素敵なカードショップ MeeKing へようこそ   作:MrBento

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『3回ファイトすると死ぬカード 編』その2

 

 

 

「ねぇ、お嬢ちゃん」

 

 その人を最初見た時、変質者かそうでなければ口裂け女だと思った。

 だってこの残暑のなかで分厚いコートを着て、マスクとサングラスと言う格好だったのだから。

 

 と言うかたぶん変質者だ。

 

 

「変質者だ!?」

 

「違うわよ!?」

 

 

 慌てた声が返ってくる、目の前の変質者はどうやら女性らしい。

 と言うか、変質者と言うのを否定されてしまった。

 

 そうなるといよいよ口裂け女の可能性が高くなる。

 だいぶ古い時代の都市伝説らしいけど、最近流行の作品で粉砕したばかりだからよく知っている。

 

「じゃあ口裂け女だ! だったらポマードって言って物理で殴れば消えるはず!」

 

 

 シュッシュと素振りをする、最近は物騒だからと空手を習っているおかげで正拳突きだけはちょっと自信があったりする。

 腰を入れて、打つべし! 打つべし!

 

 

「口裂け女でもないわよ!? てかなんで最近の子がそんな古い都市伝説を……」

 

「月間少女シュシュでやってたよ? 『都市伝説粉砕シアター』」

 

「えっ!? 今の時代ってシュシュでそんなの連載してるの!?」

 

 

 『都市伝説粉砕シアター』は都市伝説を装って犯罪を起こした犯人たちの犯行を、シアター長さんが特別上映でそのトリックを全部明らかにするというミステリー作品のこと。

 シアター長さんがとってもメロいし、主人公のアザレアと相棒のジャスティスのタッグがすごくいいって、わたしのクラスでも大人気だ。

 

 最新のシュシュの発売日にはみんなで集まって、

 「アザレアの動きが狩人」「女子高生に許される身体能力じゃない」「やっぱり暴力しか勝たん」とワイワイ騒いで楽しんでいる。

 

 だけど我慢できなくて原作ゲームをクリアしたメンバーがみんな、揃いも揃って「何も言えない……」ってなるの一体なんなの!?

 この現象自体がちょっとしたホラーなんだけど!?

 いったい最終章になにがあるの!?

 

 

「へぇ、最近の小学生にはそんなのが流行って……じゃなくて、ファイトよファイト」

 

 

 そう言って、女の人はコートのなかからデッキとボードを取り出した。

 

 

「あたしとファイト、しましょうよ……」

 

 

 変質者じゃないかもしれないが、間違いなく異常者だ。

 いくらわたしが空手を習っていても、さすがに大人の人には勝てないだろう。

 

 なのでわたしは……

 

 

「するわけないじゃん」

 

 

 全力で逃げ出した、いくら夕方でも大通りまでいけば誰かが助けてくれるはず……!

 そう思って全力で走る……けど、おかしい。

 

 

「なんで、なんでどれだけ走っても出口が近くならないの!?」

 

 

 わたしは絶対そんな路地裏の奥まで来たはずがない、なのに十数歩で辿り着くはずの出口にどうしても辿り着くことができない。

 気が付けば、周囲には薄く煙るような濁った霧に包まれている。

 なにが起きてるかは分からないけれど、なにか異常なことが起きてるのだけは分かった。

 

 

「ねぇ~、ファイト、しましょうよ~~~」

 

 

 後ろから、おぞましいなにかの声が追ってくる。

 逃げ切れないならいっそ……

 

 

「そんなにやりたいなら、やってやるわよ!」

 

 

 わたしは意を決して、デッキを取り出した。

 ボードだって、ちょうど誕生日プレゼントで貰った奴がある。

 だから大丈夫だ、戦える。

 

 師範がいつも言っている、心が折れそうな時に大事なのは自分から一歩踏み込む勇気だと。

 

 

 

「「ファイト!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●     ●     ●

 

 

 

 

 

 

「わたしの先行!レディアップキープ、ドローフェイズは省略して、グッ……」

 

 

 なにこれ手札がバラバラ!? こんなひどい手札になることなんてよっぽど調子悪い時くらいしかないのに。

 

 

「あらぁ? お嬢ちゃんどうしたの?」

 

「なっ、なんでもない……わたしは土地をセットして、ターンエンド……」

 

 

 ニヤニヤと、ニヤニヤと変質者は笑う。 

 わたしのことを嘲笑うように。

 

 

「ひょっとして事故ちゃったのかしらぁ? レディアップキープドロー、土地をセット、1コストで<挟み潰すくるみ割り人形>(3/1)を召喚!」

 

 

 現れたのは巨大なペンチを持ったコサック兵の服装をした桃色の髪のツインテ―ルの人形。

 その愛らしい翡翠の瞳には、まるで血に飢えた獣のような爛々とした赤い光が灯っている。

 

 

「なんで!? バトルフィールドも使ってないのに!?」

 

「さぁなんでかしらねぇ?」

 

 

 普通ならバトルフィールドを使わないと再生されないカードの立体映像が、路地裏の闇の中に映し出されている。

 しかもどう見ても普段とは違う、禍々しい姿で。

 

 

 さっきの超常現象も含めて考えると、どう見てもまともなファイトじゃない。

 

 

「サレンダーしたっていいのよ? “おともだち”になりましょう?

 

「誰がっ……悪辣な遅延行為は反則負けよ!」

 

 

<挟み潰すくるみ割り人形>は知っている。

 友達のチヨちゃんが使ってる「人形解放戦線」のカード達で、銃や剣で武装した可愛い人形をたくさん並べて押しつぶしてくるテーマだ。

 だから、いける、戦える。

 わたしは自分にそう言い聞かせる。

 

 

「あっ、ごめっ、ごめんなさい……うん、やり忘れは……ないわよね? あたしはターンエンド、ねぇお嬢ちゃん動ける? 動けないわよねええええ」

 

 

 泣きそうな顔で素直に謝ってから、頑張って変質者ムーブに戻る当たりだいぶ忙しい人だなぁ……

 ここまでくるとこっちの緊張感を削いでくる作戦かも? とまで思えてきてしまう。

 

 

「わたしのターン、レディアップキープドロー……」

 

 

 今回引いたカードもダメだ、動けない。

 

 

「土地をセットして、ターンエンド」

 

 

 変質者は笑う、ニヤニヤと笑う。

 わたしのことを蔑むように。

 さらに変質者は余裕のつもりなのかファイトの最中になにかをコートのなかから取り出して、それを食べ始めた。

 

 ぺちゃぺちゃくちゃくちゃと言う嫌な音が響く、一体何を食べているのか? おぞましい想像ばかりが膨らんで、見ないようにしていたけれど、

 香ってきた甘い匂いに、つい振りむいてしまった。

 

 

「なんでファイト中にロールケーキ一本まるごと食べてるの!?」

 

「ふぉうがないでふぉ」

 

「ちゃんと口の中の物伸び込んでから喋る!」

 

「しょうがないでしょ、コレ賞味期限三日前なんだから!」

 

 

 バカなのだろうか? バカなのだろう……

 でもそんなバカに、今わたしは追い詰められている。

 

 

「やっぱり動けないわよねぇお嬢ちゃん! あたしのターン! <挟み潰すくるみ割り人形>で攻撃!」

 

 

 わたしを叩き潰すために、その巨大なペンチが振るわれる。

 何度も喰らったから分かる、その効果は……

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 まるで本当に殴られたみたいな痛み、それに連動するようにライフ削られる。

 普通なら、そのまま土地がセットされるはずなのだが……

 

 

「ダメージ3点、これで土地が捲れると思ったでしょう?」

 

 

 ペンチで粉々にされた土地が、そのまま墓地へと送られている。

 何度見ても<魂葬能力>本当に厄介だ。

 

 

「ふふふ、そしてあたしは<み縺ソ縺なェ縺斐m56縺輔∪SH>を出して……」

 

「えっ、いまなんて? クリーチャーって言った?」

 

 

 わたしの言葉の不審者は驚いた顔で自分が今出そうとしたカードを見つめなおして……

 

 

「そうそう、クリーチャー、クリチャーだったわ……あたしは、クリーチャー<回帰する呪詛>を1コストで召還」

 

 

 そう言って出て来たのは、なにか……気持ち悪い泥のような不定形の塊。

 

 

「フフフ、ターンエンド」

 

 

 がぶりとロールケーキをかじり、変質者はターン終了を宣言した。

 

 

「レディアップキープ・ドロー!」

 

 

 引いたカードは、待ちに待った初動のためのカード。

 

 

「わたしは<波乗りマーマメイド・ナミ>を召喚!」

 

 

 繰り出したのはわたしのメインテーマ、メイド服を着た人魚の女の子たち人魚従者(マーマメイド)のクリーチャー。

 

 

「ナミの召喚に成功した時、わたしは自身のライフを場にいるクリーチャーの数だけ回復できる!」

 

 

 場にいるのはナミと<挟み潰すくるみ割り人形>と<回帰する呪詛>の3体。

 ナミがモップを振り回すと、降り注いだ水の飛沫があちらこちらに飛び跳ねる。

 魔法の力を帯びた飛沫はわたしのライフデッキにも降り注ぎ、しゅわしゅわと代理ライフカードになってわたしのライフを回復させる。

 

 土地を失ったのは痛いけれど、3点回復でなんとかライフを振り出しに戻すことが出来た。

 

 

「さらに回復したライフの半分の点数のバーンが発生! 切り捨てなので1点バーン、対象は<回帰する呪い>」

 

 

 なにかわからないけど、あのカードは拙い。

 だから早々に倒させて貰う、幸いステータス自体は1/1と非常に低い。

 飛び散る波しぶきに洗い流され、あっさりとその気持ち悪い塊は吹き飛んで墓地へと落ちていった。

 

 

「やった!」

 

 

 わたしの様子を見て、変質者はしてやったりと、言った顔で笑う。

 

 

「なにがやったなのかしらね?」

 

 

 墓地へと落ちて行ったその気持ち悪いカードは、まるで這いずるような動きで変質者の手札へと戻っていく。

 

 

「<回帰する呪詛>はあらゆる状態から、あたしの手札へと戻ってくる!」

 

 

 なにそれ!? そんなカードあるの!?

 

 

「たとえ山札にあろうと、墓地にあろうと、除外エリアにあろうともねぇええええ!」

 

 

 つまりどんなことをしても、絶対に手札から外せないカードってこと?

 それはまさしく、呪いのカードだ。

 

 

「そしてこの効果を発動するたび、相手の場の一体にユニットに<呪詛カウンター>を乗せるわ、あたしはあなたのフィールドの<波乗りマーマメイド・ナミ>を選択」

 

 

 変質者がそう言うとともに、わたしのナミにべっとりとした真っ黒な手形が!?

 

 

「ちょ、ちょっとなによこれ!?」

 

「効果を説明してあげる、場の<呪詛カウンター>の数だけ、あなたはターンの最後に1点のバーンダメージを受ける」

 

 

 変質者の口が、三日月のように吊り上がる。

 

 

「さらに<回帰する呪詛>は場にある<呪詛カウンター>数だけパワーが上昇するわ、ほらほら? どんどん状況が悪くなるわよ?」

 

 

 確かに戦況は悪い、でも……

 

 

「わたしは瞬間魔法<マーマメイドの大掃除>を発動!」

 

 

 負けてなんか、やるもんか!

 







お掃除なんてカンタンカンタン

全部綺麗さっぱり洗い流しちゃえばいいんだから

さぁ、波に乗ってね!


――――波乗りマーマメイド・ナミ


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