この生活になってから一か月が過ぎた。
相変わらずイズニクゥはダル絡みしてくるし、リゼはいつも通り鉄仮面だ。
この施設の居心地もまあ悪くない。
人が毎日一人死んでいなければ。
ここで暮らすのもありかな?
と、薄っすら思ったがすぐにそんな考えは消えた。
そろそろ本格的に動かなければならない。
そう思った私はリゼとイズニクゥがいる部屋へと向かった。
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「リゼ、イズニクゥ。頼んでた話どうなった?」
「話しても大丈夫そうな人を探してるけど、あんまり良い反応ではないね。」
「そうだな。というか話したら情報を流されそうで話すに話せん。」
この施設でもカーストというのは存在する。
派閥の様なものだ。
大きく分けて三つある。
一つは 一つ目は私たちの様なカーストを気にせず暮らす無所属派
二つ目がウウェヴァ派、カーストのトップの子が絶対的な王として扱われてる派閥だ。
三つめがエールエミリア派、基本的に人柄が穏やかな子が多く彼女自身がリーダーとして君臨したというよりかは自ずとそうなった派閥。
まあ、こんな感じに分けられるかな。
問題は何処の派閥の子に話すか。
まずウウェヴァ派。これはダメだ。
話したら最後、全部情報が上層部に筒抜けになってしまう。
ウウェヴァは手段を択ばない人間だ。
この選択は無し。
次にエールエミリア派。
これは、、、何とも言えない。
元々が穏健派なこともあり、協力的な体制ではないだろう。
言っても情報は流さないが協力してくれるかは分からない。
次点は保留だ。
最後に無所属。
これが一番協力してくれる可能性が高い。
そもそも、無所属は何処の派閥にも入れない曲者か、入ろうとしなかった変わり者しかいない。
脱走。なんて普通は考えつかないことも考えてるんじゃないだろうか。
そう私は踏んだ。
「無所属の中に信頼できる子いる?」
「うーん、レインとか?」
「誰だそれ?」
「たまに喋る子なんだけどさ、その子なら情報漏らしたりはしないと思う。」
「理由はそれだけか?信頼性に欠けないか?」
「あの子前にちらっと外に出たいって言ってたんだよ。多分レゼと同じような理由じゃないのかな?」
「そっか。ちょっと話してくるよ。」
私は彼女の部屋に向かった。
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「レイン.....さんの部屋で会ってる?」
「は、、はい。何ですか?」
「...単刀直入に聞くけど、外に出たくない?」
「え?」
「で、どうかな?」
「も、勿論出れるなら出たいです、、」
「なら、脱出しない?ここから。」
「え、、、」
そういうとレインさんは口を開いたまま固まった。
何をするわけでもなくうつむいたまま。
そして何かを考えた後、少しはにかみながらこう言った。
「私がいると足で纏いになっちゃうから、出来ません。」
そう言った。
「....なんでそう思うの?」
「私、元々親とロシア西部に住んでいたんです。でも、紛争が絶えない地域で国外逃亡して、フィンランドに亡命する予定でした。」
「.....」
「でも、ロシアは国境を超えることを禁じていた。だから、監視員がいない国境沿いまで歩いて行ったんです。
寒い冬の事でした。
寒くて、寒くて、ひもじくて、希望が見えなくて。
一か月間歩いて向かったんです。」
「お母さんは私たちの幸せのために、自分の家を捨てて、生まれ故郷を捨てて、幸せに生きれるように舵を切ってくれたんです。
けど、私のせいで母は死んだ。」
「やっとの思いで国境を超える直前、国境警備隊に見つかりました。
ロシア首相が南部で演説を行うために、派遣された兵士でした。
銃を持っていた。
幼い私は怖くて足がすくんでしまった。」
「その間に母と妹だけは逃げ切れることが出来た。
けど、母は私を助けようとしてしまった。」
「私たちは拘束されて、母は強制収容所へ、妹は私とは違う第二施設へ、私はここに送られたんです。」
本当は二人とも幸せに生きていけるはずだったんです。
母が収容所で流行り病にかかって死ぬことも、妹が母の死に目に会えないこともなかったはずなのにっ、」
「私がっ、、、私のせいでっ!」
そう言っている彼女の目は真っ赤になるまで充血していて、唇は口が裂けるほどに血に染まっていた。
体はわなわなと怒りに震え、手前で合わせている手は強張っていた。
「私が生まれて来なければっ!!!私さえいなければっ!!!きっと、きっっと!!!!」
そういうと膝から崩れ落ちた。
ひざ元に涙がこぼれ落ちた。
「もっと世界が平和だったら、、違う選択をしていれば、、きっと違かったのに、、、」
「だから、私なんかが幸せになっちゃダメなんです。一生この塀の中で後悔しながら死んでいかないと。」
私はこの子のに過去の自分の面影を感じた。
空っぽで、失って、何もほしくなくなったあの時を。
そんな空っぽな私に光をくれたのはデンジ君だった。
彼女にもデンジ君のような存在が必要なんだ。
レゼはそう思った。
「レインさんはさ、妹に会いたいって思わないの?」
「...きっと恨んでると思います。私のせいで母に会えなかったんですから。」
「レインさん自身の気持ちはどうなの?」
「会いたいですよ。」
「私もさ、会いたい人いるんだ。というか、その子と会う為にここから出るんだけど」
「...」
「きっと合わないと後悔する。死んで、死んだ後に悔やみきる。たとえ憎まれようが、憎まれまいが思いが通じるのは息をしている時だけなんだから。」
「妹と会って実際恨まれたら、その時は私たちと生きればいい。きっと貴方のお母さんは幸せに生きてほしくて、逃げようとしたんでしょ?」
「なら、そうすればいい。深く考えるのは死んだときでいいの。」
「...私は妹にあっていいんですかね?」
ふっと息をふく。
私のせいで大切な人が亡くなってしまったら、きっとレインと同じようになる。
でも、その人の事を忘れないようにまた歩き出す。
自分が立ち止まったってしまえば、大切だった人もそこで終わってしまうような気がするから。
なんだろう。言葉にすると難しいや。
けど、そう思う。
多分一度死んだ私だからこんなこと言えるんだろうけど、
だからこそ、後悔しないでほしいって思う。
「レイン、立ちなさい。きっと今立たなければ一生何をなすこともなく生きていくことになる。
今ここで決めろ。このまま奴隷の様に生きるか、後悔したとしても進み切るか。」
「選べ」
______
きっとこんな残酷なことを言う人は、酷い人に決まっている。
けど、目の前の少女はどこか違って見える。
多分ここが私の人生の瀬戸際。運命の分かれ道。
どうする?....
......
妹と会いたいな、、
けど、会うのがどうしようもなく怖い。
足がすくんで動かない。
私って卑怯だな。
心の中では会いたいなんて戯言を言ってるのに、いざ現実になると何もしないんだから。
目の前の少女を見てみる。
微かに手が震えてる。
あ、この子もきっと怖いんだな。
人に歩み寄るのが。
まあ、そうだよね。この施設にいるんだから何かしらあるんだろう。
でも、目の前にいる彼女を少しだけ理解することができた。
誰だって怖い。この少女だって本当は怖いんだ。
そう思ってから彼女を手を取るのにそう時間はかからなかった。
この選択が正しいかどうかなんてわからない。
結末は誰にでもわからないんだから。
けど後悔するのは死んだあとにしよう。
少女は強くそう思った。
彼女の意識が名前の知らない少女から「レゼ」に変わった瞬間だった。