実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す   作:CarasOhmi

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#11 おっさんゴーホーム

 ……ダンジョン配信騒動では、俺とおふくろはいつも戦々恐々だった。特に俺は、高校の頃の炎上もあり、外野の無責任さを良く知っている。知らずに生きていれば傷つかずに済むのかもしれないが、一度知ってしまえば、そうはいかない。忘れ去られるまで永く残る烙印。その不安と恐怖に常に苛まれる。それが現代のSNS社会だ。

 

 レイちゃんは、SNSやスマホの事情は分からなかったが、謎の板を向けられ、その容姿を声高にからかうように煽られたことに、ショックを受けていた。彼女は俺の手を離すことはなかった。俺が彼女をなだめ、フタバにスプーンでアイスを食わせてもらって、ようやく落ち着きを取り戻した。

 当初はせっかくの楽しい買い物が台無しかと思ったが、SNSの恐怖をまだ知らないことも、彼女にとっての救いだったようで、ひとまず今はさっきまでと変わらず、平穏な表情だ。俺たちは、ほっと胸をなでおろした。

 そして同時に、彼女を一人で出歩かせる危険性を、そこにかかる危機感を、その裡に刻み込むことになった。

 

「じゃあ、帰るか……レイちゃんも、色々あって疲れただろ?」

 レイちゃんは、俺の手を握りながら、少し迷って、コクリと頷いた。

 

「そうね……あ、ただ、最後に一カ所だけ寄っていい?」

「……?何か買ってない物が?」

「うん……、まあ、こっちの方でね」

「?」

 

* * *

 

 おもちゃ売り場。

 今日一日、フタバはレイちゃんにつきっきりだ。ハル坊とチアキちゃんはおふくろに預けているが、ダンジョンの時のこともあって、いい加減田舎に預けられるのはうんざりしているのだろう。

 レイちゃんの社会生活にも関わることとして優先してもらったが、それでもやっぱり不満はできる。手土産を買ってそれをなだめようってことだ。

 

「じゃあ、ハルトはこのゲーム、チアキはこの猫のぬいぐるみね」

「……早っ!そこは、じっくり悩む所じゃねぇの?」

「いやー、ハルトはいい歳だしね。とりあえず持ってないゲーム一本渡せば、合わなければ売って新しいの買うわよ。チアキは誕生日に欲しがるのもぬいぐるみだし、レイちゃんとおそろいのかわいい子渡せば大満足よ」

 

 ……おお、なんというか、意外とちゃんと子供の好みには寄り添ってんだな。

 レイちゃんにもつらいことがあったから、早く帰ろうと気を遣わせたかと思ったが、むしろ「即決できるほど子供を見てる」ってことの表れなのかもしれん。……こいつも、すっかり「母親」だなぁ。

 

「……あ、渡すのはアンタからにしてよ?甘やかしてる雰囲気出したくないし」

「……へっ、ツンデレ気取りかよ。まあいいぜ、会計も俺が持つよ。レイちゃんの服も買ってもらったしな」

「そう。じゃ、お願い」

 

「……ただ、渡すのはレイちゃんが良いな」

「えっ」

 レイちゃんは、意外そうに俺を見た。

「いや、俺から渡してもいいんだけどさ、綺麗になったレイちゃんに渡してもらえば、二人にとってもサプライズだろ。仲良くなるいい機会にもなるしさ」

「でも……」

 レイちゃんは逡巡する。プレゼントで喜ばせる立場をとって申し訳ないって感じてるんだろうな。

 

「私からも……『お願い』していい?……親心ってね、甘やかしてやりたくても、なかなか素直にはいかない物なのよ。レイちゃんだったら、コイツと違って『甘やかすな!』みたいな小芝居しなくていいし、助かるのよ。それに、子供たちとも仲良くして欲しいし……ねっ?」

「そ、それじゃあ……」

「ありがと、レイちゃん。……大好きっ!」

 フタバはレイちゃんをギュッと抱きしめた。おふくろ二号誕生だぜ。

 

 

 

 さて、会計だが少しまだ混んでるな。キッズどものおねだりが落ち着いて、落としどころを見つけたパパママどもが、プレゼントをお会計に持って行っているのだろう。……独身中年男性には眩しい光景だぜ。

 レイちゃんは、まだ俺と手を繋いでいる。震えこそ収まったが、また何かあるといけない。目の届くところにいて欲しい。俺は彼女を見た。

 

 彼女の視線の先は、チアキちゃんに買ってあげる猫のぬいぐるみ……の三つ隣の棚かな?くまのぬいぐるみだ。

 ……なんだ?オッサンくせぇ見た目だなぁ。だらしない体形の仏頂面のくまさんだ。でも、こういうウザかわって、結構人気になるよな。愛嬌は感じるかもしれん。

 

 俺は、棚からくまのオッサンのぬいぐるみを一個取り、かごに追加した。

「えっ……」

「……俺からのプレゼント。このままじゃ、フタバにレイちゃんを、とられちゃうかもだしな。……()いちゃうぜ」

 

 俺は、不真面目に笑いながらそう答えた。

 ……今日は、レイちゃんを色々連れまわして、怖い目にも合わせちまった。その詫び……なんて言い方したら、レイちゃんもまた申し訳なさそうにしちまう。男のジェラシーってことにして、ここはさっくり会計を済ませるぜ。

 

 会計を済ませ、子供たち二人の分には梱包を。くまのぬいぐるみはそのままにしてもらった。俺は、それをそのままレイちゃんの左手に持たせた。うん、ファンシーで似合ってるな。……オッサンくさくない、可愛いくまさんの方がもっと似合うと思うけど、そこはレイちゃんの好みだ。

 

 彼女は、くまを、嬉しそうにギュッと抱きしめた。しょうもない贈り物だと思うけど……喜んでくれて、うれしいよ。

 

* * *

 

「今日は、お疲れさん」

「ええ、お互いにね」

 俺は、車を運転しながら後部座席に話しかける。

 

「……最後のガキどもが居なきゃ、もっと気持ちよく終われたのにな。本当、悪かったよ」

「言いっこなしよ。アンタだけじゃなく、私も不用心だったわ。どっちかが残るべきだったのよ」

「……そうだな」

 

 後部座席からは、レイちゃんの寝息が聞こえる。疲れて寝ちまったんだろう。大変だったしな。

 

「……でも、寝顔は安心してる感じよ」

「お前が横にいるから、ってか?妬けるぜ」

「アンタでしょ」

 

 ……ん?

 

「発端がアレだから、正直軽蔑してたけどね。それでも、レイちゃんはアンタのことを信頼してるのよ。ずっと手を握ってついて回るなんて、よっぽどよ?……なんだかんだね、兄貴は、よくやってるわよ」

「そう、かね……」

「……ま、だからってあんまり調子に乗らないことね。お姉さん呼びしてもらえてるのは、私の方だけだし」

「うざ」

 

 結局自慢かよ。嫌味な妹め。

 

「……ま、『お兄さん』って呼びたくないのも、ちゃんと理由あるのよ。そこは、ちゃんとわかってあげなさい?」

「んー、どんな?」

「……バカかよ。自分で考えれば?」

 

 おい。肝心なところでそれかよ。……兄を馬鹿にしやがって。

 

 

「しかし、このクマのぬいぐるみ、オッサンくさいわねぇ」

「だよなぁ……レイちゃんには、もっとかわいいぬいぐるみが似合うと思うんだけど」

「はは、喜びなさいよ。このクマ、アンタそっくりよ?」

 

 は?こんな太ってねぇよ。

 いい加減にしろよなコイツ。本当、なんなんだ……。

 

「まったく、本当に……」

 

 もう無視だ。

 あー、あー、なんも聞こえねぇー。

 

「大事そうに、抱えちゃって……さ」

 

* * *

 

 スピードを落とした車は、実家の敷地の私道に入る。

 レイちゃんの服と、子供たちへのプレゼントを乗せた自動車は、かつて邪魔くさいダンジョンの入り口のあった真上を通過し、騒がしい家の前へと向かっていった。

 

 

 

 

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