実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す   作:CarasOhmi

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#23 えんがわ×かしまし×キャット

 ……私は、ユキエさんの話を、何も言わずに聞いていた。

 わからないことはたくさんあった。でも、「いんたーねっと」という物が、怖いものだってことは、この間、お買い物に行ったショッピングモールの件で、簡単に聞いていた。「世界中のどこでも見られる掲示板に、張り紙をするようなもの」って。

 

 ……じゃあ、小さい頃のカズヒロさんは、そんなものを使って、世界中の人から、ひどいことを言われたの?今も、そんなことをされ続けてるの?

 

 ……そんなの、ひどい。あんなに、やさしい人なのに、どうして?

 あんなに……すごく()い人なのに。頑張って家族を守ってきたのに。知らない人から意地悪されて、一人ぼっちになるしかなかったなんて、カズヒロさんが……かわいそう、だよ。

 

「うん……ありがとうね、レイちゃん。あなたの生きていた、生きるか死ぬかの世界ほどではないけれど、やっぱりこの平和な世界にも、泣きたくなるようなことは、いくらでもあるものなの」

 

 ユキエさんは、私と、私の膝枕で眠ってしまったチアキちゃんの頭を、やさしく撫でる。

 いつものじゃれ合いのように、激しく楽しげなそれではなく、そっと、慈しむように。

 

「けれどね、悪いことばかりじゃないのよ。そのダンジョンのおかげで、レイちゃんと会えたんだから……」

 

 ユキエさんは、にっこりと笑顔を見せた。

 

「レイちゃんが来る前はね、私とカズヒロは喧嘩どころか、会話も少なかったのよ。私には負い目があったし、カズヒロも『負い目を感じさせてること』に負い目を感じてた。堂々巡りで、お互い何も言わず、距離を置いて生活だけ支え合うに留めるのが、一番傷つかずに済むって、そう思ってたの。元気に喧嘩してみせるのはフタバやミツキがいる時ぐらい……寂しい話よね?」

 

 ユキエさんは、悲し気に庭に目を移した。ぽつんと佇む、苔の生したふたつの小さな石の塔。お互い見えているのに、届かない、そんな距離。

 

「……けどね」

 

 庭の草花がゆらゆらと揺れ、縁側に吹いた優しい風が、私の耳元の髪を、かすかに揺らす。

 

「レイちゃんのおかげで、毎日本当に楽しいのよ。レイちゃんとじゃれ合えるのはもちろんね、カズの奴があんな遠慮なく私にものを言うのも、全部レイちゃんが来てから。……それにね」

 

 ユキエさんは、掌を口の横に当て、私の耳に近づけて、そっと囁いた。

 

「……カズヒロが、あんなに女の子に優しくするなんて、今まで一度も見たことないのよ?あなたにだけ、特別優しいんだから」

 

 私は、ぽっと顔が熱くなった。

 

「……きっと、子供扱いされてるだけです」

「どうかしら……?チアキちゃんの接し方ともちょっと違うと思うけどねぇ……」

 

 ユキエさんはけらけらと笑った。

 ……そんな、期待を持たせるなんて、いじわる。

 

「……でもね、アイツがどういう気持ちであっても、あなたはそれに縛られる必要もないの。私があの子を縛り付けたことを悔やむように、あの子だってレイちゃんに縛られて欲しいなんて思ってないはずよ。自分がつらい思いをしたことを、家族に味わって欲しくないってのが、あの子の性格だもの」

 

 ……家族。

 私と、カズヒロさんと、ユキエさん。家族に、なれてるのかな……?

 

「私たちは、もう家族よ。……最後まで同じ道は歩けないし、お別れは必ず来るけれど、それでも、私が生きてる内は、いつ帰って来ても、嫌がったりしないわ」

 

 私は、ユキエさんの顔を見つめた。彼女も、私に笑顔を返す。

 

「だから……あなたは、好きな道を選んでいいの。私も、カズヒロも、それを望んでるわ」

 

 ……私の好きな道。

 

 行きたい道は、ある。でも……いいのかな?本当に……?

 こんなに、幸せになっても……いいの?

 優しくしてもらっても、いいの?

 

 ………………

 

「……ユキエさん」

「なぁに……?」

「その……」

 

 

 

「……『お母さん』って、呼んで、いい?」

「!!」

 

 ユキエさんは、一瞬目を見開き、飛びつくように私を抱きしめた。

 

「うん!いいのよ……!あなたは、私の、大事な娘……いつだって、一緒にいるからね……」

「うん……ありがと、ユキエお母さん…………わたし、あなたのこと、だいすき……」

 

 私も、私の肉球をユキエさんの背中に押し付けるように、彼女の細い体を、ぎゅっと抱きしめた。

 

「……ユキエお母さん……これからも、一緒にいてくれる?」

「もちろん!」

 

「じゃあ……、私も、ずっと一緒にいる。だから、カズヒロさんとも、いっぱい……喧嘩してもいいから、仲良くしてね?」

「ふふ、うれしい……きっと、毎日、にぎやかで、楽しくなるわね……」

 

「私、がんばる……二人と、ずっと一緒にいられるように、甘えるだけじゃなくて……仕事だってする」

「やぁねぇ……レイちゃんが忙しくなったら、私が甘えられないじゃない……♥」

「もう………」

 

 私の膝の上で眠っていたチアキちゃんが、私たちの賑やかなやり取りに、眼をこすりながら半身を起こした。

 けど、すぐにまた沈む。私はチアキちゃんの顔を、肉球で撫でた。……もちろん、チアキちゃんも、大好きだからね。

 

「……ふふ、じゃあレイちゃん。あの子にもその気持ち伝えてあげなさいね。何も言わないと、アイツも父親と同じで、『自立させるために厳しくしないと!』とか言って、レイちゃん追い出しちゃうかもよ?」

「……っ!……いっ、イヤっ!」

「……なんて、ちょっと意地悪だったわね。でも、あの朴念仁はねぇ……何か機会がないと、このままズルズル兄貴気取り続けるわよ?」

 

 そんな……、どうしよう……私、もっとカズヒロさんと一緒にいたいよ。

 ちゃんと、カズヒロさんを助けられるようになって、このおうちで、ユキエお母さんと三人、仲良く一緒に暮らしていきたいよ……。

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 突然、外からクルマの音が聞こえた。

 勢いよく閉まるクルマのドアの音。間を置かず、引き戸が開き、玄関から聞こえる足音が、やがてどたどたと大きくなってくる。

 彼だ。彼が帰ってきた――その人影は、私を見つけると、大慌てで走り寄り、鬼気迫る表情で私に語り掛けた。

 

「レイちゃんっ!急ぎの用事があるっ!……今すぐ来てくれっ!」

「!?」

 

 ――カズヒロさんだ。けど、様子がおかしい。なんだか、すごく慌てている。

 私は、彼の勢いに押され、ただ茫然としていた。そして、彼は私の左手を掴み、その薬指に、ひとつの「指輪」をはめた――

 

 

 

「……あら」

 

 ユキエさんは、目を真ん丸にして、カズヒロさんの行動を意外そうに眺めていた――

 

 

 

 

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