実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す   作:CarasOhmi

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#52 ババンバ・バンバン・BAN!

 俺は、旅館のテレビのHDMI端子をノートPCに繋ぎ、会議通話をミラーリングした。フタバとミツキ、ハル坊の顔が映っている。

 

 ハル坊は、少し目が泳いでいる。……やっぱ、レイちゃん意識してるよなぁ。それだけで注意するもんではないが、すげぇ気まずいな。思春期が落ち着くまで、適度に距離取るべきかもな……。

 現在、キャシィ族は殆ど国内にはいないし、ハル坊にも現時点ではサピエンスの女性に興味を持って、青春を送って欲しいというのが本心だ。

 ……いくら好みのタイプが異世界人でも、甥っ子にまで、歪んだ欲で非人道的な道に進まれては、叔父としても立つ瀬がない。

 

「……というわけで、地権者と話をつけて入口にカメラを設置して、第一階層を一通り回って来たよ」

「なるほど、お疲れ様。カズ兄、レイちゃん」

「レイちゃんも、すっかり戦力ねぇ……兄貴より頼りになるんじゃない?」

 

 ……言ってくれるなよ。俺だってレイちゃんに情けない所見せて、凹んでるんだからさ。もっとカッコいい所見せたいもんだ。

 

「先住部族のコボルトの方とも接触したんですけど、キャシィの私が間に入って、スムーズに話も進みました」

「……ん?どゆこと?」

「コボルトって犬系獣人(ドギィ)に近い種族みたいで。これまでも、サピエンスの配信者との衝突はあったみたいですけど、獣人的な見た目の私には警戒感が薄かったみたいなんです」

「ははぁ、なるほど……」

 

 レイちゃんの言うドギィ族っていうのは、キャシィ族と同じく犬のような容貌をした種族らしい。レイちゃんの居た世界では、キャシィと同数かそれ以上の人口が存在したとか。調べたら、アメリカでは既に現世に渡ってきている者もいるとか。

 

「言語体系や体格は、どちらかというとゴブリンに近い感じだったな。ゴブリンガルの新機能も今のところは正常動作してる感じだったぞ」

「あ、昨日アップデート入ったから、更新した方が良いよ。一部誤った翻訳が出てたんだって」

「そっか……今日の記録映像でズレを確認しとくわ。サンキュー、ハル坊」

「ん」

 

 そっけない反応をして、ハル坊はスマホに視線を戻した。……変に意識しないようにツンツンして見せてるってことだろう。

 中学生らしい反応ではあるが、やっぱり、なんか、こう、すまん。

 

* * *

 

「ところで、二人はどこに宿取ったの?」

「あー、依頼主の親族が経営してる旅館があってな。事情を伝えて格安で部屋貸してもらってる」

「へえ、風情がある感じでいいわねぇ」

 

 まあ、今回は下見の範囲での軽い調査だけなので、実際半分旅行気分ではある。色々忙しい日が続いたし、たまにはこういうのも悪くないだろう。

 

「本格的な探索に入ったら、ダンジョン内のコボルトの村に宿を提供してもらって、しばらく俺とレイちゃんで住み込みになると思うけどな」

「毎日車で旅館と往復ってわけにもいかないしね……」

 

「んー、私が参戦するとしたら終盤?二人攻略だとしたら夏の終わりごろかしら」

「本格的に人員が必要になるとしたらそのあたりか……それまではモグラ野郎や、黒栖の坊主に声かけるのもアリだな」

「チアキを預ける場面も増えちゃうし、頻繁に遠出は厳しいからね……」

「ふむ……じゃあ、現地集合は攻略終盤だけにして、二人はアンダーネットを通した調査と渉外を頼むわ」

「了解」

 

 実家近くのダンジョンならプチ帰省感覚で出来たが、旅行先でってなるとチアキちゃんにしわ寄せ行っちゃうしなぁ。副業でライフワークバランス崩したら本末転倒だ。

 

 ……しかし、流石に各々別の世帯。完全には予定も合わないな。……寂しさもあるが、それが大人ってもんだ。

 むしろ、この歳になっても一緒にあれこれしてる今を見ると、俺たちの兄弟仲も悪くないってことかもな。

 

「……そう言えば、ミツキの方もそろそろ結婚準備で大変じゃないのか?」

「まあ、ね。……ただ、結婚したら新居に移ろうって話もしててさ。その費用浮かせたいってのもあるんだよね。カナコにも軽く話はしてるけど、もう少し詳しく相談してみるよ」

「今は、何かと忙しくてストレスも溜まってるだろうしねぇ……。前みたいに銃をぶっぱなすのは、カナちゃんにとってもいいストレス解消になるかも」

 

 ……ミツキはちょっと言葉に詰まっていた。

 嫁さんが強すぎて男が縮こまるの……ウチの家系の男共通なのかもなぁ……。

 

 

「ちなみに、オカンと合わせて旅館に部屋用意してもらうことってできそう?」

「夏の終わりになるし、三部屋までならいけそうだって」

「なら、オカンは私と同室ね。……新婚の兄弟夫婦と同室なんて気まずいでしょ」

「お、おう……」

「そ……そうだね……」

「………………」

 

 ……いや、やましい趣旨じゃねぇよ?

 どっちかというと、ハル坊と同室にしてドキドキさせるのが、中坊の情操教育に悪いからだよ、うん。

 

「……まあ、魔導伝播やアンダーネットの魔導通信具(ポケットwifi)も用意するから、ハル坊のサポートもこの旅館からできると思うぜ」

「旅館の中は、ゲームコーナーや卓球場、まんが本棚もあったし、チアキちゃんもお義母さんとのお留守番では退屈しないかも」

「結構レトロなのが多かったけど、逆にチアキちゃんには新鮮だろうなぁ」

「そう……じゃあ温泉旅行と避暑を兼ねて、八月末に予定空けるから、目途が立ったら教えてね。チアキたちとできるアクティビティも合わせて調べとこっと」

 

 ……む。

 ミツキが前のめりになっている。「温泉」に反応したな。

 

「……天然温泉?」

「ああ、らしいぜ?大浴場と部屋風呂があってな。八月に取る部屋は安い方だし大浴場を使う事になると思うが」

「十分十分!自然豊かな山の中で、広々とした温泉に浸かれる……あー、考えるだけで癒されるよ♪」

「あんた、相変わらず温泉好きねぇ……」

「ああ、現代人のオアシスだよ。俺も年取ったし、昔より一層好きになったね。カナコも温泉好きだし、年一で温泉地に旅行行ってたんだ。今年は控えるつもりだったけど、思わぬ副産物かもね」

「……とはいえ、な。最優先はお前たちの式だから、優先順位はしっかりつけてな」

「そこはわかってるって、大人なんだからさ」

 

* * *

 

 ……ミツキの温泉好き。

 実は、運動公園ダンジョンの件についても、これに関連してちょっと補足がある。

 

 レイちゃんが、俺と一緒に現世で暮らすことを決めたこと。これにより、願望機(ホープジェム)は宙ぶらりんとなった。

 かといって、次にやって来る冒険者に託すべきかというと、七光みたいなのがやって来る可能性もある。そこは上位存在(スター・システム)の倫理観に期待したいところだが、俺の件もあったし、あの時点では手放しには信用できなかった。

 

 じゃあこの際、適当な願いでも叶えちゃうかと話したのだが、ミツキがひとつのアイディアを出した。

 

「実家ダンジョンに温泉のパイプライン引いて、実家で入れるようにできない?」だ。

 

 そんなわけで、願望機(ホープジェム)は、俺の家に温泉のパイプラインを繋ぎ、家族が使うには十分な程度の簡単な小屋を構築した。……遠隔発動できてんじゃねぇかと、内心少しキレた。

 汲み上げポンプは魔導技術の粋を尽くした物で、老朽化の恐れもないらしい。……相変わらず「魔導(マジカル)」ってつければ何でもありだ。

 小屋は、外から丸見えじゃなきゃいいので支柱と屋根、竹垣だけのシンプルな構造だ。水道はまだ通ってないので、体や髪は内風呂で洗い、入浴時だけ外に出向いている。

 

 余談だが、固定資産税が少し増額するので、家族からもカンパ的に入湯料を徴収する。掃除も大変だし、このぐらいは許してもらおう。

 

* * *

 

「いやぁ、楽しみだなぁ、実家の温泉も!かけ流しとか最高じゃん!しかも草津風!」

 ミツキは、画面の前で子供の様な笑顔を見せる。

 

「硫黄臭は癖も強いけど、あの青白い湯が沁みるんだよなぁ……。東京じゃ健康ランドも閉店続きだし、直送の施設も無くなっててね。それがまさか実家に引けるなんてさ……ああ、最高っ♪」

 ミツキは、私道の地下にあったゴブリン温泉に興味を持っていて、ずっと入りたいと話していた。その念願が、ようやく叶うというわけだ。

 

「ねえ、もうカズ兄たちも入っただろ?どう?やっぱ、気持ちよかった?感想聞かせてよ?」

 俺とレイちゃんは……満面の笑みを浮かべるミツキから、気まずげに目を逸らした。

 やがて、ミツキも、俺たちの表情の、空気の、変化に気付く。

 

 ……ミツキは、その理由を察し、朗らかだった表情を失った。

 

 そして……火が付いた。

 

「……ちょっ、てめっ……!ふざけんなよ!カズ兄っ!レイちゃんまでっ……!ふたりとも、温泉で何やってんだよ!後に入る人のこと考えろよっ!」

「なっ……『そこまで』はしてねぇよっ!湯だって抜いて掃除したに決まってるだろ!衛生面ぐらい、こっちも考えてるよ!」

 

 俺は、恥じ入る気持ちを誤魔化すように、声を張り上げミツキに言葉を返す。

 レイちゃんは、顔を赤くして、ますます小さくなっていく。

 

「当たり前だっ!それでも、そんな生々しいこと面と向かって聞かされて、俺はこれから、どういう気持ちで湯船に入ればいいんだよ!」

「し……仕方ないだろ!温泉って言っても内風呂だぞ!?大人なんだから、その、『そういう空気』になることぐらい……あるだろ」

「そ……そりゃ、そうだけどさァ!今回温泉頼んだの俺なんだよ!?そういうのは……せめて、俺が入るまでは普通の風呂の方でさぁ……その、我慢してくれよっ!それか……伝わらないように、隠し通せよっ!大人なんだからさァ!」

 

 普段からは考えられない剣幕で、俺たちを怒鳴りつけるミツキを前に、俺とレイちゃんは、後ろめたさから、ただただ小さくなるばかりだった。ミツキがここまで怒ってる所、人生で初めて見た……。

 

「す……すまん……」

「ごめんなさい……」

「はァ~~~~……っ!!もう、マジかよ……信じらんねぇ……マジ……この……」

 

 

 

「はい、そこまで。……その生々しい話、ハルトに聞かせるつもり?」

「うっ……」

 ……グループ通話からは、いつの間にかハル坊がキックされていた。おそらく、空気を察したフタバが、手元で操作したのだろう。

 

「それに、運動公園のダンジョン攻略はカズの立案で、アンタの報酬は譲渡されたものでしょ。実家の家主はオカン。家の管理してるのだってカズとレイちゃんなんだし、その使い道をアンタがどうこう言うのは筋違いよ。……同情はするけどね」

「……わかったよ。もう、これ以上聞かない。忘れるよ」

 

 助かった……。

 俺はガラにもなく、フタバが仏様のように見えた。

 ……あとで礼に菓子折りギフトでも送ろう。……ミツキにも。

 

「……本当、ごめんな……ミツキ」

「だから、もういいって!」

 

 

 

 今まで経験もなかった、ミツキとの下世話な兄弟喧嘩。

 聞き馴染みのない弟の怒声を、静かな山中に響かせながら、旅館の夜は更けていく――

 

 

 

 

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