍵が一部濡れていることに気が付く。

 

ああもう、何でこんなところまで!?

慌てて浴衣の袖で拭いて、机に置く。

 

同時に、コンコンと、扉を叩かれた。

 

「お食事お持ちしました~」

 

デク君と顔を見合わせる。

デク君はいいとして、私はまだ着替えてない。

こんな愛液でびしょ濡れの浴衣は見せられない。

 

 

咄嗟に交わすアイコンタクト。

私は奥で着替えるから、そっちお願い!

 

「は、は~い。いま開けます~」

デク君が扉に向かい、私は奥の部屋に逃げ込む。

 

ぴしゃりと襖を閉めたと同時に、部屋の扉が開けられる音と、仲居さん達の声が聞こえてくる。

ギリギリセーフだ。

 

「う、麗日さん。ご飯来たよ~」

平静を装ったデク君の声。

「ちょ、ちょっとだけ待って! すぐ行くから!」

 

 

すぐに着替えなきゃ。

手に持っていた新しい浴衣を、昨日から敷かれたままの布団の上に置く。

 

あとは下着だ。

下着はどこだ……昨日お風呂上りにちょっとだけ着ていた下着……あれ……無い。

なんで? どこ? 変な場所には置かないはず……

 

キャリーケースの中だ!

 

昨日のお夕飯前、いま着けてる勝負下着と入れ替えに、キャリーケースに入れてしまっている。

キャリーケースがあるのは、襖を挟んだ隣の一間。

襖の向こうでは、パタパタと出入りする人の音と、カチャカチャと運ばれてくる食器の音がする。

 

取りに行けないっ!

どうしよう!?

 

 

この勝負下着を付けたままにするか。

でもあちこち濡れていて気持ち悪いし、このままでは風邪をひいてしまう。

 

悩んでる時間は無い、瞬時に決断する。

濡れた浴衣と勝負下着を脱ぎ捨て、裸の身体に、新しい浴衣を身に纏う。

 

乱雑に帯を締めながら、脱ぎ捨てた浴衣と勝負下着をどうするか考える。

どちらも愛液にびっしょり濡れている。

見られるわけにはいかないし、匂いが漏れてくるかもしれない。

布団をめくり、その中に押し込む。

布団がまた汚れてしまうかもと思ったけど、

いまはここしか隠せる場所が無い。

 

 

「う……麗日さ~ん……ご飯、準備出来たけど~……」

「う、うん! 今行くよ」

ギリギリ間に合った。

襖を開けて合流する。

 

昨日お夕飯を運んでくれたのと同じ仲居さんがいた。

「よくお眠りでしたか?」

「そ、そうですねぇ。もうぐっすりで、すっごい眠れちゃって。あはははは……」

目線を合わせられず、あさっての方を見ながら頭を掻いた。

実際は一睡もしていない。夢のような時間ではあったけど。

 

 

昨日と同じく、す、す、す、と小股で歩く。

腕組みのように、両手で胸元を押さえながら。

そんな私に、仲居さんは昨日と同じ、微笑ましい視線を送ってくる。

 

おかしな動きをしている自覚はあるが、どうしようもない。

昨日は勝負下着だった。あれも見られたら恥ずかしいものだった。

 

けど、今はまた話が違う。

浴衣の下は、ノーパン、ノーブラだ。

もう見られたら恥ずかしいとか、そういう問題じゃない。

これじゃあ痴女だと思われてしまう。

 

デク君は、ゆっくり進む私に思う所があるのか、耳まで赤くなってそっぽを向いている。

 

 

「お食事の方、ご説明させていただきますね。お味噌汁は、昨日お出ししたお鍋の出汁を使っております。ラッコやすっぽんが入っておりますので健康によろしいかと。こちらは、山芋の千切りとわさびの和物、それから、ひじきのお浸しです」

 

仲居さんが料理の説明をしてくれているが、何も頭に入ってこない。

 

そんな事より、隣の部屋の惨状をどうするかで頭がいっぱいだ。

至る所が愛液で濡れまくり、匂いのこもったあの部屋をどうするか。

このままじゃ帰るに帰れない。

旅館の人になんて思われるか。

 

 

真っ赤になっている私達。

料理の説明をしてくれている仲居さん。

 

一通り説明を聞いたところで、ノルマを思い出す。

「えっと、食べる前に写真だけ撮ろうか」

「そうだね」

 

「よろしければお撮りしますよ」

デク君が携帯を渡し、二人で一緒に写真を撮ってもらう。

ぎこちないとは思いつつ、なんとか笑顔を作った。

 

 

仲居さんが退室したところで、デク君が携帯を操作している。

いま撮った写真を送るのだろう。

 

さすがに全く食べないわけにいかないし、なんとなく一緒に食べようかと思って待っていたとき。

ふと、目の前のデク君に、違和感を覚えた。

 

デク君、あんなのあったっけ?

首筋になんか赤いのが……

 

 

「待ってええええええええええええ!」

 

ビクッと震えて、デク君が止まる。

「え、麗日さ」

「しゃしゃしゃしゃ、しゃっ、しゃっ、しゃっ、しゃあああああ! おおおお、お、お、おく、おく、おくっなああああね!?」

写真を送ってないよね。

そう言いたいけど、焦り過ぎて口が回ってない。

 

 

「どうしたの? 顔真っ赤だよ? えっと……落ち着いて? 何言ってるか、よく分かんないし」

「しゃしゃ、しゃ、写真!」

「ああ、うん。いま送るから」

「だめえええええええええええええええ!」

とんでもない事になる、絶対に阻止しなければ。

 

きょとんとした顔のデク君。まだ気づいてない。

「どうしたの?」

「デク君、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って! まだ送ってないよね!?」

「うん、まだ……何かしたの?」

 

 

「キキキ、キスマークついてるっっっ!」

首筋をさして、叫ぶ。

 

ぽかん、としたデク君の顔が、瞬時に真っ赤に染まった。

「ああああああっ!? 危なかったああああああああああ! 麗日さんナイス!」

「ごめん! デク君、めっちゃついてる!」

「麗日さんも! ごめん僕のせい!」

「セーフ! セーフ! なな、何とか、何とか隠さないと……」

 

 

こんな写真を送れるわけがない。

昨日と今日で、被写体の人間に明確な違いがありすぎる。

送信先は19人もいるんだ、絶対に誰か気付く。

三奈ちゃんとか見た瞬間に気付きそうだ。

 

一瞬、さっきの仲居さんにはバレてたかも、と思ったが、もう気にしても仕方ないので忘れる事にした。

 

 

「とりあえずタオルでどうだろ?」

デク君がフェイスタオルを持ってきて首にかけた。

大部分が隠される。でも、鎖骨のあたりがまだ隠しきれていない。

 

「麗日さんは?」

「ちょっと待って!」

鞄に近付き、中からファンデーションとコンシーラーを取り出す。

これで隠すしかない。

 

「デク君、ちょっとこれで……」

デク君にもファンデーションとコンシーラーを使って隠す。

私の肌に合わせて買ってるからちょっと色が合わないけど、何もしないよりはマシになった。

 

 

キスマーク付いてる写真なんて、皆に送れるわけがない。

二人でよく確認し、とりあえず隠せていることを確かめる。

 

もう旅館の人もいない。

写真はデク君が頑張って自撮りしてくれた。

「この写真でどうかな……」

何とか二人とも笑顔を作ったが、心なしか、顔が引きつっているように見える。

とはいえ、今はこれ以上自然な笑顔は出来ないから仕方ない。

 

それに何というか、髪が汗とかで濡れてるんだけど……寝汗とか朝風呂に入った、ということに出来ないだろうか。

でも、とにかくキスマークは見えない……はずだ、たぶん。

 

 

よくよく確認した写真をデク君に送ってもらい、とりあえず食事に箸をつけた。

隣の部屋の惨状を思えば、悠長に食べてる場合ではないのだが……悲しいかな、お腹は空いていた。

 

腰は痛いし、お股も少しヒリヒリする。

考えてみれば、破瓜を経験して、そのまま朝までぶっ続けでヤリ続けたことになる。

計算上は……9時、つまり21時から8時だから、11時間くらい?

……そりゃ腰も痛くなるし、擦り過ぎてヒリつきもするだろう。

 

 

お椀をすする。

とても美味しい。

汗をかいて……他にも色々出てしまったせいで……体内の水分が減ったのか、身体が水分を欲しがっている気がする。

途中で少し水は飲んだけど、あれだけで足りるはずもないし。

 

特に会話が無いまま、無言の食事が続く。

あんなに気持ちを伝え合っていたのに、冷静になったら恥ずかしくて、何を話せばいいかも分からない。

 

 

ご飯を食べながら、正面に座るデク君を、ちら、と見つめる。

 

瞳が合った。

 

……恥ずかしい。

一晩中、裸で愛し合ったと思うと、瞳を合わせていられず、つい下を向いてしまう。

ご飯を食べながら、頭の中では、ついさっきまでの営みが思い返されている。

 

いっぱい気持ちを伝えあった。

恥ずかしいところをいっぱい見られた。

いっぱい気持ちよくしてもらった。

そして、いっぱい、愛してもらえた。

私のことを大好きに想ってくれてるって、いっぱい実感できた。

 

 

イケナイことをしたと思う。

本当は、ちゃんとお付き合いして、ちゃんと結婚して……それからなんだと思う。

 

……でも。

後悔する気持ちは、ひとつも無くって。

結ばれたこと、愛してくれたことが、幸せで。

 

すごく恥ずかしい。

でも、その何百倍も、嬉しい気持ちでいっぱいだ。

 

「デク君……?」

ご飯を食べながら、ぽつり、と名前を呼ぶ。

「な、なに? 麗日さん」

「……ありがと」

伝えていいって分かったから。

だから、いっぱい愛してくれたことへの、お礼。

 

 

「いや……僕の方こそ。なんかもう、全部もらっちゃって……」

「ずっとデク君にあげたかったから……いいの」

「それは……なんていうか、ありがとう」

「うん……私の方こそ……」

 

箸を伸ばし、ご飯を口に運ぶ。

ちゃんと味がして。

すごく美味しくて。

向かいの席に、デク君がいて。

お股には今まで感じたことのない違和感があって。

やっぱりこれは……夢じゃなくて。

 

 

美味しいご飯を食べながら、実感する。

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 

これは、夢じゃない。

本当に私は、想いが通じて。

デク君と結ばれることができたんだ。

 

夢みたいだけど、夢じゃない。

これは、夢じゃない。

夢じゃあ、ないんだ。

 

これ、現実なんだ……

 

 

「え!? 麗日さん、どうしたの!?」

「へ……?」

「いや、だから、どうしたの?」

「……なにが?」

「なにがって……だって、泣いてるから」

「え……?」

 

指で触ると、確かに頬が濡れていた。

「あれ……?」

なんで私、泣いてるんだろう。

 

 

「え? ……あれ、なんやこれ……ご、ごめ……」

自覚したら、もっと涙が出てきて。

拭っても拭っても、ずっと涙が止まらない。

 

「麗日さん!? ちょ、ちょっと待ってね!?」

食事の手を止めて、デク君がこっちに来てくれた。

そして、そのまま抱きしめられる。

「どうしたの麗日さん、何か不安だったりとか? 大丈夫だよ、絶対責任取るし、心配いらないから……あ、身体が痛いとか、具合が悪いとか?」

「ち、違……そうやなくて……」

 

抱きしめてもらって、分かった。

「いま……私、すっごい嬉しくて……幸せで……だから……」

デク君の浴衣にしがみつく。

温ったかい。

 

 

「夢じゃない……夢じゃないんやぁ……デク君、ありがと……ありがとう……」

「うん、夢じゃないから。ほんと、僕も信じられないくらい、幸せだけど」

 

夢じゃない。

ずっと片思いしていた恋が実った。

こんなに嬉しいのに、夢じゃない。

 

その胸に、顔をうずめる。

頭をそっと撫でてくれて。

その手がとっても優しくて。

「ああ……ぁぁ、嬉し……嬉しいよぉ……ごめ、ごめんな……」

「いいよ、全然いいよ。僕も、泣きたいくらい嬉しいから」

 

 

何やってるんだろう、私。

こんなことしてる時間無いのに。

はやく、ご飯食べないといけないのに。

 

だけど、本当に、本当に、どうしようもなく、抑えきれないほど、嬉しい気持ちでいっぱいで。

ずっと優しく抱きしめて、髪を撫でてくれて。

こんな私に優しくしてくれるデク君が、大好きすぎて。

 

落ち着くまで、ちょっとだけ、泣かせてもらった。

 

 

―――― to be continued

 

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