レヴァン・イン・幻想郷
「レヴァン様、そろそろお休みになられてはいかがですか」
無機質な声が頭に響く。僕が開発した人工知能、"レギナ"が僕の休憩をすすめてくる。
「まあ待て…ここを接続すれば終わるんだ」
「そんな事言って、もう何回回路接続したと思ってるんですか」
「………5回?」
「7回です。やはりお疲れのようですね。さ、寝ましょう、私と」
「ははは、笑える冗談だな。特に私と、の部分が」
だが疲れているのは本当らしい。作りかけの回路をほったらかし、何かゴチャゴチャ言ってるレギナの声をシャットダウンしてベッドへ潜り込む。
思えば、最後に寝たのはいつだったかと考えているうちに、僕は眠りについた…。
………眩しい。なんだこの眩しさは?レギナが照明を勝手につけたのか?意地の悪い目覚ましだな…。
そんな事を考えながら目を開けると、僕は不覚にも驚いた。なんと森の中だった。僕は道の真ん中に寝ていたらしい。眩しかったのは太陽のせいか、納得だ。
だがおかしい。この僕が気づかず森に運ばれるなど。誘拐だとしたら、仮に僕が気づかなくともレギナが何らかの対応をする筈だ。まずはレギナとの通信を試みよう。
…………。
…………。
………繋がらない?馬鹿な、僕とレギナはある意味一心同体の筈だ。例え圏外だとしても、機能が制限されるだけで通信はできるというのに…。
レギナのサポートが期待できない今、まずすべきは場所の確認だ。森から抜け、人のいる場所へ行かなければ…。
そう決めて歩を進めようとすると、木陰から3つの影が躍り出た。形状は犬とも狼とも狐ともとれる。だがどれとも違うな。あれには目が3つある。牙だってあんな長くない。
……新種だろうか?よく分からないが、知的生命体の可能性もある。取り合えずファーストコンタクトは友好的にしてみるか。
「やあ、初めまして。会ったばかりで恐縮なのだが、ここかどこなのか教え…」
言い終わる前に僕の腕に1匹目が噛みついてきやがった。どうやら失敗したようだ。仕方がない、荒っぽく解決するとしようか。
「僕の腕は美味いか?最後に味わうのだから、じっくり堪能するといい」
そう言った後、いまだ噛みついている獣の上顎ごと頭を叩き潰した。衝撃で牙が折れて僕の腕に刺さったままだが、まあ気にする事はない。
死骸を放り捨てると、残りの2匹が襲いかかってきた。飛びかかる1匹目の頭に向けて、渾身の右ストレートをお見舞いしてやった。面白いくらいに吹っ飛ぶな、流石僕。
2匹目の爪を屈んでかわし、噛みつこうと開けた口にアッパーを叩き込み無理矢理閉じさせた。そいつはピクピクと痙攣し、倒れ込んだ。まあこんなもんだろうな…。
新手が来ても面倒だからその場を去ろうとすると、後ろからパチパチと拍手の音がした。
「ひゅ~、やるねえあんた。助けに入ろうかと思ったけど、必要無かったぜ」
後ろを向くと、箒にまたがった少女がこちらを見ていた。……飛んでやがる。あれどんな箒だ、調べたい。
「誰だ貴様」
「こっちの台詞だぜ。見ない顔だけど、外来人か?」
「詳しくは僕も分からん。多分さらわれてここに置いてかれたようだ」
「多分ってどういう事だよ?」
「寝て起きたらここにいた」
「そりゃご愁傷さまで…」
全くその通りだ。犯人を見つけたらどうしてやろうか…?
まあ、それを考えるのは後にしよう。待望の人に会えたんだ。これで現状を打破できるな。
ふと少女を見ると、どこか不安そうな表情をしている。
「何か?」
「いや、何かって……腕平気なのかよ?普通に戦ってたから、てっきり無傷なのかと思ってたぜ…」
そう言われて噛まれた腕を見ると…なるほど、酷い有り様だな。肉が切り裂かれ、所々に牙が刺さったままだ。これを見れば普通は不安になるだろうな。少女にはいらない心配をかけてしまった。
「問題ない。それより、聞きたい事があるんだが…」
「問題ない訳ないだろ!?まずは腕の手当てをするぞ!話ならその後だ!!」
問題ないと言ったのに…。少女は僕の怪我をしていない方の腕を取り、どこかに連れていこうとしている。
「近くに神社があるから、そこまで我慢してくれよ」
「我慢なんてしてないが…」
「いいから来い!」
強引だな…。だが親切を無下にするのも気が引けるな。ここは大人しく従うとしようか。
だが、どうしても知りたい事が1つだけある。
「なあ、お嬢さん」
「お、お嬢さん…?なんかむず痒いな…」
「1つ教えてくれ。ここは一体どこだ?」
「ここは…幻想郷だぜ」
幻想郷か……。
懐かしい名だ。