『本日の最終レースの準備に入ります。
参加走者の皆さんはグラウンド中央に集まってください。』
トラック周辺にアナウンスが響く。
新人トレーナーへの説明会から早二日、いよいよ契約期間前最後の選抜レースが始まる時が目前に迫っている。
グラウンドを囲む特設スタンドには、既に契約相手を見つけたトレーナー達の分か、あちらこちらで空きが目立っている。
...今頃他の人気のウマ娘は四方八方をトレーナー陣に囲まれているのだろう。
そして、裏を返せば今スタンドに居るトレーナーはこのレースに出るウマ娘を狙っている。
つまるところ、ダイワスカーレットか、ウオッカを。
ベテランとおぼしきトレーナーだけに絞っても複数人がダイワスカーレットを狙っている以上、手土産として負荷の少ないトレーニング案を持ち込んだとしても選ばれる可能性は低い。
...最悪、次策としてツキヨナガイヨルもいるが、練習を見る限りダイワスカーレットと並ぶほどの能力はない。
何より、潜在的な危険性が高すぎる。
ウオッカについては後方脚質だから問題外だ。
自分が得意とする作戦は前方脚質。彼女と組んでも彼女の能力を十全には発揮させられないだろう。
今年は見送ることも視野に入れなければ。
十和田は小さくため息をつき、目線をその他大勢の走者へ目を向ける。
やはりウオッカを除いてはダイワスカーレットに比肩する程の仕上がりは見てとれない。
一つ前までの選抜レースなら圧倒的な差で一番になるであろう程の仕上がりに見えるツキヨナガイヨルでさえ、明らかに二人からは一歩以上引いた位置だ。
...ダイワスカーレットか、今年は見送りか、だ。
ゲートインが終わる。
短い静寂の間に、スタンドの期待が高まっていく。
─ガコン!ダダダダダダダダダダ!
静寂を破ってウマ娘達がゲートを飛び出す。
ツキヨナガイヨルが先頭に飛び出した。
ダイワスカーレットが前から5番目につける。
対するウオッカは12番手。
バ群全体のペースが速い。
二人の実力がレースのペースを牽引しているといったところか。
トレーナーが付く前のレース、小細工が無いこともあって波乱無くレースが進んでゆく。
波乱は無いが、他の選抜レースより極端にハイペース。
二人以外...いや、三人以外が疲労しているのが見てとれる。
残り1000m。
スカーレットが加速して先頭を奪い取る。
そうはさせまいと加速しようとした子はいたが、それができるだけの足はもう残ってはいまい。
ウマ娘が一人、また一人と失速していく。
その間を縫ってウオッカが動いた。
大きく地を蹴り、十分な加速をつけると、失速したウマ娘を最小の動きで避け、速度を維持したまま上がってくる。
周りが失速し、先頭にポツンと一人になったダイワスカーレットに猛追する。
ダイワスカーレットが先にコーナーを抜け、一瞬の溜めの後、大きく加速する。
一馬身後ろ、ウオッカもカーブを抜ける。
ツキヨナガイヨルは失速こそしないものの、二人の加速に取り残された形だ。 あれではもう追いつけない。
400。
ウオッカが徐々にその差を詰めていく。
200。
完全に並んだ。
後続はツキヨナガイヨルですらかなり後方、他に至ってはもっと大差だ。
ウオッカがダイワスカーレットを抜かす。
直後、ダイワスカーレットが更に加速する。
しかし、ウオッカも再度加速する。
抜かし抜かされの激戦。
あまりにもすさまじい。
この二人はここまで来て、なおもまだ足が残っていたとでも言うのか。
常軌を逸する身体能力と勝負根性。
まさしく規格外。
二人が並んでゴール板を走り抜ける。
ハナ差、ギリギリでウオッカの勝利だった。
しかしながら、それでも三着との差は6バ身、四着とは合わせて10バ身差での圧倒。
あの子と同じと評していたが、改めねばなるまい。
あの子以上の走りだ。
なればこそ、なおのこと目的の為にはダイワスカーレットと組むのが望ましい。
ツキヨナガイヨルにはすまないが、彼女では目的には力不足だ。
可能性は低いことは承知の上だが、他の択は無い。