アタシの切り札は数が多い 作:コピートークンA'本物exl
竜ヶ峰家といえば、業界ではそこそこ名の知れた名家である。
代々
歴史深い大手の大家と比べれば1枚劣るものの、得意分野においては比肩し得る……そんな家に生まれた稀代の才媛が、竜ヶ峰ミレイという少女だった。
大手との噛み合いこそ悪いものの、そのぶん相性が良い相手との爆発力は目を見張るものがある……そんな家に、竜ヶ峰の才媛と同じ星辰の並びで生まれた娘が、蓬剃リクという少女だった。
そんな吉兆たる2人を、大手を振って護衛をつけられない学び舎の中で護るために付けられたのが俺──五十嵐シノブという男だった。
「シノブ……リク……どこぉ? 何処に居るの?
「シノっさん、ごめん。ゴメン、アッシがもっと早く門を閉じれたら……!」
歳が近い。選ばれたのはそれだけの理由だった。
「不完全でも
それでもあの日。
燃え落ちる屋敷から、命からがら2人を連れて逃げ出したあの日。
からっぽだった俺に
「クスクス、逃げた」
「逃げた」
「情けな〜い」
「なっさけなぁい」
「トカゲの尻尾切り」
「ドラゴンのくせに」
2人の人生を狂わせた闇カード使いを。
わんわんと羽音のように木霊する嘲りを。
今日に至るまで、忘れたことは1度もない。
竜ヶ峰の家の朝は早い。
「お嬢、入りますよー」
コンコンと、数回ノックしても返事がなかった部屋に踏み入った。
こういうときは大抵、何かを“視”てしまったか何か楽しみなことがあって眠れなかったかのどちらかだ。大方、昨日聞いた『自分たちと同じくらい強い子が今度学校に来る』話が楽しみだったのだろう。
「──」
それでも念のため、悪しき精霊の介入を警戒するためボードだけは展開しておくが。
「すぅ……すぅ……」
杞憂だったらしい。
大きなベッドの真ん中、ふかふかのぬいぐるみに囲まれて小さな主人は静かに寝息を立てていた。
つい先ほど叩き起こしてきたお気楽バカとは大違い。出来ればもっと寝せていてあげたいが。
「お嬢、お嬢、起きてください。学校に遅れますよ」
「んぅ……しのぅ?」
何度かゆすって声をかければ、目が覚めたのか眠たげなとろんとした声が返ってきた。
「んー……」
あの日以来開かなくなってしまった目を擦り、のそのそと身体を起こしこちらへ手を伸ばしてくる。仕方がないと頭を差し出せば、ぺたぺたと小さく暖かな手が無遠慮にこちらの顔を撫で回した。
「満足しましたか、お嬢」
「んふー」
ご満悦だった。
「だいじょうぶだよ、拙のシノブ。
かっこいいシノブ。
怖い顔しないで、拙はちゃんとここにいるよ」
そしてそのまま、ぬいぐるみでも抱くようにこちらの頭を抱き寄せ、こてんとベッドに転がるものだから。
「二度寝は許しません。さ、着替えて朝ごはんにしますよ」
いつも通り抱き上げて行動を再開した。
「むー!」
何が不満なのかてしてし頭を叩かれるが、これもいつものことだ。
・
・
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「それでは、いってらっしゃい」
「はい、行ってきますねシノブ!」
「──リク、校内でのお嬢をくれぐれもよろしく頼む。俺はもう、必要な時の介助人としてしか入れないからな」
「あいあいさー! 十把一絡げの悪人も精霊も、アッシの手にかかればちょちょいのチョイさー!」
「慢心は貴様を殺すと何度言えば……ッ!」
「シノっさんが怒ったー!」
「きゃー」
朝に弱いお嬢も、登校の時間になればシャッキリと目を覚ます。杖をつき、色ではない世界を視ながら並んで小学校へ。
そこにもう俺は必要なく。
それが嬉しくて、少し寂しい。
「さて」
2人の姿が見えなくなるまで見送りをした後、いつぶりかの登校準備を終える。
普段は事実上休学しているようなものだが、せっかくだ。今度お嬢と会う連中の下見がてら、最低限の出席日数を稼ぐことにしよう。
「確か、隣の高校はエレシウスに優勝したんだったか」
会場には行ったが、お嬢の護衛もあって試合自体はあまり記憶に残っていない。壮絶な死闘だったとは伝え聞いているし見ていた記憶もあるが──
「む」
──気がつけば、朝の時間である筈なのに人気のない空間に迷い込んでいた。加えて感じる肌を撫で回されるような気色の悪い気配。
戦っている。
闇カード使いと、誰かが。
「まったく、師範のお膝元だぞこの町は」
ボードを展開、予定をキャンセルして現場に走る。
お嬢
闇カード使いが勝っていたのなら乱入して灰にする。
よからぬ輩が勝っていた場合でも乱入して焼きを入れる。
そう覚悟していたのだが……
「金ェ!」
「〈遺跡荒らし〉の効果! お前のデッキトップからカードを3枚墓地へ!」
「アドォ!」
「〈すり減る物資の恐怖〉でお前のデッキから2枚を墓地へ」
「女ァ!」
「スタックして〈渓流の侵食〉、クリーチャーを破壊! 代わりに色彩を探してセットしろ!」
「ア゛ァイ!」
「今、デッキからカードを探したな?
0コストで〈書庫の崩落〉2連打! 16枚墓地送りだ、くたばれ!」
辿り着いた現場で見たのは驚くべき光景だった。
崩壊する闇の領域。合わせて崩れていく影のような人型。そして、傷だらけで息も絶え絶えながら立ち続ける、お嬢たちとさして変わらぬ年頃の少年。
「はぁ……はぁ……これで、3個目!」
片眼鏡越しの視界には、啖呵を切る少年を守るように飛ぶ機械仕掛けの蝶と、腕を支えるように巻き付く蛇の精霊が見える。
(二重、いやもしや三重か?)
それとずっと後方で頷くライダー装束の男たち。
(違うな、恐らくこちらが少年の)
あっ、逃げた。
憑いている精霊含め、色々と気になるところはあるが今は。
「助太刀は要らなかったようだな」
「アンタは……?」
こちらが敵じゃないことを示すことが先決だろう。
「五十嵐シノブ。通りすがりの……執事だ」
「執事!!? えっ、いや、その、結構です」
後退りして逃げる体勢に入られた。
……確かに名乗りがよくなかった。近場だったらこれで十分伝わるんだが。
「ここなら、気雲流の門弟と言った方が分かりやすいか?」
「ああ、あのお爺ちゃんのところの」
いい意味でも悪い意味でもあの人と同一視されるのは不本意だが、こういう時は話が早くて助かる。
「こうして会ったのも何かの縁だ。少し話を聞かせてくれないか?」
先ほど呟いていた『3個目』という言葉……聞き逃すのは少々あまりある。手持ちの荷物から傷薬と包帯を見せながら聞けば、静かに少年は頷いた。
どうして。だめじゃないですか、師匠。
貴女がそっちにいたら……