最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった(全年齢版)   作:練乳グラブジャムン

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No.440 silent communication

※SIDE 緑谷

 

 

雄英高校の訓練場。

その一つである森林地帯に、訓練の立会いに来ていた。

教科担当は歴史だが、アーマーが届いてヒーロー活動に復帰してからは、こうして訓練の補助をする機会も増やしてもらっていた。

いまもアーマーを付けて立会いに来ている。

 

生徒達を前に、隣に立つ相澤先生が声をあげた。

「ではこれより、捜索救助訓練を始める。今回は特別講師として、プロヒーローのアニマに来てもらっている」

「みんな、よろしくね」

相澤先生の号令で、コスチュームに着替えた生徒の顔に緊張感が宿った。

対して、紹介された口田君は、親しみやすい笑顔でひらひらと手を振っている。

 

 

今回の訓練は捜索訓練。

内容としては、口田君の放つ『要救助者』の札を付けた鳥を探し、捕まえて鳥籠に入れるものだ。

口田君の指示で、適切な場所に飛んで行ってくれる。

意図的に逃げることはしないが、人間ではなく鳥を探すということで、難易度はかなり高い。

 

ペットや小さい子供の捜索、強いて言えばヴィランの痕跡調査などにも繋がる訓練だった。

戦闘訓練のような派手さはないが、その分、支援型の個性の人と協力したり、考えて動くことも多い。

口田君の派遣は、障子君の事務所に依頼したところ、快く応じてもらえた。

 

 

一通りの説明を終え、口田君が複数の鳥を放つ。

一定時間後に生徒が散開した。

 

「じゃあ俺は、あいつらの様子見に行ってくっから。緑谷は口田のサポートだ。ここに残って、何かあれば動いてくれ」

「はい。生徒の方、お願いします」

相澤先生が瞬く間に遠ざかっていく。

片足が義足だとは感じさせない軽やかさだ。

 

 

「今日はありがとうね、口田君」

「全然いいよ。久々に雄英に来れて嬉しかったし」

 

訓練中とはいえ、今はやることもない。

モニターはチェックしているが、時折生徒が移動する姿が横切ったり、相談しているところが映るだけだ。

戦闘訓練でもないし、それこそトラブルが無ければ終わるまで僕の出番は無いだろう。

自然と世間話に花が咲く。

 

口田君は事もなげに僕との会話を続けている。

複数の動物とコンタクトを取りながらのはずだが、流石という他ない。

 

 

「緑谷君も、先生やるの楽しそうだね」

「うん、とっても……と、言いたいところなんだけどね」

脳裏に、先日、元気のない気落ちしている生徒の顔が浮かんだ。

声をかけたが、放っておいてと拒まれてしまった。

 

「何かあったの?」

「いや……生徒との接し方というか。悩みがあるみたいなんだけど、なかなか話してくれない子がいて。気になって声掛けたんだけど、僕、結構ガツガツ踏み込んじゃうタイプなのか、それが嫌だったみたいで……いいから放っておいて、って避けられちゃって。どう接したらいいかな、って」

「先生らしい悩みだね」

 

 

口田君はしばし逡巡し、思いついたように

「緑谷君、ひとつ問題出してみてもいい? クイズみたいな簡単なやつ」

「問題? うんいいよ、なに?」

「じゃあ、そうだな。例えば……窓際に座って、一人で、ぼーっ、と外を見ている人がいたとするよ。この人とコミュニケーションを取るとき、緑谷君なら、どうする?」

口田君の想定をイメージする。

 

窓際で、一人で外を見ている人。

その人とコミュニケーションを取るにはどうすればいいか。

 

 

「……普通に、声をかければいいんじゃないかな?」

「でもその人は、静かに景色を楽しんでいるだけかも。邪魔になっちゃうかもしれないよ」

「あ、そっか……じゃあ話しかけたら邪魔だから、近付かないでおくのが正解なのかな」

「でも、もしかしたらその人は、悩みを抱えて、困っているかもしれないよ。そもそも、それだとコミュニケーションにならないし」

「え……ええ?」

 

なんだそれ。

声をかけても、かけなくても、どっちもダメじゃないか。

どうすればいいんだろう。

 

 

前者ならお邪魔をするべきじゃない。でも、後者なら話は変わってくる。

話を聞いてあげるとか、手を握ってあげるとか、何とか助けてあげる必要がある。

「……それどうやって見分ければいいの? 表情?」

「そんなの無理だよ。プロファイリングのプロでも、全ての人を完璧に見分けるなんて出来ないし。この問題の人は、ただ外を見てるだけなんだから。表情からは分からない、っていう設定だよ」

「ええぇ……?」

 

ますます分からない。

話しかけたら邪魔になるかもしれない。

でも放っておいたら、コミュニケーションにならない。困っているのに助けられないかもしれない。

しかもこの想定では、表情からどちらか読み取れない人の場合だ。

 

 

「話しかけたらダメってことは……でも、筆談とかでもないよね」

「うん。喋れないとか、そういう事じゃない。普通の人だよ。どうする? 実は簡単だよ」

「簡単? 本当にぃ? えええぇぇ……?」

簡単だって? 滅茶苦茶難しいぞ、これ。

 

話しかけちゃいけない。放っておいてもいけない。

どっちを選んでもダメ。

喋らなければいいというわけでもないから、筆談は違う。

ならジェスチャーで意思疎通を……いや違う、そういう事じゃない。

 

……どうする? どうすればいいんだ?

 

 

 

「……隣に座って、同じ景色を見るんだよ」

答えの出せない僕を哀れに思ったのか、口田君が正解を教えてくれた。

 

「もちろん、あんまり近すぎるとダメだけど。机の向かいに座るとか、そんな距離感かな。相手の方は見なくていいんだ。相手に話しかける必要もない。隣に座って、相手が見ているものと、同じものを、ただ一緒に見るだけ。その時間が、コミュニケーションなんだよ」

「……それでいいの? 喋らなくても」

「無理に喋らなくていいよ。何でもかんでも、何か会話をしなきゃ、って思うと、自分も疲れちゃうし、相手も大変でしょ」

「確かに、そうかも……」

 

でもイメージしたら納得できた。

窓際で外を見ている人。

その隣に行って、同じように景色を眺める自分。

別に何も邪魔をしているわけじゃない。

もし何か話したいことがあるなら、ぽつりと話してくれるかもしれない。

 

 

「黙っていたいときって、誰にでもあるよ。美術館で絵を見てるときとか、そうじゃない?」

美術館の風景が頭に思い浮かんだ。

 

「じっと絵を見てる人がいたら、その人の隣に立って、そのままずっと、同じ絵を見続けるんだ。もし一緒に、それこそ30分もその絵を見続けたら……そうしたら、もうその人とは、少し仲良くなれたように感じない?」

「……ああ、確かに。うん、そんな気がする」

もし30分も、誰かと同じ絵を見ていたら。

きっとその人とは、そのあと何か話すことになっても、少し打ち解けて話せる気がする。

 

 

「まあ、そんな時間はあんまり取れないかもしれないけど。もしよかったら、参考にしてみてね」

「いやいや、すごくいい話で! 勉強になったよ。ありがとう、口田君」

そうか、話すか話さないか、何かするかしないか、の二択で考える必要は無いんだ。

 

ただ隣にいる。

それがコミュニケーションになることだってある。

そうやって、心を近付けていくことだってある。

本当に、すごくいい話を聞けてしまった。

 

 

ふと、脳裏に麗日さんの姿が浮かんだ。

一緒にいるときはいつも会話が弾んで、いろんな話をしてしまう。そんな居心地の良さがある。

だから逆に、黙って一緒にいるという時間は、記憶に無かった。

 

もし麗日さんと二人一緒に、心穏やかに、同じものを見ているような……そんな時間が訪れたら?

 

言葉を交わしてないのに、お互いの心が近づいていくような。

もしそんな時間があったら、それはとても幸せな時間だと思う。

 

 

その後も訓練は滞りなく終わった。

口田君には重ねてお礼を伝え、是非また来て欲しいとお願いした。

生徒の訓練にもなったし、僕自身も勉強になった。

 

口田君もそうだけど、みんな社会に出て、色々な経験を積んでいると実感する。

外部講師は積極的に招こう。

自分も皆に、沢山教えてもらうことがあると再認識した。

 

 

―――― to be continued

 

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