アタシの切り札は数が多い 作:コピートークンA'本物exl
「対戦ありがとうございました。ただのマナ加速よりは、バーンカードの方がそのデッキには適してるかもしれませんよ」
学校のクラブ活動では負けなしだったアタシの鼻っ柱をへし折ったのは、ショップの大会で当たった皮手袋をしたおにーさんだった。
「うぐぐ、対戦ありがとーございましたぁ……」
微妙に冷めた目で、でもカードの扱いとファイトの仕方は丁寧で(スリーブもしてた、珍しい)。そして何より、アタシのデッキがどう動くかを全部知っていたような不気味な人。
噂に聞く
あと、さらっとショップ大会を優勝していったカッコいい人。
「その、恥を……なんだっけ。しのんで? 聞きますけど。その『ばーんカード』ってどんな物なんでしょうか!」
大会のあと、どうしても気になっておにーさんに質問へ行った。
なんだかとても意外そうな顔をしていたけど、丁寧に教えてくれたその答えを聞いて。私──
『戦闘を介さず相手にダメージを与える』
それまた違いなくてんけー?天啓?に等しくて。
その日から、アタシの目的はショップ大会で会ったおにーさんを倒すことにシフトした。
「大会の受付おねがいしまーす!」
日曜日。
いつも通りアタシは、自分の行動範囲より少し遠くのカードショップに来ていた。世界的カードゲーム『Liberalise Feature』──通称『Life』のショップ大会に出るためだ。
「本日の大会はバトルフィールド限定だけど大丈夫? 自分のを持ってなかったら、お店のも貸し出しできるけど」
「はい! 自分のものは持っていますので!」
心配そうな受付のお姉さんの言葉に、小学校で教わっている通り元気に返事をする。
それに、私のデッキはテーブルの上で戦うとちょっと面倒くさい。だからお小遣いを貯めて自前のボードは持っている。
尤も、そのせいでテーブルでやる大会の方が多く見かけるおにーさんと戦う機会が少ないのは、ほんのちょっぴり悔しいけど。
「では、参加料とデッキ名の登録、あとは身分証明書の提示をお願いします」
「はーい!」
学生証を渡して必要なことをカキカキしている間に、大会に参加する人がどれくらいいるか見回してみる。
アタシがちょっと足を伸ばしてここまで来ているのは、単に家の近くにバトルフィールドのあるお店がないからだけじゃない。
偶に、あの仇敵たるおにーさんが出没するからだ。…………大人の人も多いからよく見えない。まあ、あのおにーさんなら多分勝ち上がってくるし! 居たらね!
「はい、OKです。それじゃあ開始まで、店内でゆっくりしていってね」
ひらひらと手を振るお姉さんに手を振りかえして、大会参加者用の無料ドリンク置き場へ走る。
貰ったオレンジジュースを飲んで、ちょっと一息。学校のみんなは相手にしてくれないけど、大人の人たちに混ざる大会はちょっと緊張する。
だってほら、変なカッコした人多いし。
「小学生なのに大会なんて珍しいね。親御さんは一緒じゃないの?」
「はい! 全然、よゆーですので!」
いま優しく話しかけてくれたお姉さんも、絵本の魔女みたいな格好をしている。男の人とかはもっと色々だ。
学校の授業で教わった『共鳴率』というカードとの親しさを上げるのにいいらしい。でも、それが本当なら私は虫さんの格好をしなければいけなくなる。
それは乙女心として、ちょっと嫌だ。
しかもこの前、バーンカードを入れた時にデッキが拗ねちゃったのもあって尚更。今は学校の先生曰く『わからせ』をしたおかげで、デッキの調子は前と変わらないくらいになったけど。
閑話休題。
「お姉さんはよくこのお店に?」
「いいえ、普段はMeeKingってお店によく居るわ。大規模なお店よりは小さいけど、珍しいカードが多いコアなショップよ」
へー。
お小遣い的にシングル買いはあんまり出来ないけど、今度行くかパパかママにでも連れてって貰おうかな。
「そっちでは大会とかやってます?」
「……えぇ!」
なんかちょっと間があったぞ?
『──1回戦開始、10分前になりました。参加者の皆様は、フィールドへお集まり下さい』
そんなこんなで話をしていたら、気が付けばそんな時間になっていた。
「えっと、5番ステージ、5番ステージ……」
手元の端末に表示されている番号に従って、広いバトルフィールドを歩いていく。そうして辿り着いたフィールド、その反対側に居たのは──
「あら」
「あ、さっきのおねーさん」
魔女っぽいとんがり帽子が目立つ、ついさっきまでお話ししていたお姉さんだった。
この大会はスイスドロー式の3回戦、1回目に戦う人が優しそうな人でよかった。アグロデッキ握ってる男子とかだと、粗暴で嫌になっちゃうもん。
「それじゃあ、対戦よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。楽しいファイトにしましょうね」
お互いに握手をしてから、改めて左手のボードを展開。メイン40、ライフ20、問題なし。あのおにーさんの真似をして始めた習慣だけど、なんだか気持ちがシャッキリする。
『開始1分前!』
改めて、かぶっていた麦わら帽子を抑えて深呼吸。気を引き締めて、よし!
『レディーー! ファイト!!』
アナウンスに合わせて、ライフデッキとメインデッキそれぞれからカードを引き抜く。
メイン5枚、ライフ2枚の合計7枚。
ライフの初期値は18、といってもアタシのデッキにとっては半分は飾りの数値。
ぽーん。
目一杯の抵抗としてかわいい音にしたマイディスクが示した先攻はこちら。
「アタシの先攻!
れでぃ、アップキープ! ドローは飛ばして、
ALTの先生が言ってたかっこいいセットの仕方で土地を置く。
手札の調子は上々、でもアタシのデッキは
「ターンエンド!」
「見た感じ普段着だものね、そういうこともあるわ。ただ、手は抜かないわよ。私のターン!」
ターンが回る。
攻め攻めのデッキだったらやり易いんだけど、どうだろう。
「ドローして土地をセット、1コストで〈ひよっこ魔術師〉を
現れたのは、おねーさんと同じように三角帽子を被った魔法使い。だけどどこかアワアワと忙しないように見える。
「〈ひよっこ魔術師〉は召喚したとき、私の場に〈使い魔トークン〉を生成する。このトークンは
うーん……このおねーさんのデッキ、絶対ゆっくりしたタイプだ。
「ターンエンド」
「エンド前に動きます、1コストで〈衝撃〉をプレイ」
でも、それならそれでやりようがある。
「あら、魔術師がやられちゃうかしら?」
「いいえ、〈衝撃〉の対象はアタシ! 2点のダメージを受けます」
「えっ?」
あのおにーさん曰く、セプク加速。
目をまんまるにしたおねーさんの目の前で、アタシのライフデッキから2枚がコストゾーンにステイで置かれる。これで最低限の準備は整った。
「アタシのターン!
れでぃ、アップキープ、メインドロー、ライフドロー。
これでコストは4、アタシのデッキの要を呼ぶ準備が整った。
「3コストで〈
ガシャン、とフィールドに降り立ったのは全身を機械の鎧で包んだ鋼の蟲。
相手の〈ひよっこ〉と同じ1/1という貧弱なステータスながら、このカードに秘められた力は無限大だ。
「ターンエンド!」
さて、やっるぞー!
人が、竜が、その蟲の脅威に気がついたのは、1つの国が丸ごと喰われた後だった。