アタシの切り札は数が多い 作:コピートークンA'本物exl
闇カードの使い手と会話なんて成立しない。
親父には何度も何度もそう言い聞かせられた。
あの【笛吹き】とかいう怪人もそうだし、昨日と今日、巻き込まれている七不思議だってそう。問答無用だった。ファイトするしかなかった。
「だから、1回だけ聞く」
それでも。
昨日まで友達だった相手を何も聞かずにファイトでぶちのめす──それは何か、違う気がする。
それをしたら、大切な幼馴染に2度と顔負けできなくなってしまうような気がする。たったいま目の前で繰り広げられた、焼き尽くすようなファイトを見てよりそう思った。
「どうする? お祓いを受けて2度と人間を襲わないか……この場で、また俺とファイトするか」
強くて、迷わなくて、速い。
でも
だからこそ、ボードを突きつけながら問いかけた。
『──くすくす。ばっかじゃないの?』
一瞬、呆れたような表情のあと。
『名前も嘘、楽しさも嘘、みんなみーんな嘘! 嘘! 嘘!
こんな楽しいこと、今さらやめられる訳ないじゃない!!』
返ってきたのはたったいま作ったような顔と、わざとらしいまでに悪辣な言葉で。
――誓言 敗者は勝者に隷属する――
「『ファイト!!』」
そうして、避けることのできなかったファイトが始まった。
『私のターン、ドロー!』
デッキから手札を引き抜き、手元に持ってきた時点でその異変に気が付いた。
変わっている。
こちらじゃない、向こうのデッキが──
「
『そうよ! 鏡の魔人と聖耕夕読のおかげで、そのデッキがライブラリーアウトなのは知っている。こうしてしまえば、貴方のデッキは機能しない!』
ボードに収められたそのデッキは、パッと見で普通のデッキの倍くらいの厚さがあった。
『セット、〈放課後の怪校舎〉。そのまま起動して手札のカードを2/2のクリーチャーとして裏向きで召喚!』
無事にファイトを終えられないかもしれない。
思わずよぎった不安に、なんとなくブレスレットを握り締めて。
『ターンエンドよ!』
覚悟は決まった。
「俺のターン。レディ、アップキープ、ドロー」
カウント開始。
デッキ枚数不明-5枚、手札5の1-4。
「色彩をセット、1コストで〈遺跡荒らし〉を召喚してターンエンド」
やることは変わらない。
冷静に、正確に、最後は必ず家に帰る。2人と約束した通りに。
『忌々しい賊風情が……私のターン、ドロー!』
遺跡荒らしは0/3、あのトークン1体なら問題ない。出来れば鏡の魔人が出てくる前に対処したいところだけど。
『セット、変容色彩〈煤けた火事図〉当然2点のライフを支払ってレディin!』
落ちていったカードは、さっき見た〈放課後のチャイム〉と通常の色彩。なら残りは〈焼畑〉だけ? 考えの隅にだけは置いておこう。
『そして2コスト──御伽話〈放課後怪談物語〉をプレイ!』
「御伽話……」
それは最近モブさんもよく使っているのを見るカードのカテゴリ。
ページを巡るように効果を発揮するそれは、放置すればするだけリソースを稼がれてしまう厄介な置き物。せめてその効果は把握しなければとボードを操作して──
「7ページ!?」
初めて見るその長さに、思わず声が出た。
〈放課後怪談物語〉(2)
秘宝 怪談 御伽噺
このカードが場に出た時、【栞】カウンターを1個乗せる。
このカードのコントローラーがメインデッキからカードを引いた時、このカードの上に【栞】カウンターを乗せる事が出来る。
1P〜6P──まだこの効果で除外されていない〈七不思議〉カード名を宣言する。それを自分のデッキから探し、除外し、それの常在型能力のみを持つ怪談・トークン1つを生成する。それは0/0であり、攻撃できないを持つ。
7P──これを生贄に捧げる。その後、これを変身させた状態で貴方のコントロール下で戦場に出す
『壱頁目、私はデッキから〈七不思議の陸、地獄階段〉を除外。その常在効果のみを持つ0/0の怪談・トークン1つを生成!』
本来ならそのまま墓地へ送られる筈だが、
『〈陸〉は怪談クリーチャーを強化する。よって怪談トークンは2/2!』
おどろおどろしい気配を放つ本から零れ落ちたページは、崩れ落ちることなくフィールドへ降り立った。
コピー、トークン、そしてブロック不可。狙ってやってきてるなら……なんか、すごく嫌だ。
『ターンエンド』
人の想い出を、土足で踏み荒らされるみたいで。
「俺のターン。レディ、アップキープ、ドロー!」
ほんの少しだけ、ドローに力が入った。
「青の色彩をセットして〈遺跡荒らし〉の効果を誘発!
お前のデッキの上からカードを3枚墓地へ!」
カウント-10、手札5の1-4。
まだデッキはかなり厚いままだ。
「続けて1コストで〈橋脚の潮招き〉を召喚!」
遺跡荒らしの足元に呼び出したのは、片方のハサミだけが異様に大きな蟹。この前3人で買ったBOXから出てきた、このデッキの新しい力。0/2なのは不安だけど、多分まだ大丈夫。
「これで俺もターンエンド」
打ち消しはある。
このターンならまだ、たぶん大丈夫。
『〈竜魔法の盗掘者〉じゃない?
いえ、それなら攻めるだけね。私のターン、ドロー!!』
ぺらり、頁が捲られる。
『〈放課後怪談物語〉が誘発、デッキから〈七不思議の伍、聖耕夕読〉を除外してトークンを生成!』
3/3の壁が2体。
そして今から、裏向きのクリーチャーは全て速攻を持って出てくるようになった。
『色彩をセットして〈怪校舎〉を起動、2体目の2/2クリーチャーとして裏向きでカードをセット』
打ち消しは……するとしたら〈鏡の魔人〉のコピーに対して、いや、それもナシか。1ターンの延命にしかならない以上、出てきた後に除去するほうがいい。
『そして2コスト、付与魔法〈七不思議の弐、血染め桜〉を
「スタック、1コストで瞬間魔法〈ターンパイク〉!
追加で1コストを払わない限り、〈血染め桜〉は打ち消される」
『チッ、払えるコストはないわ』
「解決後、俺が瞬間魔法を唱えたことで〈橋脚の潮招き〉の効果が誘発。お前のデッキトップから3枚墓地へ送る」
潮招きがカチカチと鋏を鳴らす音に連動して、何故か相手のデッキが上から崩れ落ちる。ターンパイクのコスト追加はプレイされるカードにかかる効果、誘発した効果には反応しない!
『ッ、ならバトルよ!
2/2の裏向きクリーチャー2体で攻撃!』
「片方は〈遺跡荒らし〉でブロック、もう片方は──ライフで受ける!」
左のボードを盾にして、顔と身体を覆い隠す。
片足を引いて踏ん張り、防御態勢。
【笛吹き】とファイトした少し後、MeeKingの店長さんとサレンさんから教わったいざという時の構え。
「来い!」
──衝撃。激痛。
ボードを動かないよう蛇の精霊が締め上げて、何匹かの蝶々が庇うように前に出てくれた。それでも涙が勝手に出るくらい痛いし、全身がギシギシと変な音を鳴らしている。
「……て゛も゛、耐えた゛!」
ライフデッキから飛び出したのは、魔石/色彩と白の2枚。
「〈遺跡荒らし〉の開拓が誘発、3枚墓地へ!」
カウント-18。なのにまだデッキはぶ厚い。
『くす、これだけ頑張ったのに私のデッキはまだまだぶ厚い。痛い? 苦しい? 諦めたい? 楽になってもいいのよぉ?』
甘い。
甘ったるい言葉と空気。
こちらを堕落させようとする、昏く甘美な闇の誘惑。だけどそれはもう知っているから。
「ワンパターンなんだよ誘惑が!
俺は俺の意思で、自分の道を行くって決めてんだ!」
ブレスレットを頼りに闇の気配を振り払う。
『これだから『開拓』使いは……ッ、ターンエンド!』
「俺のターン。レディ、アップキープ、ドロー」
正しい宣言とルーティーンで迷いを拭う。
「1コストで〈竜魔法の盗掘者〉を召喚。
続けて魔石/色彩〈蜃気楼の水溜り〉をセット!」
一歩ずつ。
少しずつ。
確実に。
「〈盗掘者〉と〈遺跡荒らし〉が誘発、デッキを6枚破壊!」
積み上げていく。
「〈水溜り〉を起動。これを生贄に、デッキから青の色彩をセットして2体の能力を再誘発! もう6枚を墓地に送る」
カウント-30、手札は変わらず5枚の1-4。
それで道が拓けることを、俺は知っている。
「そのデッキ、元は多分70枚だろ」
トークン越しに見える相手のデッキは、気づけば見慣れた厚さに変わっていた。
『な、何を根拠に!』
「いきなりデッキを増やしてもどうしようもない。でも七不思議って噂にこじつけた数字なら、共鳴もできるはず」
闇のカード使いで、精霊。
闇の精霊で、ファイター。
色々と違う部分はあるけれど、大切な部分はきっと人のそれと大きく変わらない。
『……分かったところで、何ができる!』
「勝負ができる」
あくまで、
退くことは出来なくても、闇のファイターであっても。ほんの僅かな時間だけでも、間違いなくそうあれたはずだから。
「ライフが尽きるか」
指をさす。
「デッキが尽きるか」
また指をさす。
「怪談が完成するか」
頁が捲られつつある物語に指をさす。
「勝負しよう、
『私の名前すら呼べないくせに』
「最近はネットとかもあるし、名前なんて知らなくても友達にはなれる」
『どんなカードかも知らないくせに』
「今から見れる」
『私は闇のカードなのに!』
「許さないのと友達なのは、両立できる」
後ろで観戦しているシノブさんが何かを言ってるが無視する。
俺はあんなに強くなれない。
切り捨てられない。
守ることしか出来なくて、それでも俺が目指す強さとファイトを諦めたくないから。
『……いいわ、そこまで言うならやってあげる。後悔してももう遅いんだから!』
「当然。これで俺は、ターンエンド!」
おそらく最も激しい、最後の攻防になるターンが始まる。
『私のターン、ドロー。〈放課後怪談物語〉が誘発、3頁目〈鏡の魔人〉を除外してトークンを生成!』
これで裏向きのカードは全て『ブロックされない』効果を得る。
たった2点であれだけ痛いのに、4点素通しなんて考えたくもない。
「通す」
が、打ち消すべきはここじゃない。
『1コストで〈七不思議の壱、不幸の手紙〉!
デッキトップから2枚を見て1枚を1/1の裏向きクリーチャーとして召喚!』
「通し」
打点の追加。それでも俺のライフはまだ14ある。
痛くても、苦しくても、そのダメージじゃ敗北しない。
『2コストで秘宝〈七不思議の参、彷徨う瞳〉をセット!』
ステイしてドローを加速する秘宝、止めるならここ!
「スタック、青1コストで瞬間魔法〈オーバーテイク〉!
それを打ち消す代わりに、打ち消すカードと同じコストX=2のカードをデッキからプレイする権利がお互いに、打ち消される側から与えられる」
『なら私は〈机の底の罠〉を発動! 条件付きの2枚ハンデスを喰らいなさい!』
「同じくデッキから〈反応解呪〉、再度打ち消し!」
これで浮いているコストは1、ビッグアクションは起こせない。
「そして〈潮招き〉が2回誘発、6枚墓地に!」
鋏が打ち鳴らされデッキが崩れる。
そのうちの1枚を見て、相手の唇の端が上がった。
『墓地からカード4枚を除外して〈ゆうやけこやけ〉をフラッシュバック! 対象は2/2の裏向きクリーチャー!』
「通す」
『来なさい、〈七不思議を語る者〉!』
現れたのは〈地獄怪談〉の補正でそれぞれ、8/9となっている巨大クリーチャー達。新たなクリーチャーの効果は、
「プレイヤーに無色クリーチャーがダメージを与えた時のドロー効果!」
怪談物語の頁を一気に進める効果持ち。
『バトルよ、裏向きの2/2クリーチャーと1/1クリーチャーで攻撃!』
「スタック、白1コストで〈渓流の侵食〉2/2のクリーチャーを破壊する! 代わりに、基本色彩をそっちはセットできる」
『ならセットして続行!』
「その前に〈潮招き〉が誘発、3枚墓地送り!」
攻撃のうち、片方が光に包まれ消滅する。
それでもブロックできない1撃はこちらに直撃して。
「──ッ、」
ボードで受けて、歯を食いしばって耐えた。
ライフデッキから落ちたのは魔石/色彩、共鳴のないこのデッキでそうそう誘発はしてくれない。
『〈七不思議を語る者〉が誘発、1枚ドロー。
ドローに反応して〈放課後怪談物語〉の4頁目、〈不幸の手紙〉を除外してトークンを生成!』
「ならそれにスタックして〈書庫の崩落〉をプレイ、デッキを8枚墓地へ!」
『8枚も……でも4頁目までは捲られる!』
「〈潮招き〉で更に3枚!」
カチンカチンと煽るように鋏が鳴らされ、バラバラ、ばらばら、山のようなデッキが崩れていく。
『メイン2、2枚目の〈ゆうやけこやけ〉をフラッシュバック。戻りなさい、〈鏡の魔人〉!』
カウント-56、手札4の1-3。
4体のトークンで攻撃は通らず、次のターンには10点クラスの攻撃が2回くる。そのうえ妨害だって1つは見えている。1コスト起きている以上、簡易的な打ち消しが来てもおかしくない。
『ターンエンド』
でも、これで勝ちだ。
「俺のターン、レディ、アップキープ、ドロー」
こちらの手札は呪言1枚と色彩1枚、そしてドローカードにとっておきが1つ。
セットするのを含めてコストは5。
それだけあれば十分すぎる。
「色彩をセット、〈遺跡荒らし〉と〈盗掘者〉で6枚デッキを破壊!」
カウント-62。
「青1コスト、通常魔法〈彼方を望む〉。
デッキから1枚ドロー、ただしいずれかのファイターの墓地に20枚以上のカードがある場合3枚ドロー出来る!」
『通さないわよそんな横暴! 1コストで〈献身の証明〉!」
「対応はない。打ち消される」
残りの手札は3枚の1-2。
「──でも、これで決着だ。
(青)(青)(青)で魔法〈精神崩壊〉をプレイ。各対戦相手は、デッキの上から12枚のカードを墓地に送る」
『ッ、〈防災〉で打ち消し!』
「呪言〈火事場の力〉で〈防災〉を打ち消し!」
山のように積み上がっていたデッキの、最後の1枚が墓地に落ちた。
「カウントオーバー──下校時間だ、悪いな」
メインデッキを回復するカードがないのは確認済み。
『非道い子ね、あの時にはもう勝ちまで見えてたんじゃない』
ぱらぱらと頁が捲れるように、景色が元の色を取り戻していく。時計が逆巻き、空が渦巻き、逢魔ヶ時から忙しない朝の空気へ。
「俺はまだ、負けるわけにはいかないから」
『ふん、デッキの色らしい子だこと』
最後に、そんな言葉を吐き捨てて。
『私の負けよ。アンティは絶対、
元の街並みに戻った公園で、1枚の黒ずんだカードが地面に落ちた。
それで終わりだった。
「……どうにかするアテはあるのか?」
お互いの拳を突き合わせて、どことなく放っておかない闇のカードをポケットにねじ込んだ。
「一応。供養するよ。学校の先生が元教会の人だから、たぶん詳しいと思う」
流先生なら多分そういう話も聞いてくれると思う。多分すっごく怒られるけど、お願いすればネコとセンカには秘密にしてくれるだろうし。
「そうか、なら任せる。頑張れよ、オルガ」
そう言って、親切だけど変な兄ちゃんは帰っていった。
……………いやまじでなんなんだこの人。
ファイトしてくれたのはありがたいけどさぁ!
結局名前も聞けてないし、なんか執事とか言ってたし!
なんも分かんないだけど!
たぶんめっちゃ変な人だ。
ネコトにもセンカにも気を付けてもらった方がいいのかなぁ、いやでも結構な恩人だしなぁ。
うーん。
うーん……
「あっ、遅刻じゃん」
逃げられた、蟲はそう思った。
相変わらずそういうことだけは上手いんだから、蟲はそう笑った。
融解した炉心の火と汚染の中、その蟲は動かなかった。