ウマ娘プリティーダービーST   作:十和田 永一

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ST-01-09 Dread

次ラストー!

セット!

合図にダイワスカーレットがスタートの姿勢をとる。

ゴー!

同時、彼女の足が地を蹴り、瞬く間にトップスピードに加速する。

 

ここ一ヶ月のトレーニングで体力は1ハロン半スパート分は稼げた。

能力が低いうちだから伸びやすいというのも有るのだろうが、それでも想像以上だ。

これならマイラーからステイヤーまで広い範囲に指向先を選べる。

いや、そのいずれにおいても彼女が一番になることだって可能なのかもしれない。

...もっともマイルにおいては、汎用型なダイワスカーレットよりも、特化型なウオッカの方が有利なのだろうが、それでも戦い方次第では彼女に軍配が上がるだろう。

骨の強度についても、片足に集中して過度な大負荷を複数回かけるようなことが無ければ影響は少ないと見える。

負荷の調整もすぐ済むだろう。

この分なら、計画通りに事を進められそうだ。

 

ダイワスカーレットがコーナーの中腹、残り2ハロンで加速する。

数度目の1600mコース1周故にペースは落ちているが、それでも十分なペースだ。

 

ダイワスカーレットは十和田から1ハロン半ほど走り抜け、こちらに引き返してくる。

 

お疲れ様。

タオルとボトルを差し出すと、彼女はタオルに顔を埋める。

...どうだった?

少しくぐもった声。

期待よりちょっと上。

本番でハロンを間違えなければ策も十分使える。

勝てる筈だから明日明後日...この土日は体調を万全に整える様に。

...もう少しだけ走り込みたいんだけど、良いかしら?

タオルから顔半分だけこちらに向けて窺ってくる。

 

..........今日については負荷は少ない。

それに、丁度よくはあるか。

一つ段階を進めよう。

 

...問題ない。

ただし日曜日は心身の調整に割いてくれ。疲れが取れずに本番、なんて事になったら勝てるものも勝てないから。

いいね?

ええ。

ダイワスカーレットが頷く。

...それじゃ、月曜日の放課後に選抜レースで。

 

そうと決まれば準備がいる。

 

校舎方向へ続く道を辿りながら、姉へと連絡をかける。

...ご無沙汰しております、十和田です。

少々お願いしたいことがありまして──

 


=========

 

西の空に日が傾いてきた。

んー

背中を伸ばし、大きく息をつく。

さってと!

そしてスタートの構えをとった瞬間、近くの垣根が揺れた。

 

ガサガサッ!

 

物音をたて、黒いパーカーの人影が姿を表す。

頭をすっぽりと耳カバー付のフードで覆い、顔には狐面。

腰からは薄紫から茶色のグラデーションがかかった尻尾が垂れている。

風にたなびく尾から、ほんのりとシトラスの匂い。

狐面の奥、薄紫の双眸がこちらに向けられる。

 

その目つきを、毛色を、よく覚えている。

いや、そもそも忘れられるはずがない。

髪は[[rb:最後に会った時 > ショートヘア]]よりずっと長くなっていても、間違いない。

自分に、最初に走り方を教えてくれた人。

 

...青葉、トレーナー..........?

 

名前を呼んだ瞬間、困惑するように彼女の瞳が揺らぐ。

何か信じられないようなものを見ているような、見られてはいけないものを見られたような、事態の理解を拒んでるような。そんな感情の激流がめくるめくその瞳から伝わってくる。

 

ご無沙汰してました。

...青葉トレーナーの教えのお陰で、無事中央に入学することができました。

 

一礼すると、彼女は目を丸くして顎に手を当て、数秒するとなにかを理解したのか大きく頷く。

 

青葉トレーナーは小さく拍手をすると、手招きをしながら歩きだす。

近づこうとすると、こちらを見ながら少しずつ速度をあげ、走り出す。

 

あの頃と同じ走り方。

 

ついてこい、ということだろうか。

丁度、聞きたいことは山のようにある。

その背中を追って駆け出した。

 

 

=========

 

 

青葉トレーナーは豪邸の裏門前で足を止める。

豪邸を見上げると、家紋を象ったステンドグラスが目にはいる。

あの家紋はメジロ家の家紋だったか。

 

...そういえば、結局名字は教えてくれてなかったっけ。

青葉トレーナーがメジロ家の人だったなら、あんなに知識があったのも納得だ。

 

青葉トレーナーが守衛に手をふり、こちらを手で示す。

静かに、ゆっくりと門が開いていく。

彼女は再びこちらに手招きすると、敷地内に入って行く。

 

困惑気味に守衛に目をやるが、守衛は何も見ていないとばかりに目をそらす。

門が閉じられない所を見るに、入ってこい、ということだろう。

 

敷地内に消えた青葉トレーナーを探し広い庭を見て回ると、ターフの上に立っているのを見つけた。

立てられたハロンを見ると、学園のグラウンドと同じで一周1600mだ。

彼女は携帯を取り出し、文字列をこちらに見せる。

 

スパートの時、私の走りをよく見てください。

赤旗がスタートの合図です。

目線を見てか、彼女は読み終わってすぐのタイミングで携帯をしまってスタートの構えを取る。 《/font》

 

...どうやら、聞きたいことは聞かせてもらえそうに無い。

 

青葉トレーナーにあわせて自分もスタートの構えを取る。

メイドさんが赤旗を振り下ろすと同時、地を蹴る。

 

極端なスローペースだ。

斜め前に位置する彼女からは、過剰なまでの手加減をしているのが感じ取れる。

見る余裕が無くならないための配慮なのだろう、とは想像がつく。

 

...だとしても、手加減されているのは性に合わない。

ぁぁぁぁぁぁあああああっっつ!!!

3ハロンの手前でスパートをかける。

勝つ。

絶対に勝つ。

成長したアタシを─

 

...何よりもまず、自分のペースを忘れたらダメだよ。

追い抜かす瞬間、トレーナーの声が聞こえた気がした。

 

反射的に後ろを振り向く。

 

◢◤◢◤◢◤Endless Dream◢◤◢◤◢◤

     Dreadnought Impact

◢◤◢◤◢◤Endless Dream◢◤◢◤◢◤

 

そこにいたのは、もはや青葉トレーナーなどではなかった。

目の前の獲物を狩らんとする、獣そのもの。

向けられた冷たい瞳に、彼女から目が離れなくなる。

暗いなにかが彼女にまとわりつき、彼女が黒い獣に姿を変えたように幻視した。

[[rb:それ > ・・]]の左足が深く地面に食らいつき、足のバネに力を溜める。

 

一秒にも満たない間。

 

それは力を解き放つ。

左足が地面を抉り蹴り飛ばし、芝で固まった土塊が反作用で文字通り吹き飛ぶ。

爆発的、という言葉では到底足りない急加速。

 

──喰われる!?

反射的、本能的に身構える。

 

その瞬間は訪れなかった。

代わりに来たのは、暴風。

彼女の体が切り裂いた空気が、暴力的な風となり吹き抜ける。

こちらもスパートで加速しているというのに、彼女はどんどん距離を離していく。

 

届かない。

今のアタシでは、届かない。

格の違いというものを見せつけられる。

彼女がゴール板を駆け抜ける。

アタシがゴール板を駆け抜けたのは3秒は遅れてのことだった。

 

青葉トレーナーは携帯を取り出す。

...『さっきの加速、ちゃんと見てましたか?

 

頷く。

足のバネに力を溜めて、一気に加速していた。

...『貴女なりに真似していただけますか?

複製するのではなく、自分の体、自分のリズムに合うように再構築して、自分なりのタイミングで踏み切ってくだされば。

貴女なら、できる筈です。

...やってみるわ。

二人は再びスタートの姿勢を取った。

 

 

=========

 

 

それから十数度か並走繰り返したところで、青葉トレーナーは再び携帯を取り出した。

 

...『2200。流石に今日はここまでです。

もう少しだけ、御願いします。

理解はしますが許可は出来ません。オーバーワークは問題外です。

月曜日、模擬レースでらっしゃったはずですが。でしたら、体調を崩しうる要素は廃さなくては。

なんで知って...

彼女はステンドグラスを手で示す。

メジロ家だから、といったところか。

だとしても、いくらなんでも知りすぎな気がする。

今日だって、わざわざここに招き入れた辺り偶然じゃなくて、はじめからさっきの技を教える《font:69》つもりで会いに来たような気さえする。

 

...聞いたところで、答えてくれる人じゃないか。

...わかったわ。

.......ねえ、青葉トレーナー。

明日、練習を手伝ってもらえるかしら。

ごめんなさい、用事が入っておりまして。

いつか、また会いましょう。

彼女は一礼すると、入ってきたのと同じ裏門を指し示す。

...その、色々と聞きたいことが..........

彼女は首を横に振る。

...答える気はない、か。やっぱり、そういうところは昔から変わってないらしい。

 

青葉トレーナーは口が固い。

恐らく、問い詰めても徒労に終わるだろう。

だからといって聞かずに平気なわけでは無いけれど、彼女の言っていた通りレース前に体調を崩しては元も子もない。

 

まして、公式戦ではないものの、ウオッカとのレース。

どちらを選ぶべきかは明白だった。

...わかりました。いつか、また。

 


=========

 

裏門の戸が閉じる音が響く。

 

狐面とフードを外し、蒸れた髪を手で雑に鋤く。

色々と、手間をかけさせてすまないね。

年老いたメイドは首を横に振る。

「いえ、私はお嬢様の指示に従うだけでございますので。

...よろしかったのですか?」

何が、なんて聞くまでもない。

自分だって礼儀的には必要だとは思う。

 

わざわざ色々手を回していただいたのに、これ以上私の為に時間を使わせてしまう訳にはいかないでしょう。

ただですらご多忙なんですから。

「お言葉ですが...」

進言は不要だよ、それについては。

メイドへ強い目線をやると、彼女は口を閉ざして一歩下がる。

 

 

...さて、程々にして私も失礼させてもらうよ。

お姉様達やご当主によろしく。

「承知しました。

..........お元気で。」

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