ウマ娘プリティーダービーST   作:十和田 永一

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ST-01「Fir-」

 

痛っ!

 

顔面に感じた痛みに、意識が急速に引き上げられる。

数秒かけてようやく、それが自分の手が落ちてきた痛みだと理解する。

 

ひどく懐かしい夢を見た。

できれば思い出したくもないような夢。

 

よりにもよってこの日に。

あるいは、今日この日だからこそあの日々の夢を見たのかも知れないが。

 

男は寝汗に濡れた身を起こして、照明のスイッチを叩いた。

 

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男はコンタクトを入れ、スーツを着込んでいく。

暗い朱のネクタイを締め、赤いフレームに黒地のタイピンで留める。

肩より長いその長髪を後ろでまとめようと鋤いて、彼の手が止まった。

 

...ドライヤーを軽くしか掛けなかったせいか、まだ少し湿っぽい。

今からかけ直している時間は...

無いな。

時計を見れば時刻は七時半を回っている。

今出たところで徒歩ではギリギリな時間。

走ってる間に乾く事を期待するしかないか。

 

革靴を袋に入れリュックサックに放り込み、靴箱から女物のスニーカーを取り出す。

見た目は好かないが、機能的にもサイズ的にもこれしかないのだから仕方がない。

...移動しているところを見られると色々と面倒だ。

 

男はフード付きのローブで身を包む。

 

華奢でどことなく女性的な体つきもあって、誰がその姿を見ても、珍しい格好をしたトレセン学園のウマ娘にしか見えないだろう。

そして、トレセン学園のウマ娘が珍しい格好─或いは行動─をしていることは、大して珍しいことでもない。

つまるところ、多少変な格好をしていても、それをわざわざ気に留めるような人間もそういない。

その事実は彼にとっては好都合だ。

 

男は寮を飛び出し、学園への道を駆けて行った。

 

 

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男は学園の近くに着いてすぐ、人目につかない物陰に駆け込んで、ローブとスニーカーをリュックに仕舞う。

右上腕の輪を叩き電源を落とす。

瞬く間に、彼はどこにでも居る社会人と相違ない格好に姿を変えた。

 

腕時計に目を落とす。

...8時。間に合った。

むしろ予想より早く着いたくらいだ。

説明会までは少しある。ゆっくり体育館に向かおう。

 

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男は裏門に付くと、守衛室に職員証を差し出す。

お疲れ様です。

「お疲れ様です、職員証拝見します。」

守衛は職員証を受けとると、その二次元コードを端末に読み込ませ、登録情報を手元に呼び出す。

 

「職員証番号[[rb:06A94 > ゼロロクエー専属]][[rb:- > の]][[rb:0005 > 五番]]...十和田青葉さん。顔写真と相違なし。特記事項なし。」

守衛は登録情報と職員証、顔写真と彼の顔に相違がないことを交互に見て確認し、大きく頷いた。

「...確認取れました。どうぞ。」

ありがとうございます。

男──十和田は職員証を受けとり、学園の塀の中へ足を踏み入れた。

 


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演台の上に、小学生ほどの身長の少女が上る。

彼女はトレードマークの白い扇子を開き、高らかに声を上げる。

「祝福!最後の研修を乗り越え、よくここまで来てくれた!

諸君の前に立つのは短くとも一年ぶり故、改めて自己紹介させてもらおう。

私は日本トレーニングセンター学園理事長、兼URA-Jpn教育部門総括、秋月やよいだ!」

少女は小さく咳払いし、体育館に並ぶ十数人の新人トレーナー一人一人と目を合わせていく。

「今日から諸君は正式に、我が日本トレーニングセンター学園所属の、一人前のトレーナーとなる。

さて、君達には言いたいことが山程ある。」

少女は目を瞑って息を吸い、カッと開く。

「しかし!その多くは此処まで至る過程で君達も重々承知しているだろう。

よって割愛!一つにまとめさせていただこう。

 

──君達が今日から遂になるトレーナーという職業は、ウマ娘を理解し、導き、出来得る限りの最高を目指し続ける職業だ。

そして何より!彼女らと支えあう職業だ!

それを、各自心に留め、忘れることの無いように。

以上だ!」

 

理事長が壇上から降り、代わりに上がった理事長補佐が様々な手続きの説明を始める。


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「......各種手続きの説明は以上になります。

この後13時より、第一トラックにて中等部の、第三トラックにて高等部の選抜レースを順次開催いたします。

本日の最終レースは18時以降になりますので、それまでに昼食を取られる事を推奨します。

先程お話しした通り、逆スカウトを除いて専属契約は二日後の最終レースの終了まで出来ませんので、レースや練習などをよく見て、しっかりと考えぬいた上で決めるようにしてください。

皆さんの為にも、ウマ娘たちの為にも。」

 

当然の事だ。それを忘れるトレーナーはいない。

少なくとも、新人のうちは。

 

「...以上を持ちまして、本年度の新規配属トレーナーへの説明会を終了とさせていただきます。」

 

終了の合図と共に、十和田の同期のトレーナー達がバラバラと食堂、あるいは選抜レース会場へと散っていく。

 

...先輩や同期がいる以上、新人でしかも最年少であろう自分が、優秀なウマ娘と契約する事は困難であることは明白。

凡才でいいなら交渉数を増やせばまだ可能性は有るが、目標を考えるなら優秀なウマ娘との契約は何よりもの前提条件。

となれば、相手を絞ることはまず最優先。

選抜レースを見て決めるのは悪手か。

むしろ見るべきは後日出走の、まだ練習中のウマ娘達。早々に目標を絞り交渉材料を用意する方がまだ可能性はある。

まずは、そこからか。

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