最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版) 作:練乳グラブジャムン
※SIDE 飯田
「それでは、第二回、恋仲発展プロジェクト会議を始めさせていただきます。」
前回の会議から一週間。
緑谷君と麗日君を除くA組メンバーは、再び轟君の事務所に集合していた。
だが、集まっていたのはA組のメンバーだけではなかった。
そこには新たに、雄英の根津校長とオールマイト、ヒーロー公安委員会の会長であるホークスの姿があった。
思いがけない大物の登場に、事務所の職員が何事かと驚いていたほどだ。
《緑谷出久と麗日お茶子が想いを伝えあうため、最も相応しい舞台を用意する》
プロジェクターには、前回決定した、この会議の目的が映し出されている。
短絡的な行動に走らないためにも、このスローガンを全員で共有することは、非常に重要だ。
初心忘るべからず。常に意識していきたい。
「八百万君、また進行を頼めるだろうか」
全員揃ったことを確認し、八百万君に開始を促す。
「分かりました。それでは、始めさせていただきます」
前回と同じように、八百万君が前に立つ。その隣に根津校長も立った。
「前回の会議では、旅行という方向性が決定しました。その後の議題として、日程と場所の問題が保留となっておりました」
「また日程の確保においては、緑谷さんのスケジュールを抑えるため、雄英にコンタクトを取らせていただきました。結果、根津校長はじめ、雄英の教職員、全員の協力を得ることに成功いたしました」
「教職員、全員っスか?」
「今日ここには僕と八木君だけ来てるけど、他の先生方も知っているよ。みんな喜んで協力してくれたよ」
そう、前回の会議から僅か一週間で、協力者はA組の範囲を超えていた。
最初はA組のみんなでと考えていたが、二人に悟られぬように舞台を整えるためには、我々の力だけでは不可能だという結論に至ったのだ。
「更にヒーロー公安委員会の協力もいただけることになりましたわ」
「やあやあ、皆さんお久しぶり。よろしくね」
ホークスがひらひらと手を振っている。背後には秘書か護衛か、黒服を着た職員が数名立っている。
「先程から気になっていたが、ホークスも協力してくれるのか?」
「僕が頼んだのさ」
常闇君の問いに、根津校長が答えた。
「続けますね。既にグループLINKでお伝えしている内容も含まれますが、今一度整理させていただきます」
八百万君がスライドを進めた。
「日程は画面に記載のとおりです。目的地は、岐阜県にある下呂温泉になります。静岡駅から電車で三時間ほど。ここを舞台として準備を進めます」
プロジェクターに、デートを決行する日付と、地図が表示された。
「オイラよく知らねえんだけど、良いところなのか?」
「日本三大名泉の一つじゃねえか。マジで最ッ高の温泉だぜ、超行きてえ」
「上鳴、あんたの趣味はいいから……」
「まず日程ですが、現時点で、この日に緑谷さんと麗日さんの予定はありません。正確には飯田さんと娃吹さんから、個人的に遊ぼうと仮予定を入れて確保していただいています。ここにいる全員のスケジュールも空いている事が確認取れていますので、この日程で決定したいと思います。問題ありませんね」
皆が首肯する。
「次に場所です。この場所に選定した理由は色々ありますが、最大の理由は警備になります」
「警備?」
「その通りだよ、上鳴君。この作戦を実行する上で、すごく大事な事なんだ」
根津校長が口を開く。
「もしデート先で犯罪が起きれば、緑谷君も麗日君も、即座に飛び出していくだろう? そうなれば、もうデートは御終いだ。今回の話を聞いたときに、真っ先に考えたよ」
「そうか……あいつらの強さはどうでもよくて、そもそも絶対に犯罪やトラブルが起こっちゃいけないわけか」
「そのとおり。しかも二人に、自分たちが警備されていると気付かれてはいけない。二人に気兼ねなく楽しんでもらうためには、『気付かれないように警備する』。これが重要になるのさ」
「普通に警備やるより難易度クソ高いな……」
「根津校長の仰る通りです。お二人にデートを楽しんでいただくためには、犯罪が起こらない環境が必要です。そのためには警備が必要。ただしお二人に気付かれてはいけない……この条件を踏まえてしまうと、最初の案にあった海岸沿いという場所については、警備難易度が高いことから、候補から下げられました。下呂温泉は、警備可能かつデートに相応しい観光地として選択されています」
「ロマンチックだと思ったんだけどなぁ」
「雰囲気は良くても、流石にしょうがねえよ……海岸沿いで気付かれないように警備とか、相当厳しいって」
再びスライドに戻る。
「下呂温泉は、岐阜県の山間部にあり、全周を山々に囲まれています。駅周辺の地形もそれほど広くありません。観光地ではありますが、普段警備パトロールを行っているヒーローも数名ほどです」
「また、メインとなる温泉街に至る道も国道と県道が一本ずつ、その他は交通量の少ない小さな道がある程度。鉄道も一車線しか走っていません。このため街中、周辺道路および沿線上の警備が各段に容易になる、というのが今回の選定理由になります。場所についてですが、異論があればお出しいただければと思います」
「……まあLINKで聞いてたし、場所はいいけどよ。警備はどうするんだ? 俺らで手分けしてやるか?」
「そうだね、私たちで手分けしてやれば……」
「それは無理。君達は『仕事や別の用事でキャンセルした』事にして参加しないんだろう? 君達には、現地での警備ができない」
根津校長から釘が刺さる。
「付け加えると、君たちを含め、ヒーロービルボードチャートに入ってくるような有名ヒーローを大勢投入することも出来ない。そんなことをすれば逆に騒ぎになるからね。だから、チャートには上がってきていない、比較的知名度の低いヒーローを主体に、街の警備を行う必要がある」
「……あれ、ちょっと待てよ? ってことは、もしかして、このプロジェクトのメンバー、もっと増える?」
「ご明察です。私たちの作戦には、大きな欠点がありました。それは、万全に準備をしようとすればするほど、お二人の恋心が、公然と大多数の人に知れ渡ってしまう事です」
「もちろん通常であれば、このような事はプライバシーの侵害も甚だしく、とても許されるものではありません。しかし、本プロジェクトに限ってのみ、この点は優先順位を大きく下げております」
そう、この点は相談され、僕も考慮した。
しかし、もっと優先する事があると結論付けた。
「その理由としましては、緑谷さんと麗日さんの間に、特別な感情が芽生えていることは、多くのヒーローや一般人に至るまで、広く存じている事だからです」
スライドに、雄英側から提供してもらえた、何枚かの写真が投影される。
集まる群衆。
ボロボロの緑谷君と、彼を守るように佇むA組の皆。
そして、雨の中、学校の屋上で叫ぶ麗日君。
AFOとの決戦前、緑谷君を連れ戻した時の写真だ。
おそらく警備システムが撮っていたものだろう。
「この光景を見た事のある人であれば、お二人の間に恋心があると聞かされても、誰も驚かないでしょう。人の恋心は大切なプライバシーではありますが、この二人に関しては、周知の事実といっても差し障りないかと。実際、本当に両片思いなのですし……むしろ仲を進展させるため、広く協力を要請することを重視したいと考えました」
「まあ、クラス全員が察してたくらいだしな」
「というか、あの場にいた全員が察したわよ」
「いくらヒーローっていっても、何とも思ってない男の子のために、あんなこと出来る女の子いないもんね……」
「あんだけ必死に叫んでもらって、何も思わない男もいるわけねえもんな」
「……思ったんだけどさ。なんでこの状況で、あの二人はお互いの気持ちに気付いてないワケ?」
「……だから、クソナードと麗日なんだよ」
切島君の疑問に、頭を抱えた爆豪君が答えた。
何の説明にもなっていないはずの言葉だが、この上ない説得力があった。
「警備については、僕とホークス君の方で進めておくよ。都度相談させてもらうし、詳細が決まったら報告するから、今日のところは、いったん警備の事は頭から外してくれていい」
根津校長が次を促した。
「ありがとうございます。では場所と日程は、こちらで確定させていただきます。宿の手配等は、これから選定しますので、またグループLINKで相談させてください」
皆が合意してくれた。
後ほど全体のグループLINKで、温泉旅行がある旨を伝えよう。
緑谷君と麗日君のことだ、きっと賛同してくれることだろう。
「では、次の議題に移らせていただきます。これは女性陣から出てきたアイデアですが、麗日さんをより美しくする必要がある、と考えています」
更にスライドが切り替わる。
八百万君から重要な議題があるとは聞いていたが、これは僕にも予想外だった。
「緑谷さんを本気にさせるため。麗日さんには、今一度魅力的な女性に生まれ変わっていただきます」
画面にピクトグラムのような、人型のアイコンイラストが大きく示された。
「こちらが、女性側で考えた、麗日さんのアップデート箇所になります」
八百万君がスライドを進めると、男性陣の何名かが「うっ」、と小さな呻き声をあげた。
イラストに山のような注釈線が注がれ、アップデート項目がおびただしいほど記載されている。
全身いたるところに美白、スリムアップ、脱毛の注釈が突き刺さっていた。
頭部はヘアから始まり、眼下、口元、顎ラインなどの項目が並び、指先にまでネイルケア、下半身には浮腫み解消などの文字が並ぶ。
文字通り頭の天辺から足の先まで余すところがない。
いかにして実現するつもりなのか、バストアップなどという項目まである始末だ。
「改造手術でもするつもりかよ……特撮の怪人とか作ろうとしてねえよな?」
上鳴君が冗談のように言葉を放つが、誰も笑いもしない。
これら全ての項目を実現するなど、とても現実的とは思えない。
全身にメスでも入れるつもりか、さもなくば変な薬でも盛るか、何かしらの個性で変異させるのではと心配になる。
女性陣は真剣そのものだが、男性陣は唖然としている。
ホークスまで真顔で絶句しているが、こんな表情は初めて見た気がする。
「女性陣で、およそ最低限必要と思われる項目を列挙しました」
八百万の発言に、男性陣がお互いに目を合わせる。
いま最低限と言ったか?
この注釈線が刺さりまくり、ハリネズミのようになったイラストが?
唖然とした皆の口が、更に大きく開かれる。
「ですが、女性視点だけに偏っていては、思い至らぬ点があって然るべき。見落としがあるはずです。麗日さんをより魅力的にするため、特に男性視点での意見をお願いいたします。何かありませんか?」
八百万君が、確信を持った口調で意見を求めるが、誰も声をあげない。
このイラストに、まだ線が足りないというのか。
むしろこれ以上、人体に変更可能な箇所がどこにあるのか、見当もつかない。
「……よく分かんねえけど、もうこの時点でやり過ぎじゃねえの? こんだけやったら原型留めてねえだろ」
「やり過ぎなわけないよ! 相手はあの緑谷だよ!?」
「どんだけ綺麗になっても、やり過ぎなんて事、絶対ないから!」
切島君の発言に、女性陣から非難の声が上がる。
「峰田さん、いかがでしょう。女性の魅力を考察されるのはお得意かと。何でも構いません、忌憚のないご意見を頂戴したいですが」
「いや……え、えぇ……あの……ごめんなさい。これで良いと思います、はい」
話を振られた峰田君が、脂汗を流している。
流石の彼でも引くほどの内容のようだ。
「……ではこの場では、いったんボディに関しては保留といたします。アイデアが浮かんだら、すぐご連絡ください」
絶対に誰もアイデアなんて出せないだろ、という空気が、男性陣の間に満ちた。
「では次に、麗日さんの服装について。女性として魅力的な服装についてご意見をお願いします」
スライドが切り替わる。
帽子、上着、スカート、パンツ、ベルト、靴、装飾品に至るまで、それぞれが何種類もあり、おびただしい数の写真が表示される。
「画像が小さく申し訳ありませんが、服は合わせることで変化しますので、必要最小限に絞り込んだものをご提示させていただいております」
大真面目なのだろうが、あまりに画像が小さすぎる。
こんなモザイクアートのようなものを見せられても何も言えない。
意見を求めているのか絶句させたいのか分からない有様だ。
「特に、緑谷さんの好むヘアスタイルや服装をご存じの方、是非情報をお出しください」
そういえば、緑谷君の好みとはなんだろう。
どういう女性が好きなのか、話し合ったことはなかった。
皆の表情を伺うが、「そんなの知らないぞ」と顔に書いてある。
「峰田さん、いかがでしょう?」
「また俺!?」
峰田君が腕を組んで考え込む。
「いや……あいつそういう話、あんまり乗ってこなかったし……それに、どれも好きそうだったぞ」
「どれも好きとか、何でもいいじゃ困るの!」
葉隠君の声が響く。表情は見えないが、おそらく真剣そのものなのだろう。
「そういうのが一番困るんですよ!」
「そうそう! ちゃんと言ってほしい!」
「ええぇ~……そう言われても……」
峰田君だって困るだろう。
隠しているのではなく、本当に知らないのだ。
かくいう僕も、緑谷君がどのような容姿を女性に求めているかなど、全く心当たりがない。
集中砲火を受けた峰田君が、何とか言葉を絞り出す。
「じゃあ……髪型は、あまりいじらずに、今のままが一番良い……んじゃないかな……」
「では服装は?」
「いや分かんねえって!?」
遂に峰田君がギブアップした。
よく耐えた方だと思う。
「……もうさ、緑谷に直接聞いたらどうなんだ?」
「それやっちゃうと、そのままの恰好で麗日が出てきたときに勘付かれちゃうでしょ……」
耳郎君の言葉に、上鳴君も「それもそうか……」と押し黙った。
「なあ八百万、力になれなくて悪りぃんだけどよ……やっぱ服とかは、女同士で買い物に行って、試着とかしながら選んだ方が早いんじゃねえか?」
「轟さん……私達、女性陣の感性だけで大丈夫でしょうか」
「いや、むしろ俺達の出る幕がねえっつうか……正直これ見せられても、よくわかんねえよ」
轟君の率直な意見に、女性陣の気炎が下がる。
表裏のない彼だからこそ、本当に分からない、というのが伝わったのかもしれない。
「案外男って、イメージ通りで来られるより、ギャップというか、普段見てない姿に弱かったりするから……女同士で似合う服買って来るのが、一番良いんじゃねえ?」
切島君の言葉に、女性陣も顔を見合わせて沈黙した。
「お茶子さんの改造計画に、かなりのお時間を割くと思っておりましたが……少々予想外な結果になってしまいました」
改造? いま確かに、改造と言ったか?
「……ところで、ひとついいかな」
オールマイトが手を上げて申し出た。
「このプロジェクトを進めるにあたっての、費用面についてなのだが。もしよければ、我々にも協力させてくれないだろうか」
予想外の言葉だった。
皆で顔を見合わせ、眉をひそめている。
もう皆働いている。収入だって悪くないだろう。
わざわざ出資などしてもらわなくても、お金で苦労はしていない。
緑谷君と麗日君のための費用なら、自分達で工面できる。
「せっかくのお申し出ですが、我々だけで賄えるかと……」
「緑谷少年と麗日少女のためなんだろう? 私も何かしたいんだ。こんな事くらいしか出来ないが……服でも警備でも、宿代でもいい。何かの足しにしてほしいんだ。是非とも使ってもらえないだろうか」
「僕の方からも出させてね。スポンサーってことで」
「こんな機会だからね。遠慮せず、気の早いご祝儀みたいなものだと思って、協力させてほしい」
オールマイトの言葉に、ホークスと根津校長が続いた。
断るのは簡単だ。
だが、断る方が失礼なような気がした。
みんなと顔を見合わせるが、仕方ない、いいんじゃないか、という表情で頷きあった。
「……では、大変恐縮ではございますが。皆様のご厚意に甘えさせていただいても、宜しいでしょうか」
「もちろんだ。協力させてくれて嬉しいよ、いい舞台にしよう」
オールマイトが喜んで応じてくれた。
考えてみれば、オールマイトはその人生を人助けに捧げてきた人物だ。
過去の大怪我で、満足に食事もできない身体になってしまったと聞く。
これといった趣味も聞いたことが無い。
お金はあっても使い道が無い、こういう用途で使えるのなら本望……という所だろうか。
根津校長の場合は、そもそも資産が凄まじい額だろうし、本当にご祝儀感覚なのかもしれない。
ホークスは……単純に楽しんでいるのだろう、隠そうともせずニヤニヤしている。
その後も細かい調整を決めていき、滞りなく会議は終わった。
かくして僕らの暗躍は、更なる協力者とスポンサーを得て、次のフェーズに進むことになった。
緑谷君、麗日君、待っていてくれ。
僕らが必ず、君達を最高の舞台に連れていってみせる。
―――― to be continued