実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す   作:CarasOhmi

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#41 誰がためにタイマーは鳴る

「……使うぞ、願望機(ホープジェム)

 

 ――口を開く者は居なかった。ただ皆、黙ってうなずくだけだった。

 俺たちがここに来た理由は、あのガキが何を言った所で変わりはない。レイちゃんの安全のためだ。俺の人格どうこうなんて、関係ない。

 レイちゃんが、心配げにみなを見渡す中で、俺は、レイちゃんに預けた願望機(ホープジェム)を受け取った。そして、彼女から目を逸らし、白く輝くその宝玉に手をかざして、念じた。

 

 

 

 白い人影が揺らめきながら、俺たちに語り掛ける。願望機の執行システム「上位存在(スター・システム)」だ。

 

 ――――迷宮を攻略せし勇者よ。汝の……って、このくだりはもういいか。

 ――――無事、私を防衛できたみたいだし、早く本題に入ろうね。

 

「……ああ、先に伝えたレイちゃんは連れてきた。感染症の予防措置と、防疫を、健康に深刻な影響の出ない範囲で、たのむ」

 

 ――――ふむ、件の(1)か。

 ――――「現世に存在する既知の伝染病の抗体の生成」だね。

 

 

 

 

 

 

 ――――確認したけど、やっぱり必要ないね。

 

 

 

「……は?」

 

 ――――山神レイチェルは、既に予防接種と同等の衛生的措置は行われている。

 ――――異世界由来の深刻な病原体も保有していない。

 ――――現世で深刻な病気にかかるリスクも、パンデミックも起こさない。

 ――――これまで通り、彼女は日本で安心して暮らせるよ。

 

 ……おい、何言ってるんだ、コイツは。彼女の衛生措置のために、この危険なダンジョンを、彼女を連れてまで再走したんだろうが。それを……

 

 ――――ついでに言うとね、

 

 ――――(2)キャシィ族とホモサピエンスの生理的相違点を資料として出力

 ――――これも必要ないよ。

 ――――すでに、日本政府は……厚生労働省は、キャシィ族をはじめ……、

 ――――異世界の主要民族の生体機序を、資料として保持している。

 

「……はぁっ!?」

 

 俺だけじゃない。

 山神一家は、目の前の白いユラユラの言動に、呆気にとられ、口を開けるばかりだった。

 

 ――――この辺は長くなるからね、順を追って説明しようか。

 

* * *

 

 「上位存在(スター・システム)」の説明はこうだった。

 

 令和初頭、国内某所に浮上したダンジョンがあった。

 そこにおいて、視察団は友好的なゴブリンと接触し、彼らから提供された「帰還の首飾り(エスケープチョーカー)」を解析して「帰還の指輪(エスケープリング)」が開発された。これが、令和ダンジョン時代の幕開けだ。

 

 令和ダンジョン時代の黎明期、浮上したダンジョンの多くは国に接収された。そして、警察機構や自衛隊などの実力組織が、内部の調査を行ったとされる。その過程で、願望機(ホープジェム)と異世界種族の存在は国に認知された。

 権力者とは無限に権力を拡大していくことを志向するものだ。願望機(ホープジェム)という道具も、各国の指導者や財界人がさらなる富や力を得るために利用されそうになったのは、言うまでもない。

 だが、その倫理機構「上位存在(スター・システム)」は、人権蹂躙や過度の搾取、社会的混乱を招く願いを否定する。そのため、世界各国の為政者の短絡的な望みは成就することなく、そうした権力闘争の目的においては「存外に使えないアイテム」として、捨て置かれることになった。

 

 反面で、この存在は行政にとっては大きな意味を持つものでもあった。特に農業、医療、魔導工学の発展においては、地道な進歩では到達できない「答え」を一足飛びで手に入れることのできる、非常に有用な存在であった。

 そのため、国有ダンジョンが多数を占めていた当時、国は秘密裏に多数の魔導兵器で武装した「ダンジョン探索隊」を送り込んだ。今日、市民の手に渡る魔導兵器の多数はこの時代に生産された武器の系譜である。

 

 かくして、国は現生人類及び、異世界人の、現時点で理解可能な生態的データを、完全に収集した。

 元より、各世界の人類相当種は、進化に際して「神の見えざる手」が働き、「基底人類種」と呼ばれる形に収斂進化していくものらしい。そこに至ったあらゆる人種は交配可能な近縁となり、外科内科の医療技術も転用可能であるとのことだ。

 

 現時点では、国内での排外的な世論形成を警戒し、異世界との人的交流は一定の制限をかけているが、今後相互の人の行き来は増えていく見通しらしい。その際、疫病というのは現世と異世界、両者の脅威になり得る。

 そのため、国は視察団を送るに際して、願望機(ホープジェム)を用い「世界をまたいで移動する者に防疫措置を行う仕組み」を構築し、今後の医療の充実のため、彼らの生態に関する資料を揃えた。

 ゆえに、レイちゃんが現世にやってきた時も、その仕組みに則り、防疫と予防は完了していた、というわけだ。

 

 つまり――

 

* * *

 

「……無駄足だったってことか?」

 

 ……ふざけんなよ、おい。

 いや、レイちゃんが健康に生きていけることが分かったこと、医療の恩恵にもあずかれること、それが分かったのは良いことだよ。安心したところは、そりゃあるさ。

 ……けどな、それは事前にわかってたことだろうよ。なんで一回目に言わねぇ。レイちゃんを引っ張って、こんな危なっかしいダンジョンを踏破する必要なんてないじゃねぇか。

 

 ――――四十九号の呼び出し経緯が、直接召喚とイレギュラーだったのでね。

 ――――彼がその仕組みを通しているかに、確信はなかったわけ。

 ――――彼は願いを聞き届け、眠りについてる。確認は私がする必要があった。

 

「……だからってな」

 

 ――――それに、四十九号に関わる話はそれだけではない。

 ――――彼から言われなかった?……「苦情が来たら別世界に送り帰す」って。

 

「!」

 

 ――――私も、人の心の機微をすべて理解しているわけではない。

 ――――私は「山神カズヒロ」「レイチェル」の真意を、見極めたかったの。

 

 ――――そして、それは、君たちの願いの候補のひとつでもある……

 

 ――――(4)レイちゃんの生活環境の整った別世界への転移

 

 ――――にも、関わるだろう?

 

 

 

 ――――だから、君にも、「言うべき時」が来たんだよ。

 ――――願いごとに関しては、私はまだ待てるからさ。

 ――――ふたりとも、これまでのことを、しっかり話すといい。

 

 

 

 ………………

 

 ………………………………

 

 ………………………………………………

 

 

 

 

「カズヒロさん……」

 

 俺たちの出会いから、はや二月。

 楽しい日々は、あっという間に過ぎていくものだ。

 

 俺は……意を決して、レイちゃんを……

 ……キャシィ族の女性、「レイチェル」さんを、振り返った。

 

 

 

 ――審判の時が、やって来た。

 

 

 

 

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