素敵なカードショップ MeeKing へようこそ 作:MrBento
3話
ミカドくんはライバルの応手にぺろりと唇を舐める。
そしてしてやったり!と言った顔で、ニヤリと笑った。
まだ何かあるのか!? と指輪の子が身構える。
「なかなかやるな! ターンエンドだ」
どうやらただのブラフだったらしい、いやぁ成長したなミカドくん。
まぁユウキちゃんが毎回面白いように引っかかるから、みんなそのあたりの技術が磨かれているのもあるんだろうけれど。
「俺のターン、レディアップキープ、ドロー! 俺は<楽奏の狩人・バルバトス>と<月に吼える巨獣・グシオン>を召喚>」
現れたのは周囲に空飛ぶ喇叭を従え、右手に長大なライフルを構えた緑衣の狩人と。
褐色に染め抜かれた装甲を全身に纏い、巨大な鋏を手にした二足歩行の獣。
「初めて知ってる奴が出て来ましたね」
「えぇ、既存の<吼え狂う巨獣・グシオン>とは見た目がかなり違うけれど……」
バルバトスは初見だが、グシオンは知っている。
獣族とその支援カードが主体で収録されている<孤児たる巨獣たち>のエキスパンションに収録されているカードだったはずだ。
もっともあちらの方は緑色の装甲を纏ったかなりずんぐりした丸っこいシルエットで、今のだいぶシュッとした見た目とはかなり印象が異なる。
二つ名も違うし<戦葬乙女の導き手・アリーシャ>と<勇気を示す乙女・アリーシャ>のように、 ストーリー的な繋がりを持った別のカードと考えるべきだろう。
「そして<ソロモン王の小さな鍵>を1コストで発動! 対象にするのは<楽奏の狩人・バルバトス>」
先ほどと同じようにバルバトスの足元に光が灯り、交代に現れたのはバルバトスと同じ3コストの赤い花嫁衣裳を纏い両手に双剣を構えた華憐な少女。
「バルバトスと交代に<血の舞踏・ゼパル>を召喚! この方法で召喚した場合、ゼパルは自身の特殊能力により<連撃>を得る」
<連撃>能力は<双撃>の下位互換能力だ。
自身が敵のクリーチャーを撃破するか、敵プレイヤーにダメージを与えた場合再度攻撃の権利を得る。
ただ一点だけ<双撃>より明確に勝る点があり、この効果の“同じ敵”への効果発動は1ターン1度のため、
プレイヤーへの攻撃は2回殴って終わりだが。
クリーチャー撃破で獲得できる再攻撃は、回数の指定がない。
なので<決闘>効果などで戦闘相手を指定して、連続でクリーチャーを撃破していけば大量に並んだ敵陣を更地にすることもできる
少女は剣を打ち鳴らす、シャリンシャリンと双剣同士が擦れあう音が響き。
「さらにバルバトスの誘発効果を発動! バルバトスは場を離れた際、残ったクリーチャーに+1/+1の修正を与える!」
「クっ……真の王者は逃げも隠れもしない、ライフで受けるぞ!」
グッと、ミカドくんが奥歯を噛みしめる。
「5/3になったゼパルで攻撃!」
花嫁衣裳の少女が右手の剣をミカドくんを切り裂き、返す刀で左手の剣も閃かせた。
あとおまけとばかりにザクザクと切り刻んでから、最後におもいっきり両手の剣を叩きつける。
「ぐあああああああああ」
「滅茶苦茶痛そうね……」
「ええ、痛そうな攻撃ですね……」
あくまで立体映像なので本当に痛い訳ではないのだが、迫力がスゴイと本当に痛そうに思えてしまう。
ともあれパワー5の2回攻撃なので10点のダメージだ。
これでミカドくんはだいぶ追い詰められたが、しかし一気にライフデッキが捲れた。
ミカドくんのライフは残り3、次のターンが勝負所になるだろう。
「ターンエンドだ……」
「やるな……だがそう簡単に負けてやるものか! 我のターン――――ドロォォォォォォ!」
おっ、今ミカドくんの手がちょっとだけ光ったような?
目をつぶってカードを引いたミカドくんは、ゆっくりと目を開き、手にしたカードを見て笑った。
「フハハハ! 見よ、勝利の女神は我に微笑んだ! 我は通常魔法<黄金の旅路>を発動」
<黄金の旅路>手札から<王金覇者>のカードを墓地に捨てることにより、コストと<ゴールデンカウンター>を生み出す、専用のサポートカードだ。
当然ながらゴールドーンとのコンボで使われるカードで、そのため愛称が<ゴルゴルトレジャー>である。
ちなみにトレジャー部分は、<黄金覇者>のカードを墓地から回収する効果を持った<海賊王の大秘宝>で。
このコンボが決まると<ゴールデンカウンター>が爆速で溜まってそれはもうえらいことになる。
「我は手札から<近衛騎士・プラナタン><金色の巨人・サンシャイン><黄金瞳の探索者>を墓地に送り、3コストを得る」
「土地から絞り出した11コストとあわせて合計14コスト、これを全て使い……」
先ほど引いた一枚のカードを、バトルボードへと滑らせる。
「……いでよ!<王金覇者・深淵を覗くギルガメシュ>」
現れたのは金色の全身鎧に身を包んだ巨漢の偉丈夫、背中の大弓に右手の巨大な斧と全身の至る所に携えた短剣。
まさしく全身武器庫と言ったその姿は、まさかに王金覇者と言うに相応しいこのテーマのフィニッシャーだ。
「いくぞ! <王金覇者・深淵を覗くギルガメシュ>のパワーとタフネスは召喚に使ったコストと同じになる」
「14/14の大型クリーチャー!?」
「さらに<ゴールデンカウンター>を7つすべて消費し、召喚したクリーチャーに能力付与する!これによりギルガメシュには<速攻><貫通>を得る! さらにこのターンの間パワーが+7となる!」
「ぐっ、マズい……!?」
「<王金覇者・深淵を覗くギルガメシュ>で<月に吼える巨獣・グシオン>に攻撃!」
巨大な黄金の斧が振り上げられ、そこから噴き出した光線が物凄い勢いで巨獣に向かって迫る。
「それに連鎖して瞬間魔法<勝算の一手>を発動! 3つの効果のなかから俺は<このターンに受けるダメージを、自身の次のターンのエンドフェイズに2倍にして受ける>を選ぶ!」
斧から出た光線はは防御しようとしたグシオンを安々と真っ二つにすると、少年の目の前に現れた謎のゲートに吸い込まれて消えた。
「クソッ、凌がれたか……ターンエンドだ」
指輪の子はギリギリ凌いだか、ただ指輪の子はどっちみちこのターンでなんとかしないと負けだ。
さて、どうする?
「レディアップキープ……ドロー」
指輪の少年はたった今引いたカードを数秒眺めていたが、意を決した表情で宣言した。
「俺は<蹂躙の爪牙・マルコシアス>と<地を裂く剛剣・ブネ>を召喚」
現れたのは巨大な狼を供に連れたシスター服の女と、巨大な剣を構えた巨漢の傭兵。
「俺は1コストを支払い、瞬間魔法<即断即決>を発動! 場の全てのクリーチャーに<速攻>を付与――――このターンの間に押し切る!」
ミカドくんはバッと腕を振ると、背中のマントを翻す。
「迎え撃つ準備は出来ている! 我は墓地から<近衛騎士・プラナタン>の効果を発動! プラナタンを除外エリアに送ることでブロックに参加させる! 我はプラナタンでマルコシアスをブロック!」
シスターの巨大な銃器での狙撃を、墓地から飛び出した黄金の騎士が受け止めた。
「まだブネがいる、ブネで攻撃!」
「ギルガメシュでブロック!」
「まだだっ! 戦闘を中断して、手札から 魔法<穢れの雨> を発動! 土地を生贄に捧げることで追加コストを得る」
「――――クッ、通す」
「土地4枚を生贄に捧げて、4コストを確保……そして<ソロモン王の小さな鍵>の二つ目の効果を発動!」
ギルガメッシュと戦闘を行うはずだったブネの姿が紫色の光に包まれ、
「差額分のコストを支払うことで、山札、または手札から同じ名前を持つ<魔縁召還>のカードと交代することができる」
その姿が掻き消えると共に、足元の魔法陣から巨大な影が現れる。
「俺は<地を裂く剛剣・ブネ>を山札へ戻し、<山嶺を裂く覇龍・ブネ>を差額5コストを支払って……召喚!」
翼を広げ、そこから飛び立つのは蒼い鱗を持つ山より大きなドラゴンだった。
強力な大型クリーチャーだが、そのステータスは 10/8 ギルガメッシュには及ばない。
「だがっ、それでも21/21ののギルガメシュに勝てる筈が……」
「それでいいんだ……ブネでギルガメシュと戦闘!」
巨大な黄金の王者と、天を衝く三つ首の龍が組み合って神話の如き戦闘を繰り広げる。
黄金の斧が龍の首を一つ切り落とし、龍は残った二つの首で噛みつき、爪で引き裂く。
戦闘は当然ように王者の優位で進んでいき、ギルガメシュの斧が龍の胴体に突き刺さる。
「戦闘によりブネの特殊効果を発動、ブネは戦闘で破壊された時、フィールドの全ての存在に4点のダメージを与える!」
「なっ……!?」
だが神話の戦いに、先に根を上げたのは金色の王者でも蒼鱗の龍でもなく、その戦いのリングとなった大地だった。
足元の地面がひび割れ、裂け、飛び散った破片と噴出したマグマがすべての存在へと向かって降り注ぐ。
それは勿論、二人のファイターとて例外ではなく……
迫りくる岩盤の破片の津波を見て、それでもミカドくんは応手を返す。
「まだだ! 墓地から<金色の巨人・サンシャイン>を除外して効果発動、このターンに我が受けるダメージを半減させる!」
墓地からそそり立つ黄金のゴーレムが、叩きつける岩盤の破片からミカドくんを守る盾となる。
これでダメージは2点軽減されて、削り切られる筈だったライフはギリギリ1で踏みとどまった。
「――――凌いだぞ!」
「いやっ、絶対に押し切る、俺は<ソロモン王の小さな鍵>を生贄に捧げ……」
「まさか…!?」
「デッキから任意のコスト2以下の<魔縁召還>のクリーチャーを召喚する――――来てくれ、<猛牛の礫進・モラクス>」
現れたのは巨大な斧を構えた小柄な少年、<潜伏>効果を持つ少年は飛び散る破片の上を機敏に飛び移りながら、
まっすぐにミカドくんへ向かってひた走る。
「これが俺の勝算だ!」
自分に迫る斧を見つめながら、ミカドくんはフッっと笑った。
「見事だ、見事な戦いだった……そう言えば名を聞いていなかったな……」
指輪の少年もまっすぐにミカドくんを見ながら、自分の名前と言い返す。
「俺はアルス、
「そうか、”アルス” お前もまた
あっ、ミカドくん吹っ飛ばされた。
あれさえなければ決まってたのになぁ……
「ゲームセットウォンバイ、勝者、アルス!」
機械音声が勝者の名前をと告げる。
勝者である指輪の少年の腕を握って、天へと向かって掲げる。
正直ミカドくんの相手は辛いかもと思っていたが、やはりカードゲームは何があるか分からない。
「ええっと、ありがとう。人とやるのは初めてだけど物凄く勉強になったよ」
「お前もだ、なかなかやるではないか」
お互いに右手を出して握手する。
やっぱりファイトはこうでなくちゃと、二人の少年を見て思わず後方腕組みおじさんになってしまった。
ちなみにこの後、改めて彼にカードを出所を聞いてみたところ。
祖父から託されたもので、よくわからないとの回答を得た。
シリアル番号でも調べてみたけれど、どのパックから出るか<不明>になっていた、なにそれ怖い。
どこかで普通に手に入るんなら、<夜疾猟団>と併せて
色々組んでみたい案がいっぱいあったんだけどなぁ……
● ● ●
暗い暗い路地裏で、1人のチンピラと黒衣の男がファイトを行っていた。
周囲に漂うのは夜よりも深い闇の気配。
「<断罪の刃・アラストール>を召喚、このクリーチャーの召喚に成功した時<断罪カウンター>を場の全てのクリーチャーに乗せる」
「なんだぁあああ!? なんなんだお前はよおおお!?」
チンピラは強かった、どんな相手にも負けないと思っていた。
このカードを使えば、どんな相手だろうと最低の引きになった。
アンティルールを使って、どんな相手だろうと好き放題にすることが出来た。
――――だから知らなかったのだ、<闇のゲーム>がこんな恐ろしいものだったということを。
「場のクリーチャーはお前の<哄笑するイエティ><嘲笑う混沌>そしてこちら側の<傀儡の王・コルソン>と<傀儡トーン>が26体」
闇の気配を漂わせているのはチンピラのカードだけではない。
黒衣の男の持つカードも、また濃密な闇の気配を放つカードだった。
「続いて<へたくそな処刑人>の効果発動、場にある<断罪カウンター>を消費し、相手プレイヤーに直接攻撃できる、この攻撃はブロックされない」
血に汚れきり腐臭すら放つ衣装を帯びた処刑人が、錆と刃こぼれだらけの斧を振り上げ。
「<断罪カウンター>をすべて消費、72回攻撃を受けて貰おう」
そしてチンピラへと向けて全力で振り下ろす。
「ぐがっ!?」
チンピラの体に斧がめり込むが、しかし処刑人の腕がへたくそすぎて切り落とすまでには至らない。
パワーが1しかない処刑人が何度も何度も斧が振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
「アンティルール、このファイトでプレイヤーが受けたダメージは、現実の傷と同じ痛みを伴う」
振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
「<へたくそな処刑人>の能力、<へたくそな処刑人>の攻撃では相手のライフを0にできない」
振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
「後悔しろ、闇のカードに関わったことを、冥府の底よりなお深く」
もはや声すら出せなくなったチンピラを前に、男はなおも滔々と繰り言のような言葉を紡ぐ。
その声音にあるのは、ただひたすらの憎悪の色。
処刑人は死ねない相手に、何度も何度も斧を振り下ろし続ける。
「ファイト中に続行が出来なくなったプレイヤーは敗北扱いになる、俺の勝ちだ」
チンピラは痛みのあまりに口から泡を吹いて気絶した。
噛みちぎってしまったのか唇からは出血し、下半身からは失禁の湯気があがっている。
黒衣の男はそのザマを見ても顔色一つ変えず、そのデッキから闇のカードを引き抜いた。
「ぬ……」
その顔が歪んだのは、このチンピラが持っていた闇のカードが一枚ではなかったからだ。
――――――――――――
<み縺ソ縺なェ縺斐m56縺輔∪SH>
エンチャント(プレイヤー)
このカードの能力はこのカードがあなたのライブラリや墓地や追放領域やデッキ外にあっても発動する
このカードが何らかの効果やルールによって場や墓地や追放領域に置かれた場合、あなたの手札に戻る
あなたのドローステップの開始時、このカードがあなたの手札にない場合、あなたが次にドローするカードはこのカードになる。
このカードが手札にある状態であなたがゲームに勝利した時、対戦相手のデッキにこのカードと同じ名前と能力を持つカード1枚を加え、あなたは縺ソ縺なェカウンター1個を得る。
――――――――――――
異様なカードだ。
エンチャントがプレイヤーと言うこともそうだし、この効果ではいくら捨てても手元に戻ってくることになる。
さらにカードの表面にまるで虫が這いまわるように、カサカサと音を立てて“文字”がうごめきながら這いまわっている。
見つけてくれてありがとうございます
あなたはファイトに勝利する必要があります
3回連続でファイトに勝利すれば助かります
みんなみんなみんなありがとうございます
基本的に闇のファイターが自分の主が与えた以外の闇のカードを使うことはない。
闇の精霊は非常に我が強く、配下が別の精霊の恩寵を賜ることを絶対に認めないためだ。
闇の精霊同士の折り合いは非常に悪い、ある意味、光の精霊相手よりも。
「
絶対に起きないはずのことが起きている、黒衣の男はしばしそのカードを見つめた後、
すぐそばで宙に浮く女に向かってカードを放り投げる。
一見すると本当にただの村娘としか思えない容貌をしたその女は、まるで汚いもののようにそのカードをつまみ上げると。
巨大な口を開けて一息で飲み込んだ。
女の喉からは、闇のカードの断末魔のような音が暫しの間響いていたが、すぐに静かになる。
けぷっと、ゲップの息を吐き、いかにもまずいものでも食べさせられたでもいうような不機嫌な様子で女は顔をしかめた。
空を飛んでることからしてどう見ても精霊だ、だがその女は光の精霊とも闇の精霊のどちらとも断じることができない。
あまりにも自然体で、ただの超越者として彼女はこの場にいる。
『あんた、いったいこんなこといつまで続けるつもりよ』
喜ぶでも悲しむでもなく、嘆息するような音色で言った。
まるで“付き合うのは心底面倒だが、放っておくのも目覚めが悪い”とでもいうように。
女の問いかけに対する、男の返答はいつも同じだ。
「知れたこと、この世から闇の精霊を全て滅ぼし尽くすまで」
手のボードに刻まれた漢字は<悪鬼滅殺>
かつてこの国で<鬼>と呼ばれるまで恐れられた、ある闇の精霊を滅ぼす意思を込めて作られたボード。
これを打った刀鍛冶は自分の名前すら残さず、ただこの一念のみをボードに刻み込んだ。
「闇のカード使いは消す、闇の精霊は殺す、一切の慈悲もなく」
男の指には、一つの指輪。
曇りきり、罅が入ったその指輪は、男の殺意を反射するように妖しい光を放っている。
たとえどれだけ遠く離れ、悠久の時が流れようと
その姿形がどれほど移り変わろうとも。
その呼び声に、我らは必ず応えよう
呼び覚ませ、時を超え我らを
――――<ソロモン王の小さな鍵>