彼女たちは、走るために生まれてきた。
時に数奇で、時に果てしなく残酷で、時に輝かしい歴史を持つ、別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る。
それが、彼女たちの運命。
ある者は、自らの夢を追い求めて。
ある者は、家の名を背負って。
ある者は、憧れを追いかけて。
そしてある者は、己の答えを確かめる為に──
この世界に生きる彼女たちの未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。
彼女たちは走り続ける。
その瞳の先にある、ゴールを目指して。
ゴールの先にある、夢を目指して。
──これは、一番を夢見るウマ娘と、ウマ娘を夢見たトレーナーの物語。
ST-00-01 出会い
ST-00「-carle-」
「...進路希望、かぁ........... 」
公園の東屋、崩れかけた屋根の下で、一人ため息を吐く。
学校で配られた用紙に進路希望を書けという話だが、なりたいモノがない以上は進学先など決まりようがない。
もとより、考えたくもない。
...御姉様の様に走りたかった。
なのに、この忌々しい耳がそれを許さない。
この足がそれを許さない。
これのせいで、私は、光の子にはなれない。
これのせいで。
幾度繰り返したかもわからない言葉が、頭の中でぐるぐると巡る。
──タッタッタッタッ
気づけば、小気味良い足音が聞こえてくる。
音に顔を上げれば、ウマ娘──小学生だろうか、そんな少女が公園の通路をトラックに見立てて走っている。
数年来、この町外れの公園に自分以外が来ることはなかった。だから、ここを最低限整備していたのは私だ。
勝手に入り込んだ少女を睨み付ける。
──その走りを見て、初めに出てきた感情は嫉妬だった。
権利を持っている者への。
次に沸いた感情もまた嫉妬だった。
その走りの秘めたる美しさへの。
粗削りの動きの中にわずかに覗く、流れるような所作。体重移動の正確さ。
まさしく原石。
なのに。
まだ原石なのに眩しくて、なのに目が離れない。
トゥインクルシリーズを見たこともある。
自分でターフを走ったことも数えきれないほどある。
御姉様たちの走りだって、何度も何度も見てきた。
そこでは見えなかった「何か」が見えた気がした。
その正体はわからないが、この走りをもっと見ていたい。
この走りの至る所を見てみたい。
もっと、もっと。
不意に、携帯がなる。
番号は…御姉様の付き人の部門か。
「青葉です。どうかしました?」
『一班のサキです。お嬢様が門限を過ぎていることでお怒りです。』
ひび割れたポール時計を見上げると、長針が5を指している。
気づかなかった。これは叱られるか。
「わかりました、これから帰宅します。
...いつまで五時が門限なんでしょうかね。」
『お言葉ですが、ご自身の行いを顧みられた方が良いかと。
お嬢様からすれば心配にもなるというものです。』
些細な愚痴なのに、そう返されてしまってはぐうの音もでない。...仕方ない。
「....今から帰るって伝えておいてください。」
『承知しました。失礼します。』
端的な返事を残して電話が切れる。
少女の方を見やると、依然としてそのままのペースで走っている。
...ここに来たのは大体一時間前。
なら、少女が来てから...大体45分ぐらいは経っている筈。
親戚の子たちならもうそろそろバテる頃だが、少女はまだまだ走れるといった空気だ。
流しとはいえ、年齢に対しては恵まれたスタミナが伺える。
ああ、きっと彼女は、磨けば美しい宝石になるのだろう。
御姉様たちにも勝るとも劣らぬ、美しい宝石に。
....羨ましいものだ。
そんなことを考えながら、帰路についた。