素敵なカードショップ MeeKing へようこそ   作:MrBento

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 王の話をするとしよう


 王たらんを志す少年と


 王であることを科せられた少年の


 二人の話をするとしよう






『ソロモン王と運命のデッキ 編』その1

 

 

 

 

 

 俺が物心ついたころには両親はもういなかった。

 肉親と呼べるのは、年の離れたじーちゃんだけ。

 大切なものと言えばじーちゃんから貰った、ゴテゴテとした装飾のついたド派手な5つの指輪と、デッキくらいのものだ。

 

 俺とじーちゃん以外には誰もいない山奥の一軒家での二人での生活。

 じーちゃんはいつも寝る前に、こう言っていた。

 

「いいか、この指輪とデッキはとてもとても大切なものなんだ」

 

 毎日、毎日、夜ごとに繰り返す言葉は祈り(ノロイ)のように。

 

「だからけっして手放すんじゃあないぞ、肌身離さず持ち歩くんだ」

 

 一度、指輪を一個失くした日は、見つかるまで家に入れて貰えなかった。

 「見つからないなら、二度と家には言えには帰れない」そう言われて泣きながら探して、探して……

 なんとか見つけることが出来たけれど、本当に見つからなかったらと考えるとそら恐ろしい気分になる。

 

 一度、そんなに大切なこの指輪とデッキはいったいなんなのか? とじーちゃんに聞いたことがある。

 

「これはあの伝説のソロモン王の指輪」

 

 古い古い古文書を開きながら、じーちゃんは言う。

 

「彼の王は神より賜ったデッキで強大な悪魔たちをファイトで下し、それらすべてを己が支配下とした」

 

 バエル、アガレス、ウァサゴ、ガミジン、マルバス……

 古文書には72柱だけではなく、数限りない悪魔の名前が記されている。

 

「この指輪は悪魔たちの王の証であり、この“デッキ”はソロモン王の配下となった全ての悪魔を支配する“デッキ”なのだ」

 

 それがいったいなんなのか、幼い俺には分からなかったし、今だってちっとも分かっていない。

 ただじーちゃんに言われるがままに、ただ一人来る日も来る日もデッキを回す練習を繰り返す俺に向かって、じーちゃんは言った。

 

「ああ、いいぞ……そのデッキと指輪を使いこなせる日が来たならば、きっと……」

 

 遠い遠い記憶。

 そこから先、じーちゃんがなんて言ったのかどうしても思い出せない。

 記憶はまるで深い深い霧に閉ざされたように、途切れてしまっている。 

 

 あの日、じーちゃんがなんて言ったのか、もう本人に聞くことすらできない。

 家が吹き飛んでしまうんじゃないかって心配になるくらい、激しい風の吹きすさぶ嵐の夜。

 じーちゃんは家を出て、二度と帰らなかった。

 

 

 

 

 

 

●    ●    ●

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく夏の暑さも一息ついて、もうすぐ秋と言ってもいいくらいの時期。

 僕は我が雇い主、カードショップ<MeeKing>の店長が夏の間に溜めに溜めた粗大ゴミの片づけをしていた。

 前世の夏よりだいぶ過ごしやすいと言ってもまだまだ残暑が厳しい時期だ。

 

 午前中の涼しい時間から手を付けて、汗だくになりながらたっぷり一時間かけてゴミ捨て場にまで3往復してゴミを捨て終わった。

 

 

「何が普男くんならちょちょいと30分くらいで済むだ、たっぷりと1時間は掛かかったぞ……」

 

 

 胸がデカい美人じゃなければ許されない鬼畜の所業である。

 

 

 

 制汗シートで汗を拭って予備の服に着替え、 ようやく全て片付け終えて店に戻る。

 平日と言うことで客はまばらだ。 

 そんななか夏休みの最期の輝きを満喫中と思わしき、

 いつもの小学生の常連4人組が、喧々囂々となにやら話し込んでいた。

 

 

「やはりここは我が力を見せるべき時――」

 

 

「新たな力を得た植物戦鬼の出番だ!」

 

 

「ふたりともずるい、今日はわたしがやりたい」

 

 

「誰でもいいのでさっさと決めましょうよ」

 

 

 どうやらバトルフィールドで誰がファイトをしようとしているのかの話し合いらしい。

 

 

 その4人のそばで座っている、対戦相手らしい少年は初めて見る子だった。

 夏なのに長袖を着て左手にゴテゴテとした5つの指輪を着けている。

 

 

「店長、終わりました。こっそりこんなに溜め込むのやめましょうよほんと」

 

 

「ありがとう普夫くん! ほんっとに助かるわ」

 

 

「はいはい、そう思うんなら給料上げてください」

 

 

 

 店長とそんな話をしている間に話がまとまったらしい。

 代表で王門ミカドくんが相手をする流れになったようだ。

 

 

「そう言えば、あの子、初めて見る子ですが……」

 

 

 店長は「おつかれさま」とアイスコーヒーの入った紙コップを渡してくる

 ――ちゃっかり自分の分も用意してるあたり、完全に観戦モードじゃねぇか。

 

 

「初来店の子でね、自分ひとりでだいぶ練習したけど人とやるのは初めてってなんだって」

 

 

 ガレージの建設で荷物が片付いたおかげで、今までの倍近くスペースが確保できるようになった我らがカードショップMeeKingはバトルフィールドを一基増設した。

 さらに飲食スペースにバトルフィールドを実況観戦できる特大スクリーンも設置の大盤振る舞い。

 モニターの画面はバックスペースの管理室で、監視カメラの映像とまとめてモニターできるため、客がいない時はこうして裏で休憩がてら飲み物片手に試合を観戦できるわけだ。

 

 

「完全な初心者にミカドくんはちと厳しいのでは? 小学生だけど結構やれますよ、あの子」

 

 

「私もそう思ったけど……カード捌きは完璧だったし、自分のデッキの動きは理解しているみたいだったから」

 

 

「ふむ、なら大丈夫ですかね?」

 

 

 最悪、あんまりにも実力差があるようなら、教導目的で後で僕が初心者向けデッキで相手してあげたほうがいいかもしれない。

 “初心者はなにより貴重なお宝だ、壁を作って追い返すんじゃなくて沼に沈めろ”はTCG界のみならず、趣味の世界の常識である。

 

 まぁでも最初はあれこれ言われるより、とりあえずでも自分で触ってみた方がしっくりくることもあるしなぁ……

 

 そんなことをあれこれと店長と話してる間に開始のブザーが鳴った。

 

 

『では双方これよりレディ――……ファイト!!』

 

 

 機械音声が開始を宣言し、炎が燃えるエフェクトと同時に試合が始まる。

 さすが最近式は違う、ある程度のジャッジまで機械がやってくれるので大助かりだ。

 

 

「いけぇー、やれーーーー!」

 

 

「頑張りなさい!わたしたち常連組の誇りを見せる時よ!」

 

 

「ユウキさんの時みたいな、見苦しい負け方だけはしないでくださいね?」

 

 

 

 モニター越しにいつもの三人の声援が伝わってくる、みんなだいぶヒートアップしてるなぁ……

 

 

 

「さて、とりあえずはお手並み拝見としましょうか」  

 

 

 

 二人が互いに5枚のカードを引き抜く、先行はミカドくんの方だった。

 

 

「我の先行だ! ライフカードを2枚ドロー! 土地をセットし、1コストで<王金の従者・ボルック>を召喚」

 

 

 <王金の従者・ボルック>は王金覇者(ゴールデンロード)のデッキの典型的なクリーチャーだ。

 ステータスは1/1だが、自分が破壊された際に、他の黄金覇者のカードをサーチする能力を持っている。

 

 

 

「土地を一枚セットし、ターンエンド!」

 

 

 

「俺のターン、ドロー!土地を一枚セットし、俺は1コストで秘宝<ソロモン王の小さな鍵>(レメゲトン)を発動! 土地をセットして、ターンエンドだ!」

 

 

 

 ん? ちょっと待て、はじめて聞くカードだが?

 いや、どこぞの教授みたいに全てのカードを知ってる訳じゃないし、ひょっとして非スタンのカードかなんかか?

 

 

 

「店長、あのカードって知ってます?」

 

 

「いや……ボクも初めて見る」

 

 

 

 その言葉に店長と二人で顔を見合わせた、上級ジャッジ資格を持ってる店長が知らないカードと言うのはかなり異常事態だ。

 

 

「違法改造カードですかね?」

 

「いや、それならバトルフィールドで再生されないよ、問題なく使えるってことは純正品なのは間違いないはず」

 

 

 店長と喧々囂々とあーでもないこーでもないと議論してから、とにかく今は様子を見ることにした。

 飲み終えたアイスコーヒーの紙コップをゴミ箱へと廃棄。

 休憩を終え、二人揃っていそいそとバトルフィールド傍の観戦席へと移動する。

 

 せっかくの面白そうなファイトだ、特等席で見たいじゃないか。

 

 

 

 

 

 


 

 

時が未来に進むとは限らない

 

過去が未来より先に来るとは限らない

 

これは遺産だ

 

未来が遺した、遥かな過去への。

 

 

 

 

――――<未来からの遺産>

 

 

 

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