ST-03-01 Entry
ST-03「『R』to『J』」
ガコン!
…ダダダダダダダ
ゲートが開くとほぼ同時、スカーレットが飛び出す。
コンマ2秒台前半、とりあえずは及第点か。
今後も鍛えるとしても、当面はこれでもなんとかなる。
「...スカーレット!戻ってこーい!」
送風機のスイッチを切り、スカーレットを呼び戻す。
「..........やっぱりダメね、風があると気になっちゃう。」
スカーレットの耳がぺしょりと倒れる。
「でも十分だ。出遅れ気味にはなるが、君なら余裕で巻き返せる範囲だ。
クラシックまではなんとも言えないけど、少なくともジュニアのうちは何とかなる。
...後は場数を踏むしかないね。」
これまでのレースや合同練習、自主連を見る限り、スカーレットの誰かと競う時の集中力は非常に高い。実戦でならもう少しマシになるだろう。
「...ゲート問題は最低限片付いたとして、だ。
着替えてトレーナー室に集合。」
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スカーレットが差し出した資料に軽く目を通したのを確認し、口を開く。
「そろそろ、新バ戦にエントリーしようか。
...僕としては第一案、11月中旬に新バ戦に出走、12月にオープン戦、1月にGⅢの後、チューリップと桜花賞に向かう道筋を考えている。
資料にある通りアネモネ経由とか別案もあるにはあるけど、これが現状一番現実的だと思う。...なにか質問は?」
スカーレットが資料から顔を上げる。
「ジュベナイルフィリーズは出ないの?
桜花賞と同じコースのGⅠだから、出ておくにこしたことはないと思うのだけれど。
デビュー戦を半月早めれば、ギリギリ間に合うでしょう?」
可能不可能で言えば可能なのだろうけど、得策とは言えない。
とはいえ。
「やっぱりそこは気になるよね。
現状、恐らくは今後も、君の天敵はウオッカだ。
シニアに上がってからは晩成型の成長や上級生の状態次第だが、クラシック級...ティアラ路線においてはほぼ間違いなく一番にして唯一の障害となってくる。 」
彼女のデビュー予定日は今月の末。ジュベナイルフィリーズには間に合う。
「確かに12月の阪神JFは早期にGⅠの経験を積め、そして何よりも桜花賞と同じコースだ。
恐らく彼女はこれに出走し、ここから桜花賞まで1600でローテを組むだろう。
桜花賞を狙うなら正攻法の一つではある。」
正攻法の一つではある、のだが。
それだけで飛び込める程簡単じゃない。
「問題なのが、マイルが比較的には彼女の得意距離という所。
対する君は、ウオッカと比較するならば中距離から長距離の方が有利だ。
そうなると、向こうの舞台で戦う以上、何かしら策を講じないといけない。
だから、こっちは手の内を明かさない方針で行こうと思ってる。
阪神の1600はチューリップから。それまではレース場か距離をずらす。」
ダイワスカーレットは口に手を当てる。
「...トライアルは優先出場権の為に外すわけにはいかない、だから直前にはどうしても勝負が入るわね。」
相変わらず聡くて助かる。
そう、もしウオッカが
そこで、直接対決が入る。
「トライアルであるのもそうだけど、桜花賞と一度同じ条件で実戦を走っておいた方が良いのもある。
色々勘案してもこればっかりはね。」
そこが一番の問題でもある。
「はっきり言って、これは諸刃の剣ではある。練習と実戦は別物だ。君の場合は特に。
向こうからすればこちらの情報が少ないが、同時にこちらは自分達の実戦の情報が少ない。
むこうもこっちもその一回を最大限活用しないといけないのは同じ。ましてGⅠだ、不確定要素は増える。」
ようするに、とスカーレットは口を開く。
「どちらにしても賭けにはなるけど、そっちの方が勝算が高いとアンタは思うわけね。」
「ああ。
文句があるなら言ってくれ。」
数秒の間。スカーレットが首を縦に数度振る。
「..........わかったわ。それで行きましょう。」
「よし。
新バ戦は11月19日、京都芝2000。
まず、これに勝とうか。」
「ええ。」
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『よし。
新バ戦は11月19日、京都芝2000。
まず、これに勝とうか。』
小さな端末のスピーカーから、たった今同じ建物の他の部屋で話されている内容が響く。
「...とのことです。」
栗毛の少女の行いに苦笑が漏れる。
男の声は聞こえているのに、それと会話している筈の少女の声は完全に遮断されている辺り、もうなんと言うか。
「...同じレースに出て、勝ちたいってこと?」
「ええ。」
当然と言わんばかりに、彼女──ツキヨナガイヨルは首を縦に振る。
以外に無いことはわかりきっているけど、それでもそうじゃないと思いたかった。
「...皐月賞と同距離、丁度良いには丁度良いけどさー。
ホープフルに間に合わなくなるよ。
それでも─聞くまでも無さそうだね。」
少女の目は強い意思に暗く輝いており、他の選択肢等目に入っていないようだ。
...本来であればその狭まった視野を広げるのもトレーナーの役目だけど。
大元の雇い主の目標を考えれば、彼女と競わせるのは好都合か。
「...わかった。同じレースで新バ戦を迎えようか。」
「ありがとうございます。」
..........まったく。
...何処から何処までがあの人の掌の上なのだか。