アタシの切り札は数が多い 作:コピートークンA'本物exl
始まりは下駄箱に差し込まれていた黒い便箋に入りの手紙だった。
どことなく不機嫌なネコトとセンカの2人に挟まれながらその場で開いたそれには、
「あら?」
「……なんにも書いてないね」
不思議そうに呟く2人には見えていないらしい文字で、こう書かれていた。
『これは不幸の手紙である』
『今日の間に2人以上にこの手紙を送らないと、お前に不幸が訪れる』
『大垂氷オルガ』
思えばこの時点でナニカに巻き込まれたことに気がつくべきだったんだと思う。
ただこの時の俺は、なぜか機嫌が良くなった2人に
「えっ、それってウチの学校の七不思議じゃない?」
「「「七不思議?」」」
聞いたこともない話に3人揃って首を傾げた。
だが
『それを無視するとね、こわーい、こわーいお話しが続いていくんだぁ』
言って、その黒染めの着物に赤い瞳をした女の子はくすくすと笑っていた。上履きの色が同じだから同じ学年だと思うけど……
その日は結局、それ以上のことは何も起きずに終わった。今までも偶に、こういう嫌がらせが無かった訳じゃないし。
明確におかしいと気が付いたのは次の日。
隣のクラスとの合同でやったLifeの授業の時だった。
「ダメージチェッ──うわっ!?」
昨日の女の子が使う
ボードにセットされた赤の基本色彩。
それがネコの蝶々が描かれたものでも、俺の雲がかかった太陽でもない。血をぶち撒けたような鮮烈な赤に変わっていたのだ。
『くすくす、どうかしたのぉ?』
「いや、なんでもない」
誰にも触らせてないデッキから、入れた覚えのない気味が悪い色彩が吐き出される。身の毛もよだつ、気持ちの悪いことだけど。
「バトル。〈激走突破 日輪2輪のグラステラン〉でアタック。コイツは速攻持ちだ」
『えっ』
色彩は色彩だ。
バトル中に騒ぎ立てることのほどじゃない。
「攻撃時に効果が誘発、クリーチャー1体を対象に破壊するが……ライフを3点支払うことで【エンジンブースト】して起動。破壊の代わりにデッキ下に送り、その際対象のクリーチャーが持つ能力を全て無視、攻撃の終わりに〈テラン〉はレディする」
『えっ?』
「6点だ。ダメージチェックは……4枚色彩、1枚魔石、1枚変容色彩だな」
『あ、うん』
「続けて6点。これでトドメ」
『か、〈間一髪〉!』
「スタックして〈チキンレース〉、コストを支払えないから自動的に無効」
『う、うそぉ……』
逃げるようにどこかに行ってしまった女の子を見送りながら、改めて自分のライフデッキを見れば──そこにあるのは、いつも通りのネコとセンカの色に染め上げられた自分のデッキ。
異様な色彩が自分のライフカードだったことしか分からなかった。
2つ目の七不思議は『ファイト中に血まみれの自分が現れる』だったらしい。
その次の日には、俺にしか感じない謎の視線を一日中向けられていた。
慣れてるから気にもしなかったけど、3つ目の七不思議に『音楽室の絵がずっと自分を見つめてくる』という話があるんだとか。
「明らかにおかしくなったのは昨日、4日目から。鏡の中に引き摺り込まれて、闇のファイトになった」
「色々と言いたいことはあるが……闇カードまで出てくるのは確かに異常事態と言って差し支えあるまい」
コイツいつかその幼馴染たちに刺されるか喰われるんじゃないかとか、色彩までマーキングされてるのかとか、七不思議の正体らしき子が困惑してるだろうがとか、ツッコミ所は多いが今は傍に置いておく。
「とりあえず勝って脱出したら大鏡は粉々だし、あの子はいないし、ネコとセンカにも泣きつかれるしで大変だった」
無言でぎゅっと強く包帯を締めあげた。
「俺以外の誰かに相談はしたか?」
首は横に振られた。
「先生にしてみたけど、この話題だけ通り抜けてるみたいに伝わらなかった」
「ふむ……俺がこうして聞けているあたり、なにか条件つきだろう。『男』、あるいは『子供』、もしや『その両方』辺りか? 厄介な」
俺やコイツが例外なだけで、普通の子供に闇のファイトは行えない。
ボードを持たない普通の子供は鏡の中でナニカに喰われ、持っていたとしても普通は耐えられない。よしんば耐えられても、実力が足りなければ貪られるだけ。悪質なやり口だ。
「5日目の今日は、さっき見た通り。たぶん、『夜な夜な動く校庭の十二聖座像』だと思う」
「あれが?」
「あれが。1枚が2枚になるみたいな、強い人だったし」
「そういうものか。かなり俗っぽかったが」
闇のカードには、大まかに2つの区分があるという。
・歪んだ願いの積層で産み出されたもの
・呪われた果てに産まれてしまったもの
いま少年が巻き込まれているのは恐らく後者。学校の七不思議という噂話が呪いとなって産まれたカードと、その使い手か精霊の仕業になる。
即ち、対抗手段は。
「一番単純な解決法は、お前についてる2体の精霊の主人に協力を求めることd」
「いやだ」
こちらの言葉に被せるように返ってきたのは力強い否定。
「……そんなカッコ悪いところ、アイツらに見せたくない」
ちゃりんと音を鳴らした
なるほど。
なるほどなるほど。
これは。
「すまない、これは俺が悪かった。
……惚れた相手に情けない姿は見せたくないよな」
「ばっ! なっ、いや、違! ちが、くも、ねぇ……けど」
「同性のよしみだ、深く詮索はしないさ」
とんだクソボケかと思っていたが、そういうことなら話は別だ。巻き終えた包帯をパシンと叩き、笑顔を浮かべて手を差し出す。
「ならプランBで行こう」
「プランB?」
別にヤケクソという話じゃない。
「ここには2人、闇のファイトが出来る人間がいて、七不思議は5番目までお前が倒している」
昨日、今日と連続して戦っている以上、少年の消耗は激しいだろうが……それは相手も同じ。
闇のファイトでライブラリーアウトを2回も連続で受けて、消耗しない存在はあり得ない。
故今こそが最上の好機。
「
「今から!?」
「嫌だったか? 下手に呪いを完遂されて、縛られる方が面倒だと思うが」
産まれた時から共鳴が見込めず捨てられた、俺のような屑石と違って。
「……とはいえ、無理強いするつもりはない」
闇のゲームで戦えるとはいえ小学生。
出張るのは俺が先だ。なんなら俺が最後まで戦うべきですらある。
「主人の為に俺は闇のカード使われや悪しき精霊は排除する。これは確定事項だ。故に、隣でそれを見ているだけのお前を否定はしない」
ただ、そんな真似はしないだろうと目で問えば、返ってくるのはやはり覚悟を決めて見据える瞳。愚問だったか。
「俺も戦う。誰かに解決してもらうなんて、情けない真似できるか!」
「よく言った、それでこそ男だ」
それでこそ、お嬢の友になる資格がある。
「ならば構えろ。向こうももう待ちきれないそうだ」
──気が付けば、世界が暗く変貌していた。
まるでモノクロのように世界の色彩が輝きを無くし、空が時間を早回ししたかの様に移り変わっていく。
「闇の、領域……」
早朝の晴れ渡る空から雲ひとつない昼の空へ。
快晴の昼空から茜差す夕景に。
カチコチカチコチと公園の時計が回り、回って、指した時間は──4時44分。
「大垂氷オルガ。6番目の七不思議の内容は?」
「オルガでいい。『4時44分、東校舎3階の階段を数えながら上がると存在しない段が増えている。それを踏んだ人は、異世界に飛ばされる』……だったと思う」
「ドンピシャだな」
あとは何が来るかが問題だが。
『くすくす、あーあ。巻き込んじゃった』
周囲一体に反響する、小さな子供の声がした。
あの炎の夜に聞いたものとよく似た、耳障りな声。その主の姿はない、ただただ嫌な気配としか言いようのない雰囲気だけがこの場には満ちている。
「ッ、触んな!」
『きゃー、こわーい』
ボードを展開。足元から登って来た闇を弾きつつ振り返れば、同じ様にボードを展開したオルガが謎の童女の手を振り払っているところだった。
生気のない白い肌。
彼岸花があしらわれた黒い着物。
闇の中に浮かび上がる様な真っ赤な目。
間違いない、精霊だ。
それも闇に傾いた。
『あの娘ふたりには絶対言わなかったのに、見ず知らずの人は巻き込めるんだ。いっけないんだぁ』
「このっ!」
『いいよぉ、今回は君に手は出さないであげる。その代わりに』
警戒を怠ってなんていなかった筈なのに、気がつけば精霊の赤い瞳が目の前にあった。
『親切なお兄さんが死んじゃうところ、そこでじーっくり見てなさぁい』
振り上げられたその手には──ボードとカード。どちらも悍ましい気配に包まれている。
が、精霊にしては物理的な手段をとってくるつもりは無いらしい。煽るような動きこそすれ、こちらに近づいて来ようとすらしない。
「ほう? てっきり直接手を出してくるものと思っていたが」
『お、お前に憑いてる焔が怖いわけじゃないんだから!』
それを見定められるくらいには“まだ”目も心も濁っていないらしい。
……確定か。コレは、あの夜に出会った闇カード使いじゃない。無論、その精霊でも。
『行きなさい、【地獄階段】!』
闇色のカードが精霊の持つ鳥居のようなボードを叩き、輪郭も定かではない人型が現出する。
行き先は異世界だったのでは???
「とはいえ、放置する理由もないか」
――誓言 敗北者は七不思議の被害者となる――
逸れかけた思考を、闇のゲーム特有のアンティ宣言が引き戻した。
なんとも曖昧な条件だが、宣言ができる時点で相当に人を喰っている。マトモじゃない手合いだ。
「オルガ、ファイトの準備をしておけ。最速、最短で片付ける」
「おう!」
『あらあらぁ? よほど共鳴に自信があるのかしら。でもざぁんねん、この場で共鳴なんて──』
「あいにく俺が共鳴できるカードはない」
くすくすと調子を取り戻したように笑う精霊の言葉を叩き斬る。
『はぁ?』
「俺が産まれる前に教会によって狩られたらしくてな。縛り手でこそないが、この手に輝きが宿ることは決してない」
生家には戸籍ごとなかったことにされ、一時は
「それでも、ファイトは成立し得る」
今ここに俺が、テロリストではなく執事として在るように。
「暴力を教えてやろう」
『なら私たちは、お前を喰らって
「「ファイト!」」
これから僕は、この国の歴史に名を刻む
英断か、愚行か、それは君たちが決めてくれ