アタシの切り札は数が多い   作:コピートークンA'本物exl

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3回行動


19:一部のカードには時折メリットにしか見えないデメリットが付属している

「暴力を教えてやろう」

 

『なら私たちは、お前を喰らって()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

『「「ファイト!」」』

 

 宣言と共に火が灯ったのはこちらのボード。

 

「幸先がいいな。ドロー!」

 

 ふむ。

 向こうの攻め手次第だが、殴ってさえくれれば次のターンには決着がつけられそうだが。どうなるか。

 

「色彩をセット。赤1コストで魔法〈遠雷〉を代替(ピッチ)コストで発動(キャスト)する」

 

 コスト宣言でカードが認識されている。ならば思っていたほど凶悪な相手ではないのかもしれない。

 

「〈遠雷〉?」

「本来は3コストを要するが、時間カウンターを1つ置きゲームから除外することを条件に1コストで発動出来る火力魔法だ」

 

 首を傾げるオルガの言葉に頷き応える。

 古い、それも何千とあるコモンのカードだ。本格的な使い手と相対したことがなければ知らなくとも無理はない。

 その効果は悪名と勇名高き3のサイクル呪文のひとつ、〈雷撃〉と全くの同一。赤を代表すると言ってもいいその火力は、改めて述べるまでもない。

 

「そして時間カウンターは次の俺のアップキープフェイズに取り除かれ、その瞬間に〈遠雷〉は発動される」

 

 そしてこんなカードを採用し、1ターン目から惜しげもなく圧を掛けていくデッキは、古今東西おおよそ1種類しか存在しない。

 

 即ち、

 

『バーンデッキ……!』

「対処できるか? 小学生ばかりを喰らってきた精霊に」

 

 あらゆるデッキの中で、最も単純明快かつ難解な速攻デッキ。

 それが俺の輝かない、積み重ねた殺意のみがギラつく紙束の名前だった。

 

「これで俺はターンエンド」

 

『くっ……やるしかないわ、地獄階段。私たちの、』

「たーん」

「『ドロー!』」

 

 黒いモヤのような人影の背後、ふわふわと浮かぶ精霊が全く同じ動きでデッキからカードを引き抜いた。

 

『私たちは、魔石/色彩〈放課後の怪校舎〉をセット!』

「いちこすと」

『魔法〈七不思議の壱(リープスケア・ワン)、不幸の手紙〉をプレイ!』

 

 聞き覚えのないカード名。

 まあ闇のファイトならいつものことか。

 

『私たちのメインデッキの上から2枚を見る。そのうち1枚を1/1のクリーチャーとして出し、残りをデッキの上か下に置く』

「ぼくは、これを、戦場に」

『もう1枚はそのまま上に!』

 

 だがその戦法は知っている。

 見たのは去年。エレウシスの優勝校が苦戦していたグリムリーパー使いが、たしか裏返してコストを踏み倒していた筈。お嬢がやけに楽しそうに見ていたのを覚えている。

 

『これで私たちはターン、エンド!」

 

 その戦術が強力さ相応の遅さを持っていることもまた、よく覚えている。

 

「俺のターン。レディ、アップキープ──時間カウンターが取り除かれ、〈遠雷〉が起動する。3点のダメージだ」

 

 パチンと指を弾くと同時、怪談の2人へ赤い稲妻が直撃。地面に焦げ跡を残した。──残り15点。

 

『くっ……全て色彩よ』

「ならば1コストで〈ゴブリンの贈賄者〉を召喚。これは2/2の速攻を持つ」

『「はぁっ!?」』

 

 対面している精霊と背後で構えるオルガの双方から驚愕の声があがった。さもありなん。このままでは闇のカードと言っても過言ではない超性能、だから当然デメリットがある。

 

「ただしこれが攻撃する度、相手のライフデッキの上から1枚を確認。それが色彩であれば手札に加えるかレディ状態でセットできる」

 

 魔石/色彩でも、通常色彩でも、変容色彩でも、それ以外の特殊な色彩であろうとなんでもだ。打ち消されない限り、強制的にこの効果は発動される。

 それが相手にどれだけの利をもたらすかは、“下”のフォーマットになればなるほど計り知れない。ただし。

 

「頓死前に焼き切るならただのバーンだ! バトル〈贈賄者〉で攻撃を宣言、強制効果が誘発する!」

 

 下卑た笑みを浮かべる帽子を被ったゴブリンが、ツルハシを地面に擦り付けながら精霊に接近する。そうして地面に刻まれた曲線から、吐き出された色は──

 

『トップは……変容色彩〈煤けた火事絵〉、レディでセット。ブロックはしない!』

 

 赤。

 自身と同じ色彩を纏うツルハシが、精霊めがけ大きく振りかぶられ、

 

「続けて2点!」

 

 直撃。

 めくれたカードは色彩と、呪言!

 

「呪言、き、どう」

『〈放課後のチャイム〉! 相手のコスト2以下のクリーチャー全てを手札に戻すわ!』

 

 きーんこーんかーんこーん。

 高校に入ってからしか聞いたことのない、それでもどこか郷愁を覚える音色に植物戦鬼(ゴブリンプラント)ではないゴブリンが手札に返ってくる。

 

「わざわざ除去から守ってくれるとは、存外怪談は親切らしい。ターンエンド」

 

 軽く煽りを入れながら終了を宣言。

 残り12点。

 

『くっ、こっちが考えている間に……ッ、私たちの』

「たーん。どろー!」

 

 焼畑があったとして、確殺範囲内だ。

 

『2枚目の〈怪校舎〉をセットして、赤黒(1)の3コスト〈七不思議の肆、鏡の魔人〉を召喚!』

 

 焼くべき対象を見定める中、召喚されたのは砕けた鏡がより集まったような歪な人型。ご丁寧に制服を着た俺がそこには映し出されていた。

 相変わらず不景気な面をしている。

 お嬢たちの前では笑えているつもりだが。

 

「ッ、気をつけて! ソイツは」

『これが戦場に存在する限り、お前は裏向きのクリーチャーの攻撃をブロックできず、コストを支払うことで私はお前のクリーチャーをいつでも裏向きにできる』

「そうか。それで?」

 

 速攻を持たない以上、このターンにも次のターンには関与しない。即ち、問題は一切ない。

 

『〜〜ッッ、スカした顔をして!!

 続けて1コストで瞬間魔法〈ゆうやけこやけ〉を私たちの裏向きカードへ発動!』

「除外して、場に、戻す」

『〈ゆうやけこやけ〉はスタックから離れた場合に除外されるわ。それでも、これは表になって帰還する!』

 

 パタンとひっくり返ったカードから現れたのは、薪を背負いボードを構えた石像。

 

『──〈七不思議の伍、聖耕夕読(せいこうゆどく)〉!

 これが戦場にある限り、私たちの裏向きクリーチャーは速攻を持ち、コストを支払うことでいつでも表向きにできる』

 

 ライブラリーアウトが直撃したばかりだからか静かなものだが、先ほどオルガの相手にしていた精霊はこれだろう。

 

「速攻持ちの3/3か」

『そうよ、だからこういうこともできる。魔石を起動、手札から〈七不思議〉カード1枚を2/2のクリーチャーとして戦場に出す。そして〈伍〉の効果、1コストと自身をステイさせることで今出した裏向きのカードを反転!』

 

 景色が切り替わっていく。

 黄昏時の公園から建物の中へ。

 どこか懐かしいような、どこにでもあるような階段の踊り場へ。

 差し込む夕陽の中、蜃気楼のように歪む最後の段。ああ、確かそんな話なんだったか。

 

『──〈七不思議の陸、地獄階段〉!』

 

 目の前の黒いモヤのような人影が、一気にその気配を強めた。

 

『これが場にある限り、私たちの怪談のクリーチャーは、私たちのコントロールする怪談1つにつき+1/+1の修正を受ける!』

 

 〈鏡の魔人〉 3/2→6/5

 〈聖耕夕読〉 3/3→6/6

 

『続けて〈2枚目の怪校舎〉を起動、手札から2/2のクリーチャーとして裏向きでセット!』

「だがそのカードは、怪談のクリーチャーではないため補正は受けられない」

『それでも速攻とブロック不可がある、行きなさい亡霊!』

 

 フェイズの移行を確認。

 

「ライフで受ける」

 

 裏向きのままのカードから放たれた光の弾を、冷静にボードで打ち払う。身体に響く衝撃は相当のものだが、お嬢のレガシー由来の攻撃よりも弱く──

 

『ッ、小学生ならこれでファイトなんて続行できないのに……!』

 

 ──あの夜の闇カード使いにも遠く及ばない。

 

『これで、私たちはターン』

「えんど」

 

 殆ど傷を負っていないこちらを見て、悔しそうな顔のままターンの移行が宣言された。

 

「カードは存分に確認したな?」

「ああ、もう覚えた」

「ならばよし!」

 

 浮いているコストは0

 相手の手札は2枚

 クリーチャーは2体、秘宝が1つ、ただしライフ回復やダメージをカットする効果はなし。

 

「ファイナルターンだ」

 

 焼き切る準備は整っている。

 

「俺のターン、ドロー。色彩をセット」

 

 ひとつ、大きく息を吸って。

 

1オド

 

 宣言。

 身体にのしかかる疲労感を火種に、カードに借り受けた透焔が宿る。

 

発動(キャスト)、〈雷撃〉。3点のダメージを喰らえ」

『ぎゃっ!?』

 

 降り落ちる赤い稲妻がライフを焼き、精霊のデッキから3枚のカードが弾き出される。

 

『──呪言〈焼畑〉! 3点を回復するわ!』

「ならば死ぬまで焼くだけだ。1オド〈雷撃破〉!」

『また3点火力……!? っ、魔石が』

 

 爆発する稲妻がライフデッキを再び焼く。

 色彩、魔石、変容色彩。

 残り8点。

 

「今使った赤の基本色彩2枚を墓地へ送り、代替(ピッチ)で〈火砕流〉を発動(キャスト)。今度は4点!」

 

 赤の色彩を糧に発生した災害がライフを焼く。

 色彩、変容色彩、色彩、色彩

 残り4点。

 

『こんなの、こんなの、もう……地獄階段!』

 

 無数の焦げ跡の中心で精霊を守るようにモヤのような人型が立ちはだかる。

 

「盾にされたか。哀れな」

 

 オルガは気付いていないだろうが、あの人型は間違いなく元人間。過去の被害者にほかならない。それも、2度と元には戻れないくらい染め上げられてしまった存在。

 故に庇う行為が精霊の命令でなければ、手心を加えてもいいかと思ったが……残念だ。燃やしてやる他ない。

 

「2オド、瞬間魔法〈繁栄の代償〉。

 これは各ファイターに、そのファイターがコントロールする基本でない色彩の数の2倍に等しい点数のダメージを与える」

 

 精霊のコントロールする色彩のうち、基本ではないものは〈放課後の怪校舎〉が2枚と〈煤けた火事絵〉の合計3枚。こちらは0。

 

「6点火力だ。……せめて痛みを知らず逝くといい」

 

 指を弾く。

 

 焔が走る。

 

 魔石と色彩から吹き上がった焔が燃え上がった。

 

「灰は灰に

 塵は塵に

 昏く輝ける星よ、焔を以って土へと帰りいつか再び空へと昇りたまえ」

 

 印を切り、弔いの言葉を述べる。

 ファイトの結果は見るまでもない。

 ダメージチェック中に誘発する〈間一髪〉の類は出なかった。燃え盛る階段と、崩れない闇の領域がそれを証明している。

 

「随分といい格好になったな。精霊」

 

 炎のカーテンが晴れた先にあるのは、焦げて崩れゆく闇のカードとその背後に居る精霊の姿。

 

『こんな、こんなところで、やられてなるものか……』

 

 煤けた全身から立ち上る異様な気配に、明らかに正気を失い血走った目。最早アレを見て尋常の存在であると思うものは居るまい。

 

『中学に手を伸ばせば勇者に阻まれ、

 高校には忌まわしき天龍が蔓延り、

 育てた怪談を放てば憎らしい狼と、虚無と呪いの申し子に食い散らされる。

 そんな中ようやく見つけた安寧の場所を、屑石と子供1人に奪われるなどあってはならぬ!!』

 

「遂には化けの皮も剥がれたか」

 

 自浄作用すごいなこっちの街。

 

「露は払った。決着はお前の手でつけろ、オルガ」

「──分かってる。それでも、最後に少しだけ話させて欲しい」

 

 焔が形作るバトルフィールドの中、ボードを構えた少年と精霊が向かい合う。

 

「お前を見逃せばネコトとセンカにも手を出す。だから俺は、お前のことを見逃せない」

『何を今さら!』

「……それでも、昨日までの数日は楽しかった。楽しかったんだよ」

 

 オルガが精霊にかけた声は、泣きそうなほどに優しかった。

 

「久しぶりだったんだ、学校で友達とファイトできたの。

 不思議だったけど、新しい友達になれるかもって。そう思って……嬉しかった。だから

 

 言って、真っ直ぐとオルガは精霊を見据えて。

 

「だから、1回だけ聞く」

 

 ボードが突きつけられる。

 

「どうする? お祓いを受けて2度と人間を襲わないか……この場で、また俺とファイトするか」

 

 メインデッキがセットされ、ライフデッキがシャッフルされた。

 ()()()()()()()()()()()()()に、言うまでもなく精霊はボードを構え──

 

『── くすくす。ばっかじゃないの? 

 名前も嘘、楽しさも嘘、みんなみーんな嘘! 嘘! 嘘!

 こんな楽しいこと、今さらやめられる訳ないじゃない!!』

 

 ――誓言 敗者は勝者に隷属する――

 

「『ファイト!!』」




魔導通信を送れ、『空が1、敵が9』だ。
繰り返す『空が1に敵が9』だ!
──共和国戦線最後の通信 

──〈機動甲虫群(ラ・バグレギオ)クラスターム〉より 
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