最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.501 moreover

※SIDE 麗日

 

 

食事が終わって、連絡して食器を下げてもらってから。

 

いったん、お互いに着替える事にした。

いつでも宿を出れるよう私服に着替えておけば、着替える時間が無かったという事態は防げるし。

デク君は先に部屋に戻っていた。

 

(麗日さん、お化粧とかも全部終わってからでいいからね)

デク君はそう言ってくれたけど、のんびりしてる場合じゃない。

とはいえ、昨日の気合い入れたメイクと差がありすぎても嫌だ。

いったん洗顔して、化粧水と乳液。馴染ませながら着替えて、急いでメイクをしていく。

 

 

身支度を済ませ、一晩中愛し合った部屋に戻った瞬間、あらためて部屋の惨状に恥ずかしくなった。

 

隣の部屋とは明らかに違う匂い。

ほのかに香るえっちな匂いが鼻についた。

 

窓は開け放たれていた。

デク君が換気のために開けておいたんだと分かる。

 

それでもこれだけ、はっきり分かるほど匂うということは、最初に部屋を出たときはどれほどだったか。

身体は拭いて浴衣も着替えたけど……食事を運んでいた仲居さんには気付かれていたかもしれない。

……もう考えないことにしよう。

 

 

とにかく、部屋の中で水鉄砲を撃ち合ったかのように、びしょ濡れのこの惨状を、何とかしなければならない。

 

水が滴っていたようなところは、ある程度デク君が先に拭いてくれていたようだ。

 

デク君はどこにいるんだろうと思ったら、洗面台から、絞ったタオルを持ったデク君が出てきた。

既に着替えも済ませている。

「デク君ごめんね、遅くなって!」

「いや、全然早いよ。とにかく早く綺麗にしよう。といっても、拭くしかないかなって思うけど……」

「そ、そうやね……タオル借りるね」

 

 

二人で手分けして、濡れたところを拭いていく。

タオルを使ったりするが、畳に染み込んでしまった分は、どうにもならない。

乾くのを待つしかないし、乾いて匂いがついてなければいいんだけど……

 

 

これ、ほとんど私の潮だよね……汗はこんなところまで飛ばないし。

これが殆ど全部自分の身体から出てきたんだと思うと、恥ずかしくてたまらない。

 

ああもう、何がいけなかったんだろう。

……やっぱり、空中を漂いながらシたのが、いけなかったんじゃないか。

空中で潮なんて吹けば、そりゃ部屋中が凄い事になるかもしれないけど……

 

でも、無重力状態で、いっぱい愛してもらえたの……すっごい気持ちよかったなあ。

本当におかしくなっちゃうかと思った。

あ、ダメだ、思い出すだけで濡れてくる。

今は忘れて掃除をしないと……

 

……次からは、アレをするときは、場所を考えてからしよう。

 

 

「あ、こっちも濡れてる」

好きな人が、自分の粗相した後始末をしている。

恥ずかしくて死にそうだ。

そもそも、なんで私がこんなに恥ずかしい思いをしなきゃいけないんだろう。

 

デク君が、あんなにいっぱい私を気持ちよくするからじゃないか。

もうイッてるのに、何度も膣奥を突くから……いちばん弱いところばっかり狙って、ずっとイかされて。

……ダメって言わなかったけど。

でももう、ダメって言ってもやめてくれなくなっちゃったし。

 

 

よく考えたら、声だって全然我慢できなかった。

というか気にしてる余裕が無かった。

はしたない、えっちな声を一晩中あげていた。

 

自分の喘ぎ声を、誰か他の人が聞いていたんじゃないかと思うと、死ぬほど恥ずかしい。

というか、最後に空中でシたのが一番声が大きかった気がするけど、あれって逆算すると朝の7時くらい……?

もう起きてる人が大勢いる時間だけど……

 

それでも誰も気付かなかったと信じるしかない。

あんな恥ずかしい声、デク君以外、誰にも聞かれたくない。

 

 

「麗日さん、そっちどう?」

「あ……えっと、拭いたけど、染み込んじゃってる……」

まずい、手が止まってた。

 

「乾くの待つしかないかなあ……」

「ドライヤーで乾かそうか」

洗面台から備え付けのドライヤーを持ってきて、熱風を当ててみる。

 

ドライヤーで水跡を乾かすけど、全然乾いてくれない。

……えっちな匂いが増したりしないよね?

 

「……うん、とりあえず大丈夫!」

くんくん、と匂いを嗅いだデク君。

 

仕方ないんだけど、嗅がないでほしい。

恥ずかしくて倒れそうだ。

 

 

「そうだ、布団乾かさなきゃ!? う、浮いた方が乾くの早いよね!?」

湿ったままの布団を指さす。

 

「そうだね。畳むにしても、いったん持ち上げないとだね」

布団に触れて、個性で浮かせる――と、ぽたぽたと水が滴った。

そして、持ち上げた布団の下には、丸く特大の水跡が出来ていた。

 

あまりの有様に一気に顔が熱っていくのが分かる。

「ぅぁぁぁ……は、は、恥ずかしぃ……もうイヤやぁ。こんなんどないしたらええんよ……」

 

寝ながら後ろからされたときに、ずっとお漏らししたみたいな感じがしてたけど、こんなに濡れてるなんて思わなかった。

 

 

「ごめんね麗日さん! 僕のせい! 僕のせいだから!」

デク君はフォローしてくれてるけど、これ全部私の身体から出てきたんだと思うと、恥ずかしすぎて本当に死にそうだ。

こんなお布団どうすればいいんだろう。

 

「で、デク君のスーツについてる個性で、何とかできない!?」

「ごめん、スーツ持ってきてない! メンテナンス中!」

「そういえば持ってなかったね……だ、誰か、なんかいい個性の人が……轟君みたいな……」

「僕達以外誰も来てないし、来てたとしても絶対呼べないよ!?」

「ああっ、それもそうや……!」

 

当たり前だ、こんな部屋に人を呼べるはずがない。

まともな思考力が欠如してる。

 

 

ひとまずシーツを引っぺがし、風呂場に持って行って洗う事にした。

デク君が風呂場でシーツを洗ってくれている。

この布団も洗濯した方がいいと思うけど、今この場でどうすればいいか思いつかない。

タオルで吸水しながらドライヤーを当てるけど、焼け石に水だ。

 

布団以外だってまだ乾いてない。

障子は乾いたけど、パリッとしていた面影が消失し、濡れていた箇所がふやけて、ふにゃふにゃになっている。

畳はいたるところに水跡が残っているし、何より布団は御覧の有様だ。

 

本当にどうしよう。時間がいくらあっても足りない。

 

 

そのとき、時計が鳴った。

針が10時を指している。

もうチェックアウトの時間だった。

 

「麗日さん……諦めて、謝ろう」

 

この瞬間、私は羞恥で死ぬことが決まった。

 

 

 

※SIDE 緑谷

 

 

「まあ、僕のいた部屋でよかったよ」

「そんなことあらへんよ……」

「麗日さんが悪いわけじゃないから。僕のせいだし」

「私のせいやし……ぁぁ、ほんとに恥ずかしぃ……」

 

荷物を手に、フロントに向かいながら、麗日さんを慰める。

麗日さんは可哀想なくらい気落ちして、恥ずかしさに死にそうな顔をしている。

 

気持ちは察するけど、麗日さんが悪いわけじゃない。

全部僕のせいなのは間違い無いんだ。

 

 

フロントにつくと、麗日さんに先に鍵を返してもらう。

ほとんど何も使っていないし、部屋も綺麗なので、返却だけですぐ済んだ。

問題は僕の方だ。

 

 

フロントの人に鍵を渡しながら、申し訳なさに押しつぶされそうな気持ちのまま、声をかける。

 

「……あの、ちょっとすみません」

「はい、何でしょうか」

「そのですね……僕が泊まってた部屋、なんですけど……」

「何かございましたか?」

「えっと、その……すみません、僕が汚してしまって」

隣から、「ぅぅ……」と小さい声が聞こえた。

 

「あの……本当に申し訳ありません。弁償でも何でもしますので」

「吐いてしまった、とかでしょうか?」

「いや、吐いてはいないんですけど……」

どちらかというと、吐いたというより、吹かせたというか……いやいや、アホなこと考えてる場合じゃない。

 

「ちょっと……水濡れといいますか……」

「お茶か何か零してしまった、ということですか?」

「……そんなところです。結構盛大に……」

「ぁぅぅ……」

隣で麗日さんが真っ赤になって小さくなっている。

 

 

「あの、本当に申し訳ありません。僕、弁償でも何でもしますので……」

「そういう事でしたら、おそらくご心配いただかなくても大丈夫かと存じます。少々お待ちください」

そういってフロントの人が奥に引っ込んだ。

 

そのまま待っていると、少しして戻ってきた。

「客室担当の方に連絡して、お部屋の状態を確認させていただきました。確かに水濡れがひどいという事でしたので……こちらの客室保険についてご説明をさせていただきます」

そういって、『客室保険について』と記載されたラミネートが出された。

 

「当館は保険に入っておりますので、お部屋の修繕につきましては、保険でカバーさせていただきます。ただその場合、保険の手付金として、一定の金額を頂戴しております。今回につきましては、こちらの金額を頂戴できればと存じます」

表にされたいくつかの料金の一つを指される。

 

「あの、お金はいいんですけど……すみません、本当にこんな金額でいいんですか?」

提示された金額は一泊分以下だった。あの惨状の部屋をどう直すか分からないが、安すぎる気がする。

 

「はい。水濡れだけで、特に機器類の破損は無いとの事でしたので、こちらの金額で大丈夫で御座います。ご了承いただけるでしょうか」

「もちろんです。払います、もう喜んでお支払いさせていただきます! ああ良かった! 本当にすみません、全部僕のせいなんで!」

金額も物凄く良心的で、何の不満も無かった。

とにかく謝り倒して、何かあればこちらに、と自分の携帯番号を伝えた。

 

 

想像していたよりも遥かに簡単に済んでしまって、少し拍子抜けした感じだ。

 

まあ何はともあれ、穏便に解決してよかった。

万が一にも、A組のみんなの方に連絡されるのだけは避けたかった。

 

部屋の修繕費が発生するほどヤリまくったのか、とか思われたくない。

いや……実際そのとおりなんだけど。

それでも、この事実は伏せておきたい。

 

 

「デク君、ごめんね……」

フロントを後にすると、麗日さんがしょんぼりと声をかけてきた。

 

「いや、全然いいよ。なんか普通に許してもらえたみたいで、本当に良かった」

「デク君、お金いくらやった? 私も出すから……」

「いいよ、そんなの。大した金額じゃなかったし、気にしないで」

「いや……せやかて、あれほとんど私の……ぅぅぅ」

麗日さんが恥ずかしさと申し訳なさで項垂れている。

 

 

「本当にいいから。ああなったの、僕のせいだし。全然気にしないで」

本心だった。

誰より好きな麗日さんが、僕と肌を重ねて、あんなに気持ちよくなってくれた。

最高の充足感を得られたし、本当に嬉しかった。

正直な話、また麗日さんと昨晩のように触れ合いたいという気持ちがある。

そのためにも気に病んでほしくない。

まあ……場所を選ぶ必要はあると思うけど。

 

「……ほんとに、ええの?」

「本当にいいから、気にしないで。また一緒に、この旅館来ようよ」

「……この旅館、また来れるんやろか。出禁にされて二度と来れへん気がするんやけど……」

「大丈夫じゃないかな。ちゃんと部屋確認してもらって、保険の手付金も払ったわけだし……」

 

 

麗日さんと結ばれた、思い出の旅館だ。絶対にまた来たい。

保険使った事で、ブラックリストとか入らなければいいんだけど……まあそれは次回予約する時に分かるだろう。

 

「僕はまた、麗日さんと一緒に来たいな」

「うん……私も、デク君と一緒に、また来たい」

麗日さんはそういって、少し恥ずかしそうに、微笑んでくれた。

 

 

宿を出ると、宿の前には、昨日荷物を預けていたマイクロバスがあった。

これに乗れば駅まで送ってくれる。

もちろん荷物だけ預けることもできる。

駅までは特にめぼしい店があるわけでもないし、駅まで乗っていった方が楽だ。

 

これに乗って、駅に行く。そして電車に乗る。それが最も効率的だし間違い無い。

 

ただ、そうしてしまうと、ひとつだけ困ることがあった。

胸に残る、トゲのような引っかかり。

これだけは絶対に、残したままにしたくなかった。

 

少しの逡巡があった。

けれど意を決して、麗日さんに向き直る。

 

「あの、麗日さん……荷物だけ預けて、駅まで歩かない?」

 

 

 

 

※SIDE 麗日

 

 

デク君から、荷物を預けて駅まで歩くことを提案された。

ちょっと照れくさそうというか。

どうしたんだろう。

 

「うん、いいよ」

電車の時間までは余裕がある。

昨日お土産も買ったし、今日はもう帰るだけだ。

最悪乗り過ごしても、窓口で切符を差し替えてもらえば済む。

デク君がそうしたいというなら、断る理由は特に無かった。

 

 

荷物をマイクロバスに預け、宿を後にして、のんびりと歩く。

山間に吹く風が気持ちよかった。

とりとめのない話をしながら、一緒に歩く時間。

 

手は繋いでない。

昨日はナンパ防止という大義名分があったけど、今は市街地でもなく、そんなものもないし……

何となく、昨日繋いでいた右手が、物寂しい。

 

 

坂道の途中に来ると、眼下にはちょうど昨日、結婚式を目撃した宿の中庭が見えた。

遠くには昨日一緒に歩いた街並みが見えて、結構景色がいい。

 

「あの……麗日さん」

ふと、デク君が足を止めた。

 

「デク君、どうしたん?」

「えっと……いろいろ、順番おかしい、っていうのは……分かってるんだけど」

ぽりぽりと頭を掻いて、恥ずかしそうにしている。

どうしたんだろう。

 

 

「やっぱり、けじめというか、区切りというか……分かってはいても、ちゃんと言わなきゃいけない事だと思うから」

「どうしたの?」

 

恥ずかしそうなデク君。

耳まで真っ赤になってる。

 

意を決したように、顔をあげて。

私の瞳を、まっすぐ見つめてくれる。

 

 

「麗日さん。あなたが好きです。僕と、付き合ってください」

 

おずおずと差し出された手。

恥ずかしそうな、照れくさそうな笑顔。

 

いっぱい気持ちを伝えあった。

いっぱい愛し合った。

 

あらためてこんなこと言わなくても、気持ちはちゃんと通じてる。

 

……それでも。

 

ちゃんと、付き合ってほしいと言ってもらえた。

 

それがとっても嬉しくて、胸いっぱいに、温かい気持ちが溢れてきた。

 

 

泣き崩れそうになるほど、嬉しくて。

昨日あんなに泣いたのに。

今朝だって、ご飯を食べながら泣いたのに。

ふつふつと涙が湧いてきて。

 

「はい……っ。よろしく、お願いします……!」

私の手を、デク君の手に重ねた。

重ねた手から体温が伝わってくる。

触れた肌の感触が感じられる。

繋いだ手から、甘い温かさを感じていた。

 

……温ったかいなあ。

こうしているだけで、すごく落ち着いて、幸せな気持ちになる。

 

 

ふと、あたりを見渡す

周囲には誰もいなかった。

 

いま、二人っきり。

 

そう思ったとき、また瞳が合う。

彼の瞳の奥に、私が映っている。

私だけが。

 

それが、とっても嬉しくて。

胸の奥が、きゅん、として。

 

両手を伸ばす。

デク君の顔を抱えるように。

 

見つめ合ったまま、そっと、背伸びをして、踵をあげた。

 

優しく、唇が触れ合って。

全身にふわぁ、って広がる、たまらなく幸せな心地よさ。

 

 

 

ゆっくり顔を離し、自然ともう一度手を繋ぐ。

お互いに顔を下に向けて……繋いだ手のひらに視線を向けた。

「麗日さん……このまま、手、繋いでたいんだけど……いい?」

「うん……私も、繋いでいたい」

少し恥ずかしいけど、でも本心だった。

 

していることは昨日と同じ、ただ手を繋いでいるだけ。

でも、意味が全然違う。

 

人混みだからじゃない。トラブル防止でもない。

この繋いだ手には、取り繕った理由なんか、ひとつもない。

 

 

ただ、好きだから。

 

好きな人だから、手を繋いでいたい。

その温もりを感じていたい。

ただそれだけ。

 

 

少しでも相手のことを感じていたいって、お互いに、そう思っているから。

その気持ちがあるからこそ重なる、二人の手のひら。

 

なんの言い訳もない、本当の恋人同士だけに許された、素直で、純粋な理由。

 

 

「えっと……じゃあ、行こうか」

「うん、駅……行かないと、だもんね」

 

その手を繋いだまま、歩き出す。

私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれる。

 

 

「その、ごめんね……昨日の夜、付き合ってほしい、って、言い忘れてたな、って思って」

「はは……そっか……そうだったね……」

「本当は、もっと別の場所で言うべきかな、って思ったんだけど……でも、時間置いちゃいけないかなって思ったり、駅だと絶対人が多いし……色々考えたんだけど、なるべく早く伝えなきゃ、って思ったら……もう、ここしか思いつかなくて……」

「いやいや……うん。全然いいよ……ありがと……」

 

場所なんてどこでもよかった。

確かに、希望を考えだしたら、ロマンチックな場所なんていくらでも思いつくだろう。

でも、ちゃんとお付き合いしてほしいって、そう言ってもらえたことが、何より嬉しかった。

どこで言ってもらえたって、私の答えなんて決まってる。

 

そもそも昨日の夜、ちゃんと告白してくれた。

あんなロマンチックな花火の後に。人生で一番嬉しかった。

 

 

「あと、それから、ちゃんと責任取らせてもらうけど……まず、麗日さんのご両親にご挨拶しないと? あ、いや、プロポーズが先かな? でも今に限っては検査が先なのかな……」

「えっと、その、一旦待ってもらって……デキてたらアレなんやけど、とりあえず私、後で検査してみるから……」

嬉しいけど、いきなり話が進みすぎてる気がする。

いや、全然いいんだけど、幸せがジェットコースターみたいに急速度で訪れすぎて、気持ちがついていかないというか……少し私にも、落ち着く時間というものを貰いたい。

 

「あ、そっか、そうだよね。麗日さんの気持ちとかご家族の都合とか体調とか色々あるだろうし……じゃあ一旦、待つようにしよっか……ああそれから、A組のみんなにも、いつ報告すれば……」

「それは……ちょっと時間経ってから、だんだんと伝えていけばいいかなって……LINKで公表するのだけは、だいぶ後にして……二人で決めよっか……」

 

 

そのまま無言になってしまった。

嬉しい気持ちが胸の中でぐるぐる回って、幸せでたまらないのに、恥ずかしくなって目を合わせられず、足元を向いたまま歩いてしまう。

手は繋いでいるのに、幸せなのに、何を喋ればいいか分からなくて。

 

どうしようと思って、ふと、隣のデク君の顔を見上げた。

 

私の視線に気付いたのか、目線が合う。

照れくさそうに、微笑んでくれた。

 

 

私が隣を歩いている。

私が手を繋いでいる。

私に微笑みかけてくれる。

 

なんでもないことだけど、恋人同士だって、実感する。

 

この幸せは本物だ。夢じゃない。

デク君と恋人同士になれた。

 

私が、デク君の彼女なんだ。

デク君が、私の彼氏なんだ。

他の誰でもない、私のことを想ってくれている。

 

 

ああ……幸せだなあ。

こんなに幸せでいいのかな。

 

 

ずっと、こうしたかった。

気持ちが通じて、こうして歩いている時間は、本当に夢のようで。

 

 

「ありがと、麗日さん……その、今すっごい幸せ」

「うん、私も……幸せ。幸せ過ぎて、たいへん……」

 

ただ一緒に歩いてるだけなのに、胸がいっぱいになる。

手を繋いでいるだけなのに、まだ涙が溢れそうになる。

 

 

涙をこらえたくて、視線を上に向けた。

 

雲一つない、いい天気だった。

個性を使えば、空の彼方まで飛んでいけそうな。

 

日差しが陰る心配なんてどこにもない。

どこまでも透き通った、綺麗な青空が広がっていた。

 

 

 

―― おしまい ――

 

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